アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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 いきなりの乱戦模様を見せるバトルロイヤル祭り。

 テルヨシは少し移動すればコロコロ相手の変わるこのフィールドにおいて、かつてない集中力を引き出し始めた。

 現在テルヨシの視界右上には《Cobalt Blade[Level7]》の表示。

 昨日テルヨシを怒鳴り付けた《ブルー・ナイト》の側近の1人、《コバルト・ブレード》ことコバル。

 おそらく向こうはテルヨシの名前が表示されたことで、昨日の件を踏まえるとまっすぐこちらに向かってくるだろうことは予測できたので、テルヨシもガイドカーソルの示す方向へと走り出す。

 ほどなくして互いに存在を視認した両者。

 コバルはその腰に携えた刀に手を添えていつでも抜刀できる体勢を整えるが、テルヨシはそれを確認してもなお、減速することなくコバルへと突っ込み、それにはコバルも少し驚く素振りを見せた。

 何故ならコバルの抜刀体勢を見て、今まで1度として躊躇なく突っ込んで行くことはなかった慎重派のテルヨシだから。

 そしてテルヨシはそのままコバルの射程へと一気に入り込みかけ、コバルも驚きはしたものの、自ら飛び込んでくるなら好都合とばかりに鋭い抜刀を放つ。

 刹那、テルヨシはその抜刀の軌道を完全に見切った挙動で姿勢を低くして横一閃の一撃を紙一重で躱して、勢いそのままに腹へと肘打ちを放ち、続け様に左の回し蹴りをお見舞い。

 それを受けたコバルは後方へと吹き飛びかけるが、次には腹に巻き付いたテルヨシの外装《テイル・ウィップ》によって引き戻され、テルヨシの前方上空へと放り出された。

 ――ドドドォンッ!

 丁度テルヨシがコバルを放り投げた瞬間、投げられたコバルが強烈な爆発に襲われ、煙で姿が見えなくなるが、すぐに中からコバルが出てきて地面へ着地。

 HPゲージの減りが2割強といったところで、どうやら今の爆発は寸前で処理していたらしい。

 

「貴様、自分が狙われていることをわかっていて私を盾にしたな?」

 

 そんなコバルの問いに、普段口数が多すぎるくらいのテルヨシは無言。

 この状態においてテルヨシは会話より先にこれから先の思考を最優先に処理していた。

 今の攻撃はコバルを発見した段階でテルヨシ視点でコバルの後ろに遠距離系の追跡者がいたことを把握して、その上で攻撃を誘発しコバルを盾にした。

 いつもと様子の違うことを今の反応で察知したらしいコバルは、どうにも調子が出ないような首の傾げ方をしてから、ピクッと体を震わせた。

 その反応が何を意味するかはテルヨシにもわかっていた。視界右上に新たな名前が追加されたのだ。

 その人物はコバルとそっくりなナイトのもう1人の側近《マンガン・ブレード》ことマーガ。

 昨日のナイトの口ぶりから察して、おそらくテルヨシを2人がかりで倒しに来る可能性は高い。

 だからこそテルヨシはさらに集中力を高めて周囲を探る。

 そしてテルヨシの背後近くの影から接近してきたマーガの袈裟斬りを振り向き様に左手で持ち手部分を押さえて加速する前に止め、右手でボディブローを叩き込み怯ませると、左回し蹴りを追加で叩き込み真横へ吹き飛ばした。

 その攻撃後のフォロースルーによる硬直を見逃さずに距離を詰めていたコバルは、低い軌道からの斬り上げをテルヨシの背後に叩き込む。

 しかしテルヨシはそれすらも視界にしっかりと捉えて、テイル・ウィップを地を這うように動かしてコバルの足下を払い転倒を促し、転ばせないながらもバランスを崩したコバルからマーガの方向とは逆に横っ飛びで回避。そのまま影の中へと身を隠した。

 そのあとコバルにはまたもどこかからの遠距離攻撃が炸裂し、直撃はないながらも鬱陶しくは思っているようで、マーガと一緒に影の中へ一時避難した。

 先程からこちらを狙う遠距離系のアバターは、『棚からぼたもち』を狙っていることは予測がついていたテルヨシ。

 だからこそこちらの体勢は崩さずに、コバル達の体勢を崩してそちらを狙うように攻撃を誘導していた。

 バトルロイヤルモードでは、制限時間内で残り1人になれば対戦自体は終了する。

 しかしポイントの収支は参加者のレベル、与ダメージと被ダメージ、とどめのボーナスなどで複雑な計算がされる。

 レベルの高い相手にダメージを与えればポイントも高いし、逆にレベルの低い相手からダメージを受ければポイントも低くなる。

 つまりバトルロイヤルモードは被弾を抑えて相手にダメージを与えれば与えるほどポイント獲得を狙える。

 通常対戦のようにガチンコで倒す正攻法も戦術。ハイエナのような良いとこ取りの戦い方も立派な戦術なのだ。

 そういった心理を読み取ることを専門とするテルヨシにとっては、誰がどんな狙いで動いているかを動作などから大体であるが把握できる。

 本当なら視線や表情も読み取れれば、より正確に情報収集できるのだが、生憎とそうもいかないために、ある程度は予測で動くことになるが、それでも今のテルヨシは見える情報のほとんどを把握していた。

 

「「はあッ!!」」

 

 影の中でほんの少し自分を落ち着かせようとしたテルヨシだったが、長い経験からくる勘なのか、その瞬間を狙ったかのように違う影に潜んだコバルとマーガが同時に影の中から飛び出してテルヨシの潜む影へ侵入して同時攻撃を仕掛けてきた。

 それにはわずかばかり反応の遅れたテルヨシは、出し惜しみしても仕方ないと瞬時に決断し、ある1点、コバルとマーガの間のラインを見て必殺技発声。

 

「《インパクト・ジャンプ》」

 

 瞬間、コバルとマーガの間を高速で抜け出したテルヨシ。

 その追加効果である足場の爆発で2人にダメージも与える計算もしっかりしていたが、直撃はあり得ないことも承知の上で2人から逃げる選択をした。

 元より自分よりレベルの高い相手を2人も同時に相手できる技量を持ち合わせていないのだから、最良の選択と言える。

 そして向かった先は先程からこちらを狙う遠距離系のアバター。

 インパクト・ジャンプによって40メートルの距離を1歩で移動したテルヨシは、それすら計算に入れて跳んでいた。

 当然いきなり交戦距離にまで詰められた相手は後退を即決。

 しかし動き出すのが圧倒的に遅く、加速のついたテルヨシにすぐに射程ギリギリまで入られてしまった。

 そうなると攻勢に出るしかなかった相手は、その手に持つ少々ゴツい実弾銃の銃口をテルヨシへと向けて撃とうとした。

 が、テルヨシは突如その足にブレーキを掛けて止まり、すぐに3歩後ろへ。

 その動作は相手の行動に対する反応にしては早すぎたため、相手は当然驚くが、テルヨシが行動をキャンセルした理由は、すぐ横に迫っていた第三者による暴風攻撃を避けるためだった。

 テルヨシが一瞬前までいた地点から先は、激しい突風が突き抜けていき、それを直撃した相手は簡単に吹き飛び近くの建物の壁に激突。

 そのあとテルヨシの目の前を緑色のF型アバターが走り抜けて、壁に激突して落ちてきた相手をその手に持つ巨大な扇子でフルスイング。豪快に壁へとぶち当ててHPゲージを吹き飛ばした。

 

「いつになく反応が良いわね、テイル。昨日のテイルなら今のは直撃だと思ったんだけ……ど?」

 

 とりあえず1人倒して扇子を地面に降ろした《エピナール・ガスト》ことガストは、テルヨシに振り向きながらに口を開いたのだが、そのテルヨシはすでにガスト攻略に向けて動き出し接近していた。

 まさかテルヨシがなんの挨拶もなしに仕掛けてくるとは予想してなかったガストは、しかしベテランとしてさすがと言う反応で扇子を再び構えて、飛び蹴りを放ったテルヨシをガード。勢いを殺して押し返した。

 

「もうスイッチが入ってるのかしらね。いいわ。テイルがその気なら、私も本気で相手してあげる」

 

 テルヨシを押し返して、それからテルヨシの様子がいつもと違うことを感じ取ったガストは、そんな宣言と共に扇子を下段に構えた。

 ガストはコバルやマーガ、パドやバーちゃんと肩を並べるほどの実力者。

 しかしその本来の実力をテルヨシはまだ知らない。と言うのも、ガストがまだ何かを出し惜しんでる雰囲気を以前から感じていたから。

 だからといって戦わない選択はしたくないテルヨシは、そんなガストに正面から突っ込む。

 まずは先制の飛び蹴り。それをガストは扇子を割り込ませて完全防御。

 緑系統なだけに外装も相当に硬く、連撃でもビクともしないだろう。

 しかし隙は作ろうと飛び蹴りから扇子を踏み台に跳躍。クルッと前宙からのかかと落としをお見舞い。

 それも頭上に掲げた扇子に阻まれるが、その扇子にテイル・ウィップを巻き付けて、そこを支点に今度はバック宙からの膝蹴りをガストの開いた腹へと叩き込もうとする。

 しかしそれも扇子を瞬時に縦に構えた防御で阻まれノーダメージ。

 普段は攻撃特化なガストだけに、その防御能力には素直に驚かされるテルヨシ。だがこれで終わらない。

 膝蹴りを止められたテルヨシは、そこから着地することなくテイル・ウィップで強引に体を上に持ち上げて、その全体重を縦に構えた扇子の頂点に倒立状態で持っていき、ガスンッ! と地面に接地させて固定。

 次にはガストの背後へ回るように倒れて、その背中に膝蹴りを放った。

 

「よい……しょおー!」

 

 膝蹴りを放った瞬間、ガストは強引なんて超えた強引で扇子を振るって後ろを向き、テルヨシに真横から扇子をぶつけにきた。

 マジか!? と思いながらも、まだ巻き付いていたテイル・ウィップで体を扇子の速度に合わせて横に動かして攻撃を避け、そのまま勢い任せにガストから距離を取り地面に着地。

 

「これをノーダメージで躱す? もう猿ね」

 

「そっちはゴリラじゃないか? ガッちゃん?」

 

 互いに再び距離が開いて、ここで初めてテルヨシが口を開き、それにはガストもふぅと息をひとつ吐いてから、誰がゴリラよ! と本気で怒る。

 この場面でテルヨシが口を開いた理由。それはこれだけ姿を見せて戦いながら、未だ他の対戦者が発見できないため。

 バトルロイヤルが開始されてからすでに半分の900秒が経過し、あの乱戦模様でこの時間まで生き残ったバーストリンカーは、脱落した数よりだいぶ少ないだろう。

 そうなってくると、バトルロイヤルは乱戦から一番近い者同士による局地的な単体戦。

 それから数えるほどになった人数による1ヶ所に集まっての乱戦へと移行してくる。

 今はその単体戦の辺りに入ったと見たテルヨシは、警戒を怠ることはないにしろ、喋るだけの余裕は出てきたということを示していた。

 

「《軽減》アビリティ、だっけ? 確かにそんな重そうな扇子を可愛い女の子のガッちゃんがブンブン振り回せるのはおかしいよな」

 

「可愛いとか言うなってば! そうよ。《重量軽減(リダクション)》ってアビリティ。手に持った物の体感重量を8割減させるアビリティ。この扇子の重量は5キロあるけど、私は1キロ相当で扱える」

 

 以前からガストの扇子がそれなりに重いながら、それを簡単に振り回す様子に少々疑問のあったテルヨシは、風の噂から得た情報を口にすると、ガストもそれには肯定を示し丁寧に説明した。

 

「まっ、それで私が怪力女じゃないってことをわかってもらえれば嬉しいかな。でも、この対戦を譲るつもりはないわ」

 

 それでわざわざ説明した理由についても話したガストは、その手の扇子を広げて頭上に掲げると、今までテルヨシに見せたことのない技を披露する。

 

「《ブレード・ファン》展開」

 

 その言葉が起動キーなのか、ガストの扇子は途端、骨の1本1本が分離して、扇面の中折れ外折れ部分がそれぞれ切り離されて鋭利な刃となり、それが18本の鍔なしの面の小さな羽子板のような形の剣になりガストを取り囲むように宙に浮き、一番外側の2本の外枠はクロスしてガストの背中に収まった。

 

「か、かっくいー! どこの近未来ブレード!?」

 

「残念ながら全部を同時に複雑操作なんて芸当は無理よ。できてもせいぜい連動した操作くらいね。でも、一点防御や一極集中攻撃なんかはなかなかにエグいわよ?」

 

 言った後ガストはそばを浮く剣の2本を両手に持って装備すると、残りの16本はガストの後ろで半円を描いて孔雀の羽のように待機した。

 

「先に言っとくわね。今の私に死角はないから」

 

「ガッちゃん絶対同性にモテるでしょ。今なんとなく確信した」

 

 そのテルヨシの言葉には反応せず、ガストは一直線にテルヨシへ突撃。

 やはりガストの真骨頂は攻撃にあると言わんばかりのプレッシャーを放ちながら、その手に持つ剣で絶え間なく連撃を繰り出した。

 しかし幾度となく2刀流を超える4刀流を相手にしてきたテルヨシからすれば、むしろ戦いやすくなったと言わざるを得ない。

 ガストの両手から繰り出される連撃。その一撃一撃を《ブラック・ロータス》と重ねながら、冷静に躱して反撃のタイミングを確認していく。

 ガストの剣は最悪腕で受けても一撃で斬り落とされる心配はなさそうだったが、それに甘んじて回避行動を緩めると、後ろに控える16本の剣がいつ襲ってくるかわかったものではない。

 おそらくガストにとって隠し玉の1つだったはずのブレード・ファンの展開剣。

 隠し玉のはずが、予想より全然追い込めない現実に少し驚いたような挙動が見られ、自分を落ち着かせるためか1度距離を取ろうとバックステップ。

 しかしテルヨシはその1手を好機とばかりにほぼ同時に前へ。

 瞬時に迎撃に出てきたガストの剣を2本ともテイル・ウィップで受けて止め、右足の蹴りを側面から叩き込む。

 ーーガギィンッ!!

 タイミングとしては防御の間に合わない絶妙なものだったにも関わらず、その間に割って入ったのは、ガストの後ろに控えていた16本の剣。

 しかもご丁寧に刃を立てた状態での攻防一体のもので、テルヨシはそれによりダメージ判定を受けてしまった。

 予想を越える防御に思わず距離を取ってしまったテルヨシは、今ので完全に落ち着いてしまったガストを見てうなだれる。

 

「今の防御はいいね。下手したら足が吹っ飛んでたわ。実際レベル1当時ならそうなってたな」

 

「これはあんまり使いたくないのよね……何せ開発のヒントが私の個人的な仇である《絶対切断》だから……」

 

 てっきり自慢してくると思っていたテルヨシだったが、思わぬ回答にキョトンとしてしまう。

 ――私は《ライダー》がマスターのプロミが好きでレギオンに入ったんだもの――

 そしていつか《無制限中立フィールド》で言っていたことを思い出し、その言葉の意味を理解する。

 初代赤の王《レッド・ライダー》は、いま現在テルヨシと同じ中学校に通う黒雪姫の手によって加速世界を永久退場にさせられている。

 そのライダーを慕っていたガストからすれば、黒雪姫は憎き仇となることは当然の流れ。

 故にその仇の技をヒントに生み出した今の防御は本人としては使用自体が不本意なのだ。

 

「ご、ごめんねテイル。テイルが会ったこともないバーストリンカーのこと話したって仕方ないよね。今のなし! 忘れて」

 

「ひょっとしてガッちゃんって、ライダーのこと好きだったの?」

 

「ぶはっ! そ、そそそそんなわけないでしょ! 私はライダーのレギオンメンバーとして当然の怒りを主張しただけ! それにライダーには《紫電后(エンプレス・ボルテージ)》がいたしね……」

 

 紫電后。つまりは紫の王《パープル・ソーン》のことだが、ライダーと恋仲にあったことは初耳だったテルヨシはほぅほぅと新たな情報を頭にインプット。しかしガストは分かりやすいなぁとも思った。

 

「ブラック・ロータスって、四肢が剣の刺々しいやつなんだろ? でも女だって話だし、1度会いたいよなぁ」

 

「あんたってホント能天気よねぇ。でも見つけたら私に真っ先に報告しなさいよ。絶対に倒してやるんだから……」

 

「復讐とかはやめときなって、ガッちゃん。ブレイン・バーストでは常に勝者と敗者が出る。それでポイント全損するのは現実的なことなんだって」

 

「あのね、テイル。ちょっと誤解してるわよ。私は別に絶対切断をポイント全損させたいわけじゃないの。ただ不意打ちで何も言えずに消えたライダーの代わりにコテンパンにやっつけたいだけ。たった1度でいいのよ。それだけが私の目的。まぁ、紫電后はそんな程度じゃ済まないだろうけどね……」

 

「ソーンって、嫉妬深そうだもんな……とはいえ、ガッちゃんが復讐とか考えてなくて安心した。ガッちゃんにはいつも笑っててほしいし」

 

 話を聞いた時はてっきりガストが黒雪姫を永久退場にさせようとしてるとばかり思っていたテルヨシだったが、そうではなくマスターを慕っていたレギオンメンバーとしてライダーに手向けをしてあげたいのだとわかると、ホッと息を吐きいつもの調子で言葉を返す。

 するとガストはまた面食らったように両手の剣を抱いてテルヨシから顔を背けてブツブツ何か言っていた。

 それから仕切り直しとばかりにガストが頭をブンブン振って切り替え、再び剣を構えた時、テルヨシの視界右上に新たなバーストリンカーの名前が表示され、ガストの方も同じだったのか、すぐに周りを警戒し出した。

 

「興味深い話をしている」

 

 強力なフィルタのかかったような性別の認識すらできないその声は、丁度テルヨシとガストが開けた距離の中間にある民家であろう建物の屋根から聞こえてきた。

 テルヨシとガストはそちらへ同時に目を向けると、そこには月光を背に受けながら、こちらを見下ろす1人のアバターが。

 しかしそのアバターはテルヨシが今まで見てきた中で、スノーに匹敵するほどの異質さを醸し出していた。

 まず、体を構成しているのは、その全てが『水』であり、体を絶えることなく流れが循環している。

 表現するなら、水が人の形を作り上げているといった感じ。

 

《Aqua Current[Level1]》

 

 アクア・カレント。それがそのアバターの名前。

 直訳すれば『水の流れ』となるその名は文字通りであるが、それよりも注目すべきはそのレベル。

 テルヨシがここまで遭遇したバーストリンカーの面々から考えても、レベル1のバーストリンカーがこの段階まで生き残るのは相当に難しい。

 しかもHPゲージは満タンに近い状態にありながら、必殺技ゲージまで満タンに近い。

 

「……テイル、アンタ凄いやつ呼び寄せたわね……」

 

「ん? 知り合いかガッちゃん」

 

「最近噂になってる《用心棒(バウンサー)》よ。その前は《ネガ・ネビュラス》の……」

 

「それ以上は口にするな、ガスト」

 

 どうやら顔見知りらしいガストがカレントについて口を開くが、それを何故か止める本人。

 用心棒というのは確かにテルヨシも噂で耳にしていた。

 ポイントの枯渇しかけたレベル1、2のバーストリンカーのみを対象にして、依頼されれば対価を報酬にそのバーストリンカーをポイント安全圏にまで回復させてくれるバーストリンカーがいるらしいと。

 そしてその用心棒のレベルが1であることから《唯一の一(ザ・ワン)》と呼ばれていることも。

 そしてガストが口にした《ネガ・ネビュラス》は、1年前まで今の6大レギオンと肩を並べていた黒のレギオン。つまりは黒雪姫のレギオンである。

 今は言うまでもなく勢力図から完全消滅しているし、マスターである黒雪姫が潜伏中。

 カレントはその《ネガビュ》に関係があるみたいだが、自ら口を封じたところから何か匂っていたものの、それは今はいいとテルヨシは切り替える。

 

「んで、その用心棒が何でバトルロイヤルに? 依頼か?」

 

「1度あなたに会ってみたかった、レガッタ・テイル。加速世界でこれだけの動きと影響力を見せるバーストリンカーは非常に稀。噂で聞く《複合兵器》の子と言うのも現実味のある話に聞こえる」

 

「みんなそれどこで聞いてくるんだよ。それで会ってみた感想は?」

 

「人格面では確かに噂通りのひょうきん者っぽいことはわかった。でも《レパード》が気に入る理由もなんとなくわかった。あとは実力を見るだけ」

 

 ペラペラと話をしたカレントは、それを最後にドロリとその体を崩して、液体の状態で建物から降りて地面に着地すると、また人型を作りテルヨシとガストが等距離に来る位置で立ち止まった。

 だが何故パドの名前が? とも思ったテルヨシだが、よくタッグを組むことを知っていれば不思議はないかと納得。

 

「ガスト、あなたはできれば見学しててほしい」

 

「冗談でしょ? 私は見るより『殺る』方が好きなのよ」

 

「ガッちゃん、一体どの『やる』でしょうかね?」

 

 しかしテルヨシのその言葉に返事は返ってこなかった。

 というのも、今の瞬間からこの場の空気が異常なほどの緊張感を出し始め、テルヨシでさえ冗談も言ってられない事態に発展したからである。

 3つ巴の戦いは踏み込みすぎた者から消える。

 それを本能的にわかってるテルヨシと、経験上それを知っている2人。

 三者はそれ故に最初のアクションの重要性を十二分に理解しているからこそ、動けずにいた。

 その中で最初に動いたのはやはりと言えばやはり、《猪突猛進》の異名を持つガスト。

 ガストはその場で持っていた剣の両方を後ろに放って羽の中に加えると、背中に背負っていた2本の外枠を両手に持ち、手前でクロスさせて必殺技発声。

 

「《ジェノサイド・カッター》!!」

 

 それはテルヨシも何度か目にしているガストの必殺技の1つのジェノサイド・カッター。

 しかしテルヨシの知るこの技は、開いた扇子を振るうことで発生した鎌鼬を相手にぶつけるもの。今のブレード・ファンは展開してしまっているため、その動作ができない。

 そう思ったテルヨシだったが、クロスさせていた外枠をバッ! と外側へ開いたガストの動きに連動して、後ろの18本の剣が散開。

 勢いよく縦回転しながらテルヨシめがけて縦横無尽に襲ってきた。

 

「なん、だ、とぉ!?」

 

 武器の変化による必殺技の変化など初めて見たテルヨシは、それに心底驚かされるが、ガストの狙いが明らかに自分であることを把握した頃には、すでに体が回避に動いていた。

 迫り来る剣の回転は凄まじく、まともに当たれば切断は確実と見たテルヨシは、ほぼ同時に迫る18本の剣のうち、4本ほどを自らの両手首、肘で受けて動きを止めて隙間を作り出し残りを回避。

 その際に両肘から下を切断されるが、HPゲージはかろうじて1割を残して止まった。

 攻撃を終えた18本の剣は、地面へとぶつかるとガストの元へと戻っていき、両手に持つ外枠の中に収まっていき、また扇子の状態へと戻った。

 

「ビックリ仰天トンデモ必殺技だな、ガッちゃん」

 

 扇子を開いた状態でカレントを牽制するガストに対して、こちらもカレントへの警戒をしながらガストに声をかける。

 しかしテルヨシは今の攻撃をもう少しダメージを抑えて……必殺技を用いればノーダメージで躱すこともできた。

 そうしなかった理由は、必殺技ゲージ。今の攻撃を受けたことで、テルヨシの必殺技ゲージは満タンになったのだ。

 だがダメージを抑えた場合は満タンには届かなかったし、必殺技を使えば当然ゲージは減る。

 だからこそテルヨシは両手を犠牲にしてでもダメージを受けた。

 

「んじゃまぁ、せっかくガッちゃんが隠し玉使ってくれたわけだし、オレも初披露の必殺技、使っちゃうぜ」

 

 言った後テルヨシは左右の足のつま先を地面にトントンッ、トントンッ、と順に軽く叩く。これがこれから使う必殺技に必要なモーション。

 

「《インビジブル・ステップ》」

 

 それから必殺技発声をすると、テルヨシの必殺技ゲージは途端グングン減り始めた。

 それを確認するより先に動き出したテルヨシは、その足で地面を蹴りガストへと突っ込みその強力な蹴りを放つ。

 初撃は左脇腹へのクリーンヒット。二撃目は背中。三撃目は右肩。テルヨシの攻撃は今まで堅い防御を誇ったガストへと恐ろしいくらいに命中する。

 それもそのはず。今のテルヨシはガストの体が追い付かないレベルで動いて攻撃しているのだから。

 つまりは『高速移動攻撃』。そのスピードはかろうじて目で追えるが、体がそれに対応できないレベル。

 テルヨシの辿った軌跡は、テイル・ウィップが蒼い線となって残光を残していた。

 テルヨシがレベル4へと上がった時に獲得したこの必殺技インビジブル・ステップは、ゲージ満タンの状態から発動して、ゲージ全消費するまでの5秒間でほぼ無音の3メートルショートジャンプを連続で繰り出せるというもの。

 そのジャンプの速さは時速にして360キロ。秒速では100メートルになる。

 そんな高速の攻撃をアビリティ《インスタント・ステップ》も併用して縦横無尽に繰り出されては、初見で完全に防ぐことなどできなく、かろうじて正面だけ扇子でガードし続けたガストだったが、必殺技が終了した5秒後には、そのHPゲージを消し飛ばされていた。

 ガストの脱落により、この場に残るのはテルヨシとカレントのみになるが、そのカレントは今の様子を見て何か得たような素振りを見せて、先程まで放っていた緊張感を完全に消していた。

 

「なんだ、来ないのか? ならこっちから行くぜ!」

 

 ガストを倒したことでこの時ちょっと調子に乗ったテルヨシは、勢いそのままにカレントへと攻撃を加えた。

 しかしそのカレントはまったく避ける素振りを見せずにテルヨシの攻撃を直撃。ダメージは、ゼロ。

 はっ? と思いつつ追撃してみるがその攻撃の全てがカレントの水の体を突き抜けて当たり判定がなく、それだけでカレントに対して『打撃攻撃不可』であることを理解したテルヨシは、今の自分では有効打の一切がないことを悟り絶望。

 

「あなたは強くなる。そう遠くない未来、わたしやレパードにも遅れを取らないほど。でも今は……」

 

 その言葉のあと、テルヨシは後方から迫ってきていたコバルの一太刀によって上半身と下半身を真っ二つにされてしまい、それで敗北。

 しかし最後にカレントの言った言葉はしっかりと聞き取れていた。

 

 ――でも今は絶対的な経験値の差がわたし達にはある。だからもっとたくさんの対戦を繰り返すといい。それがあなたを強くする――

 

 そう、言われたのだった。

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