アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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Acceleration12

 突然何者かに中野駅の壁へと吹き飛ばされたテルヨシ。

 ものの見事に壁を粉砕して駅内に転がったテルヨシは、その時にあれやこれやぶつけた箇所に想像以上の痛みを覚えて床を転がった。

 

「痛ったぁ! なにこれ!? なにこれ!?」

 

 《通常対戦フィールド》でも痛いには痛いのだが、いま感じている痛みは体感で倍近くに及ぶため、テルヨシも痛くて転がったというより、痛みに驚いたといった感じ。

 痛みが引いてきてから視界上を確認すると、自分のHPゲージが3割ほど削られてしまっていて、次にこの痛みを与えてきた人物を確認するため立ち上がり、自分が突っ込んできた壁の穴から出ていった。

 

「誰だこの野郎! いきなり吹っ飛ばしやがって!」

 

「野郎じゃないわ! 失礼ね!」

 

「んな些細なことどうでも……ん?」

 

 穴から出て吹き飛ばしたであろう人物とそんなやり取りをしたテルヨシは、その人物の声と姿を聞いて見てから、言葉を切る。

 その相手もテルヨシの姿を改めて見てから、あれ? といった雰囲気を醸し出した。

 テルヨシを吹き飛ばしたであろう人物は、身長160センチほどの《防御の緑》の装甲で、ポニーテールのような後頭部装甲と《ブラック・ロータス》のような短いアーマースカート。腰の辺りに蝶結びの大きなリボン装甲があるF型アバターで、何よりも目を引くのは、その右手で肩に担いで持つ身の丈ほどの閉じられた《扇子》だった。

 

「おっ? おお!? そんな扇子を持ってる子は1人しか知らんぞ! 《ガッちゃん》やー!」

 

「ガッちゃん言うな! もう1発入れるわよテイル!」

 

「もう、ガッちゃんったら照れちゃってぇ。そんなガッちゃんが可愛いんだけど」

 

「か、可愛いとかやめなさいよ!」

 

 打って変わってフレンドリーな会話になった両者。

 テルヨシは相手が自分の知る人物とわかって怒りもどこかへいって、構えもせずに近寄ると、その人物も近くにいた《雪だるま》型アバターを引っ張り起こしてから、テルヨシに対して攻撃の意志がないと示すためか、担いでいた扇子を降ろして右腕で軽く抱えた。

 彼女のデュエルアバターは、名前を《エピナール(Epinard)ガスト(Gust)》と言い、中野戦域を主として対戦しているレベル6のハイランカーである。

 テルヨシが聞いた話では、彼女は去年の今頃までレギオン《プロミネンス》に所属していたとのことで、パドやバーちゃん、チェリーとも顔見知りらしい。

 それこそ今の赤の王《スカーレット・レイン》がピヨピヨ言っていた時期も知っているとか。

 

「それにしてもガッちゃん。いきなり《それ》で吹っ飛ばすとか酷いわ」

 

「だからガッちゃん言うな! 仕方ないじゃない。テイルが《スノー》になんかしてると思ったんだから」

 

 自身がガッちゃんの愛称で呼ぶガストと対面の距離まで来たテルヨシは、懲りずにガッちゃんと呼んでその腕に抱かれる巨大な扇子を見ながらぶつけられた右腕をさすると、ガストは恥ずかしそうにツッコんでから隣にいるスノーと呼んだ雪だるま型アバターを見た。

 

「あの、ガスト姉。この人は僕を助けてくれたみたいなんです。だから乱暴は良くないと……」

 

「わ、わかってるわよそんなの! 私もテイルだってわかってたら殴ってないし……」

 

「さすが《猪突猛進(ワイルド・ボア)》……いやだめごめんなさい!」

 

 そこで初めて言葉を発した少年のような幼い声のスノーと呼ばれたアバターに、ガストはすかさず言葉を返す。

 その理由を聞いたテルヨシがガストの加速世界でのあだ名を呟くと、そのガストが降ろしていた扇子を再び持ち上げたので慌てて謝った。

 彼女はどうやら昔から早とちりや状況判断が甘いらしく、他のバーストリンカーの間では猪突猛進と呼ばれているのだが、本人はそれが大のつくほど嫌いでその言葉に関しては地獄耳となり怒るのだ。

 

「そ、それでガッちゃんはその子と何で『上』に?」

 

 そこでようやく本題に入れたテルヨシは、持ち上げた扇子を再び降ろしたガストにそう尋ねると、それはこっちの台詞よ、と返してきた。

 

「あなた最後に会ったのが4日前なのに、何でここにいるのよ?」

 

「今日レベル上げたから。んでパド達に誘われて初ダイブ」

 

 それを聞いたガストは信じられないといった雰囲気を出しつつも、テイルならあり得そうと失礼っぽいことを言って納得していた。

 

「あの、ガスト姉。そろそろ僕を紹介……」

 

 そんなやり取りのあと、ここで蚊帳の外だったスノーが申し訳なさそうに話に加わってきて、ガストもそうだったと両手をポンと打ち、テルヨシに紹介を始めた。

 

「この子は私の子の《スノー(Snow)イーター(Eater)》。今日レベル4に上げたばっかりでテイルと同じ今回が初ダイブよ」

 

 そんな自己紹介を受けて、テルヨシは改めてガストの隣に立つ雪だるま型アバターを見る。

 スノー・イーターは、その名が示すように、雪のような白い装甲? をしていて、見た目を端的に表現するなら『手足の伸びた雪だるま』がピッタリ。

 手なんて丸っこい感じで、親指以外が1つの指として機能してる。2段になっている雪玉の顔に当たる部分には、黒く光る丸いアイレンズがあるが、率直な感想として、デュエルアバターとしては『異質』だった。

 色もカラーサークルの一番外側の《特色の黒》と対極を成すカラーサークルのど真ん中である《特色の白》なのも異質さを引き立てていた。

 

「よろしくお願いします。テイルさんについてはガスト姉から噂は聞いていました。『将来的に私と互角レベルのバーストリンカーになる』とか『アイツと戦ってると楽しい』とか『観戦してると手を振ってくれる』とか」

 

「キャー! スノー! 何バラしてんのよ!」

 

 スパァーン!

 言うが早いか、スノーがテルヨシに挨拶代わりにガストから聞いたテルヨシの噂をペラペラ話すと、ガストが慌ててそれを止めその腕に抱いていた扇子でスノーの頭を横からぶっ叩いた。

 するとスノーの頭はテルヨシの顔のすぐ横を飛んでいって、中野駅の壁へと激突。

 そのまま雪の残骸となって周囲に飛び散り、スノー本体は頭なしのホラー状態になっていた。

 それにはテルヨシも思わず吹き出し、慌てて大丈夫かと声をかけると、そのスノーは下の雪玉からニュニュッと新しい頭を生やして、何事もなかったように元通りになった。

 

「うお! 頭が生えた!」

 

「回数に制限はありますし、ダメージも受けるんで万能なわけではないです……けど、ガスト姉! なんかいつもより痛かったぁ!」

 

「あ、ごめん。ここだと《通常対戦フィールドの2倍の痛覚》になるのよ」

 

「え? そうなの? だからいつもよりガッちゃんの攻撃が痛かったんだ……なびゃっ!?」

 

 頭を復活させて説明をしたスノーが、その後頭部を押さえてガストに叫ぶと、そのガストはサラッとそんなことを言い、それが初耳だったテルヨシが先ほどの痛みに納得した瞬間、今度はテルヨシの頭上から何かがテルヨシにのし掛かってきて、何の備えもなかったテルヨシはそれで地面に潰れた。

 

「見つけた。単独行動の危険さは教えたはず」

 

「ちょ、ちょいパドさんや。いきなり上から降ってくるのはズルいと言いますかこちらの心の準備ができてなかったと言いますか……それと単独行動が危険って言うなら、ダイブした時に野方駅にまで1人で行かせないで欲しかった」

 

「テイルの家の所在を聞いてない。甘えないで」

 

 突如として頭上から飛来した人物、パドは、その姿を四足歩行獣へと変えた状態でテルヨシの背に乗り地面に押し付け、若干の怒気を含めながらに会話を交わす。

 それからごめんなさいとテルヨシが涙ながらに謝ると、その背から降りて変身を解き、呆然としていたガストとスノーに目を向けた。

 

「Hi、ガスト」

 

「レパード……ひさし……ぶりね」

 

「そっちはガストの連れ?」

 

「あ、うん。私の子。今日がここの初ダイブ。これから色々教えるとこ」

 

「そう」

 

 そんないつも通りのパドに対して、ガストは今までより少しだけ元気のない声で応対すると、パドもその理由について理解があるのか、特に何も言わなかった。

 

「なんじゃ、ガストもおるではないか」

 

「テイルが見つけたのかな?」

 

 そこにまたテルヨシ捜索隊のバーちゃんとチェリーが合流。

 それぞれ自らのアビリティを使ってテルヨシ達の元へと近付いてきて言葉を発した。

 

「ボンバー……チェリーも……ひさしぶり」

 

「うむ。マッチングリストからはたまに名前を見つけておったが、こうして会うのは3ヶ月ぶりくらいじゃな」

 

「僕なんて中野にあまり行かないから半年ぶりくらいですよ」

 

 あれ? バーちゃんボンバーって言われて怒らない。

 と会話を聞いて思ったテルヨシだったが、それを口にすると前科がある自分では怒られるだけとわかっていたので飲み込むが、あの2人にはそれを許すだけの関係が存在するのだろうと勝手に推測して完結させた。

 

「ガスト、しつこいとか言われるかもしれないけど、プロミに戻る気はない?」

 

「……無理よレパード。私は《ライダー》がマスターのプロミが好きでレギオンに入ったんだもの。それに今の加速世界は束縛されてる。6大レギオンは特にね。私にはそれが不自由でしかない」

 

「主はそれでよい。主の気の向くまま、風のように舞い続けよ《月下の舞姫(ムーンライト・ダンサー)》」

 

 それからすでに何度か勧誘しているような口振りのパドに、ガストも何度目かという回答らしいもので断ると、バーちゃんはそれを残念とも言わずにそれでいいと言った。

 それを聞いたガストはバーちゃんを見ながら何か言おうとしたようだが、言葉は出なかったようで、その代わりにスッと肩の力を少し抜いていた。

 

「それでガスト。主は何故ここにおるのじゃ? よもや遊びに来たというわけではあるまい?」

 

「そうね。今日は私の子のアバター性能がどの程度かを見定めようと思って」

 

「そういやスノー・イーターなんてこの辺で見かけたことないもんな。ガッちゃん、子にしたのは最近か?」

 

「だからガッちゃんは……もういいわ。先月の頭くらいよ。今までは私とのタッグ戦だけで対戦してたし、実質的にスノーはサポートに回してたから、名前は知ってても能力は知らないってバーストリンカーがほとんどかもね」

 

「見た目からして戦闘向きっぽくないね。ソロでは戦えないのかい?」

 

「えっと、僕は『特定のステージ』でしかまともに戦えないんです」

 

「雪だるまだし、《氷雪》ステージとかじゃね?」

 

「…………当たりです」

 

「うえ!? 」

 

 ガストの個人的な話は一段落として、次にバーちゃんがガストとスノーがここにダイブした理由について尋ねると、ガストとスノーは各々説明をし、それにかなりテキトーに返したテルヨシが言い当ててしまい、言った本人が驚いてしまった。

 

「まぁ、かなり極端な性能の子なんだけど、氷雪ステージならテイルも圧倒できるかもね。それと面白いアビリティを持ってて、助けてもらったお礼に特別に見せてあげる。スノー」

 

 言い当てたことには素直に拍手を贈ったガストではあったが、次には氷雪ステージではテルヨシより強いかもね、フフン! と自慢気に言ってみせて、それからスノーに何かを指示して、そのスノーは言われてすぐに自分の腹の辺りに右手をズボッ! と突っ込み、それにテルヨシ達は驚く。

 そんな視線をものともしないスノーは、その《雪装甲》とでも呼ぶ体から、大口サイズの丸い大福のような物を取り出した。

 

「これが僕のアビリティ《冷凍食物(フリーザー・アイス)》です。アイスみたいな食べ物ですよ」

 

「聞いて驚きなさい。これをひと口で食べると、なんと! 『必殺技ゲージをフルチャージできる』のよ!」

 

 ドドン! と、効果音でも出そうなガストの発言に、乗っかるようにテルヨシとバーちゃん、チェリーが「な、なんだと!?」と雷にでも打たれたようなオーバーリアクションを返す。

 しかし実際に驚愕の効果であるのは事実である。

 それを聞いて効果を直に確かめたいとテルヨシとバーちゃんが試食を頼むと、スノーはもう1つ体から取り出してそれぞれ渡し、2人はせーので同時にそれを口に放り込んだ。

 デュエルアバターは基本口がないのだが、そこは不思議か、口の部分に持っていくとスゥっと消えてなくなり、食べたことになる。

 そしてフリーザー・アイスを食べたテルヨシの視界の必殺技ゲージはグンッ! と一気にフルチャージされ、近くのバーちゃんも「うおっ!?」と驚く。

 

「ちなみに食べた後はあまりの冷たさで個人差はあるんですが、約1分間くらいアバターの思考停止・制動制御不可になるので」

 

 2人が驚きの声をあげたすぐ後、スノーは付け足すようにフリーザー・アイスの副作用とでも言うべき効果を口にするが、すでにテルヨシとバーちゃんはピクリとも動かないマネキンのようになり、それを理解するだけの思考能力を奪われてしまっていた。

 約1分後、なんとか復活したテルヨシとバーちゃんが改めて副作用について説明を受けてから、当然のごとく早く言えとツッコむが、それだけの効果があれば代償もあるとパドに凄く正論を言われてしまい、それを考慮しなかった2人は黙るしかなかった。

 

「そ、それで、本題からズレたけど、ガッちゃんはスノーの何の性能を確かめたかったの?」

 

 もはや逃げるように話を本筋に戻しにかかったテルヨシだったが、皆に冷ややかな視線を受けて若干怯む。

 しかし話が逸れていたのは事実だったので、まぁいいかと一同も頭を切り替えた。

 

「みんな知ってるかな? 昔この辺りに《オーキッド・オラクル》ってアバターが存在してたんだけど」

 

 そうして説明に戻ったガストがとあるアバターの名前を口にするが、その名前にみな首を横に振った。

 

「まぁ仕方ないか。そのオーキッド・オラクルは《強制変遷能力》を持ってたのよ。フィールド属性は選べるわけではなさそうだったけど……」

 

「ガスト、まさかその子……」

 

 そんな話を聞いて勘付いたパドが口を開くが、その言葉を区切るように、突然近くで異変が起こった。

 異変が起こったのは、テルヨシ達のすぐ近く。

 丁度テルヨシとスノーがここまで来るのに来た道。ガストがやって来た方向から、10メートルはありそうな大きさの馬のようなエネミーが姿を現して、テルヨシ達を視界に捉えたのだ。

 

「ウッソ! ちゃんと撒いたはずなのにぃ!」

 

「うほー! でっけー馬!」

 

「《ブル・ホース》。巨獣級エネミー。倒すとなると10人以上でもそれなりに時間がかかる」

 

「おまけに踏みつけと突進攻撃は即死級で、視界に入ってる限り追いかけてくるのじゃ。今のこのメンツで倒せるかと言えば……」

 

「無理だね……ハハハ……」

 

 目の前のエネミー、ブル・ホースを見たテルヨシ達は、各々言いたいことを言ってジワジワ後退していって、エネミーを視界に捉えた瞬間からまた腰の砕けたスノーをテルヨシが持って、一時の静寂が辺りを包み込んで……

 

「「「「「逃げるッ!!」」」」」

 

 一目散にエネミーに背を向けて逃走を開始した。

 当然バッチリ反応圏にいたため、エネミーもそのあとを猛然と駆け始めた。

 

「アイツ、私とスノーがダイブした地点の目の前にいたのよ! それでさっきは私が囮になってスノーを逃がしたんだけど」

 

「徘徊型エネミーでもあれは別格じゃ。どこをどう移動するかなど見当もつかんからのぅ」

 

「散開した方が良くね?」

 

「互いにフォローし合いながら身を隠す方が安全。それか誰かが足止め」

 

「「「「無理無理無理無理ッ!!」」」」

 

 全力で逃げながらあのエネミーとのいきさつについて話すガストに、また運の無さを嘆くバーちゃん。そしてパドの後者の案は満場一致で却下された。

 

「バーちゃんバーちゃん! 『アレ』使ってよ! 倒せないまでも怯ませることくらい余裕でしょ?」

 

「確かに半分はゲージが溜まっておるが、残りはどう稼ぐのじゃ?」

 

「走りながらその辺のオブジェクトを……」

 

「追いつかれる。散開からエネミーを囲んでヘイトをバラす」

 

 とにかくエネミーの反応圏から逃れたいテルヨシがバーちゃんの『殺戮兵器』。その最終兵器を出すように言うが、その最終兵器は驚愕の『必殺技ゲージ200%消費』というとんでもない難易度。

 その間にエネミーに追いつかれたテルヨシ達は、突進するエネミーの左右と頭上に逃れて散開すると、役立たずとなってるスノー以外の5人でエネミーを円形に囲んだ。

 それによりエネミーはその足を止め、ターゲット優先順位……ヘイトを定めるためテルヨシ達をぐるりと見回した。

 

「《デンジャラス・タイマーボム》!」

 

 そのわずかな時間で必殺技発声をしたのは、両手を合わせてリトル・ボムを作り出したバーちゃん。

 バーちゃんは必殺技発声で作り出したリトル・ボムを右手の人差し指と中指で挟んでストックすると、おそらく今ので空っぽになったであろう必殺技ゲージをリチャージするため、新たなリトル・ボムを作り始めた。

 しかしそれがエネミーにとってヘイトを上げる行為であったようで、その視線がバーちゃんへと明確に向けられ、体もそちらを向いた。

 

「《インパクト・ジャンプ》」

 

 それを見たテルヨシは、持っていたスノーをテキトーな物陰に放り、そのヘイトをこちらに向けるために行動を開始。

 まずはエネミーのちょうど真上にジャンプし、現れた時には頭を下にした状態でエネミーを見下ろし、最高点に達した時のわずかな空中停止で《インスタント・ステップ》を使って再びインパクト・ジャンプを発動。

 エネミーの背中へ急降下して、その背中に強烈なダイブキックをお見舞いした。

 それを受けたエネミーは不気味な雄叫びをあげて痛みを表現。

 そこにテルヨシはさらに背中から降りて地面へと立ち、完全にターゲットが自分に向き顔をこちらに向けてきたエネミーの振り向き様。その下顎にインパクト・ジャンプからの蹴り上げを食らわせた。

 総ダメージとしては5%ほど。エネミーに設定され表示されてるHPゲージをわずかに減少させたに過ぎなかった。

 必殺技からの攻撃を2発撃ち込んでこの程度のダメージかと、初めての巨獣級相手に愚痴るテルヨシだったが、今は足止めできれば上々。

 そう考えてエネミーから距離を取ると、突進のモーションに移行したエネミーは、その前足で地面をザッ、ザッ、と数回踏み鳴らす。

 その隙に今度はパドとチェリーが左右からエネミーの横っ腹へ攻撃を加えて突進のモーションをキャンセル。

 追い打ちにガストが壮絶な前方大回転からの巨大扇子による殴打をエネミーの脳天にお見舞いし、テルヨシの隣に着地した。

 

「かっくいー! さすがガッちゃん」

 

「だからガッちゃん言うな! せっかく呼んでくれるなら《ピーナ》とか可愛いのが良いし……」

 

「エピナールでピーナ? オレ的にガッちゃんの方が……」

 

 と、わずかなインターバルで話したテルヨシとガストだったが、その2人に強烈な踏みつけ攻撃を仕掛けてきたエネミー。

 バーちゃん曰く、即死級とのことなのでテルヨシもガストも左右に分かれてそれを回避して即座に腹の下に潜り込み、腹下から頭上を見上げてそれぞれが必殺技発声。

 

「インパクト・ジャンプ!」

 

「《ジェノサイド・カッター》!」

 

 放たれた攻撃は、テルヨシの腹下から真上へのドロップキックと、ガストの開かれた扇子が振るわれたことによって発生した目に見える鎌鼬のような無数の斬撃。

 テルヨシは攻撃後の落下でそれらを上手く捌いて後ろへと流して着地。

 そしてガストが放った鎌鼬のような斬撃はエネミーの腹下をズタズタに引き裂きダメージを与えた。

 ダメージエフェクトは配慮か何かわからないが、グロい感じにはならず返り血を浴びたりはなかったが、ダメージを受けたエネミーが暴れるためにすぐに腹下から脱出し再び散開した。

 そうやってエネミーの突進攻撃を封じつつ、4人で深追いしないヒット&アウェイを繰り返すこと十数分。

 その間にバーちゃんの周辺の建物がドカドカと倒壊していく様をテルヨシ達も確認していて、それが収まった頃に再びバーちゃんが姿を現して、ストックしていたリトル・ボムを両手の窪みとピッタリ合わせて合掌。

 

「デンジャラス・タイマーボム!」

 

 そして2度目の必殺技発声。

 それを聞いたテルヨシ達は、ようやくかと一斉にバーちゃんの近くに寄った。

 

「あやつの口に放り込んで体内で爆発させる。巨獣級なら一撃死はあり得んから、周囲に被害も出まい」

 

 そう言ってバーちゃんは合わせていた手を開いて、そこに納まっていたリトル・ボムをテルヨシに手渡した。

 その瞬間から、テルヨシの脳内にピッ、ピッ、ピッ、という秒間隔の電子音が鳴り始め、その音が軽くトラウマなテルヨシ達は、エネミーが1点に集まって確実にこちらを向くようにしたこのタイミングで、エネミーの口を開こうと攻撃を仕掛け、雄叫びをあげた瞬間にリトル・ボムを口に全力投球した。

 吐き出されては堪ったものではないため、それはもう勢い良く喉奥へと投げ入れていた。

 それを確認したパド達は、尚も続く電子音が30回目の音を鳴らすまで、必死にエネミーの猛攻を躱していった。

 バーちゃんの最終兵器《デンジャラス・タイマーボム》は、唯一の時限爆弾で、バーちゃんの手から離れて30秒後に爆発するもの。

 その爆発範囲はリトル・ボムの100倍の直径500メートル。威力に関しては10倍である。

 リトル・ボムだけでもテルヨシなら3発も直撃すれば死ねる。オーバーキルもいいところである。

 一応爆発範囲内にいる間はタイムカウントが聴こえるという効果もあるため、カウントが聴こえなくなるまでダッシュして回避できなくもないが、どこにあるかわかっていないと簡単には爆発範囲から抜け出せないので、これが発動した時の対戦は泥仕合になることもしばしばとはプロミメンバー談である。

 そんなデンジャラスの塊のような爆弾を体内に入れられたエネミーは、当然30カウント後に凄まじい爆発音と一緒に地面に倒れて、9割あったHPゲージも残り6割にまで減らされた。

 改めてバーちゃんの最終兵器の威力を見たテルヨシは、今後『消し炭』にならないように本当に気を付けようと心に誓いつつ、大ダメージによって一時的に行動停止しているだけのエネミーから離れてスノーを回収し、近くの離脱ポイントへと移動して、今回はお開きということで解散になった。

 その解散後に、テルヨシは離脱ポイントを潜ろうとするガストとスノーを引き留めて、とある相談をした。

 

「あのさ、ガッちゃん。ちょっと手伝ってほしいことあるんだけど、話だけでも聞いてくんない?」

 

 そんなテルヨシの相談に、首を傾げつつのガストとスノーは、テルヨシの言葉に耳を傾けたのだった。

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