アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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Acceleration11

 突然の脈絡も何もないパドの「今夜空いてる?」発言に、テルヨシは完全フリーズ。

 今まで異性として全く接してこなかったパドがどうして急に……まさかさっきの対戦で惚れられたか。

 と、次には色々と考え出したテルヨシだったが、そのパド当人がホントに恥じらいも何も表情に出さないために余計に混乱する。

 パドとの歳の差は1つ。付き合っても別になんの不思議はない。むしろ普通。だがいきなり『夜のデート』とは……

 そこまで考えて改めてパドを見たテルヨシは、もうすでに待つのも限界といった無表情な顔をするパドにたじろいでしまう。

 

「あ、空いてる。だ、だけどちょっと待って。色々とステップ飛ばしすぎじゃないか?」

 

「別に普通。むしろ当然の流れ」

 

 ええー!? 最近の子って進んでるのねー!

 と、心でツッコミを入れ赤面したテルヨシは、誘われた以上はいくところまで! と意気込んで覚悟を決めた。

 

「そ、それでどこに行くんだ?」

 

「それは未定。『上』で合流してからみんなで決める」

 

「…………へっ? 『上』? みんな?」

 

「そう。テルもレベル4になったなら1度『上』に行くべき。バイトの休憩中にバーちゃん達と打ち合わせておいた」

 

 はて? とテルヨシは首を傾げる。

 どうにも会話が噛み合ってないことがそれで理解できたテルヨシは、自分が勝手に『夜のデート』と勘違いしたことに物凄く恥ずかしくなって両手で顔を覆ってしまう。

 しかしテルヨシにはパドの言う『上』というものに心当たりが全くなかった。

 話から察するにブレイン・バーストに関する事柄なのは明白なのだが、対戦格闘ゲームであるこのアプリケーションに『上位の何か』が存在するのかと疑問が浮かんだ。

 

「んーと、パドさん。その『上』って、何?」

 

 それでもう恥ずかしさとかどうでもよくなったテルヨシは、隠していた顔を上げてパドに質問すると、そのパドの方が逆に驚いたように少し目を大きくした。

 

「親から教えられてない?」

 

「親からはそんなの一言も教わってねーんだけど、知ってなきゃおかしかったり?」

 

「……K。とりあえず一旦帰宅。詳しいことはメールで送るからそれを見て。Bye」

 

 そう言ってテルヨシの事情を把握したらしいパドは、そのままホントに戻ってしまい、なんだかわからないままだが、突っ立っていても仕方がないテルヨシも言われた通りにパドのメールを待つことにして家へと帰っていったのだった。

 そうして自宅のマンションへと帰ってきて、手慣れた手つきで車椅子の車輪を拭き、室内へと入ってから、制服を脱いでシャツと短パンという季節感全開の部屋着へと着替えてから、切っていたニューロリンカーのグローバル接続をホームサーバー経由で繋ぐ。

 すると繋いだ瞬間にテルヨシの視界に新着メールを示すアイコンがピコンと表示され、時間帯的に絶対にパドだと確信したテルヨシは、自室のベッドへと移動してバフッと仰向けに寝そべってからそれを開いて内容を確認した。

 

『レベル4以上のバーストリンカーに認められる加速の上位コマンドが存在する。それによって行けるステージは《無制限中立フィールド》。しかしそのコマンドを実行するにはバーストポイントを10消費。その際にはニューロリンカーをXSBケーブルでホームサーバーなどに有線接続してタイマーでグローバル接続を切断するように設定しておくことを推奨』

 

 なんのこっちゃ。率直な感想はそうだった。

 その下にはダイブする時間と目的地、その例の上位コマンドが書かれていたが、肝心の無制限中立フィールドなるフィールドのことについては直接説明すると書かれていた。そしてこのメールを読んだら削除するようにとも。

 前述はその前準備といったところ。

 だとすれば、無制限という単語から察するに、テルヨシがまず予測したのは《戦域制限の解除》だった。

 しかしそれだけでは対戦格闘ゲームとしてはただイタズラにフィールドが広大になって対戦がグダグダになるだけ。さらに言えば、それでバーストポイントが10も減らされては堪ったものではない。

 だから次に思い付いたのは《制限時間の解除》である。しかしそれでも対戦としてはグダグダになる一方。

 結果としてよくわからなかったので、とりあえずパドの言うところの無制限中立フィールドなるところで合流ができて、そこで話が聞けるならと考えるのをやめて、現在時刻を確認しつつ、カバンからXSBケーブルを取り出して、リビングへと移動。

 指定された時間は午後9時ジャスト。表示されている現在時刻は午後8時50分を回ったところ。

 結構ギリギリであるが、そこはせっかちなパドだからと無理矢理に納得させて、トイレなどを済ませにかかってから、リビングにあるホームサーバーとニューロリンカーとを有線直結して、こちらとあちらの時間の流れを計算に入れて、とりあえず午後9時1分にグローバル接続を切るようにタイマーをセット。あちらでは約17時間経過することになる。

 そうして準備万端の状態で迎えた午後9時ジャスト5秒前。

 テルヨシは頭の中で例の上位コマンドを思い浮かべて軽く息を吸い込むと、何が起こるかもわからないそのコマンドを口にした。

 

「《アンリミテッド・バースト》」

 

 そのコマンドの瞬間、いつもの加速コマンドであればこれでいつも使っている自身のアバターが出現し、初期加速空間へと放り込まれるのだが、今回はその段階をすっ飛ばしていきなりデュエルアバター《レガッタ・テイル》へと姿を変えて、周りの景色もすぐに殺伐とした廃墟へと変わり、何度も見たことのある《世紀末》ステージを構築した。

 対戦を申し込んだわけでもないのに、いきなりフィールドに放り出されたテルヨシは、それでも現状を把握しようと視界上に目を向ける。

 そこにはいつかのイベントのように対戦相手の表示がなく、制限時間の表示もなかった。違うのは自身のHPゲージが固定されていないことくらいである。

 対戦相手の位置を示すガイドカーソルもなく、どうしたものかと考えてみたが、この無制限中立フィールドという場所について知識がなさすぎるためにすぐに断念。

 仕方ないからと加速する前にパドから届いたメールに書かれていた環七通りを北上した先の野方駅を目指すことにした。

 最初は杉並区にいるから、中野戦域を越えられないかと思っていたが、なんの問題もなく環七通りを北上できたテルヨシは、世紀末ステージの世界の終わりを見るような廃れた景色をそれなりに楽しみながら北上を続けた。

 もうすぐ着くな。そう思いながら歩いていたテルヨシは、そこであるものと出くわした。

 それは狼のような四足歩行型の生体オブジェクト。

 しかし世紀末ステージには生体オブジェクトは『存在しない』。ならばあれはデュエルアバターが作り出したものかと結論付けてその狼と対峙し構えた。

 それに反応した狼は、しっかりとテルヨシを捉えるとすぐさま飛びかかってきた。

 テルヨシは襲い来る狼を右足の蹴りで迎撃。その横っ面にお見舞いして建物に突っ込ませると、狼は空中で体勢を立て直して壁にビダン! と足を付き、その壁を蹴って再度テルヨシを襲った。

 こういった自立制御型のオブジェクトは、大抵ある程度のダメージを与えると消滅する。

 それを経験から知っていたテルヨシは、パドのそれより鈍足な狼を迎撃し続けた。

 おかしい。そう感じたのは、十数回目の蹴りを狼に見舞った直後だった。

 テルヨシの概算ではすでに作り出したであろうデュエルアバター本体を倒すだけのダメージを与えている。それでも目の前の狼は依然として自分に向かってくる。

 デュエルアバターによって作り出されたオブジェクトが、アバター以上の強度を持つのは、通常あり得ない。

 物理攻撃が一切通らないオブジェクトならば可能性はあるが、怯んだ様子もうかがえたことからそれはないと確信していたテルヨシは、どうしたものかと思案。その直後、狼に変化が起こった。

 今までためらいなく襲ってきていた狼が、その足を止めて空を見上げて、ウォーン! と遠吠えを始めたのだ。

 現実世界において狼の遠吠えは『仲間や同族へのコミュニケーション手段の1つ』。

 心理学における分野でコミュニケーションの多様性を学んだテルヨシは、そこから導き出される『危険』を察知し、素早く狼から距離を取り高い建物の屋上へと登った。

 そのすぐあと、遠吠えをしていた狼の元へと7匹の同種の狼が合流してきて、テルヨシの登った建物へと侵入していった。

 それを目視で確認したテルヨシは、あの数相手にはさすがに勝てないと悟り、移動を開始しようとした。

 

「こっち」

 

 そのテルヨシに不意に言葉をかけてきたのは、別の建物の屋上に姿を現したパドだった。

 パドは早くしろと言わんばかりにその手で跳べと促してきて、テルヨシも促されるままに屋上から屋上へと跳び移りパドと合流。

 そのままパドが辿ってきたらしい野方駅への道を建物伝いに素早く移動していった。

 

「なんじゃ、早速《エネミー》の洗礼を受けたのか。主は運が良いのか悪いのかわからんのぅ」

 

「まぁ生き残ってここまで来れたのは運が良かったね」

 

 野方駅の南口付近まで来ると、事前に言われていた通り、バーちゃんとチェリーの姿があり、合流したパドは2人に行った先であったことを話して、それぞれがテルヨシにそんな感想を述べた。

 

「エネミー? あの狼ってゲーム側の用意したもんなの?」

 

「そう。テイルが戦ったのはその中でも最弱の《小獣(レッサー)級》。戦ってる間は右上に名前が表示されたと思うけど、《アーミー・ウルフ》。1個体は油断しなければどうということもないけど、ある程度ダメージを与えると仲間を呼んで集団で仕留めに来る。囲まれたらひとたまりもない」

 

「あ、名前表示されてたのね。忙しくて見てる余裕なかったわ」

 

「テイルにしてはらしくないのぅ。主の長所は『観察力』であろうに」

 

「うぐ……返す言葉もない……」

 

 パドの珍しく丁寧な説明に相づちを打っていたテルヨシだったが、腕組みしながらやんわりツッコんできたバーちゃんに指摘を受けてしまいぐうの音も出なかった。

 しかし元より考察する材料もなかったのだからと開き直り、改めて顔を上げたテルヨシは、この無制限中立フィールドにおける先輩3人に教授を求めると、3人も最初からそのつもりだったと言わんばかりに近くの座って落ち着けそうなスペースに移動してテルヨシも座るように促してきて、その小さな輪に加わると、パドが最初に口を開いた。

 

「まずここ無制限中立フィールドは今までテイルが戦っていた《通常対戦フィールド》と違って『加速時間・対戦相手・戦域に制限がない』。これはもう体感してるはず。K?」

 

 パドらしく要点だけを抽出した説明ではあるが、現にテルヨシがこのフィールドに降り立ってからすでに体感30分は過ぎてしまっていて、杉並戦域から中野戦域にも足を運べている。

 さらには対戦者とギャラリーは一定距離以上近付けないルールを越えて、パドやバーちゃんらと接近して話ができることで納得するしかなく、それに対して頷きを見せると、今度はバーちゃんが口を開いた。

 

「まぁ順序は違うが先に《エネミー》についてじゃの。テイルが1戦交えてきたエネミーは、その強さに応じて大きく4つの階級に分かれておる。右肩上がりに《小獣級》《野獣(ワイルド)級》《巨獣(ビースト)級》《神獣(レジェンド)級》という具合じゃな」

 

「基本的にエネミーは自分の縄張り(テリトリー)を持ってることがほとんどだから、縄張りや反応圏に入らなければ別段問題はないけど、その強さは小獣級でも僕達が単独では安定して倒せないくらいに強いから、くれぐれも単独で倒そうなんて考えないようにね」

 

「つっても、倒せるからには何かしらあるんだろ? 例えばレアアイテムをドロップするとかそんなの」

 

「さすがじゃな。神獣級のエネミーなどからは強化外装などといったものも極稀に出てくるらしいぞ。じゃが、それよりも全バーストリンカーにとって獲得して喜ばしい物とは何じゃ?」

 

 そう問われてテルヨシは少しだけ考えを巡らせるが、答えはすんなりと出てきた。

 

「バーストポイントか」

 

(イエス)。エネミー撃破でバーストポイントが加算される。倒すエネミーが強ければ強いほど、獲得できるポイントも多くなる。けど、元々《エネミー狩り》はポイントが枯渇しかけたバーストリンカーのための『救済措置』としてあるもの。だから獲得できるポイントもそう多くはない。むしろ対戦で稼ぐ方が効率は良い」

 

 確かにテルヨシは以前から……それこそバーストリンカーとなってから少し疑問があったのだ。

 加速やレベルアップにはバーストポイントを消費することになるため、その加速やレベルアップをするバーストリンカーがいる限り、必然として加速世界全体の総バーストポイントは減少傾向になる。

 それでもこうして実に6年以上もの歳月の中で加速世界が今もなお存続できている理由が、ようやくわかった。

 この加速世界において、エネミー狩りこそが唯一バーストポイントを『無から生み出せる手段』で、これによって減少傾向にあるバーストポイントの総量を補填しているのだと。

 

「ちなみにエネミーにプレイヤーがキルされた場合は、固定で10バーストポイント損失するよ。僕達はこれをEK(エネミー・キル)って呼んでる」

 

「なるほどねぇ。んじゃ神獣級なんて1人で挑んだら自殺行為なわけだ。でも確か《ナイト》のやつの2つ名に《神獣殺し(レジェンドスレイヤー)》なんてのがあったよな? ありゃそこからきてるのか?」

 

「その通りじゃ。しかし青の王もなかなかに挑戦者。普通なら恐ろしくて実行する気にもなれんからのぅ。言っても青の王とて1度きりとか話には聞いておる」

 

 そう話すバーちゃんにパドもチェリーもうんうん頷くので、テルヨシはそうなのかと実感の湧かない頷きを見せた。

 実際のところ、神獣級の強さというものを体験していないテルヨシにとって、比較対象が初めて出くわした小獣級であるため、どの辺りから階級が上がるかも不明で底が見えないのだ。

 底が見えない時点で十分に恐いことだが、それでもテルヨシは恐怖より好奇心が上回ってしまっていた。この時は。

 

「次。このフィールドについて。このフィールドの属性は《混沌》」

 

「え? 今って世紀末じゃねーの?」

 

「今は。このフィールドでは不定期でフィールドの属性が変わる《変遷》が起こる。その時にフィールドがリセットされて、倒したり傷ついたエネミーも再湧出(リポップ)・全快する」

 

「ほうほう。んじゃ、ここでHPが無くなって死亡扱いになったらどうなんの?」

 

「その時は倒したのがバーストリンカーなら、通常対戦と同じポイント変動が起きて、自殺なら変動なし。死亡した場合は固定で1時間後に全快して死亡した地点から復活できるよ。特例として変遷が起きれば、その時に時間に関係なく復活できるけど、狙ってはまずできないから」

 

 パド、チェリーの説明を聞いてテルヨシは次々と知識を頭に入れていく。

 1度に色んなことを言われれば多少の混乱や整理があるが、それすら最短で処理していくテルヨシは、すでにこのフィールドについて先を読む質問をする。

 

「……離脱方法は? EKとか死亡とかが起こるってことは、自分の好きなタイミングでフィールドを離脱できないってことだろ? それができたら死ぬ前にみんな離脱するからな」

 

「……主は教え甲斐がないのぅ。理解のありすぎる生徒は可愛くない」

 

「ひでぇよバーちゃん! オレなりにバーちゃん達の手間を省こうと頑張ってんのに!」

 

 自分なりにパド達を思って理解を早めていたのに、いざ本気を出せば冷ややかに返されてふてくされる。

 しかし、そんなテルヨシに大して反応もせずにパドは淡々と説明を続けた。

 

「このフィールドから離脱するには、区役所や駅、大型の建築物各所に設置されてる《離脱(リーブ)ポイント》を潜ればいい。あとは現実でニューロリンカーを引っこ抜いてもらってグローバル接続を切ったり……」

 

「ああ、だからタイマーで接続が切れるようにって。でもそれって正規の離脱方法じゃないから、不具合とかは?」

 

「本当に教え甲斐のない生徒じゃの。回線切断による離脱の場合は、次にダイブした時に途中離脱したポイントから出現するんじゃ」

 

「なるほど。んじゃ最後な。ここでは6大レギオンによる《相互不可侵条約》って適応されてんの?」

 

「健在。ただポイント全損に追い込むような6大レギオンに属するメンバーでの激突が禁止されてる程度で、あとは非推奨行為といった感じ」

 

 ここでも6大レギオンは縛りがあるのか。

 そんなウンザリといった態度を露骨に表現して確認のKにKと返した。

 無制限とは名ばかりだなと思わざるを得なかった。

 

「それじゃここのレクチャーが終わったところで、今度はこっちから聞いていいかい? テイル」

 

 それでテルヨシへの授業は終了と判断したチェリーは、見返りと言わんばかりに質問の要求をしてきた。

 テルヨシとしては非常にありがたい授業だったので、リアルを割れとかそんな無茶なものじゃなければとそれに了承。

 

「正直な話、無制限中立フィールドについては自分の親から聞くのが当たり前。その説明を放棄したテイルの親が誰なのか。教えてくれるかな」

 

「《レイズン・モビール》」

 

 ガタタッ!

 テルヨシの間髪入れない即答に、3人はほぼ同時に身を乗り出してテルヨシに迫った。

 その驚きは表情はわからないながらもテルヨシにも伝わっていた。

 

「主、《複合兵器》の子なのか!?」

 

「グレウォの『元No.3』。《パウンド》が引退したって言ってたから、少し残念に思ってた」

 

「ブレイン・バーストの黎明期からいる最古参のバーストリンカーじゃないか! 何でこんな大ニュースを今まで黙ってたんだよ!?」

 

「あー、今みたいになると思ったから黙ってたんだけど……」

 

 ググイと近付く3人に対して、物凄い温度差を感じながらテルヨシがトーンダウンして答えると、少し興奮していた3人もそれで一旦落ち着いて元に戻ると、改めて話を整理し始める。

 

「なるほどのぅ。複合兵器が親なら、主がデビュー戦から新人らしからぬ対戦ができたのも頷ける。あれは1人で『ほぼ全てのアバター特性を引き出せる』からのぅ。実戦経験と知識には事欠かん」

 

「でもモビールほどの古参が自分の子にこのフィールドのことを教えないなんておかしいよね」

 

「何か理由が?」

 

「んー……たぶんだけど、オレに『教える必要はない』って考えてたんじゃないか?」

 

 それぞれがモビール不手際説に疑問を持つ中で、子であるテルヨシは予測としてそう話すと、3人はそれに首を傾げる。

 

「モビールはさ、オレに『ブレイン・バーストは対戦格闘ゲームだ』って、一番最初に説明してくれたんだ。オレも実際にモビールと死ぬほどの対戦をして、負けまくって悔しくってさ。それでもすっげー楽しかったんだ。次は負けねー! 絶対泡吹かせる! ってな。そんなオレにモビールはこのフィールドは『いるべき場所じゃない』って思ったんじゃないかって」

 

「まぁ、このフィールドはある意味『理不尽と戦う』ようなものじゃからな。対戦格闘ゲームとしての側面は薄まるのは否めんのぅ」

 

「確かにテイルは根っからの対戦者気質。みんなとエネミー狩りしてる姿も想像できるけど、対戦してる時は楽しそうなのが伝わってくる」

 

「テイルと長く組んでるパドさんがそう言うならそうなんでしょう。複合兵器も教えるだけでもしていい気はするけど、知らないままでいることもできたのか。つまり僕達は余計なことをした?」

 

「そんなことねーよ。ブレイン・バーストにこんなフィールドがあるなんて知らない方が後悔する。モビールのやつは会えたら1発殴っておく」

 

「会えたら……じゃあやっぱりモビールはもう東京都心にはいない?」

 

 その問いにテルヨシは言葉ではなく頭を下げる形で答えると、パドもバーちゃんもそれには残念そうにした。

 おそらくパドとバーちゃんも黒雪姫と同じように、モビールと良きライバル関係にあったのだろうと感じたテルヨシは、そんな少し元気のなくなった2人に言葉をかけようとした、その時。

 少し遠くからの微かな衝撃にピクリと肩をわずかに跳ねさせて反応を示した。

 

「…………あっちか」

 

 次には立ち上がって周囲を見回して、南東の方角。東中野駅方面で視線を固定して、一目散に走り出した。

 それにはパド達もどうしたのかと呆然としてしまった。

 それから建物を利用してほぼ一直線に東中野駅を目指したテルヨシは、その付近まで来て、先ほど遭遇した狼を発見し、進行を中断。

 反応圏には入らなかったようだが、狼達は8匹で固まって周囲を徘徊していた。

 それを見て遠回りしかないかと動こうとしたテルヨシだったが、その狼達の近くに手足を生やした真っ白い《雪だるま》を発見。

 またエネミーかと無視しようとしたが、どうやらそれはデュエルアバターのようで、周囲を徘徊している狼から隠れているようだった。

 しかし隠れている場所が悪い。

 割と高い建物の屋上から観察していたテルヨシは、その雪だるまがもうすぐ狼達に取り囲まれて、反応圏に入ってしまうことが見えていた。

 このままEKというものがどういうものか見る悪趣味も、見なかったことにする非情さも残念なことに持ち合わせていなかったテルヨシは、狼達の位置を記憶してスルリと下まで降りると、物陰を利用して移動し、頑なに動こうとしていなかった雪だるまの背後からその肩を叩いた。

 その雪だるまは見た目通りひんやりしていて、触ったテルヨシは思わず声が出そうになるが、それをグッと堪える。

 しかし背後から肩を叩かれた雪だるまはそうもいかなかった。

 

「いやっひゃい!!」

 

 そんな悲鳴とも奇声とも取れる声を出した雪だるまは、どうやらそれで腰が砕けたらしく、テルヨシに向き直って地面に倒れた。

 

「アホ! でけー声出すな!」

 

 慌てて注意を促したテルヨシではあったが、すでに遅い。

 それもすぐに理解したテルヨシは、腰が砕けたらしい雪だるまをテイル・ウィップで持ち上げてその場から離れると、先ほどの戦闘で溜めていたゲージでインパクト・ジャンプを発動。一目散に狼達の反応圏から脱出したのだった。

 とりあえず中野駅まで全力疾走してきたテルヨシは、周りに他のエネミーがいないことを確認して、テイル・ウィップで持っていた雪だるまをポイッと放り出した。

 地面に放られた雪だるまは、鈍臭そうに地面に尻をぶつけて跳ねて、うつ伏せに倒れる。

 そんな雪だるまはそれからうんしょうんしょと正座をしてテルヨシに向き直ると、まるで状況を理解していないかのように首を傾げた。

 はて、これは先ほどのオレにずいぶんと似ているな。

 そんな直感が働いたテルヨシが雪だるまの手を取ってとりあえず立ち上がらせようとし、雪だるまも促されるままにその手を取ろうとした時、

 

「スノー! 頭下げなさい!」

 

 テルヨシの背後。そこから気の強そうな女性の声が響き、次にはテルヨシは右側から物凄い衝撃を受けて左側へ吹っ飛び、中野駅の壁を崩壊させて突っ込んでいった。

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