これからもよろしくお願いします。
零司とキャスターの二人が間桐の家に襲撃を仕掛けている間、雁夜は零司の拠点で体を休ませていた。
本来なら何処の誰とも知らない人物の……それも敵である筈のマスターの拠点で気を落ち着かせるのは愚かなことなのであろうが、自分の事情を知った上でこちらに不利益が一切無い条件で同盟を結んできたのだ。それに最初に会ったときに殺さなかったのだからある程度は信用できた。
「(桜ちゃんは今頃どうしてるのだろうか………)」
刻印虫に蝕まれた体を休ませている間も犠牲となってしまった少女―――間桐桜のことを考えていた。
自分が来たときにはいつも姉の凛よりも先に自分に駆け寄ってお帰りと言ってくれていたあの少女。しかし、今の桜からはとてもあの頃の面影が見受けられない。
『雁夜おじさん……どんどん違う人になっていくみたい』
聖杯戦争が始まる前、自身がバーサーカーを召喚する前に会った桜に言われた言葉を思い出し、桜のことを言える立場ではないなと心の中で自虐する。
「――――バーサーカー……」
その言葉に反応したのか霊体化しつつもバーサーカーはその存在を雁夜に感じさせる。いや、感じざるを得ない。その身に秘めた神秘は聖杯戦争に参加しているであろうサーヴァントの中でも抜きん出ているであろう事はとっくに理解していた。
真っ当な魔術師とは言えない自分でもこのサーヴァントがとても自分程度に御しきれる存在でないことは召喚する時から分かっていた。
―――――ランスロット。
それが雁夜が召喚したバーサーカーの真名だ。
かつてブリテンを治めていた今回の聖杯戦争でセイバーとして召喚されている騎士王アーサー・ペンドラゴンに仕えていたとされる円卓の騎士の一人。
その実力は円卓最強とも恐れられ、かのアーサー王をも凌ぐとさえ言われ『湖の騎士』と称えられた最強の騎士。礼節を弁えた高潔の武人。完璧な騎士とまで言われていた人物であった。
そして同時にブリテンが滅びる原因を作った人物でもある。
完璧な騎士とまで言われていた彼は、アーサー王の妻であるグネヴィアと恋に落ち、ブリテンを追われた。
円卓の騎士はアーサー王に付き従う者とランスロットと共に行った者とに完全に分かたれてしまった。一度は許されたが、その後アーサー王は再びランスロットを討伐する為にブリテンを一人の騎士に預けた。
――――その騎士こそがアーサー王の息子であり、後に『叛逆の騎士』と呼ばれる円卓の騎士……モードレッドである。
その後、モードレッドはブリテンに反旗を翻し、ブリテンの王になろうとした。そのことを聞いたアーサー王はランスロット討伐を中止し、ブリテンに戻りモードレッド率いる軍勢を治めるべく戦いを始め、カムランの丘にてモードレッドを殺害する。反乱を収めることに成功したアーサー王だが、一説によるとその後聖剣を湖に帰した後に傷を癒す為に姿を消したという。
結局、ランスロットは処断されなかったがグネヴィアが死んだという報を聞いた後、絶食の末にこの世を去った。
国から、後世の時代からも”裏切り”の烙印を押された戦士だがその実力は先のアーチャー戦にて十分すぎる程証明された。
これならあの時臣にも勝てる。それだけでなく全てのサーヴァントを狩り尽くす事が出来る。そうすれば桜を救う事が出来る。自分が救わなければならない。いや、自分にしか救えない。
――――――そう思っていた。
もしも、万が一に南雲零司が桜を救う事が出来たのなら…………
「(俺は一体どうしたらいい……………)」
全てのサーヴァントを倒し、聖杯を臓硯に渡さなければ桜を救う事は出来ないと思っていた。だが、もし桜が救われたなら自分が戦う意味は無くなってしまうだろう。なぜならもう戦う理由がなくなるのだから。
残り僅かの命をどう使うのか。その答えがどんな結末をもたらすのか。それはまだ誰にも分からない。しかし一つだけ言える事はある。
確定された
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虫が鳴く。眼前の敵を食いちぎろうと、切り裂こうと、爪を剥き出し出しにしその体躯を弾丸のように動かす。自らの主の号令の下に。
何度も……何度も。零司が捌ききれない量の虫をすかさずキャスターが鏡を使い打ち落とす。
その数は最早玄関で相手した時の比ではなかった。だがそれゆえに二人は半ば確信していた。この先に間桐の怪物がいると。自分たちが消すべき相手がいると。
「(この先にいるのは多分間違いないと思う………でも……!)」
数が多すぎるのだ。一匹一匹は大したことはなくともその体に付いている武器は確実に人を死に至らしめるものなのは確かだ。
幸いにも廊下が一本道だったおかげで背後からの挟み撃ちは何とか防げているが、このままではジリ貧なのは目に見えている。
「ッ………キャスター! 頼む!」
「いいんです…か! ここで使っても!!」
「ああ! ここでこれ以上止まる訳にはいかない!」
鏡で虫を捌いているが、キャスターの本腰である呪術を使えばこの虫の大群を一掃することは容易い事なのは分かっていた。
しかし、相手のことを考えると自分たちの行動は今相手をしている虫を通して逐一臓硯に伝わっているのは明白だ。ここで呪術を使えば相手に手の内を見せることになる。
だが、使わなかったらこの場で更に時間を掛けることになる。ならば、多少のリスクを承知で前に進むしかない。
「分かりました。炎天よ、奔―――――」
キャスターが目の前で密集している虫目掛けて炎天を放とうとした――――その時だった。
「――――あっ?」
「――――はっ?」
二人は目の前の光景に目を疑った。
先ほどまで自分たちを亡き者にしようと躍起になっていた虫が蜘蛛の子散らすかのように奥に下がり始めたのだ。
ぞわぞわと聞いているだけで背筋に何かを感じるような音を出しながら虫が移動し、その奥にはいつの間にか開かれている扉があった。
自分たちが向かおうとしている間桐臓硯がいるであろう虫蔵へと続いているであろう扉であることは見た瞬間にすぐに分かった。
そして同時に理解する―――――誘われていることに。
しかし疑問に思ったことは何故先程まで完全に殺す気でいたのに、いきなり虫を下がらせて自分たちに道を進ませようとしているのかということだ。
自分たちに興味を持ったのか、はたまた自分たちに負ける気がしないのか。全く以ってその意図が読めない。
「どうしますご主人様? 胡散臭さ100%ですけど……」
「………進むしかないだろうな。どのみちこっちも虫の相手はイライラしていたところだったし」
罠があるのかどうかは分からないが、どのみち会わないと話が前に進まないことは明白だった。
警戒を尚も続けながら……二人は扉の先にある地下に続く階段を下っていった。
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零司たちが階段を下りていくと目に入ってきたのは上の建物からは想像出来ないほどに石に覆われた地下だった。
その昔、ツバキから聞いた事を思い出す。魔術師は自分の魔術に最も相性の良い材料を使って最良の形の工房を作り出す、と。
ひとえに魔術といってもその種類は魔術師の家の数だけ存在する。魔術協会から認識されていないものだったり、その特異性故に脅威と判断され、魔術そのものを根絶する執行者といった者が動くほどのものであったり。
恐らく間桐の魔術に最も相性の良かったものがこの薄暗い地下で作られたこの石の工房なのだろう。
「カッカッカッカッカ。よく来たの。歓迎するぞ、聖杯戦争のマスターよ」
工房の奥深く。その中央から声が聞こえる。声からして年老いた老人の声だった。
二人にはその人物が誰なのかすぐに分かった。
「間桐………臓硯」
「如何にも。儂が間桐の当主、間桐臓硯じゃ。まぁ、本名ではないが特に問題なかろう」
そう、なにやら余裕を含めた表情で零司とキャスターを見つめる臓硯。
外見は何らそこかしこの人間と変わらない。しかし、今まで異形という異形を見てきた零司にはすぐに気付いた。
間桐臓硯から感じる
凡そ、人間がするとは思えないどす黒く絵の具で塗りつぶされたような瞳。
一言一言発するたびに感じる悪寒。
それに何より―――――生きている人間が発するある種の雰囲気といった物がまるで感じられない。
「お前―――――本当に生きてんのか?」
――――まるで、無機物と話しているような…………。
「ほう………流石に『異端殺し』と呼ばれることだけはあるか。確かにこの身は既に人の体ではない。間桐の魔術によって自らの体を虫にすることで永き時を生きることに成功しておる。まぁ、これも間桐の魔術だからこそ為しえることじゃがの」
カッカッカッカッカ、と相変わらずわざとらしい笑い声を響き渡らせる。
「……何故俺たちへの攻撃を止めてわざわざここに招いた? いくらお前でもサーヴァントを自分の目の前に連れてくることがどれ程危険なことなのか承知しているはずだと思ったんだけど」
「何……儂も伊達に長生きをしたわけじゃないのでな。それなりの準備というものは既にしておる。それに、お主に少しばかり興味を抱いての」
「興味……?」
「そうじゃ。初めは間桐のマスターを狙った襲撃かと思っとったが驚くことに何の迷いもなく桜がいる部屋へと真っ直ぐ向かい、殺すのかと思えば傷一つ付けずに意識を奪った。その次はこの工房への道をこれまた何の迷いもなく進んでくる。状況を考えれば、恐らく雁夜の奴が関係していることは明白じゃがお主が一体何の魂胆でここに来たのかと思っての……。そう思ってここに招き入れたのじゃ」
どうやら自分が雁夜の差し金だということは大体ばれている様だ。
確かに零司自身に間桐に対しては何の思い入れもない。しかし、この聖杯戦争を生き残る確立を少しでも上げるためには雁夜の協力は必要不可欠なのだ。自分のキャスターの呪術は魔術とは根本的に異なるので、セイバー等が持つ対魔力といったスキルを通り抜けることが出来る。
しかし、遠坂が呼び出した
「簡単なことだ俺は雁夜の同盟を組んだ」
「ならば儂はお主の味方ということなのではないのか?」
「勘違いをするな害虫が。俺が同盟を結んだのは
零司は自覚はしていないが無意識的にこの計画を臓硯殺害へと進めている。
零司は前世と今の人生の経験から家族への負い目と感謝の気持ちを抱いて生きてきた。それ故に家族というものに人一倍敏感になっている節がある。もちろん本人は気付いていないが。
それ故に、自分の家族を物か何かのように扱っている臓硯を生かすつもりは毛頭無かった。
「同盟するに当たって俺は雁夜から桜の救出を頼まれた。ついでにお前もこの世から消えてもらってあの二人が完全に間桐から解放されてほしいと思ってな……。それに俺からもお前に聞きたいことがある」
「ほう……聞きたいこととな?」
「―――――何故、魔術の技量が圧倒的に少ない雁夜にあんな強力なサーヴァントを用意した? 聖杯戦争初期からこの戦いを見ていたお前なら知っているんだろう………今回の聖杯戦争がおかしい事に」
今回の聖杯戦争がおかしい――――零司のその言葉を聞いた瞬間……臓硯が初めてその貌に驚愕を浮かべる。
「………ほう。誰かしら気付かぬかと思っていたが、まさか外来の魔術師風情が気付くとはの……して、その根拠は?」
「質問を質問で返すな。まずはこっちの質問に答えろ。で、どうなんだ間桐臓硯?」
物語の結末を知っているから、と言っても信じてもらえるとも思っていないし、言うつもりも無いので質問を無視して話を進める。
「カッカッカ………確かにお主の言う通りじゃ。前回の聖杯戦争でアインツベルンが召喚したあのサーヴァント……あんな者が呼び出されたとあっては今回の聖杯戦争で何かしら異常があっても可笑しくは無い。故に儂は今回の聖杯戦争は様子見と決め込む腹じゃったが………面白いものが転がり込んできたものでな」
「雁夜のことか……?」
あのサーヴァント……臓硯の会話に出てきたサーヴァントに零司は心当たりがあった。
――――――アヴェンジャー。
聖杯が汚染される原因となった”この世全ての悪”―――――。
その異常性にやはり臓硯が気付かないわけがない。だが問題はどうして臓硯が今回の聖杯戦争で雁夜をマスターにしたのか、だった。
「そうじゃ。勘当したあ奴が一体どのような目的があってこの家に戻ってきたのかとちと興味があったが……まさかあ奴が遠坂の次女にあれ程まで入れ込んでいたとはの……。全く興ざめにも程があるわ! カッカッカッカッカ!!」
そう言いながら笑う臓硯。
何処までも愉快そうに。何処までも面白そうに――――。
「――――それで雁夜を巻き込んだと?」
「ああ、そうじゃ!! 今回の聖杯戦争……勝敗に興味は無いがあ奴がもがき苦しむ様を見るだけの価値はあるというもの。故に制御が難しい上にあ奴が苦しむのに最も相応しいバーサーカーを与えた訳じゃ。負けた場合は特に何とも無いが、もしあ奴が勝ったならば約束通り桜を解放してやってもよいと思っての。だが所詮後一月の命。初戦であそこまで疲弊したあ奴が一体何処まで持つのか……楽しみで楽しみで仕方が無いわ。かっかっか…………カッカッカッカッカッカッカッカッ!!」
詰まる所こういうことだ。
勝敗に興味は無いが、雁夜が何処まで行けるかがただ見たいだけ。
その過程でもがき苦しむ様を楽しむのも良し。
苦しんだ末に勝つのも死ぬのもどちらでもいいが見応えはある、ということだ。
ただそれだけの事なのだ―――――。
「………そうか」
聞きたいことは既に聞いたし、自分の予想に確信を持てた零司が臓硯に聞きたいことは最早無くなった。
何か大層な目的があるのかとも思ったが、ただ雁夜が苦しむ様が見たいというだけの個人的な目的なら壊すのにも何の抵抗は無い。
グローブに火を灯し、臓硯に近付こうとした時――――
「ちょ~っと私からも一ついいですかね?」
――――今まで黙っていたキャスターが口を開いた。
「キャスター……?」
「……ほう、サーヴァントが儂に聞きたいこととな? 答えられる範囲でなら答えるが……」
突然口を開いたキャスターに零司も臓硯も困惑した。零司自身もキャスターが臓硯に聞きたいことがあるとは思っていなかったし、臓硯もここに来てから口を開いていなかったのでてっきり口数の少ないサーヴァントだと思っていたようだ。
「ええ。私、一応キャスターのサーヴァントですからそういった知識が人一倍ある方なんですけど、雁夜さんと桜さんの体を調べてきたわけですよ。そしたら両方とも体の中を弄られまくり! 雁夜さんなんか死ぬ一歩手前! それでまぁ、疑問に思ってまして。雁夜さんはともかく見ず知らずの桜さんにまであんな仕打ちを与えてまで一体何を為したいのかと」
身内である雁夜だけでなく、桜に対する調整。それらの果てに一体何をしたいのか?
キャスターが疑問に思ったのはそこであった。
確かにその通りだ。臓硯は長い年月を経て、魔術師としては十分すぎる程の知識と経験を有している。それらを自分の子孫に伝えていくなり、独自の魔術理論を確立させるなりといった別のやり方だってある筈だ。
それなのに臓硯は必要なまでに聖杯を求めている。自分の子孫だけでなく桜といった間桐とは何の関係も無い少女まで巻き込んで。
そこまでして望むものとは一体何なのか。
「カカカカカ、いいだろう。教えてしんぜよう。儂が聖杯を求める唯一つの目的。それは聖杯によって齎される第三魔法による魂の物質化。即ち―――――”不老不死”じゃ!!」
「不老、不死……だって?」
「――――今でも十分長生きしてると思いますけど?」
「今のままではいかん。確かに既に500年間持っておるがそれも時期限界が訪れる。少し前は50年に一度肉体を補給すればよかったが、今では半年に一度変えなければいけないまでに劣化しておる。完全な”生”を手に入れるには聖杯をこの手に入れる以外に他ないのだ」
臓硯の言うことは紛れもない事実である。
臓硯は自らの秘術によって体を虫にし、延命に延命を重ねてきた。しかし、それも最早限界に近付いてきていたのだ。
500年生きた結果、その精神は衰弱し、醜悪なまでに劣化してしまった。本来なら老人の姿だけでなく、その姿をまだ若くすることも可能なのだ。しかし魂が劣化した結果、自分の思いの姿になれないほどまでになっていた。
このままではいずれ腐り果ててしまうのは時間の問題であった。
不老不死。
遠坂のような根源に至るといった物やアインツベルンの聖杯の降臨などといった一族の悲願などではなく、それはマキリという一族に生まれたマキリ・ゾォルケン個人が抱いた、何処までも個人的な欲望そのものであった。
そのたった一人の人間――――”元”人間の欲望によって桜の心は壊れる寸前まで体を蝕まれ、雁夜はその命を削られていった―――――。
その心。その魂は最早……人と呼べるものではなかった…………。
「(―――――ああ。何て醜いんだろう…………これだから―――――)」
―――――生にしがみ付く人間って奴は。
生に執着し続けてきた人間の末路。
零司が臓硯に抱いたのはただそれだけであった。
「―――ふふふふふっ」
「………?」
臓硯の答えを聞いたキャスターが突然笑い出す。それにはマスターである零司も、答えた筈である臓硯も困惑した。
「やっぱり私の予感は正しかったみたいですね~~♪」
「私、貴方みたいなの大っ嫌いです」
「私基本的に人のことはあんまり言えない位結構えげつない事をしたことがありますけど、貴方みたいに性根どころか魂まで腐った人間見たのは初めてですよ? てゆうか腐り過ぎて臭いまでしてきそうなんですけど。それに比べて私の
言いたい事を言い終えたのか勝手に戦闘開始宣言をするキャスター。
同時に零司は悟った。……キレてるな、と。
今の今まで自分に対して常の笑顔を振りまいて、自分のぶっ飛んだ経歴も作戦も全て受け止めてくれたキャスターだったが、先ほどの台詞には怒りしか感じられなかった。最後に可愛らしく☆なんて付けているが、臓硯に向けている殺気はとても☆で片付けられるほど可愛い物ではない。
「うっ、うぅぅ………」
事実、臓硯は一気に自らに押し寄せてくる殺気に若干押されていた。
「ば、馬鹿めがっ! 雁夜との
直後、臓硯の言葉を歯切りに虫蔵の彼方此方から臓硯の使い魔である虫が現れる。どうやら雁夜が裏切った時の為の想定はしていたようだ。
だが、雁夜に対しては何も出来はしない。
既に雁夜の体の中はキャスターによって粗方整理済みだ。以前なら遠隔操作で雁夜を自害させることも可能だっただろうが、今はキャスターを倒さなければそれも叶わない。つまり、この大量の虫こそが臓硯の最後の砦なのだ。
「奇遇だな。俺も既に対策済みなんだ」
そう言いながら、懐から草の束を取り出したかと思えば、グローブで火を点ける。
火が点けられた草は煙をもうもうを噴き出す。不自然なまでに煙を吐き出す草の束を部屋の端っこに投げる零司に臓硯が疑問に思ったが、直後にその意図に気付く。
「がふッ!? き、貴様………?!」
煙を僅かに吸った直後、臓硯の体を焼けるような痛みが奔る。
「浄化作用の水で育てた特性の植物だ。死徒なんかには多少嫌悪感を抱かせる位だけど、お前みたいな全身呪いを付加してるような奴には御誂え向きの殺虫剤だろ?」
そう言いながらも、煙に当てられた虫たちが続々と平衡感覚を失い、絶命していく。
臓硯に説明し終わると、零司は懐から次々と草の束を取り出し火を灯すと、入ってきた入口、虫が現れた穴の近く、臓硯が立っている向こう側、ありとあらゆる場所にばら撒いていく。
その度に煙が蔵を充満していく。
「く……っ! お、おのれ……!!」
煙が本体である自分にも有害だと直感した臓硯が煙に当たらないように次々と虫を操っていく。
しかし、煙がどんどん充満していき、確実に逃げ場を失っていく。本来なら虫蔵の中央にいる自分の前におびき寄せ、サーヴァントを奪う筈だったのだが、それら全てが裏目に出てしまった。
入口は既に煙に覆われ逃げ場を失くし、地下という構造の所為で煙は確実に充満し、確実に追い詰められていく。
臓硯は500年培ってきた経験と知識を総動員し、状況の打開策を考える。
故に、気付けなかった…………自らが誘導されていることに。
「キャスター!!」
「お任せを! あなたの魔力分けて貰いますよ。ていうか根こそぎ貰います♪ ――――呪法・吸精!」
煙を避けようとし、密集している虫の中心でキャスターが呪術を発動させる。それと同時に臓硯の体から急激に魔力が失われていくのを感じた。
「き、貴様………!!」
「ではでは………これで仕上げです♪ ――――氷天よ、砕けろ!!」
キャスターが一枚の札を取り出し臓硯に向かって放つ。
先の戦いでは札は赤く輝き炎を伴っていたが、キャスターが放った札は赤ではなく青い光を放ち臓硯の体に触れる瞬間―――――強烈な冷気を伴って臓硯を包み込んでいく。
「彫像の出来上がりです♪」
そこに残っていたのは―――――全身氷付けになり息絶えた臓硯だった。
臓硯はここで完全終了です。すまんな臓硯。お前の出番もう無いんだ。
天草四朗出てくれマジで…………。