本編です。
episode1-1 初日
さて、やらかしたわけだけど。
時を止めて針を戻せばその時間まで戻れると言っていたはず、懐中時計の針を5分戻したからさっきのミスは帳消しだろう。
1回しか使えないものを開始数分で使ってしまったことに対しては特に考えていない。大方、こういう時のためなんだろう。
何の気なしに口から出てしまったが、こういう事があるかもしれないってことだ。気をつけねばなるまい。
今の俺は13歳だから、13年前に戻ったことになる。なにがあったっけか、覚えてねえな。
落ち着いて席に座る。あと5分したら俺の自己紹介の時間だ。何言ったっけ、そうだ楽器使ってるアピールしたんだ。思い出した。
時が止まってるしゆっくりしようと考えたら、先程とは別の違和感を感じた。違和感というか、戻ったような。
そうして己の首から下を覗くと、過去に戻る前の服装になっている。シワシワの礼服に、大人の手。ガラスを鏡代わりに確認すると、やはり、時が戻る前の姿になっていた。
なるほど、時を止めてるこの時間は元に戻れるってことか。説明しとけよアイツ。
静かに、椅子に座りイメージする。中学生の行動やテンション、話のネタやらなんやらを。まぁ、考えても仕方ないか。13年前だ。何をしたって仕方ない。
ふと、隣を見る。俺を小突いて起こした人。幼さの残る顔だ。そういや、こうしてまじまじと見ることは無かった気がする。
隣の矢澤は、つまらなさそうに頬杖をついて前を見るだけだった。
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「時坂 駆です。趣味はギターを弾くこと。現在、軽音楽部にてバンド活動をしています。音楽の話だったら何でもできます、多分。」
周りが少しクスッとする。中学生なんてこんなもんだ。型にハマらずに自由な感じのヤツが場の空気をつかみ取れる。最後をあやふやにするだけでこーなるから面白い。
こういう自由を求める姿勢は、いつから失っただろうか。自由になりたくてもがくのを止めて、決められた囲いの中での立ち振る舞いばかりを考えるようになった。それが、大人になるということなのか。
何の気なしに座りながらぼーっとしていたら、次の奴の紹介で俺はまたも手元の時計を開くことになる。
「どうも、
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「え、何あれ。」
「何って、自己紹介じゃないか。」
「違う違う。そういうんじゃなくて。」
時を止めて1秒、振り返ると奴がいた。
ブレザーにリボンを付けて、中学生らしく膝上5センチ程度に抑えたスカートを履いている…ってお前性別女かよ。
「なにがワケあって、だ。こっち来る前に設定話しとけよ。」
「ごめんごめん、サプライズにしようと思ってね。」
「あとこれ、時止めたら元に戻れるのかよ。」
「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」
一々ぶっ飛ばしたくなるな。言ってねえよ。
そこから俺は説明を受けた。時を止めたら元の自分に戻れること。奴…悔音は俺の遠縁の親戚で、俺の家に住んでること。そして、
「さっき時を巻き戻す能力を使っちゃったから、これで打ち止めだよ。」
「それについては重々承知の上だ。」
そういえば、
「お前だけ元には戻らないんだな。」
「この格好が気に入っていてね、似合うだろう?」
まあ、性別年齢ともに不詳な見た目だから、似合うもクソもない。
さて、ここでうだうだやってても仕方ない。そろそろ戻るか。
席に座る。改めてこの感触に懐かしさを感じた。こんな硬かったっけ。そう思いながら、懐中時計を閉じた。
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自己紹介というのは、案外生きていく上で必要なスキルだ。それを育成する目的でもあるのかもしれないな、この時間も。
全員が終えたところで、休み時間になる。俺は記憶を便りに隣の彼女に話しかける。
「よろしくお願いします。」
「…ねぇ。アンタさ。」
「ん?」
「アイドル…興味無い?」
「アイドルか、面白そうだな。」
「ふぇっ!?」
こいつは本当に無意識に言ってたんだな。まともに返したら慌てている。ほう、なかなか面白いな。
「本当に言ってるの?」
「聞いてきたことに素直に返しただけじゃねえか。」
「あぁーっと、とにかく、興味あるのね?」
なんだかパニックになっている。コイツのこういう姿は意外と珍しいから、2度目の人生でも新鮮味がある。
「アイドル、好きなんだな。」
「どうして急にそんなこと聞くのよ。」
「それ。」
缶のペンケースを指す。アイドルの切り抜きが裏側に貼られていた。後に切り抜きを手伝わされるのは、今回は遠慮したい。
「…視野広いわねアンタ。アタシの質問にも普通に答えてたし。」
「んー、慣れだよ、慣れ。」
「どんな生活送ったら慣れるのよ。」
タイムスリップです、なんて言えないけど。
しかし、普通に会話ができている。いい感じだ。自分も中学生のはずなのに、子供を相手にしている気分だ。嫌いじゃない。
すると、チャイムが鳴った。あぁ、この音を聞くのも久しぶりだ。
少しして教師が入ってくる。どうせこれからやるのはちょっとした説明だろう。と、思っていた。
「よーし早速だけど委員会とかもろもろ決めれるもん決めちまうぞ。」
…あったなぁそーいうの。
こういうのは概ねやりたがらないのが普通だ。俺だってそうだ。やりたくない。
なった所で大した仕事もないくせにやりたがらないのは、人間の性なんだろうか。
働きに出てしまえばサボりたいよりもその仕事をこなさなければならないって考えになってしまうのは、俺の社畜としての適性があるからなんだろう。
「ちょっと、アンタ。」
「名前くらい覚えろよ矢澤さん。」
「にこでいいわ。駆、ここでは立候補しちゃダメよ。」
「元々する気もないけど、なんでだ?」
「…色々あんのよ。アタシの計画的に。」
それ、知ってるんすわ。言えないけど。
先を知っていると色々スムーズに進むのは、攻略本を見ながらRPGをやっている感覚に似ていると思う。
…まぁ、先日まで仕事人間だったわけで、学生の労働なんてたかが知れている。問題ない。
そんなことをふんわりと思いながら、埋まっていく委員会欄の名前を眺めた。
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「…という訳で、これからこのメンバーで2年間過ごすわけだ。仲良くな。」
そんな担任の〆の言葉と共に学校が終わる。途中参加だったのになんか疲れた気がする。
「駆、アドレス教えなさいよ。」
「ん、どうした急に。」
終わるやいなや声をかけてきた。アドレスか、最初のメールが目に見えている。
「アイドル、好きなんでしょ?」
「興味がある、な?」
「そんなもん一緒よ一緒。これから連絡とる事になるんだからさっさと教えなさい。」
「まぁいいけど、ほれ。」
そういって携帯を取り出す。懐かしい2つ折りのガラケーだ。後に指で操作することが主流になるなんてこの時は誰も思わないだろう。
会社用の携帯がガラケーだった為にさして躓くことなく操作ができた。自分の体が覚えているようだ。
「よし、と…そんじゃ、また明日ね!」
そういってカバンを取って帰っていく。夕飯の当番なのかもしれない。自分も鞄を持ってとある場所へ赴く。随分と久しぶりで、あの頃のように出来るか不安だが。
「行くか…。」
誰に言ったわけでもないが、口に出さなきゃ始まらない気がした。
行くか。部室に。
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「良かった…っ!」
「何言ってんだ入ってきて早々。」
「こっちの話だ。気にすんな。」
部室に向かうとギターがあった。懐かしい。懐かしさの塊だ。もう10年くらい扱ってない気がする。涙が出そうになる。やばい。
ここは軽音楽部の部室。俺はここでバンドをやっていた。高校に入ると共に病気のせいで辞めた。今でも扱うことはない。それを、こんな形で弾けるようになるなんて思ってもいなかった。
「ふぅ…あれ、今何やってんだっけ。」
「ほら、この間もNステ出てたバンドの」
「アイドルソングをバンドアレンジしね?」
「はぁ?」
何言ってんだこいつみたいな顔で見てるな。その反応は何も間違っていない。ここで俺は懐中時計を開く。時が止まり、俺の体は大人になる。さて、やりますか。
「何をする気だい?」
「聞いてたのか?」
「何をするのか、気になってね。」
そんな事はどうでもいい。俺はギターとバンドメンバーの持っているベースを引き寄せ、スティックを借りる。機材をいじって設定をして、準備は完了だ。
「俺のやりたかったこと、ここでやってやるさ。」
「へぇ、具体的には?」
「…どうやらこの世界、大人の体に戻ると言うより、魂や霊体といったものになっているんじゃないか?」
「…根拠は?」
推理小説のような展開になってきた。燃えるぜ。俺は考察を話す。
「俺の左手は満足に動かない…はずだ。時計を開いたらこの体になるってことは、普通なら左手の麻痺も戻るはず。だけど、俺は器用に左手で見ないで針を戻すことが出来た。手探りで針を探して少しだけ戻す…麻痺の残る指先じゃ動けない。」
「そこまで分かっていたんだね。流石だよ、君は。」
お前こそ、俺がこの答えにたどり着いたのはわかっていたと思うけどな。
「麻痺が戻っているということは、なんというか、俺の意思が働いてる時間軸を過去に戻しているって感じで過去に戻っているんだと思う。その意思体がこの時が止まっている時の俺になる…違うか?」
「正解だよ。君はつくづく冷静だね。」
「有り得ないことも慣れれば日常の一部だ。」
「それで、やりたい事って?」
「あぁ、」
にやりと笑ってしまう。未来人の特権だ。これくらいはさせてくれ。
「先手必勝だよ…、矢澤。」
この世界線くらい、主導権を握りたいもんだ。
そう思いながら、ギターを弾く。
お読み頂きありがとうございます。いつもより字数が少ないですが、展開的にもこの辺りで切りたかったので御容赦願います。
・1月の中盤に投稿できるかと思っていたのですが、バイトに卒論に忙しく時間が取れませんでした。1月中の投稿は守れたのは不幸中の幸いです。
・矢澤にこが本格的に動くのは少し先だと思っていてください。このSS、オリ主が頑張ってもらわないと困るので序盤は彼を中心に行動させたいからです。
・この先、矢澤にこの中学時代をがっつり勝手に創作します。ラブライブ!の矢澤にことは異世界線、パラレルワールドに居ると思って貰えると少しは親しみやすくなるんじゃないかと思います。
次回は2月中に…頑張りたいです。よろしくお願いします。