アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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 2046年12月24日。早朝。

 昨夜遅くに帰国を果たしたテルヨシは、長らく空けていた高円寺駅近くに建つマンションの自宅へと帰ってくると、何をするでもなく速攻でベッドに沈んで眠りに就き、その翌日の朝に起床。

 2ヶ月ほど前にパドと約束していた通り、来たるクリスマスイベントで職場復帰をするためにせっせと準備を始めて、いつもより圧倒的に早い時間から家を出発して、練馬区桜台のケーキ屋を目指して歩き始めた。

 あの黒雪姫が車に轢かれて大怪我を負った事件。

 恵からの知らせを受けたテルヨシは、すぐにでも帰国する姿勢でいたのだが、実際にはそうはならなかった。

 そうなる前にテルヨシ自身にも大きな変化が起きて、さらに翌日には黒雪姫本人から『心配するな』という一言だけ書かれたメールが届いたこともあってすっかり安心し、帰国が今日にまで延びていたのだった。

 結果として、黒雪姫の怪我は重傷ではあったものの、医者と最先端医療の賜物によってその命を取り留めて、12月に突入してすぐに退院したという話。

 さらには加速世界においても激震があったようで、黒雪姫本人の談によれば、再びその姿を加速世界で晒し、6大レギオンと、それを率いる《純色の六王》にも、自らがレベル10を目指すことを宣言し、黒のレギオン《ネガ・ネビュラス》を復活させたとのことで、テルヨシもようやくかと思いながら黒雪姫の復活を心から喜んでいた。

 現在ではわずか3人の超極小レギオンで杉並戦域の全域を領土として旗揚げして、早速奮闘しているとのこと。

 メンバーはマスターである《ブラック・ロータス》にその子である《シルバー・クロウ》。

 それからテルヨシも今年の春先に彼が新人のレベル1だった頃に対戦経験のある元青のレギオン所属の《シアン・パイル(Cyan Pile)》。

 今のところはその3人でどうにかやっていっていってるようだった。

 そうこうと自分のいない間の出来事を整理する意味でも思考していると、目的地であるケーキ屋に到着し、1度それらの思考は取り払って懐かしき職場へと入っていくと、これまた懐かしい面々がテルヨシを笑顔で迎えてくれた。

 しかし職場の人達は皆、テルヨシの姿を見た瞬間にその足へと視線がスライドし、驚いたような表情をしたかと思えば、また笑顔でテルヨシを見て迎え入れた。

 今のテルヨシは実は長年愛用していた車椅子に乗っていなかった。

 ちゃんと自分の足で立って、しかしそれだけではまだ少しおぼつかないこともあるため、腕への負担を減らす構造の肘から支える杖を右手に装着していた。

 そしてみんなの前でゆっくりではあるが、確かに自らの力で歩いてみせたのだった。

 あの恵からの連絡を受けた朝。

 テルヨシは全くの無意識でベッドから起きて、一瞬ではあるが自らの力で立ち上がり、そのあと半ば倒れ込む形ではあったが、近くに置いていた車椅子に座ってみせた。

 それを見ていた幼馴染みのサクラに、そのことを言われて初めて気付いたテルヨシも、よくわからないうちに自分が確かに自力で動けたことを実感し、思い出せばまだその感覚を体が覚えていた。

 そのあとは医者が言った通り、きっかけを掴んだテルヨシは今までの不振が幻であったかのように、少しずつその足を自分の意思で動かせるようになっていき、約2ヶ月の血の滲むような必死の訓練で、亀並みではあるが、杖の補助付きで1人で歩けるまでに回復してみせたのだった。

 それで継続的な訓練を続ければ、来年の春には杖なしでも歩けるようになるだろうと医者に太鼓判を押されたテルヨシは、長年愛用していた車椅子をアメリカに残して、一緒にトラウマを乗り越えたサクラと教授に見送られて最大の成果を持って帰国を果たした。

 

「テル、おかえり」

 

 そんなテルヨシを見て、店のオーナーにして自らがパートナーと認識しているパドが、いつもはあまり変えない表情を、少しだけ笑顔に変えてそう言ってきて、テルヨシも日本に帰ってきて初めておかえりと言われたため、なんだか嬉しくなって泣きそうになるが、それをグッと堪えて笑顔を浮かべると、他の人達に手厚い歓迎――主に抱き付き――を受けてから、改めて帰還の挨拶をして店の準備に追われていった。

 その後、去年着たサンタコスをまたもや着せられたテルヨシが、せっせと作業をしていると、開店の少し前に裏口からこれまた懐かしい、小学5年生になった上月由仁子が姿を現して、パドと何か話をしてから、テルヨシがいることを知ったらしく心底嫌そうな顔を浮かべてそのテルヨシを見たが、当のテルヨシはそんな視線などなんのその。

 ユニコの姿を見るや、今の全力でユニコに近付いていき、再会のハグをしようとするも両腕を使って全力で拒否されてしまった。

 

「くそっ! マジで今日から復帰かよ! 最悪だ」

 

「そりゃニコたんのサンタコスを見るためならお兄さん頑張っちゃうよ」

 

 テルヨシは自分が昨夜帰国することをパドにしか伝えていなかったため、ユニコは今日テルヨシが来ることを知らなかったのだが、よほどテルヨシにサンタコス姿を見られたくなかったのか、目に見えてテンションが落ちていた。

 しかしパドとの約束だったからなのか、ユニコは渋々ながらにその姿をテルヨシと同様のサンタコスへと変えてお目見え。

 生足は嫌なのか白のタイツを履いていたが、そこはちゃんとスカートを身に付けて女の子サンタをやってくれていた。

 そんな2人のサンタは、開店から店頭へと出てスーパー営業スマイル――テルヨシは素で、ユニコは地を隠している――で売り子として活動し始め、表面上は仲の良さそうな兄妹に見える感じだったが、知る人が2人を見ればいつユニコのストレスという名の爆弾が爆発するかわからない恐ろしいツーショットであった。営業スマイルが逆に怖かったりもする。

 そんな2人の売り子の影響もあって、店は開店から好調な滑り出しを見せ、さらにテルヨシが復帰したことがわかったあとは、情報の拡散が恐ろしいほどに速く、昼頃は終業式を終えてまっすぐ訪れてきた女子学生が押し寄せて軽い混雑となり、ユニコは危険を察知して店の奥へと一旦引っ込み、テルヨシは自分の職場復帰を喜ぶ人達と楽しそうに会話をしつつ客を捌いていった。

 そんなことが1時間とちょっと続き、ようやく客足が途切れてから、さすがのテルヨシもよろよろになってイートインスペースの椅子に座り込んでひと息ついていると、悠長に給料代わりの苺のショートケーキを持って同じ席に着いたユニコは、そんなお疲れ気味のテルヨシをニカニカと笑いながらケーキを美味しそうに食べ始めた。

 

「おうおう、人気者は辛いねぇ」

 

「ニコたんだって可愛い可愛い言われてたのに奥に引っ込んじゃって。撮り損ねてがっかりしてた人もいたんだぞ」

 

「なんであたしがそこまでサービスしなきゃなんねーんだよ。そういうのはテルの仕事だろーが」

 

 ザクッ!

 テルヨシの言葉に反発した返しをしたユニコは、それでケーキのメインの苺をフォークで刺して口へと放り込んだ。

 その様子をやれやれと思いながら眺めていたテルヨシは、視線を嫌ったユニコに「見んな!」と怒られてしまい、仕方ないと思いつつ椅子から立ち上がり、予想以上に売れてしまったケーキの補充をするために厨房へと足を伸ばそうとしたら、そのタイミングで来客があり、条件反射で笑顔を作りそちらを向くと、そこには去年も来ていた5人組のランドセルを背負った女の子達がいて、その内の4人がテルヨシサンタに笑顔で近寄ってきて、残った1人がレジへとまっすぐ足を運んでいった。

 テルヨシがこの子達を覚えていたのは、去年に思わずサービス――テルヨシが自腹を切っただけ――してしまったこともあるが、何より今レジに向かった日本人離れした容姿の金髪の少女が印象的だったからで、1年経った今も彼女を取り巻く環境は変わってないのかと、この現状を見て心配になってしまっていた。

 

「君達って、どこの学校の子なのかな?」

 

 レジに行き、今年もパドに注文をする少女を見ながら、テルヨシは笑顔を崩さずに4人の少女にそんな質問をすると、元気な少女達は口を揃えて『松乃木学園』だと言うので、テルヨシはその名前に聞き覚えがあって、数秒黙り思い出す。

 確か梅郷中学校と同系列の杉並にある小中高一貫の歴史ある女子校で、それなりのお嬢様学校だったと記憶していた。

 意外にも身近なところの子達なのを知ったテルヨシは、わざわざここまで足を運んできた少女達に感謝しつつ、丁度ケーキを買い終えた少女を見て近付き、それに気付いた少女は首を傾げてテルヨシを見た。

 

「本当に言いたいことっていうのは、なかなか言えないと思うけど、言わないとわかってもらえないことはいっぱいあるんだ。君が勇気を持って踏み出せば、きっと今を変えられるよ」

 

 いきなりだった。

 テルヨシはキョトンとする少女に対して、何の脈絡もないそんな言葉を贈り、ニコッと笑ってみせてから、それを聞いて手に持つケーキに視線を落とし、次に近くにいた4人の友達を見た少女の頭を優しく撫でてから、5人一緒に店を出ていった少女達に手を振って見送った。

 その姿が完全に見えなくなってから、その様子をずっと見ていたユニコが唐突に口を開く。

 

「ただの客に対してなら、ずいぶん面倒見が良いじゃねーか」

 

「そんなんじゃないよ。あの子達の間に少しだけ『認識の違い』があるみたいだったから、言わないとわからないってことを教えてあげただけさ」

 

「ふーん。つまりテルは『いじめ』じゃないって言いてぇわけだ」

 

「ニコたんはわかってないなぁ。あの子達の間にあるのはそういうのじゃないよ。みんな悪意を持ってあの子と接してないのがわかったし、たぶんあの子が付き合い方を少し間違ってるだけ」

 

「んなことまでわかるかよ。つーかそんなことまでわかるとか、どんだけだよ」

 

 呆れ気味のユニコは、それで丁度ケーキを食べ終えて席を立つと、ユニコの物言いに苦笑するテルヨシを横目に店の奥へと引っ込んでいき、それに続くようにテルヨシも厨房に入ろうとすると、またも店に来客があり、すかさず笑顔で対応してみれば、店に入ってきたのは、つい数分前に店を出ていった金髪の少女だった。

 少女はキョトンとするテルヨシを発見して目を合わせると、突然その頭をペコリと下げてお礼を言ってきたので、テルヨシも少し戸惑ってしまう。

 

「みんな、今の関係はおかしいって言ったら、そうだねって。それで別れちゃったけど、後悔してない。だからありがとうございます」

 

 驚いたことに、少女はつい数分前にテルヨシが助言したことを本当に実行に移し、それで友達だった子達と今の関係を壊したのだと言う。

 まさか友達関係が壊れることにまでなるとは予想していなかったテルヨシだが、本人がそれを悔いていないと言い、だからその1歩を踏み出させてくれたテルヨシにお礼をと思ってすぐに引き返したきた。そういうことなのだという。

 テルヨシは去年にも思ったことなのだが、この少女はあまり言葉を発するという行為を得意としない節があり、今の言葉も精一杯に振り絞った感じが伝わっていた。

 

「感謝されるようなことをした記憶はないけど、君が後悔してないなら、それは良いことなんじゃないかな」

 

 それらを踏まえて目の前でさっきまでのどこか浮かない表情を消して感謝を述べた少女に笑顔でそう言ったテルヨシ。

 言われて少女は途端に顔を赤らめて俯いてしまうが、またすぐにテルヨシを見て言葉を発する。

 

「ケーキ、買います。2つ」

 

「どうぞ。好きなものを選んで」

 

 どうやらお礼を言いに来ただけというわけでもなかったらしい少女は、そのあとショーケースから2つのケーキを指差して購入。

 その2つのケーキは去年少女にプレゼントしたケーキと同じものだった。

 

「誰と誰のケーキなのかな? もしかして1人で2つとも?」

 

「私と、おばあちゃん。去年食べたの美味しくて、おばあちゃんもまた食べたいって言ってたから」

 

 箱詰めを待つ間、それとなくテルヨシが会話をしてみると、少女は素直にそれに応じて嬉しそうに話をしてくれて、テルヨシも客じゃなかったらその可愛さ故に撫で回したい衝動を必死に抑えて、少女に笑顔で応える。

 そしてケーキを持って店を出ようとした少女を1度引き留めて、ついつい名前を聞いてしまったテルヨシ。

 しかし少女は何のためらいもなくそれに振り返ってこれでもかという笑顔で応じてくれた。

 

「松乃木学園初等部3年。悠木麻理亜(ユウキマリア)です。テルヨシお兄さん」

 

 そしてペコリ。

 また綺麗なお辞儀をしてから店を出ていったマリアに、なぜ自分の名前が知られていたのかと疑問に思ったが、リアルアタックされる前まではグローバル接続していれば業務中に名前が表示されるような機能が付属していたなと思い出し納得。

 パドは今も当然のように付けていないが、それでも1度しか会ったことのない店の店員の名前を覚えててくれるものなのかと少し感心。

 テルヨシもマリアのことを以後忘れないことを誓い、今度こそ仕事に戻るため厨房へと入っていった。

 それから数時間後、今度は大学生以上の客が集中的に来客して、店内はまたてんやわんやの大賑わい。

 テルヨシもすぐに駆り出されて接客を行なっていったのだが、もう1人のサンタはそろそろ寮の門限だと言って逃げるように帰ってしまい、パートナー兼癒しの対象を失ったテルヨシは、心休まる暇もなく接客に追われていったのだった。

 今年は去年よりも盛況だったため、閉店より先に在庫の方が切れてしまって、いつもより2時間ほど早い午後の6時に店じまいとなり、テルヨシも久々の職場でいきなりの重労働を強いられたために、さすがに疲労が体を襲い、サンタコスから着替えてから少し休憩室でぐったりしていた。

 そこへお疲れ様とでも言うように缶コーヒーをテルヨシに渡してパドが近くに腰を下ろしてくる。

 

「テル、それ飲んだらグローバル接続して。あとバトロワモードをオンに」

 

「んあ? 対戦すんの? しかもバトロワって……」

 

「約5ヶ月も戦線から離れたら勘が鈍ってるはず。だから荒療治は必要」

 

「ゆっくりやる選択肢は……」

 

「ない」

 

 そうですか。

 相変わらず物事を早く済ませようとするパドに苦笑しつつ、これもパドなりの優しさなのだとポジティブに考えたところで、貰った缶コーヒーをグビッと一気飲みしたテルヨシは、それで頭を完全に切り替えてバトロワモードを待ち受けオンにしてグローバルネットに接続。

 それを確認したパドは、間髪入れずに加速して、テルヨシを約5ヶ月ぶりに加速世界へと誘った。

 

【A BATTLE ROYAL IS BEGINNING!!】

 

 久々に見たその炎文字に、心が踊るような感覚を覚えたテルヨシは、その姿をデュエルアバター《レガッタ・テイル》へと変えて、ソーシャルカメラが映す現実世界の映像を再構築して出来た対戦フィールドへと降り立って、その感触を、空気を確かめる。

 ――戻ってきた。

 大きく深呼吸をしてから、次にはその感覚を対戦に臨む時のそれに完全に切り替えて視界を開けたテルヨシは、そこで今回構築されたタイムスリップでもしたかのような純和風な茜色の景色を見て《平安》ステージだと確認する。

 

「対戦の勘を取り戻すには余計な属性がなくて良かったかな」

 

 景色を見て歩くだけで女性とデートができてしまいそうな平安ステージの美しさにそんな感想を口にしたテルヨシは、次に一番近くにいたスターターである《ブラッド・レパード》へと視線を移して、全く仕掛けてくる様子のないことを確認し、これから自分がやるべきことを理解すると、近くの一番高い建物へと登って、その天辺で立ち大きく声を張り上げた。

 

「全員集合ぉぉおお!!」

 

 パドがわざわざバトロワモードでのリハビリを企画したのだから、そのテルヨシが戦いの中心にいなければ、すぐにどこかしらで局地戦が勃発してしまう。

 それを少しでも防ぐためには、テルヨシの居場所を明確にして、そこを目指してもらわなければならない。

 しかしそれもおそらく、パドが事前に声をかけたであろうレギオン《プロミネンス》のレギオンメンバーに限られているため、無所属や他レギオンのメンバーにまではその意図が伝わらないが、それで来てしまったなら倒してしまえばいいだけの話なので、特に気にすることでもなかった。

 そうして待つこと数十秒。

 ちらほらとプロミのメンバーが集まってきて、挨拶代わりにテルヨシへと一撃ずつ撃ち込みに来るが、食らうのもあれなので言葉を返しつつしっかりと避ける。

 《オーカー・プリズン》《ピーチ・パラソル》《ブレイズ・ハート》《マスタード・サルティシド》《チェリー・ルーク》。果ては《カシス・ムース》《シスル・ポーキュパイン》の2人まで来てプロミの幹部《三獣士(トリプレックス)》が揃い踏みとなり壮観である。

 そうして続々と姿を現す中、ただ1人優雅に空から登場し、自らの象徴である小さな爆弾を投下してきた《カーマイン・ボンバー》ことバーちゃん。

 当然テルヨシとその近くにいたアバターは爆発に巻き込まれないように全力で回避し、爆心地を見てから何の悪びれもなく着地したバーちゃんにみんなで抗議した。

 

「なんじゃ、儂だけ怒られる筋合いはなかろう。皆もやっておることを儂もやっただけのこと。差別じゃ差別」

 

「狙うならテイルだけにしてってことだよ!」

 

 みんなの抗議の声に不機嫌な感じで腕組みしそっぽを向いて返してきたバーちゃん。

 そんなバーちゃんに強く言ったのは、テルヨシの一番近くにいたチェリーだった。

 そのあとちょっとした口喧嘩になったバーちゃんとチェリーだったが、その様子に苦笑していたテルヨシは、そこであることに気付き、その口喧嘩に割って入った。

 

「あれ? バーちゃんもチェリーもレベル1つ上がってんじゃん! おめっとさーん」

 

「ん? おおそうか。主の居ぬ間に上げたのだったな。これで主と並んだの」

 

「こっちの方が先輩のはずなんだけどね……」

 

 と、それぞれに返事を返すと、喧嘩も興が冷めたのかやめてくれた。

 

「でもあれだよな。バーちゃんってたぶんだけど、もっと早くにレベルを上げれたんじゃないかって思ってたんだけど」

 

「ん……そこはまぁ否定はせんが、詮索されるのは好かんのぅ」

 

 それでレベルが6となったバーちゃんにふと沸いた疑問をすぐに口にしてみれば、何やら訳有りな雰囲気で返したバーちゃんは、それ以上の詮索をやめさせて、コホンとひとつ咳払いをしてから、パドへと視線を向けた。

 

「さて、無駄話もこの辺にして、そろそろ始めようではないか。儂らもテイルの復帰を心待ちにしておったのだし、景気づけにパアッと派手にやるのがよかろう?」

 

「K。それじゃあテイル狙い。Go」

 

「何ぃ!? カウントなしで!?」

 

 話もそこまでにして、バーちゃんがそうやって今回の目的に切り替えると、集まったメンバーも揃ったのを確認したパドがタイムカウントなしの不意打ちスタートを切り、それにはテルヨシもせっかちすぎるだろと心でツッコミながら、途端、この場にいる全員に標的とされたのを察して全力で逃げ始めた。

 飛んでくるのは爆弾、光線、ミサイル、ビーム、矢、銃弾その他色々。

 ありとあらゆる遠距離攻撃が、テルヨシただ1人を狙って迫り、リハビリにしては手加減も何もあったものではないと思いつつも、逃げに徹することでなんとかそれらを潜り抜けていたテルヨシ。

 さすがは赤のレギオンだけあって、遠距離火力に関しては恐ろしいまでに凄まじい。

 反撃など考える暇もなく、テルヨシはただただ逃げることしかさせてもらえなかったが、自分を追う連中から「楽しい」だの「仕留めろ」だのといった言葉が飛び交うので、何だかストレス発散に使われてるのではないかと思わざるを得なかった。

 それで遠距離攻撃に気を向けていたテルヨシは、今回のこの対戦フィールドに恐ろしい近接戦闘を得意とする存在を失念していた。

 その隙を見逃さずに絶妙のタイミングで一気に間合いにまで入ったビーストモードのパドは、ちょうど建物をジャンプしたテルヨシの首を狙って、その強力無比な牙を見せた。

 反応の遅れたテルヨシは、その首に1度噛みつかれてしまうが、すぐに外装《テイル・ウィップ》で胴体を締め付けて肺を圧迫し、噛みつく力が緩んだ瞬間に離脱。

 難を逃れてみせたが、着地地点には残念なことにバーちゃんとチェリーがいて、いつかの対戦の時に見せた戦法でその場に必殺技《リトル・ビッグボム》を置き離脱。

 回避も必殺技発声も間に合わなかったテルヨシは、咄嗟にテイル・ウィップで前方に巻き貝のような壁を作って、その強大な爆発から身を守った。

 その代償は当然テイル・ウィップの完全破壊。こうなるとテルヨシは得意の三次元的な移動ができなくなって、機動力が格段に落ちてしまう。

 しかしこの時点でかなりの勘を取り戻していたテルヨシは、そこからどうやって生き残るかを頭をフル回転させて思考……し始めたのだが、そこに今までに何度か食らったことのある極太のビームが、建物などものともせずに突き進んできて、慌てて有効射程から逃れたテルヨシだったが、そのビームを放った人物は、見晴らしの良い建物の屋上に陣取って、すでにその本体とも言うべき強化外装を召喚していた。

 

「あれー? なーんで《レイン》がいるんだ?」

 

「そりゃテメーをボッコボコにすんのが楽しいからに決まってんだろ。ついでに最近レギオンメンバーが気合い抜け気味だからよ、気ぃ引き締めさせてやろーと思ってな」

 

 テルヨシの疑問の声を聞いた赤の王《スカーレット・レイン》は、本当に楽しそうにそう言い放って、悪者みたいな高笑いをしてから、そこら辺から「何で自分達まで!?」という声を無視して、自らの必殺技を放った。

 

「《ヘイルストーム・ドミネーション》!!」

 

 途端、レインが纏う外装《インビンシブル》に搭載されたありとあらゆる実弾ミサイル色々が、対戦フィールドのほぼ全域に放たれ、敵も味方も関係なしの無差別攻撃がテルヨシ達を襲った。

 そのあとは語るのも馬鹿馬鹿しくなるくらいのレイン無双で対戦は幕を閉じ、現実世界に戻ってきたテルヨシは、目の前にいたパドに笑顔を向けてから、疲労からまた沈んでしまうのだった。

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