よし、ありのままに今起きたことを整理しよう。
俺は第四次聖杯戦争に参加する為に日本の冬木に到着した。そして聖杯戦争を共に戦い抜くための相棒の使い魔、サーヴァントの召喚を行った。
サーヴァントとは人類史に名を残した英雄たちを模した者の事だ。一体どんな英雄が出てくるのか、正直に言えば少しばかりワクワクもしていた。それは認めよう。
そして目の前に現れたのは…………巫女服のようなものを着て狐の耳を生やしたハイテンションな女性だった。
「…………あの~~」
「………………はっ!」
「「……………………」」
沈黙。
召喚された目の前のマスターが何の返事も無く困惑するサーヴァント、キャスターと予想外のハイテンションな自己紹介に呆気に取られて固まるしかない俺。
正直に言おう――――空気が……重い。
前世でも転生してからもここまでハイテンションな自己紹介は全く経験が無い。一体どうするのが正解なんだ……。
えっと……、という俺に対して、こほん、と言うと急に神妙な顔つきになるキャスター。
「召喚に応じて参上した。貴方が私のマスターか?」
「いや、いまさらシリアスになっても遅いから」
「「……………………」」
再び沈黙。
このままじゃ埒があかない。
とりあえず人間の英知の結晶である会話を始めなければ。
「えっと、貴方が私のマスターなんですよね?」
「あ、ああ。確かに俺が君を召喚したマスターだ。ごめんな、いきなり黙って。何分……初めてあんな自己紹介をされたもので……」
「いえいえとんでもない!! むしろご主人様の初めてがこの私ということだけで嬉しすぎて歌でも歌いたい気分です!」
誤解を招くような発言に関しては、まぁ目をつぶろう。
そういうキャスターはさっきとは違い笑顔でそう言う。よく見ると後ろに見える尻尾のようなものがふりふりしていることから多分嬉しいのは本当だろう。頭に生えている狐の耳といい正直気になるがとりあえず話を進めるとするか。
人が寝静まってるとはいえここは街の中にある神社。
怪しんで人が来ないとは限らないからなるべく静かに話を進めて、速やかに立ち去る必要がある。
「俺の名は南雲零司。今回の聖杯戦争で君を召喚したマスターだ。キャスターでいいんだよな? 魔術師らしい魔術師じゃないけど、こんな俺でよければよろしく頼む」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします
手を差し出す俺の手を両手で握りながら嬉しさを飛び跳ねながら全身で表現するキャスター。
故郷? と言うことはキャスターは日本の英霊なのか? にしても日本人でピンク色の髪ってどうなんだ……。
そう思いながら一先ずは召喚に成功し、契約は完了した。とりあえず場所を移してお互いの詳しい自己紹介とこれから先どう聖杯戦争を行っていくのか話しておかなければならない。
それに相性で召喚されたといってもキャスターも聖杯に呼ばれた英霊の一人。ならば聖杯に託す願いがある筈だ。
そう考え、キャスターに手伝ってもらいながら召喚のために用意した魔方陣の片づけをして拠点へと移動する。
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「――――というわけなんだ」
「…………」
拠点に移動してお互いのことを話す。
俺の場合は今回の聖杯戦争に参加した目的、自分の出来る範囲のこと――――手違いで死んで転生したこと、全てだ。別に話さなくてもよかったのかもしれない。それでも話すべきだと思ったからだ。今回の聖杯戦争に参加はしたもののこの戦いで死ぬつもりはこれっぽっちもない。
たとえ半悪魔の回復力を持っていても痛いものは痛いのだ。過去に何度か傷をつけたことがあっても次は怪我をしないように努力はしていた。その為の努力でも痛めたことがあったけど、生き残るためと我慢してきた。
話す中でキャスターは俺に対してずいぶん好意的に接してくれたからでもあるが、この聖杯戦争を有利に進めるためのこれ以上ない情報を共有するためにも隠し事をするべきではないと判断したからだ。聖杯戦争に参加したが願いを叶えるつもりは毛頭無い。
俺の目的は聖杯戦争の勝者の願いを叶えるもの――――聖杯を完全に破壊して聖杯戦争そのものを完全に潰す。
そもそも聖杯は前回の戦いで汚染されて全く使い物にならない。たとえどんなに清い願いだろうと歪んだ解釈をし、人を殺す負の願望機へと変容している。
そんなものが存在していいはずが無い。そんな意味の分からないもので人が死んで良い訳が無い。
魔術師たちの悲願?
誇りを懸けた戦い?
知ったことか。んな関係の無いもので無関係の人が死ぬんならそんなもの全部ぶっ潰れてしまえばいい。
「ご主人様の目的は分かりました。不肖このキャスター、この身を賭してマスターに尽くさせていただきます」
「……本当にいいのか? 俺の目的に手を貸すってことはお前の願いは叶わないって事なんだぞ?」
「構いません。私の願いはご主人様に――マスターに全霊を懸けて尽くすこと。マスターが自分の身の上を全て話し、その上で決めたことならば――――私は私という存在を懸けてマスターと共に戦い抜きます」
「――――ああ、ありがとうキャスター」
そう頭を下げながら言うキャスター。その言葉に嘘偽りは無いのだろう。本当によかった。もしも、断られたりしたら最悪令呪を使っていたかもしれないからな。
それにしても、召喚されたのがキャスターのクラスで本当に助かった。確か本来のキャスターはジャンヌ・ダルクと共に戦った人物で彼女を失った怒りで殺人鬼へと変貌した奴だったはずだ。そしてそのマスターは冬木を騒がしている魔術師でもない連続殺害犯だったはずだ。本来なら彼らの所業で街の児童は誘拐され無残にも
そして、キャスターのクラスはその名の示すとおり魔術師のクラスだ。その魔術の実力は現代の最高の魔術師を軽く凌駕する。今回の汚染された聖杯の対処に最適な英霊を呼べたともいえるだろう。
「それにしてもご主人様も本当によかったですね~。もし私じゃなかったらその話を聞いた瞬間に精神を疑うかすぐさま令呪の強奪とかに奔っていると思いますよ?」
「あ~……うん。その点に関してはあんまり考えてなかったかな。なるようになれと思っていたし。それを考えれば触媒を用意しなかったのは正解だったかもな」
「それに関してなんですけど、どうやら完全な相性召喚って訳でも無いようなんですよ」
「ん? どういうこと?」
それは少しおかしいのではないのか。自分は確かに触媒は何の用意もせずに相性の最もいい英霊の召喚方法を選んだと思うんだが。
「実はあの神社、昔私を信仰していた神社らしくその名残で私が引っ張られてきたみたいなんです。といってもご主人様との相性の問題ももちろんありますのでどうかご心配なくっ!!」
どうやら本人は最後の方が大事だったらしく思いっきり強調していた。なるほど、そう考えると本当に俺は運がよかったのかもしれないな。
「それにしても驚いたな……。前世でも聞き覚えのある九尾の狐がまさかこんな可愛い女の子だったなんて」
「いやん♪ もう可愛いだなんてもう褒めすぎですよご主人様♪」
と言っても、今はもう九尾じゃなくて一尾なんですけどね、と照れたように言いながらも嬉しそうなキャスター。
話を聞いて驚いたがキャスターの真名はかつて伝説の陰陽師、安部清明によって宮廷を追われた伝説の大妖怪にしてその美貌で一国を傾城させた伝説の女帝――――玉藻の前らしい。
本人は魔術ではなく呪術の方が得意らしいが、過去のトラウマであんまり深く使うのは抵抗があるようだ。
まぁ……過去のトラウマってのは分からなくもない。俺も死ぬ瞬間の光景を思い出すときがあるからな……。
「ご主人様ご主人様! 私もっと未来の故郷のことが知りたいです! 具体的に言えばこの時代のご飯とか!」
「ははは、分かった分かった。気持ちは分かったから少し待っていてくれ」
そう言いながら部屋の冷蔵庫へと向かう。
さて、サーヴァントと言っても相手は元貴族だ。おいしいご飯なら生前食べてきたと思うが俺が思う一番おいしいと思うご飯はずばり……白くて温かいご飯だ。これだけは転生してからも変わらない。
そして、セットで現代文明の結晶であるインスタントを持ってくるとするか。とりあえず今ある赤いきつねでいいかな……。
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「我が師よ、父上が全てのサーヴァントの召喚を確認したとの事です」
「そうか……ご苦労綺礼」
冬木にある遠坂家の地下にてアーチャーのマスター遠坂時臣とアサシンのマスター言峰綺礼が密談を行っていた。
綺礼はかつて時臣の弟子であったが令呪が発現してしまった。本来ならお互い敵同士になるはずだが聖堂教会と通じていた綺礼の父、言峰璃正は時臣の魔術師としての実力を信じ、見ず知らずの魔術師の手に渡るよりも時臣に渡すべきと考え水面下にて監督役とアサシンのマスターとアーチャーのマスターの同盟という前代未聞の協力関係を敷いてしまった。
それにより遠坂時臣はどの陣営よりも早く、そして有利な情報を手に入れることが出来る。
さらに最悪なのが彼の用意した触媒によって召喚されたアーチャーのサーヴァント。真名はかつてバビロニアに君臨した原初の英雄――――ギルガメッシュ。
彼の宝具である
それはつまり全ての英雄に対して最高のアドバンテージを取れるという事。それにアサシンの諜報能力が合わされば、およそ完璧と言える布陣が完成されたと言っても過言ではない。
「話によると最後に現れたマスターは異端殺しと呼ばれる南雲零司で召喚されたサーヴァントは恐らくキャスターかと思われます」
「キャスターか……ならば気にするほどでもないな。どんなサーヴァントだろうとギルガメッシュには勝つことは出来ない。綺礼、準備に取り掛かってくれ」
「はい」
そう言いながら綺礼は地下から出て行く。
準備とはアサシンが全ての陣営からその存在を抹消するための策のことだ。アサシンの宝具、
まさに
言峰綺礼は考える。
表向きは自分の師である遠坂時臣と離反し、敵対しているマスターだ。そして、その水面下では監督役との協力関係と言う反則とも言える同盟関係で遠坂時臣に聖杯を取らせるべく活動している。
だが、言峰綺礼には父である璃正にも師である時臣にも黙っている独自の目的がある。
いつからかは知らないが綺礼は己の本質が悪であると理解していた。それが父のように聖職者の道を走り出したときか自分の妻が死んだときかは分からない。
だが、彼は万人が美しいと思えるものが美しいと思えず、万人が傷付き不幸に陥る姿に心を打たれることがあった。その度に彼は苦しんだ。だから彼はあらゆることに打ち込んだ。あらゆる学問を、あらゆる魔術を、あらゆる知識を。だが彼の本質はその全てを拒絶した。父から教わった八極拳でさえも彼の心に響くことは無かった。
もはや自分を満たすものはこの世には無いのではないのか?
そう思った彼は半ば諦めたかのように聖杯戦争に参加した――――そして見つけた。自分の探し求めている答えを持っているかもしれない人物を。
――――――衛宮切嗣。
時臣は彼のことを金が目的のフリーランスの魔術師だと言った。だが、綺礼には分かった。彼が金が目的の魔術師ではないことに。
彼ならば自分の探し求めている答えを知っているのではないか?
ならば問わねばならない。
その答えを知ったときこそ――――己の生が産声を上げるのかもしれない。
「よくもまぁそう奴の言う事を忠実に実行するな貴様は」
廊下を歩く綺礼がその声に足を止め、振り返る。
「これが私の役割だ。理解したように口にするなアーチャー」
「役割? 貴様は与えられた役割なら忠実に実行する犬か? 違うだろう―――綺礼」
背後にはいつの間に現れたのか黄金の甲冑を身に纏った金髪の青年―――ギルガメッシュが立っていた。
「訂正するなら私は犬ではない。だが、人には与えられた使命というものがある。私の使命は貴様のマスターであり私の師である時臣氏が聖杯を取るための最善の策を弄することだ」
「使命、か。貴様がそれを己が使命にする程、奴に心酔しているとは見えないがな」
「時臣氏は魔術師に相応しい才覚のその技量を持っている。私はその時臣氏を尊敬している。貴様には到底理解し得ないだろうがな」
「なるほど……確かに
「私は準備がある。貴様と話している暇は無いのでな」
そう言い終えると綺礼は再び歩き出す。
「――――覚えておけよ綺礼」
「尊敬や憧れは理解から最も遠い感情だ。貴様は自分の師を理解していないと自らの口で証明したのだと……な」
「っ……!」
その一言に一瞬足が止まりかける。
だが何も無かったかのように再び歩き始める。
「それと綺礼。そういうことはもっと嬉しそうに言え。無表情では些か説得力に欠けるぞ?」
くくく、という笑い声を聞き流しながら遠坂邸を後にする。
その夜、遠坂邸に侵入したアサシンがアーチャーにより一方的に蹂躙されるのを他の陣営は確認した。
アサシンはその存在を他の参加者から消すことに成功する。
――――一部を除いて。
お前が言うんかい!! と言うような話です。
どっちかと言えば時臣の中の人の台詞だけど……まぁいっか。
福袋でオリオンが出たけど……沖田が欲しかった……持ってなかったからいいや。