昼休みの会議から数時間後の放課後。
現在テルヨシは黒雪姫とハルユキと一緒に、赤の王がいるハルユキ宅へと向かっていて、仲良さげであり、互いに恥じらうような微妙な距離感の2人の少し後ろを歩きながら、この後のことを考えていた。
昼休みの会議でテルヨシは赤の王との会合に同行したいと黒雪姫に提案していたが、それは当然《リアル割れ》を避けるべきという至極当然の判断で1度は却下された。
しかしテルヨシはそうくるだろうことは読めていたので、赤の王にメールを打っていたハルユキに追記として「《蒼き閃光》も行く」と知らせてほしいと言い、メールを送ってわずか十数秒で返ってきたメールに「了解。だがそいつは連れてくるな。連れてきたらぶっ殺す」とあり、文面そのままを伝えられたテルヨシは予想通りのリアクションに苦笑。
黒雪姫達、黒のレギオンのメンバーはそのことに首を傾げつつも「何の問題はない」と言うテルヨシの言葉に押されて、結局同行を許可したのだった。
そうして高円寺駅近くの高層マンションへと辿り着いたテルヨシ達は、そこの23階にあるハルユキの自宅前まで移動して中へと通される。
「うおりゃー! 死にさらせー!」
途端、部屋のリビングの方からテルヨシが聞き慣れた女の子の下品な声が聞こえてきて、他にも英語でヘルプミーだのの悲鳴や機銃の連射音が続き、それを聞いたハルユキはその体に似つかわしくない俊敏な動きでリビングへと走り込んでいき、テルヨシと黒雪姫もそれに続くようにリビングへと足を運んでいった。
そこでは壁のパネルモニタに接続された前時代のゲームハードと、Z指定のゲームが散乱した中でコントローラを握るユニコが我が物顔で入り浸っていた。
「あ、おっかえりー。お兄ちゃんいい趣味してるねー。あたしこういうの大好き!」
ゲームに夢中だったユニコは、リビングに入ってきたハルユキに気付いて、可愛い方の性格で出迎えると、ハルユキはこの光景に硬直。
リビングの入り口で固まられてしまったために中へと入れなかったテルヨシと黒雪姫だが、黒雪姫はひょいっと脇から顔を覗かせて中の様子をうかがいつつ、洋ゲーは嫌いではないと感想を漏らした。
そしてユニコはハルユキの後ろにいた黒雪姫を視界に捉えると、その顔つきを真剣なものへと変えてコントローラを放り黒雪姫と真正面から相対すが、どちらも激しい火花を散らして威風堂々といった物腰で睨み合った。
「ふぅん、アンタが《黒の王》か。なるほどこりゃあ黒いや。夜だったら目の前にいても見えねーな」
「そういう貴様も実に赤いぞ《赤の王》。交差点にぶら下げたら車が止まって面白そうだ」
「い、いやぁー、カワイイ妹と綺麗なお姉さんがいっぺんにできて幸せだなぁー」
リアルでの王同士の会話など相当レアな光景なので、テルヨシは歴史的な場面に立ち会ったことへの少々の感動を覚えたが、ハルユキに至っては完全に2人の威圧感に腰が引けてしまって、バチバチと火花を散らす2人に変なことを言い出す。
そんな2人の睨み合いも長く続くのはさすがに嫌だったテルヨシは、バイトもあるので早めに事を済ませようとようやくリビングに顔を出してその姿をユニコの前に晒すと、それを見たユニコは途端に黒雪姫との睨み合いを中断してズザザザっ! と窓際まで後退したかと思うと、すぐに切り返して全速力からのドロップキックをテルヨシへと放った。
「テメーは来んなって言っただろーがああ!!」
「ぶべら!!」
ユニコのドロップキックを避けられなかった――そもそも杖の支えなしでは歩けないため動きが鈍い――テルヨシは、そのままリビングから廊下へと吹き飛ばされてしまったのだった。
「なんだ。やはりお前達は直接の面識があったのか」
「けっ! こっちは知り合いたくて知り合ったわけじゃねーっての」
吹き飛ばされたテルヨシを冷静に見送りつつ、口をパクパクさせるハルユキを横目に黒雪姫は鼻息の荒いユニコへとそんな質問をぶつければ、ユニコはビシッ! と中指だけ立てたサインをテルヨシに送りつつ返答。
「しばらく会わないうちにパワフルさが増しちゃって。そしてその指をやめなさい。お兄ちゃん悲しい……」
「おい、ちょっと待ってろ黒の王。アイツと話つけてくっからよ」
「そういきり立たずとも、テルならすぐにバイトへ行くから、無視しても構わないぞ」
どうにもユニコにとっての頭痛の原因となってしまったらしいテルヨシは、そこでリビングの扉を閉めて廊下で対面したユニコに体を起こして表情をうかがう。
「……テル、お前あたしと知り合う前からあの黒いのと知り合いだったろ。おんなじ学校にいながら、今まであたしらに悟られることもなく1年以上も過ごしてたとは思わなかったよ」
「ハルユキ君の『お姉さん発言』からの確信か。実は黒の王とは入学した頃から学校でほぼ毎日対戦してるんだよね。黙ってたのは察してくれるだろう? それでうちの学校……というより杉並の中学校に体験入学とかで直接乗り込んでマッチングリストでも見たのかな? ずいぶん強引なソーシャル・エンジニアリングだけど、そこまでしてもチェリーを止めたかった?」
「もうこっちの事情は知ってるってわけか。そうだよ。あたしはレギマスとしてけじめをつけなきゃなんねー。それで化けモンみてぇな機動力を持つクロム・ディザスターに対抗するため、あの鴉の《飛行アビリティ》が必要だった。それだけだ」
「…………それでもさ、何でオレを頼んなかった。オレはそっちの方に不満があるんだ。ここに来た用はその理由が聞きたいだけ」
「…………知られたくなかったんだよ。レギメンと仲良かったテルにクロム・ディザスターの……チェリーの討伐を手伝わせるなんて、させたくなかった。それにこれはレギオンの問題だ。プロミのメンバーでもないテルに頼んのは、本当に最後の手段ってことにしたかった……」
俯き気味にそうやって本音を話したユニコは、すとんとその膝を折って崩れた正座で床に座ると、涙を堪えているのかテルヨシに顔を見せないようにしていた。
それを聞いたテルヨシは、俯くユニコに這うように近付いて同じような態勢で正面に座ると、優しくその頭を撫でてやった。
「そっか、オレに気を遣ってくれたのか。ありがとな、ニコたん」
「…………うっせ。ほら、これで用は済んだろ。さっさとバイトに行けよ。パドに怒られんぞ」
どうにも感謝されることには慣れていないユニコは、子供扱いしているようなテルヨシの手をバシッと叩いてどかすと、いつもの調子に戻って立ち上がり、リビングへの扉に向き直ったので、テルヨシも立ち上がって玄関へとその向きを変えてバイトへ行くことにした。
「チェリーの件、知ったからってお前は何もすんな。これはお前が背負うべきもんじゃない。約束してくれ」
「…………女の子に泣いて頼まれたら断れないよなぁ。約束するよ、ニ・コ・たんっ」
「がああ!! ニコたん言うなクソがぁあ!」
それでまたドロップキックでもしてきそうだったユニコから逃げるように玄関を出たテルヨシは、ドアを閉めてからその背をドアに預けて少し沈黙。
「…………ホント、優しいニコたん……だからこそお前はオレが、オレ『達』が守ってやる。必ず」
ハルユキ宅のあるマンションを出て、なんとかバイトに間に合って作業を開始したテルヨシは、数時間後の休憩時間を珍しく休憩室で過ごしていて、これまた珍しくグローバルネットへと接続してとある人物とボイスコールを繋いでいた。
『昨日で頼れる人物へのコンタクトは全て済ませたが、了承したのは主とあと1人だけじゃった』
「そっか。まぁ仕方ないさ。言ってみればボランティアみたいなもんだし、好き好んで黄のレギオンといざこざ起こそうってやつこそ普通じゃない」
『主、自分で自分を稀有な分類と言うておるようにしか聞こえんの。儂は了承してくれたこと自体に感謝せねばならんから、主をどうこう言うのもあれじゃが』
「これを機会に惚れてくれても一向にオッケーですが、どうでしょう?」
『どうかの。女と見れば誰彼構わずそのようなことを言う主に惚れる者もそうおらん気もするが、その優しさが今はありがたいとも思う』
ボイスコールの相手、バーちゃんはとことんいつも通りなテルヨシに呆れ気味な声色でそんなことを言ってから、話が逸れかけていたのを正してまた話を再開する。
『作戦の決行は明日の夕方頃となりそうじゃ。レインのダイブのタイミングはミャアが知らせるという話じゃから、儂らもミャアからの知らせでダイブする。具体的な時間を決定できんから、その時間帯を空けていてくれると助かる』
「んで、ダイブ後はすぐに桜台駅に向かって全員集まってから目的地に出発。そこで黄のレギオンを見つけたら、オレともう1人でどうにか足止めなりなんなりをして、その隙にバーちゃんがレインを安全圏に誘導、と。それでクロム・ディザスターを……チェリーを断罪出来れば、事は丸く収まるわけだ」
『うむ、それが最良。じゃが実際には黄のレギオンの待ち伏せ自体ないかもしれんし、儂らより先にレインが待ち伏せに遭ってしまう可能性も十分に有り得る。そうなっても「レインを助け、穏便に済ませる手段」は用意しておるが、主はその時には何もせんでくれ。約束できるかの?』
確認の意味が強い今の話の中で、テルヨシはバーちゃんの言い方にほんの少しだけ引っ掛かるところがあった。
しかし今回、バーちゃんがどんな想いでこの作戦に臨んでいるかを察すると、必死になるのも仕方ないのかと納得もしていた。
今回の話の大方の流れはこうなる。
まずチェリーは《災禍の鎧》を誰かから譲り受けそれを装備。その後鎧によってその人格を変貌され、無差別な狩りを開始し6大レギオンの相互不可侵条約に違反する。
《クロム・ディザスター》と化した《チェリー・ルーク》によってポイント全損者を出した黄のレギオンは、その条約によって『赤のレギオンのメンバーの内、誰でもポイント全損にしても良い』というルールが適応され、それを口実に適応されたルールを取り消すためにチェリー討伐に向かう《スカーレット・レイン》を無制限中立フィールドで待ち伏せして合法的に討ち取るという信憑性は低いながらも《カーマイン・ボンバー》がその怪しい動きを察知。その一連の流れを阻止するために今に至っている。
騒動の内容がどうあれ、これがもたらす最悪の結果が『赤の王の退場』である以上、それによって赤のレギオン《プロミネンス》は2度目の解散を迎えてしまう。
初代赤の王《レッド・ライダー》の退場によってですら、レギオンメンバーのくら替えや放浪が少なくなかったのに、また解散となれば今度こそプロミは6大レギオンを名乗れないほどに弱体化する。
何よりも『レギオンマスターの2度の退場』は、バーちゃんにとって精神的に耐え難い結末なのは、本人に聞くまでもないほど考えるに容易い。
そうした心中を察すると、テルヨシも若干らしさを無くしてしまう程度は仕方ないと思いつつ、どこか焦りが見えたりしたら自分がフォローしようと考え至って、問いかけに対する返答をした。
「約束しなきゃ連れていかないって言うんでしょ? オレとしてはそっちの方が困るからな」
『わがままを言うておる自覚はある。しかしの、儂はもう2度とレギオンがバラバラになるのは耐えられんのじゃ。レインも本当であればもっとゆっくりと階段を登るべきであったが、それだけゴタゴタしたのだと察してくれ』
「ああそっか。レインって確かプロミの解散時はレベル3とかそんくらいだったんだっけ。それで一気にレベル9まで行ってプロミ復興までに半年かかってないなら、どんだけ大変だったかはわかるよ。だからオレもプロミのためにできることはしてあげたい。バーちゃんの泣き顔も見たくないしな」
そんなテルヨシの言葉に少しだけ沈黙したバーちゃんは、小さな声で「すまんの」と返事をしてから、確認すべき事は終えたとボイスコールを切ってしまい、テルヨシも誰かに乱入される前にグローバル接続を切ってからバイトへと戻ろうとしたが、休憩室を出る直前で『もう1人の協力者』について聞いてなかったことを思い出して少し気になったが、なんとなくバーちゃんの信頼する人物に心当たりがあったので、当日にでも改めて聞こうと考え至ってから休憩室を出ていったのだった。
「てなわけで明日はバイト休んでもK?」
「ダメ」
そんなわけで明日の夕方の時間帯を空けるためにオーナーであるパドにバイトを休む旨を伝えてみたら、なんとも空気を読んでくれないオーナーの返答に顎が外れかける。
「……え? マジで?」
「あっちの事でリアルの都合を変更するのは感心しない。それにテルは半年近くもバイトを休んで職場に負担をかけた。埋め合わせは必要」
「ぬぐ……じゃ、じゃあ、1ヶ月! 土日返上で労働に勤しみますから、それで手を打ちませんか?」
「K。約束した」
パドの言うことは凄く正論すぎてぐうの音も出なかったテルヨシだったが、ここで退くわけにはいかないと身を削る思いで1ヶ月間、土日もフル稼働することを提案すると、パドはその言葉を待っていたかのように即了承。
土日の領土戦とバトロワ祭りに参加することを蹴ってまで出した提案だったのに、了承を得てから上手いように交渉を誘導されたことに気付いたテルヨシはそこで床に座り込んで明らかな落胆のポーズをしてしまう。
「…………謀ったな、美早ん」
「その呼び方やめて」
パドの思惑に嵌まりつつも、無事にバイトの休みを取れたテルヨシは、翌日の25日金曜日にいつも通り登校していた。
テルヨシは新学期に入ってから、自分の登校にかかる時間を毎日データとして取りながら、遅刻ギリギリに合わせて少しずつその時間を縮めていっている。
そのせいで新学期に入ってすでに2度も遅刻して教師にやめるように注意されていたりするのだが、テルヨシは自分の足で歩くことが何より嬉しかったし、早く杖なしで歩けるようになりたいという思いから聞く耳を持っていなかった。
そうして登校から奮闘していたテルヨシの後ろから、1人の女子生徒が駆けてきてテルヨシをいとも簡単に追い抜いていく。
しかし女子生徒は何を思ったのか急に走るのをやめてクルリと反転しテルヨシへと向き直り、まっすぐにテルヨシを見つめた。
女子生徒はテルヨシと同じ梅郷中学校の生徒で、制服のリボンの色から1年生だとわかる。
髪は栗色のショートカット。前髪を右に流してピンで留め、左の頭には大きな猫の顔の髪飾りを付けていて、容姿はなんとなく猫科を思わせる活発そうな印象を受けた。
テルヨシは彼女を知っていた。
彼女はテルヨシ不在の間に起こった黒雪姫襲撃事件において《シアン・パイル》こと黛拓武にバックドア・プログラムを仕掛けられた張本人であり、ハルユキとタクムの幼馴染みで、タクムとは恋人同士、だったというのが黒雪姫達から聞いた話で、その件の後で彼女がブレイン・バーストの存在を知らされていたとも。
しかしながら話にだけ聞いて、直接的な関係が1度もなかったテルヨシは、このタイミングで自分に対して明確な視線をぶつけてきた彼女に疑問しか出てこなくて首を傾げる。
「あの! 皇先輩もその、黒雪姫先輩と同じゲームをやってるんですよね?」
「あれ? オレって君に自己紹介したっけ?」
「あ! すみません! 先輩の事は友達との会話で何度か話題になってたりしたので。あたし、倉嶋千百合って言います」
「知ってるよん。チユちゃんだよね。ハルユキ君がそう呼んでたし、タクム君はチーちゃんって呼んでたけど、どっちの方が呼ばれて嬉しい?」
「あ、それは先輩のご自由に。それでどうなんでしょうか」
「うーん、まぁそうだねぇ……じゃあ新たに《チユチユ》なんてどう?」
「……あの先輩。あたし、結構本気なんですけど!」
「オレもかなり本気で提案している。あ、ちなみにオレの事はテルでいいよ。チーユチユッ」
初対面でいきなり本題から入ろうとしたチユリに対して、テルヨシは相変わらずのマイペースによってチユリの調子を崩しつつ、進展しない話にうなだれた様子を笑ってから、ようやく真面目に取り合う。
「チユチユはもう知ってるんだっけね。あのゲームのこと。だとしたら答えはYES。でもそうだとしても、オレにコンタクトを取る必要を感じないんだけど」
「……あたし、ハル達とは幼馴染みで、それなのにハルもタッくんも今やってるゲームに夢中で、あたしだけなんだか仲間外れにされてる気がして、さっきあたしもそのゲームをやるって言ったら、無理って言われたんです。それはもうムカつくくらいの即答で」
そう話したチユリは、先程あったという出来事を思い出したのか、途端に右の拳を固く握ってワナワナし出して、ちょっと女子にしてははしたなく地面をガンガン踏みつけた。
「それでその、先輩ならそんな頭ごなしに無理なんて言わないで、協力してくれるのかなって思って。そのゲームをインストールするのに適性が必要なのは聞いてます。インストールできるように努力もしますから、協力してくれませんか?」
「いやぁ……どうだろうね。オレも適性に関しては絶対大丈夫なんて無責任なことは言えないし、だからといってチユチユのことをよく知らないから、可能性を見出だす段階にもいないわけで……」
と、チユリの懇願するような言葉に歯切れの悪い返事をしていると、チユリはみるみるうちにその顔を悲しい表情へと変えてしまい、そういった『女の悲しむ顔』がすこぶる苦手なテルヨシは、大きなため息をひとつ吐いてから話を続けた。
「……でもまぁ、これから仲良くしていくうちにチユチユのこともわかるだろうし、悲観的になることもないさ。とりあえずは交友を深めていこうか。焦っても仕方ないし、協力するしないはその後でも遅くないよ」
「あ、ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね、テル先輩!」
結局いつもの良いとも悪いとも言えない癖が出たテルヨシは、チユリに助力する方向で話を進め、それを聞いたチユリは笑顔でお礼を言ってお辞儀をしてからテルヨシに背を向けて走って行ってしまった。
その後、足を止めていた時間が仇となり、学校を目の前にして走ってきた黒雪姫、ハルユキ、タクムに追い抜かれて――黒雪姫は昨夜ユニコと一緒にハルユキの家に泊まったらしい――見事に遅刻。
朝から残念な結果にうなだれてしまったが、今日はいつまでもうなだれているわけにもいかないため、放課後になった頃には、いそいそと帰り仕度をして教室を出ていった黒雪姫を見届けつつ、彼女達に遅れを取らないために全速――歩きだが――で帰宅して、グローバルネットに接続。
いつ来るやもしれないバーちゃんからのダイブ時間を知らせるメールの到着を待った。
そしてその時はやって来た。
テルヨシの視界に新着メールのアイコンが出現し、少し緊張しながらそのアイコンにタッチし内容を見れば、至ってシンプルで必要最低限の文章だけがそこに記されていた。
――17時5分にダイブせよ――
たったそれだけの文章ではあったが、現在時刻である17時4分25秒を回っているのを確認したテルヨシは、本当にすぐだなと思いつつ、これから自分達が行なう事を頭の中で反復させながら、残り10秒を切ったところで《上》へと誘う加速コマンドを頭に浮かべて、高鳴る鼓動を感じつつ、タイムカウントゼロでそのコマンドを発した。
「《アンリミテッド・バースト》」