来たるは8月最初の土曜日。
世間では学生が夏休みという大連休を謳歌し始めるこの時期。
本来であれば夏休みに曜日を気にすることもあまり無くなるわけなのだが、テルヨシ達《加速能力者》バーストリンカーはそうも言ってはいられない。
夏休みに入る前日に「夏休み明けまでにレベル6を目指してみろ。お前なら到達できるだろう」と同級生にしてレベル9バーストリンカー。黒の王《ブラック・ロータス》。黒雪姫に根拠のないことを言われたテルヨシは、そんなに早くパドと同レベルになんて上げられるかと内心ツッコミつつも、この夏休みに『壮大な計画』を企てていたりした。もちろん加速世界でである。
現実世界でもバイトの時間を増やしたり、クラスの友達と遊ぶ約束をしてたり、学校側から臨時の心理学講習――在学生と先生対象――を企画されたりと色々と忙しくはあるのだが、それはそれ、これはこれとちゃんと計画的に夏休みに入っていた。
そして本日はその加速世界での壮大な計画の第1段階を達成するべき日。
この日を逃すと次のチャンスは来週ということになるため、テルヨシも一段と気合いを入れてこの日を迎えていた。
土曜日の午後4時からのわずかな時間。その間には加速世界で唯一の《領土戦》が行える貴重な対戦時間に、テルヨシは青の王のレギオン《レオニーズ》が支配している中野第2戦域へと足を運んで、そこで侵攻を行っていた。
テルヨシは春先からこの領土戦に興味はありながら、自身がレギオンに所属していないことから参加が見送られてきていた。
後から聞いた話でレギオンの立ち上げは《無制限中立フィールド》にあるダンジョンでレギオンマスター・クエストを受けて獲得できる《レギオンマスター権限》がないと出来ないらしく、最近レベル4になったばかりのテルヨシではどのみち自力でのレギオン立ち上げができなかったわけだ。
しかし今回はそれを一時的にではあるがクリアした。
テルヨシがレギオンと攻略チームを結成したのは、初めての《無制限中立フィールド》へダイブした時に、時を同じくしてダイブしていた無所属バーストリンカー《エピナール・ガスト》とその子《スノー・イーター》との3人チーム。
そしてこの日までに地道に声をかけて賛同を得られた小レギオンの精鋭チーム3組。
ガストとスノーには以前、無制限中立フィールドを出る際に領土戦で一緒に戦ってほしいと相談していて、その領土戦の『先』の話も聞いた2人は、少しの対話の後に快く承諾。
元々ガストが黎明期にレギマス権限だけは獲得していたので、レギオンはすんなりと結成できたが、今回限りの即席レギオンだけに何度か《通常対戦フィールド》でギャラリー参加やタッグ戦などをこなして連携確認と打ち合わせをしていた。
小レギオンのチームは、本気で領土を落としたいと懇願して応えたレギオンのメンバーで構成されていた。
そうして準備を整えて挑んだ本日の領土戦は、現段階で青のレギオンの勝率が50%とかなり追い詰めていた。
プロミとグレウォが安定の不可侵条約で勝率をくれてやってる3勝を含めて、ここまで6戦3勝3敗。
時間的にあとはテルヨシ達の対戦を残すだけとなっていて、青のレギオンとしては絶対に勝たなくては領土を落とされてしまうという緊急事態が発生し、まさに瀬戸際。
落とせない対戦ということで、青のレギオンのギャラリーがわんさかと集まっていた。
その中には驚くことにレギオンマスターである《ブルー・ナイト》の姿も。
そんな大事な対戦を任されてしまった青のレギオンのメンバーは、《当たって砕けろ野郎》こと《フロスト・ホーン》と、昔からよくタッグを組んでいる《トルマリン・シェル》というレベル4の青緑色のスマートな体をしたデュエルアバター。
そして青の王の側近の1人である《マンガン・ブレード》というレベル7で侍の甲冑のような装甲とガストと同じポニーテールのような頭の角飾り。腰には鞘に納まった刀の強化外装がある緑っぽい青色メタルカラーのF型アバター。
テルヨシはほぼ毎度。青のレギオンの領土内で彼女と彼女によく似たもう1人の側近と遭遇した場合に乱入を受け、目の敵にされていた。
その理由は王への忠誠心が高いが故の紫のレギオン幹部《アスター・ヴァイン》と同じとテルヨシは考えていた。
ともあれこの1戦を落とせば青のレギオンは中野第2戦域から旗を抜くことになり、テルヨシ達は最大のチャンスで見せ場である。
領土戦の勝敗条件は、通常対戦フィールドと同じで片方の戦力が全滅した場合。タイムアップになって生き残りがいた場合に、残り人数やHPゲージの総量で決定する場合。
しかし通常対戦とは違うのが、《拠点》と呼ばれる特殊な陣地が戦域内にいくつかあり、そこを占有することでその場で必殺技ゲージをオートチャージしたりできる。ここをどう扱うかも領土戦においては重要な駆け引きとなる。
ここまで奮闘してきた青のレギオンではあったが、今日に限って采配が甘く最低限の3人配置は致命的で、マンガン・ブレード。ナイトの呼称で《マーガ》がいても戦力差に開きがなく勝ち星を逃していたが、テルヨシ達も気を引き締めて領土戦に臨む。
元より正念場は自分達が担当することは決めていただけに、焦りや緊張といったものは呑み込んでいた。
それからテルヨシは領土戦での相手の出方を予測してみたが、やはり拠点を押さえての完全迎撃体制が濃厚だと考え、開始から戦域中央の一番大きな拠点を取りに行くだろうと結論が出た。
しかし、実際に領土戦が開始されてみれば、出てきたのはホーンと《トリー》ことトルマリン・シェルのコンビ。
2人は今回構築された《腐蝕林》ステージの毒沼を避けながら、植生する木々をなぎ倒して必殺技ゲージを溜めてくる。拠点は無視でテルヨシ達を倒すのが目的らしい。
「オッケオッケ。それならスノーは『食べて待機』。復帰したらすぐに『アレ』使ってまた『食べて待機』。んで復帰したら前線に合流。ガッちゃんとオレはホーンとトリーをさっさと倒そう」
「あの女武者が策無しにあのコンビを前には出さない気もするけど?」
「あっちの狙いを見極めるためにも当たってみるのが最良。ガッちゃんは考えるの苦手だし、指示は任せんさい!」
「ガスト姉はガサツですから頼みます」
「アンタ達、今度ズタズタにしてやるからね」
そんな会話を最後にひやぁ! とスノーの悲鳴を聞いてから、テルヨシも空笑いをして頭を切り替え、猪突猛進のガストと一緒に前進してくるホーンとトリーと激突していった。
「おうおうテイル! 今日に限っていきなり殴り込みたぁどういう了見だ? 《猪突猛進》まで引っ張ってくるたぁ、俺ちゃんも驚きよ」
「誰が猪突猛進か! アンタには特に言われたくないわよ、当たって砕けろ野郎!」
「ほ、ホーンくぅん。怒らせたりしないでよぉー」
「おいおいトリー。やる前から怯むなって。今日のガッちゃんはいつも以上に猪突猛進だけどな!」
「テイル、背中に気を付けなさいよ。うっかり巻き込んじゃうかもしれないわ……フフフ」
「よっしゃあ! トリーはテイルを押さえろ! 俺ちゃんがガストをやったる!」
お互い交戦距離ギリギリのところまで近づいて、挨拶とばかりに言い合いをしたあと、ホーンのその言葉を皮切りに激突。
あのマーガとタイマンでやり合えるほどの実力者であるガストが、ホーンに簡単に負けたりはしないと信じていたテルヨシは、とりあえず自分に向かってくるトリーを捉えて相手をしていき、近くでは『猪突猛進VS当たって砕けろ野郎』の罵倒し合いながらの対戦が始まる。
そんな2人にギャラリーは大笑いしていたが、間近で見ていたテルヨシとトリーは若干呆れて対戦中ということを忘れて固まってしまった。
そのすぐあと、クイっと顔の向きを変えて互いに止まった相手を見てから、思い出したように対戦に戻ったテルヨシとトリーも、開幕とばかりに拳を交えた。
「テイル君、覚悟ぉー!」
「にょわ!」
そんな言葉と共に放たれたトリーの右手の掌打を、テルヨシは防御するのではなくバックステップで躱す。
テルヨシとトリーも戦い始めてはいたが、実際のところテルヨシはトリーとのタイマンが苦手であった。その理由はトリーの特性が原因。
トリーはその名のトルマリン……電気石としての性質を持つアビリティを有していて、体に衝撃を受けると帯電し発熱するのだ。
アビリティとしては《
帯電したトリーと接触する度に静電気のようなチクリとした痛みが走るため、防御をしても数ドットほどダメージ判定を受けてしまう。
特にテルヨシのアバターは脚部はレベルアップで強化されているが、他はほとんど防御力がないため、脚部以外で攻撃を受けると割増ダメージが大きくなる。
「ああもう! 相変わらずカッタイ装甲ね! 叩く度に手にビリビリ来てイラッとするわ!」
「そんな重くてデッケー扇子ブンブン振り回す怪力女が文句言うな!」
「誰が怪力女か! あんたリアルで絶対モテないでしょ!」
「グッサァ! いま俺ちゃんの心に癒えない傷がぁ!」
そうして苦手なトリーをどうしようか考えていたテルヨシも、仕掛けていたトリーも、近くで元気に言い合う2人に集中力を削がれてしまう。
あの2人は罵倒なしでは戦えないのだろうか。
そう考えるテルヨシではあったが、今はそちらに気をとられている場合でもないので再びトリーに集中。
帯電状態で掌打を打ち込んでくるトリーを躱しながら、周囲を観察したテルヨシは、今回のステージの特徴の1つである毒沼を視界に捉えて、それから少し思考して妙案を思い付く。
「おーりゃー!」
それからすぐに迫ってきたトリーの左の掌打を外側に躱して手首を左手で掴み前へ引っ張る。
帯電状態のせいでダメージを受けるも、それを無視してテルヨシは前屈みになったトリーの体勢をさらに崩すために、その両足を後ろに払い完全に腹打ちさせて地面に倒した。
すかさず後ろ手にトリーを拘束し、外装《テイル・ウィップ》で両足も絡め取り、後ろ手に取った両手もまとめて吊し上げた。
「こ、こんなことしてどうするんだよテイルくぅーん!」
「アソコミルヨ。タップリミネラルフクンダミズアルネ」
「なんでカタコトなのー!? それにアレは毒沼ぁー!」
ジタバタと暴れながらのトリーにふざけながら歩いて毒沼に近付いていったテルヨシは、その毒沼の端に立って、捕らえたトリーを毒沼の真ん中に持っていった。
その間もトリーの地味な帯電攻撃が継続していたが、衝撃さえ与えなければ帯電状態は何れ解除されるので今は無視していた。
「いやぁー! ホ、ホーンくぅーん! た、助けてー!」
「はいドーン」
毒沼のど真ん中に浮かべられたトリーは、今の状況にこの上なく危機感を感じたために、近くで戦うホーンに助けを求めるも、その叫びを遮るようにテルヨシは情け容赦なくトリーを毒沼に突っ込んだ。
毒沼に身動きのとれない状態で入れられたトリーは、岸に上げられた魚のようにバチャバチャと毒沼を巻き上げてもがくが、状況は良くならず、ジワリジワリとHPゲージが削られていく。
「ぬおおお!! トリー!! おまっ! テイル! 漢の風上にもおけねー!」
「ワタシ、ニホンゴワッカリマセーン! イングリッシュプリーズ?」
「あ? え、えーと……ユーアー……」
「なに真面目に英語で返そうとしてんのよ。ほんとバカねあなた」
「ぬはははは! ばーか! ばーか!」
トリーの断末魔の叫びを聞いたホーンは、見るも無惨な姿を発見するや否や実行犯であるテルヨシに食って掛かるが、そのテルヨシはそんな文句を右から左へ受け流してトリオ漫才を繰り広げた。
そうしてバカバカ言われて黙っているホーンではなかったが、マッチアップがガストとなるとテルヨシに襲撃をかける余裕もなく、トリーの逝く様を見届けることしかできなかった。
そんなこんなで毒沼に浸かり続けたトリーのHPゲージが残り4割を切ろうかといった時に、周囲に変化が生じた。
フィールドに植生していた木々や崖、岩や毒沼が塗り替えられるようにその姿を消して、フィールドは白一色の雪景色となり、空からは遠くを見渡せないほどの雪が降ってきた。
「おろ? トリーを落としてから変えてくれれば嬉しかったんだが、まぁ仕方ないか」
その光景を見たテルヨシは、フィールドが《氷雪》ステージに塗り替えられた事実には一切の驚きを見せずに、捕まえていたトリーをホーンに向けて投げ放った。
毒沼が消えては帯電させずに攻撃することも不可能なので、早々に手放して新たに策を練った方が得策と考えての判断だった。
投げられたトリーはいきなりのフィールド変化に戸惑うホーンの背中に見事命中し2人いっぺんに積もった雪の上に倒れた。
それを傍目にガストがテルヨシに合流。互いにダメージの有無を確認すると、テルヨシが3割。ガストが1割。
地味にダメージの入ってるテルヨシとは違い、ガストは防御の緑だけあって、近接のホーンとやり合ったにしては大してダメージはもらっていなく、必殺技ゲージも半分ほど溜めていた。
テルヨシは毒沼を使ったせいで必殺技ゲージは3割といったところ。
対してホーンのHPゲージは6割ほどを残して止まっており、トリーも3割ほどを残して互いに必殺技ゲージは7割程度はあった。
「ガッちゃんガッちゃん。やっぱりオレ、トリーは苦手。ぶつかる度にビリビリ来るのは遠慮したい」
「えー、私も飛び道具は必殺技しかないから嫌よ。だからってあの単細胞バカも嫌だけど」
「仕方ない。スノーに任せよう。あいつならビリビリとか関係ないだろうし。ガッちゃんは……」
それから改めてマッチアップの会議を始めた2人だったが、どちらもトリーの相手を嫌がり、たった今ステージ属性を腐蝕林から氷雪へと変えたスノーに任せることにして動き出そうとした矢先、降雪により視界が悪かったことを差し引いても、気付くのが遅れたテルヨシは、慌ててガストの頭を下げて地面に倒して、ガストの後ろから迫っていた首を撥ね飛ばさんとする斬撃から守る。
続けてテルヨシはテイル・ウィップをガストの胴に巻き付け自分の後ろへと豪快に投げ飛ばして安全圏に逃がすと、目の前にいる相手の返しの斬撃をバック転で躱……そうとして雪に足を取られて仰向けに転倒。しかし幸いそれで躱すことに成功はした。
慌てて後ろ跳ね起きで後退しつつ体勢を建て直し、目の前で刀を構えるマーガを凝視。まさかのここでの登場にテルヨシも驚きを隠せなかった。
「ちぃ、好機を逃したか」
「うわおマーガちゃん大胆! まさか拠点放置で前に出てくるなんて考えもしなかった」
「私をその名で呼んでいいのは我が王だけだ! ましてやちゃん付けなど万死に値する!」
「相変わらずカッタイわねぇ。見た目ともマッチしててまさに《
「貴様もガッちゃんなどと呼ばれて怒ってるクチであろうに」
「私はピーナが良いって毎回言ってるのに、テイルが変えてくれないだけよ!」
「…………あのぅ」
何故か自分の問いかけに対する答えが返ってこなく、話が脱線していくのを止めるべく申し訳なく割り込むテルヨシ。
それで2人もコホンと咳払いをしてから本題に戻った。
ちなみにガストの口にした《完全一致》というのは、現実世界の自分の特徴――特技や能力――と加速世界でのアバターの特徴が一致しているものを指し、これはアバター作成が自分で出来ず、変更も利かないブレイン・バーストにおいては非常に稀な存在とされている。
デュエルアバターはその人の『欲望』や『恐怖』『強迫観念』などを読み取って形にする。
だから現実世界で『歩けない』テルヨシは加速世界で『力強い脚部』を持つデュエルアバターを形成したし、これは現実の自分とは一致していない。
つまりデュエルアバターは『自分に無いものを形にするケースがほとんど』だということ。
ここから考えれば完全一致の稀少さが伺い知れるだろう。
しかしまぁ、性格と見た目という点で言うと当てはまるケースはなかなかない。
何故なら加速世界での性格が現実でもそうとは限らないため、キャラを作ってる人もそれなりにいるということだ。
「……簡単なことだ。拠点で待ち構えてちまちま削るより早く、前へ出てお前達を全滅させればこちらの勝ちだ。ホーンとシェルを先に行かせたのは、私の動きをガイドカーソルで悟られないようにし、領土戦の常識を念頭に、私が前へ出てこないと認識させ隙を作るため」
「えらく饒舌ね。それを聞いてこっちはそれに応じるバカでもないわよ?」
「んー、ガッちゃん。そりゃちとバカ丸出しよ? こうしてマーガと話してる段階でオレ達は術中に嵌まってんの。たぶん今のでオレかガッちゃんの首を落とせれば、そのまま数の優位で押してきたんだろうけどな」
「察しが良いな。その読みは正しい」
最初こそ簡単丁寧に作戦を口にするマーガに苦笑していたテルヨシだったが、よく考えなくてもそれがおかしなことは明白で、《6大レギオン相互不可侵条約》などという制度が出来る前から本気の領土戦の経験があるマーガが、そんな損をする行為を意味もなくするはずもない。
だからこそテルヨシは視界の端に後退していくホーンとトリーの姿を捉えることができたし、明らかに敵意を見せながら、しかし倒そうとする気配を見せないマーガに違和感を感じた。
「それにしても、まさか《強制変遷》能力持ちのアバターがそちらにいようとは思わなかった。やったのはここにいないもう1人だな?」
「私の子よ。氷雪ステージ限定だけど、公の場で使うのは今回が初ね」
明らかな時間稼ぎをするマーガなのだが、今の状況で不利なのはむしろマーガ達の方。
ここで仕掛けて逆に深手を負うことも可能性としてはあるためにテルヨシもタイミングを計りつつ会話に付き合う。
そして今ガストが説明したように、この強制変遷を起こしたのは、後方で待機しているスノー・イーター。
彼が所持しているらしいたった2つの必殺技。その2つ共がフルゲージ消費と燃費は悪いが、その分効果は絶大。
その1つである強制変遷能力は《オルタレイション・ブリザード》と言い、1度発動すれば対戦時間中は氷雪ステージにしたままを維持できる。
先月にガストとスノーが無制限中立フィールドにおいて確認しようとしていた能力はまさにこれで、ガストの後日談によると、無制限中立フィールドにおいては、発動した戦域のみを氷雪ステージに変えて、戦域境界が大変面白いことになったらしく、効果時間は1時間も続いたとか。
要するにこの対戦中はもう氷雪ステージで戦うことになるわけで、積雪により移動力は微減。人によっては大きな影響を受ける状況になった。
特にプロミのバーちゃんこと《カーマイン・ボンバー》は積雪と降雪によって、その総重量の軽さ故に移動すらままならないため、地獄のステージと称していたりするが、それは余談である。
「さて、時間稼ぎはこれくらいにして、我々も次の策へ移るとしよう」
ガストの説明を聞いたあと、マーガは言いながら抜いていた刀を鞘へと納めて後退を開始。
また何か仕掛けてくる言いぶりでテルヨシ達の判断を迷わせる。
ここで次の芽を摘む意味でも退くマーガを追って2人で仕留めにかかるのが得策のように思えるが、ホーンとトリーが拠点まで退いたと見せかけて待ち伏せている可能性もあり得る。
生憎と氷雪ステージは見渡しが良くないため、そこの判断を安易にしてしまうと一転してこちらが不利になる。
だからテルヨシは後退するマーガを追おうとしたガストの手を掴んで制止をかけた。
「誘いだよガッちゃん。たぶん追えば数的不利でこっちが潰される」
「……セコい手ね。まっ、あっちは1戦も落とせないともなればセコいだなんだ言ってられないか」
「別にセコくはないけど、ガッちゃんの性格も考慮した作戦だと思われ。いま近くにいなかったら突っ込んでたし」
「やらない後悔よりやる後悔が私の信条なの」
「やーんガッちゃん男らし……」
ガァンッ!
なんとか止まってくれたガストの信条を聞いたテルヨシは、それでふざけて返してみせたのだが、最後まで言い切る前にその手の扇子で頭をぶっ叩かれて地面に沈んだ。
チームとはいえダメージ判定は普通にあるので、それで残りのHPゲージが6割となってしまった。
「ま……まぁ、あっちが退いてくれたなら、こっちはスノーの合流を待って『アレ』で一気に勝負を決めればよろし。初見なら向こうも対応できないだろうしな」
「テイル、あなた最初から勝負どころをここと定めてスノーに下がらせてたでしょ。攻勢に出る前に倒されちゃマズイから」
「まぁね。領土戦はそこんところの見極めが大事でしょ? それにスノーにはオイシイところをあげないととも思ってたのよ? 褒めて褒めて?」
そんな調子で倒れてもただでは起きないテルヨシにハイハイ偉いねぇ、と物凄くテキトーに返したガストは、そのあと後ろからようやく合流してきたスノーを近くに呼び寄せてこれからの作戦を話した。
「よしスノー。あなたの見せ場が来たわよ! もう3人一辺にやっつけるくらい暴れなさい!」
「ええ!? ぼ、僕がやるんですか!?」
「おし、頑張れスノー。氷雪ステージならお前にも勝機は十分ある!」
合流していきなり出番だと言われて焦るスノーだったが、勢いだけで言ったかもしれないガストの言葉を確認する意味でテルヨシに投げ返してみれば、結果は同じ。
しかし自分が活躍できると言われて嫌な気分になる人もそういなく、スノーもすぐにやる気を見せてそのミトンのような手で拳を握った。
「で、ではいきます! 《ジャイアント・スノーマン》!!」
そうして意気込んだスノーは、自らのアビリティ《フリーザー・アイス》で満タンにした必殺技ゲージを全消費して、この氷雪ステージ限定のスペシャル必殺技を発動。
技名発声後、スノーは大きく息を吸い込んで、周りに積もる雪や降ってくる雪をどんどん体内に取り込んでその体積を増やしていく。
2メートル……3メートルと大きくなるスノーをテルヨシとガストは楽しそうに見守り、その大きさが10メートルにまで及んだところで巨大化はストップ。
出来上がったのは、巨大な雪だるま。まさに《ジャイアント・スノーマン》であった。
その光景には近くにいたギャラリー達がどよめく。おそらく視界に捉えていないマーガ達は何の盛り上がりなのかは理解していないはずとテルヨシは予想。
現にスノーの必殺技発動前にガイドカーソルが視界下に現れたので、少なくともテルヨシ達を目視で確認できる距離にはもういない。
「よし! 行きなさいスノー! 私が教えた最強奥義を使うのよ!」
「任せてガスト姉!」
大きくなったせいで結構野太い声になったスノーは、早速ガストに教わったらしい奥義を使うために、その頭と四肢をズボッ! と体に引っ込めて本当にただ大きい雪玉となってしまう。
それを確認したガストはガイドカーソルの向きを確認してから、スノーとマーガ達のいる位置を一直線で結ぶ場所に移動して、その自慢の強化外装《ブレード・ファン》を広げてスノーに振りかぶり、
「《ブラスト・ゲイル》!」
勢いよく扇ぐと、そこから横倒しにした竜巻が発生し、スノーに直撃。
それを受けたスノーは勢いに押されて転がり出した。
その様は豪快で、立ちはだかる建物などのオブジェクトは等しくぶち壊させ、それでも軌道をまったく逸らすことなくまっすぐに突き進んでいった。
その後、遠くの方から誰かの断末魔の声が聞こえてきて、テルヨシは視界右上のマーガ達のHPゲージが一気にゼロへと変動したのを確認。
あんな『転がる災害』はこちらも御免被るなどと思いつつ、テルヨシは潰されてお亡くなりになったマーガ達に合掌。
ギャラリー達はそんなテルヨシに縁起でもないと総ツッコミしつつも、レギオンの敗北にうちひしがれていた。
ともあれ、これでテルヨシ達はマーガ達に勝利。領土戦で見事領土の陥落に成功した。
これには青のレギオンも驚愕。しかしマスターであるナイトは何が面白いのか大笑いしていた。
そんなナイトにテルヨシは勝ち誇った態度で腕組みして、それから『今後の話』をギャラリー達に話し始めたのだった。