アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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災禍の鎧編
Acceleration21


 テルヨシが帰国して内容の濃いクリスマスイヴを過ごしてから2週間とちょっと。

 何のこともなく年を越して日々を過ごしたテルヨシは、3学期の始まり。

 実に半年ぶりに私立梅郷中学校へと通う登校日を迎え、朝のかなり早い時間にもかかわらずに学校の門を潜っていた。

 加速世界においてはクリスマスイヴの翌日に中立地帯の中野第2戦域に赴いて、自身が復帰したことを対戦の勝利と共にギャラリー達へと伝えて、テルヨシの……《蒼き閃光》《逃走王》の復帰は半日とかからずに東京都心全域へと広まっていった。

 その報せは当然、完全復活を果たした黒の王《ブラック・ロータス》こと黒雪姫の耳にも届き、1度は真っ先に知らせてこなかったことへの怒りをぶつけられたが、すぐにおかえりと言ってテルヨシを優しく迎えていた。

 そんな黒雪姫とも実際に顔を合わせるのが半年ぶりとなれば、テルヨシのテンションも上がらないはずもなく、まだ誰もいない教室へと入って、自分の席を1度まじまじと見てから、今まで邪魔だからと撤去していた椅子が戻っていることに少し喜びを感じつつ、その椅子にゆっくりと腰を下ろした。

 

「……やっぱ、見える景色が少し違うな」

 

 補助用の杖を机にかけてから、正面を向いての第一声がそれだった。

 実際のところは車椅子の方が少し高いくらいの差なのだが、別にそういったものを比べていたわけではない。

 こうして自分もみんなと同じ目線で同じ場所にいられることに対して、そんな言葉が自然と出たのだ。

 まだまだみんなと同じように普通に歩くことはできないが、それでもテルヨシは半年もの期間が無駄じゃなかったことをしっかりと噛み締めていた。

 それから数十分後。

 部活の朝練レベルの時間に登校していたテルヨシは、ようやく来たクラスメートに見つかると、すぐに近寄られて、半年間募り募った話が始まり、話をする間にもクラスメートは増えていき、気付けば教室はテルヨシの話題で持ちきりとなってしまい、休みなく話し続けていたらあっという間にホームルームの時間となってしまうと、周りに集まっていたクラスメート達も渋々といった感じで自分の席へと戻っていく。

 そんな中、テルヨシは戻っていくクラスメート達の中で、2人ほど逆に近寄ってきた女子生徒に目が行き、視線を合わせれば、黒雪姫と恵の2人だった。

 

「この半年で英語力は身に付けられたかな?」

 

「姫、テルがそんな殊勝な行動をするわけがありませんわ」

 

「何も言い返せないのが悔しいです……」

 

「そこは変わりないとわかって安心したよ。おかえりテル」

 

「おかえりなさいませ、テル」

 

 半年ぶりに会っての第一声がこれかと思ったテルヨシだったが、次には優しい表情でおかえりと言われてしまい、不覚にも嬉しくなってしまってすぐにただいまと返せなかったのだが、2人はそんな返事を聞こうとすることなく自分の席へと着いていってしまった。

 そのあとは何事もなく1時間目の授業も終わり、朝の続きとばかりにまたテルヨシの元へと人が集まりかけたその時。

 ――バシィィイイ!!

 聞き慣れた加速した時の音が頭に響き、テルヨシの見える世界は青く凍りつき、視界には【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】の炎文字が浮かんで消え、そのあと青く凍った世界はその姿を変えて、テルヨシも自身の姿がデュエルアバター《レガッタ・テイル》へと変わる。

 まさか姫が乱入したか?

 と思いつつ、テルヨシが構築された対戦フィールドの確認を後回しにして視界上の対戦相手を確認してみれば、相手のところには《Silver Crow[Level4]》の表示があった。

 

「ん? ああ、姫の子か」

 

 名前を見た瞬間、いつかに黒雪姫から聞いた自らの子のことを思い出してポンと手を叩き理解。

 そういえばこの学校の生徒の中で子を選んだと話であったのだ。乱入を受けてもおかしくはない。

 

「ん、早速申し込まれたか」

 

 テルヨシが状況を把握したところで、不意に近くからそんな声が聞こえてきて、声のした方を向きつつ改めて周りを見ると、どうやら校舎の外へとスタートをずらされたようで、出入り口付近に立っていて、今の声の主はテルヨシから10メートルくらい離れた校門への道の途中にいた。

 

「姫の仕込みか?」

 

「挨拶も兼ねて休み時間にでも乱入してくれと言っていただけだよ。テルからでは支配戦域にいる私達には乱入できまい」

 

「そんなん拒否しなきゃいいだけじゃんかよ。まぁいいけど」

 

 そうやって今に至る経緯を簡潔に話した黒雪姫、《ブラック・ロータス》は、ギャラリーとして入っているためにテルヨシとはこれ以上近付けないので、この距離での会話に応じ、テルヨシも別に怒るようなことでもなかったので、とりあえず黒雪姫の子、《シルバー・クロウ》の到着を待ち始めた。

 今回構築されたのは、建物内部への侵入を不可にされている《繁華街》ステージ。

 本来ならば電光掲示板などでキラキラとした景色が広がるのだが、ここは生憎と学校のため、光源が乏しく繁華街の裏側にいるような感じだったが、これはこれで落ち着く感じがしていいな、と思い始めてから、ようやく視界下のガイドカーソルが消えたため、最後に示していた方角を見ていると、そこからは意外なことに2人のアバターが姿を現した。

 1人はほとんど何の特徴もない銀色の装甲色で、テルヨシと同じ流線型のスリムな体格。顔は鏡面でアイレンズは見えないため、パッと見ではどこかのポンコツロボットのようだった。

 しかし装甲色から彼がシルバー・クロウであることは明白だった。

 もう1人はそのクロウと隣り合ってこちらに歩いてくる彩度の高い青のアバターで、クロウとは違ってしっかりとした重量感のありそうな装甲、剣道のお面のような顔からアイレンズが輝いて見える。

 そしてその右腕には、太く長い杭を収納した杭打ち機(パイルドライバー)が装備されていた。

 

「…………あ! 《シアン・パイル》か!?」

 

 その姿を見てどこかで見たような記憶のあったテルヨシは、そこで記憶を遡って思い出すと、確認するように声を上げた。

 

「僕のことを覚えてくれていたんですか。光栄です」

 

 テルヨシの問いかけに対して、肯定と取れる返事をしたパイルは、非常に爽やかな少年の声だった。

 

「いやいや、あん時はレベル1の新人だったし、コバルとマーガに『いい経験になる』とかって言われて特攻してきたのは良い思い出よ」

 

「あの時は本当に玉砕覚悟で当たって完敗しましたから、僕にとっては苦い思い出で……」

 

 テルヨシの語る話に左手で頭をさすりながらに返したパイル。

 どうやら本人にとってはあまり良い思い出ではなかったらしい。

 

「あのぅ……」

 

 そんな2人の会話にかなり遠慮しがちで割って入ったのは、テルヨシの今回の対戦相手であるクロウだった。

 クロウはパイルの爽やかさとは違い、非常に物腰が低い声色で、実際に割って入った時も腰が低かったので、テルヨシはクロウがあまり人と会話するのが得意な部類ではないのかと予測して、パイルとの会話を1度切って、今度はクロウと向き合った。

 

「おお悪いね。はじめましてシルバー・クロウ。レガッタ・テイルこと皇照良だ。よろしく」

 

「は、はじめまして……って! そんないきなりリアルネームを!?」

 

 出会って早々、当然とばかりにテルヨシがリアルネーム含めた自己紹介をしてみれば、クロウはノリツッコミのような感じで慌てて返してくる。

 その様子にはて? と首を傾げたテルヨシは、確認するように黒雪姫の方に顔を向けると、黒雪姫は何かを思い出したのか、その剣の両手をシャン! と軽くぶつけて鳴らし、そういえばといった雰囲気を出した。

 

「すまない。まだテルのリアルの方を話していなかった。ではパイルのことも含めて改めて私が紹介しよう」

 

「パイルは転校生か何かだろ? 姫のレギオンへの加入時期からしても偶然じゃないだろうし」

 

「やはり勘付くか。パイルは確かに今日転校してきた1年生だよ。そして私の子のクロウも……」

 

「ああいいよ、姫。話なら現実の方で顔合わせてしようや。それより今は噂に聞く《白銀の鴉》の実力を見たい」

 

 黒雪姫がそうやってクロウやパイルのことを話そうとしたのを、テルヨシはビシッと止めてからそう言ってクロウをまっすぐに見ると、そのクロウはテルヨシにプレッシャーでも感じたのか、怖じけづくように1歩後退。

 

「そ、そそそんな! 僕、今回は挨拶だけのつもりで乱入したのに……それに僕より2つも上のレベルじゃ……」

 

「勝てないのか? おい姫。お前さんの子はレベルの差程度で闘志を無くすチキン野郎なのか?」

 

「クロウ……いや、ハルユキ君。ここにいるレガッタ・テイル。テルは、初めて私と相対した時、レベルは初期の1にもかかわらず、果敢に挑んできて、以降も負ける気など一切見せずに私に挑み続けている。依然として私の全勝だが、その目から闘志が消えたことは1度もない。テルのようになれとは言わない。しかし、テルのように敗北を恐れるな。そこにいるパイルも先ほどテルに玉砕覚悟で当たって完敗したと言っていたが、それでいいのだよ。そうやってみんな強くなっていくんだ」

 

「……先輩……」

 

「ここは敗北など恐れずに、1つ胸を借りるつもりでぶつかってみたまえ」

 

「そうだよハル! テイルさんとの対戦は得る物の方が多い。ポイントはいくつか失うかもだけど、それでも戦って損はないさ!」

 

 正確には1度だけ例外で勝ってるけどな。

 と、黒雪姫の言葉を訂正しようとしたが、水を差すのもあれなので黙り、クロウ……おそらくはリアルネームなのだろうハルユキが、続くようにパイルの言葉を受けてグッと拳をキツく握ったのをテルヨシは確認。

 その纏う雰囲気も先ほどとは違って、活力のようなものを感じさせた。

 

「テルヨシ先輩! よろしくお願いします!」

 

「テルでいいよ。ちなみにオレのこの頭の尻尾みたいの、自在に操れるから覚えとけ」

 

「え? そんな戦う前に教えてくれるなんて……」

 

「それじゃないと『フェアじゃない』んだよ。はいスタート!」

 

 クロウがやる気になったのを見て、改めて構えたテルヨシは、始める前に自分の情報をクロウへと教えてから開始の合図を出し駆け出す。

 その理由は、意図とはしないながらも、帰国してからの数週間でクロウの話題を聞かない日がなかったため、その能力についてもテルヨシの耳に届いてしまっていたのだ。

 彼が《白銀の鴉》と呼ばれる由縁となった、絶対的、唯一無二のアビリティの存在を。

 開始と同時にクロウへと迫ったテルヨシは、まずは挨拶とばかりに右ストレートを放つ。

 それを少し慌てながらもテルヨシの外側へ逃げるように避けたクロウは、カウンター気味に左拳を振るってくる。

 しかしある意味でこのパターンはテルヨシの誘いのようなもので、今までもここでカウンターを狙ってくる相手はたくさんいたが、テルヨシはそのほとんどをさらなるカウンターによってねじ伏せていた。

 クロウの左拳がテルヨシの空いたボディに当たる瞬間、そこへ割り込むようにして外装《テイル・ウィップ》がスルリと入って、クロウの拳を防ぐと、そのままクロウの左腕を絡め取って力一杯に前方へと投げ飛ばした。

 投げ飛ばされて2度地面をバウンドしたクロウは、そこで体勢を立て直して両足で地面を捉えて止まるが、前を向いた時にはすでにテルヨシが至近距離にまで来てその右足を振るっていたため、クロウも咄嗟に両腕でその蹴りを受け止めてダメージを最小に留めるが、勢いに押されてバランスを崩す。

 そこにテルヨシはすかさず左足の回し蹴りで追い打ちをかけて真横に吹き飛ばした。

 

「ハル!」

 

 それを見ていたパイルが思わず声をあげると、その声に反応したのか、クロウは地面に1度転がるものの、テルヨシに隙を突かせない見事なリカバリーで立ち上がって構えてみせた。

 しかしHPゲージの減りはなかなかのもので、今の攻撃だけで3割ほどが削れていたが、その代わりに必殺技ゲージは6割近く溜まっていた。

 テルヨシもノーダメージで必殺技ゲージを4割ほど溜めることに成功。

 

「凄いですテル先輩! 反応できても押し切られるなんて思いませんでした」

 

「蹴りはそんじょそこらのアバターより強力だからな。パンチはへなちょこなんだけどよ」

 

 1度距離が開いたことにより、クロウがそうやって言葉をかけると、テルヨシも返しつつ右手をヒラヒラと動かして皮肉そうに腕力のなさをアピールする。

 テルヨシのアバターは下半身こそ他のアバターより強固で強力だが、それ以外の部分は並み程度。

 青系としては柔らかい部類に入るため、テルヨシも対戦ではパンチはほぼ使わない。

 先ほどのパンチもたとえ当たってもダメージなど毛ほども期待していなかった。

 しかしクロウもその外見通り、テルヨシと同じような小回りの効くスピードタイプのアバターのようで、初見のテルヨシの猛攻に対しても直撃は1度もなかったという健闘を見せ、テルヨシもそのセンスには少し驚いていた。

 だが同時に黒雪姫が選んだ子ならこのくらいは当然かと、妙なところで納得もしていた。

 

「ですが、テル先輩が完全な近接型なら、僕にもまだ勝機はある!」

 

 そうしてクロウの実力を分析していたテルヨシに対して、クロウは自信を持った声色でそう言い放ってから、両腕を胸の前でクロスさせてグッと背中を広げる動作を見せる。

 するとクロウの背中からブワッ! と、金属の装甲が羽のように左右へ広がり、形を形成すると、そこには美しいとさえ思える銀色の翼が現れ、クロウはそこから翼を動かして一気に空へと飛んでしまった。

 これが加速世界で初めて発現した、シルバー・クロウしか持ち得ない、唯一の《飛行アビリティ》。

 今までに《カーマイン・ボンバー》ことバーちゃんなど、擬似的な飛行を可能にしたアバターはいくらか存在していたが、こうして完全な制動制御を可能にして飛行したアバターは存在しなかった。

 そんな完全飛行アビリティを噂には聞いていたテルヨシも、自分の目で見て思わず「おー!」などと言いながら、遥か上空へ行ってしまったクロウを見上げた。

 

「さーて、本領発揮となったところで、どうくる?」

 

 初めての飛行アビリティを見たテルヨシは、感動もすぐに終えて頭を切り替えると、遥か上空で滞空するクロウがこれから仕掛けてくるのを待ち構える。

 HPゲージの現状ではクロウはテルヨシより少なくなっている。そうなるといかに空へと行動範囲を広げたところで、仕掛けないことには勝てはしない。

 テルヨシもテルヨシで射撃能力がないので、今の状態ではクロウが仕掛けてくるまで何もできず、しかし逃げ回るなどという選択は最初からないため、どんな攻撃が来てもいいように集中力を高めていた。

 そんな万全の状態のテルヨシに対して、クロウは意を決したように翼を動かしてくるりと空中で勢いをつけるように回ると、一直線にテルヨシへ向けて突進してきた。

 その速度はテルヨシの必殺技《インビジブル・ステップ》を越えるもので、クロウはその速度から右足を突き出したダイブキックでテルヨシを狙っていた。

 

「いっけぇぇえええええ!!」

 

 目前まで迫ったクロウが、そうした叫びを上げていることなど気に留める間もなく、テルヨシはクロウと激突し激しい砂埃が舞い上がり、その中からクロウが飛び出てまた空へと上がり砂埃を見下ろした。

 

「手応えはあった」

 

 滞空するクロウは、手応えのあったことを確認するように視界上のHPゲージを確認しようとした。

 しかし、

 

「うへぇ、あんなのオレの足でも下手したらもげるっての」

 

 そんなテルヨシの声がクロウのすぐ近くからして、クロウは慌てて周囲を見回すと、そこでやっと自分の重量が普段より重いことに気付き下を見れば、テルヨシはテイル・ウィップをクロウの右足に巻き付けてぶら下がった状態でクロウを見上げていた。

 

「な!? いつの間に!?」

 

「激突して交錯した時にひょいっとね。結構シビアなタイミングで五分五分だったけどな」

 

 テルヨシは激突の時に地面へと押し付けたテイル・ウィップを支えにクロウの右足に右足をぶつけて威力を殺し、交錯した時にすかさずテイル・ウィップをクロウの右足へと巻き付けていた。

 それでもダメージとして2割弱は削られて、衝撃で全身に軽く痺れが残っていたりもしたが、クロウ渾身のダイブキックをこの程度で抑えられたのは、テルヨシの実力である。

 クロウもまさかあの激突の中でテルヨシにくっつかれるなどと予想していなかったのか、非常に驚いた声を出したが、不意に何か思い付いたのか、テルヨシをぶら下げたまま飛行を再開していき、その行き先は校舎だった建物のオブジェクト。

 

「いやぁ、優雅に空中遊泳できる日が来るとは思わなかったねぇ」

 

「悪いですけどテル先輩! その空中遊泳もこれで終わりですよ!」

 

 建物のオブジェクトが目の前に迫っているのに、呑気にそんなことを言っているテルヨシは、別にクロウのやろうとしてることがわかってないわけではなく、むしろわかってる上で対応できるという余裕から出た言葉であった。

 クロウはオブジェクトに激突する直前でその動きにブレーキをかけて、それと同時にテルヨシの巻き付く右足をオブジェクトへと振るってテルヨシだけをオブジェクトへぶつけようとした。

 しかし振るわれた右足から先へとテルヨシが飛ぶことはなく、クロウも「えっ?」と思わず声を上げて右足を見ると、まだ確かにテイル・ウィップは巻き付いていた。

 ――ガゴォオオン!!

 そんなクロウは、次の瞬間には目の前の建物オブジェクトへその顔を勢いよくぶつけて、完全に思考が停止。意識も手離しかけて飛行の制御もおぼつかなくなった。

 テルヨシはクロウが右足を振るった瞬間に、テイル・ウィップで体を後ろへと持っていき、制止したクロウの背中へ働いていた運動エネルギーの全てを以て蹴りを放っていた。

 その威力は先ほどのクロウのダイブキックほどではないが相当のもので、無警戒だったクロウに与えたダメージは4割。オブジェクトへの激突によってさらに1割を削ってみせた。

 残り2割程度のHPになったクロウはそれで硬直し、フッと地面へと落ち始め、その背中を踏み台に軽く跳躍したテルヨシは、足を上へと持っていき、とどめとばかりに必殺技を発動。

 

「《インパクト・ジャンプ》」

 

 アビリティ《インスタント・ステップ》によって真下へと発動したハイジャンプから放たれた渾身の蹴りは、落ちていくクロウを正確に捉えて炸裂し、それによってクロウは完全にHPゲージが吹き飛び、さらに地面に激突するオーバーキルまで受けた。

 その近くにテイル・ウィップを器用に使って着地したテルヨシは、死亡マーカーが浮かぶ地点で言葉を交わせないクロウへと言葉をかけた。

 

「良い勝負だった。敗因はお前がこのテイル・ウィップを真の意味で理解してなかったことだ。次はもっと良い対戦にしようぜ」

 

 そこでちょうど対戦時間の1800秒が経ち、テルヨシ達は現実世界へと戻されていき、現実へと戻ったテルヨシは途端、押し寄せてきたクラスメート達に囲まれて、対戦の余韻になど浸る暇もなく、朝の話の続きが始まっていった。

 それからようやくクラスメート達から解放されて、昼休みに黒雪姫と一緒に屋上へと赴いたテルヨシは、そこでクロウとパイルとの対面を果たす。

 

「先ほどはありがとうございました。色々と新しい経験が積めて、とても勉強になりました」

 

 屋上での対面を果たして、まず最初に口を開いたのは、先ほどテルヨシと対戦したシルバー・クロウこと有田春雪(アリタハルユキ)

 加速世界での姿とは打って変わって低身長の小太りな少年で、どこか自分に対する自信というものに欠けた雰囲気を持っていたことを初見で感じたテルヨシだが、そこは性格なので内に秘めたまま軽い感じで返して握手を交わした。

 

「マスターから話を聞いた時はひっくり返りそうになりましたけど、これからよろしくお願いします」

 

 次いで口を開いたのは、シアン・パイルこと黛拓武(マユズミタクム)

 こちらはハルユキとは正反対に高身長で痩せ型の好青年を思わせるルックス。

 ニューロリンカーによって視力補正ができるこのご時世には珍しい度の入った眼鏡もかけていたが、それも知的さを増している。

 そのタクムとも軽く会話しながらに握手を交わすと、それを見た黒雪姫がさて、と場を整えると、テルヨシ達を見て話を始めた。

 

「お互いに自己紹介も済んだところで、何から話したものか。テル、何を聞きたい?」

 

「とりま、ネガビュ復活に至るまでの話を。簡潔にでいいからさ」

 

 それを受けて黒雪姫は、ふむとひとつ考えると、立ち話もなんだからと備え付けのベンチへと移動して座り、かいつまんだ話をテルヨシにしていった。

 事の起こりは夏休みの明けた日。

 ここにいるタクムが梅郷中学校に通っていた生徒の1人にバックドアというニューロリンカーの見る映像を盗み見れるウィルスプログラムを仕込んで、梅郷中学校にいないにもかかわらず、さらに自らがマッチングリストに載らず、黒雪姫に対戦を仕掛けるという事態が発生。

 その時テルヨシとの対戦ができないからと、デュエルアバターの姿を学内アバターである黒揚羽蝶のダミーアバターで流用していた黒雪姫がそのリアルを割られてしまったことにより、当時現実で得をするためにポイントが枯渇しかけていたタクムにポイント目的で狙われ続ける日々を送ったという。

 当時賞金首として潜伏していた黒雪姫は、これを迎撃してしまえば六王に情報を漏らされてしまうために強行策も取れず、タクムのリアルを割るためにハルユキを見出し子にした。

 その方法は対戦開始から現れるガイドカーソルで出現地点を特定。

 黒雪姫とハルユキのガイドカーソルが交差する地点にいる人物を見つけ出すというものだったが、その策が使われる前に黒雪姫が件の車に轢かれる事故が発生。

 その時一緒にいたハルユキを車から救うために、レベル9以上に許された、肉体の動きを100倍にする物理加速コマンド《フィジカル・フルバースト》を使った黒雪姫は、自らが車に轢かれ、代償の所有ポイント99%を失ったまま病院の院内ネットに昏睡状態で繋がれてしまい、そこを襲撃したタクムをハルユキが飛行アビリティを開花させて迎撃。

 そのあと覚醒した黒雪姫が、観戦していたギャラリー達を前に自らとレギオン《ネガ・ネビュラス》の復活を宣言。

 リアルでも幼馴染みだというハルユキとタクムがレギオンへと加入して今に至るとのことだった。

 そんな話を10分ほどで聞いたテルヨシは、3人の顔をうかがいながら、色々な想いを読み取るが、あえて口にはせずにここまでの話に理解を示した。

 

「話はこれでわかってもらえたかな。さて、それでは本題だ。ご覧の通り、現在の私のレギオンはわずか3人の極小レギオン。しかし我々は他の6王が定めた不可侵条約などという下らない影響を受けないレギオン。これは当初から思っていて、ハルユキ君とタクム君とも話をした結果だが、テルが良ければ、私のレギオンへ入ってはくれないか?」

 

 話し終えてからベンチから立ち上がり、テルヨシの正面に移動した黒雪姫は、唐突に、しかし当然の流れでテルヨシをレギオンへと誘ってきたのだった。

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