アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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 黄のレギオンとの戦闘、そこに突如として現れた《クロム・ディザスター》との連戦。

 それによって大小違いはあれど、ダメージを受けつつディザスターをあと1歩で倒せるところまで追い詰めたテルヨシ達だったが、まともに動けるはずもなかったディザスターが、突然あり得ない機動で空を舞って離脱を開始。

 《飛行》アビリティかと疑うその挙動に《シルバー・クロウ》と《スカーレット・レイン》が各々飛行だ超長距離ジャンプだと漏らす中、テルヨシはそれが《チェリー・ルーク》の持つアビリティ《ワイヤー・フック》だと断言した。

 それは先刻、黄のレギオンの1人がそのワイヤーによってたぐり寄せられて喰われたのと、我を忘れかけながらにディザスターへと立ち向かったテルヨシが、その手首から放たれたワイヤーを引っかけられそうになって、それら3つの動作が見事に一致したことによって確信できたことだった。

 

「あり得ねぇ! チェリーのアビリティは鎧を纏ってる今の重量で移動はできねーんだよ!」

 

「レイン、今はできるできないを言ってる場合じゃない。ここで逃がせば面倒なことになるのは目に見えてる」

 

 そんなテルヨシの言葉に否定的な言葉を返したユニコだったが、ここでそれを論じている場合じゃないことを指摘しつつ、逃げた方角からおそらくはサンシャインシティのリーブポイントへと向かったディザスターをどうするか考える。

 

「……クロウ、行けるな?」

 

「はい、オレもそれしかないと考えました。オレがディザスターを押さえます」

 

「んじゃレインはオレが運ぶから、頼むな。追いつけたらフォローはする」

 

 そこで導かれたのは、現状で最高速を出せるハルユキにディザスターを押さえてもらうこと。

 テルヨシの足で出せる最高速でも、人間が出せる限界を少し突破した程度――100メートルを8秒で走れるくらい――のもので、必殺技《インビジブル・ステップ》を用いたとしても、たとえ時速360キロを出せても、進める距離は500メートルが関の山。逃げるディザスターに追いつくには足りない。

 ハルユキもそれしかないと思っていたらしく、テルヨシとそんな短い会話をしたあと、すぐにその背中の翼を広げて目一杯のエネルギーを爆発させて、遠退いていくディザスターを追いかけ始めた。

 

「ではお姫様、次はちゃんと撃ってくださいよ」

 

「ったりめぇだ……っておい!?」

 

 ハルユキを見送ってすぐ、テルヨシはグズグズもしてられないとユニコにそう言ってから断りも入れずにお姫様だっこすると、もう小さくなっているディザスターとハルユキを追いかけるため走り出そうとする。

 

「儂も、連れていってくれんか?」

 

 そこへテルヨシに近寄って声をかけてきたのは、チェリーの親である《カーマイン・ボンバー》ことバーちゃん。

 満身創痍。あと一撃でも攻撃を食らえば、そのHPが尽きてしまうほどにまで消耗してるはずのバーちゃんを連れていくのはどうかと考えるテルヨシだったが、何もバーちゃんは戦うと言ってるわけではなかったので、その行動の意図を察して、ほんの少しの思考のあとに外装《テイル・ウィップ》をバーちゃんの腰に巻き付けてフワリと持ち上げると、加速をつけるために残りの必殺技ゲージを消費して《インパクト・ジャンプ》を発動し追走を開始。

 自慢の足で出せる限りのスピードを出していった。

 

「レイン、すまんかったの。本来であれば儂が何とかするべきじゃったのに」

 

「いや、バーちゃんはよくやってくれた。あたしがもう少し、あいつのことを気にかけてさえいれば……」

 

 移動の最中、テルヨシに持ち運ばれているユニコとバーちゃんがそんな会話を始めるので、それを聞いていたテルヨシは大きな大きなため息を吐いてみせた。

 それには2人とも「何だ」といった雰囲気でテルヨシをキロッと見る。

 

「2人とも自分が自分がーって。誰も何を責めてるわけでもないのに、自虐的で困っちゃうね。バーちゃんもさっき反省会したろ? 悪くはない。ただみんな弱ったんだよ。重要なのはそこからほんの少しでも強くなれるかなんだって」

 

「うむ、わかっておる。ただレインにはこれだけ言っておきたかったのじゃ。《断罪の一撃》を撃ってチェリーを解放してやれるのは、レインしかおらんからの」

 

「ああ。バーちゃんにも、あいつの最期は見届けてやってほしい。親として、子の最期を」

 

 テルヨシのそんな言葉によってかは知らないが、2人の会話はそれで終了。

 チェリーの処分に覚悟は決まったと伝えてくる2人の雰囲気を、テルヨシは少しだけ辛く思いながらも、ひと際高い建造物。

 おそらくはサンシャインシティであろうその中腹辺りにハルユキとディザスターの姿を目視したテルヨシは、そこから急降下していった2人を目で追うと、その真下付近から巻き上がった土煙。

 そこを到達点として定めて、残りの力を振り絞った。

 巻き上がっていた土煙を目前に捉えて、その中心にボロボロの状態で動けずにいたハルユキとディザスターを確認したところで、ふとその足を止めたテルヨシは、そこでユニコとバーちゃんを降ろして近くにドサッと腰を下ろす。

 

「行ってきなよ。3人の大切な時間を邪魔するほど野暮じゃないって」

 

 こういう時にはしっかり気配りをするテルヨシに、互いに顔を見合わせてしまったユニコとバーちゃん。

 その厚意に甘えるようにして並んで歩き出した2人の背中を、テルヨシはしっかりと見届けて、もう見られていないことを悟ると、実はもう限界など完全に突破していた体を投げ出して大の字に倒れてしまった。

 テルヨシ自身、これからもう2度とこの世界で会えなくなるチェリーに言いたいことは山ほどあった。

 しかしそれはユニコとバーちゃん。チェリーの親と子である2人と並んでまで言うものでもなかった。

 本当に伝えたい言葉は、きっとあの2人が伝えてくれる。

 そう思ったからこそ、テルヨシは是が非でもあの場へと赴こうとは思わなかった。

 なにより、女の涙を見るのはテルヨシにはできなかったのだ。

 それから数分後、テルヨシの視界に天へと登っていく綺麗な光の粒子が入り込んできて、それがチェリーを構成していたものであることを直感で悟ると、その光を見ながらに、これまで長く親しく付き合ってきた友に、最期の言葉を贈った。

 

「じゃあな、チェリー」

 

 チェリーが消えてどのくらいが経ったか。

 テルヨシを心配して戻ってきたバーちゃんに慌てて体を起こしたテルヨシは、そのまましばらく何を話すわけでもなくバーちゃんと一緒に隣り合って座って時間を使っていると、遅れてやって来た黒雪姫達と合流してそのままみんなで別の場所で休んでいたハルユキとユニコと合流。

 そこでようやくひと息つける。全員がそう思っていた。

 

「待ちなさい、ロータス」

 

 しかし、皆が安堵しかけたそのタイミングで口を開いたのは《エピナール・ガスト》。

 ガストはボロボロの体を《シアン・パイル》に支えられて立つ《ブラック・ロータス》にそう言って振り向かせ、正面から相対する。

 

「ああ、そうだったな。まだお前との因縁が終わっていなかったか、ガスト」

 

「因縁、ね。確かにライダーを不意打ちで退場させたアンタに私は怒ってる。どうせ退場させるなら、正々堂々、互いの全力を振り絞って戦い抜いて欲しかった」

 

「……そうだな。私も、そうでありたかったと、そうなった後に思ったよ。言い訳にしかならないが、あの時の私を私自身が一番悔いている」

 

「それがあの様ってワケでしょ。《零化現象》なんて、カッコ悪いったらなかったわ。王としての威厳なんて微塵もなかった」

「返す言葉もないな……」

 

 そこまでの2人の会話で、我慢できなかったのかハルユキが何かを言おうとしたのだが、それを黒雪姫は手で制して止め、タクムの支えを離れてガストへと少し歩み寄った。

 

「アンタは、もう簡単に膝を折っちゃいけないのよ……私達の王であったライダーを己の糧としながら、あんな無様な姿、もう2度と人前に晒さないで。それがアンタがライダーに出来る、唯一の償い。そして、これが私なりのアンタへのけじめ……」

 

 王と相対しながら、堂々と、気丈な態度で話すガストに、黒雪姫はただ黙ってその言葉を受け止め、言いたいことを言い終えたガストは、それで黒雪姫の目の前へと移動して、その右拳を固く握って振りかぶり黒雪姫へと撃ち放つ。

 しかし、その拳は黒雪姫の体のどこにも当たることはなく、その顔の横を通り過ぎていき、そこからガストは微動だにしなかった黒雪姫の後頭部を掴んで自らの額を黒雪姫の額へとガチンと突き合わせた。

 

「約束しなさい。あなたはもう2度と、その気高い姿を崩さないと。それが約束できるなら、私はあなたにこれ以上どうこう言うつもりも、ライダーの件で怨恨を持ち込むこともしない。いえ、したくないのが本音。だから……」

 

「ああ。約束しよう。もしも私がもう1度、今日のような姿を晒したなら、君の手で私を屠ってくれて構わない」

 

「……ありがとう、ロータス」

 

 それを最後に黒雪姫から離れたガストは、それでみんなに一言謝ってから、その場の主導権を黒雪姫へと渡した。

 これで形としてでもガストはライダーに関する件で黒雪姫との折り合いがつけられた。

 それができたことがテルヨシも自分のことのように嬉しかった。

 ガストがこれまでずっと、今を変えたいと願っていたのを知っていたから。

 

「うむ。では全員、ステータス画面を開き、アイテムストレージを確認しろ。そしてそこに災禍の鎧があったならば……絶対に消し去れ。2度と、同じことが起きないように」

 

 場の主導権をもらった黒雪姫が、みんなに聞こえるようにそう指示を出すと、みんな自分のアイテムストレージを開いて、そこに災禍の鎧がないことを確認。

 テルヨシのストレージにもテイル・ウィップだけしか表示はなく、この場にいる全員が嘘など言うはずもないとわかっているため、これで災禍の鎧の件も完全に解決したことになった。

 

「さーて、面倒なことは片付いたことだし、あと2つの案件を解決しましょうか」

 

 鎧消滅でみんなが本当に安堵したタイミング。

 そこでまたガストが口を開くが、テルヨシはまだ何かあったかと首を傾げる。

 

「まずレインちゃん! 私とロータスに何か言うことは?」

 

「…………ワリ」

 

「はいはーい。ちゃーんと謝るのが悪いことした子のするべきこと。それができない子は、ボンバーの殺戮兵器でおしおきよ」

 

「うひぃっ! ご、ごめんなさいでした!」

 

「よろしい。ロータスもオッケー?」

 

「うむ、強要された感じではあったが、私は寛大だからな。許してやろうではないか」

 

「おい黒いの。ちょっと生意気……あ、いえ何でもないです」

 

 すっかりお姉さんモードのガストは、先ほどのユニコの自分と黒雪姫を巻き込んでの攻撃の謝罪を要求し、最初こそらしさのある謝罪をしたユニコだったが、打ち合わせたようにガストの言葉の後にバーちゃんが両手の平を合わせたのを見て驚くほど素直に謝罪し直し、それに黒雪姫も許しを出した。

 

「はーい次。テイルー」

 

「にゃんだと……」

 

「とぼけるな! さっきの言葉の意味についてよ!」

 

 続けてガストが持ち上げたのは、まさかのテルヨシ。

 テルヨシ自身、言われてもよくわからなかったのだが、よくよく考えてみたら黄のレギオンとの戦闘の前に何か言われた気がしたのを思い出す。

 

「…………ああ。レインとバーちゃんのこと好きだって言ったやつ? なになに? ガッちゃんもしかしてヤキモチ?」

 

「ちがっ!? あれがどういう意味だったかってことよ! 自意識過剰にもほどがあるわ!」

 

「ガッちゃんかーわいいっ! 別に含むところはないって。ただ純粋に好きだってこと。そんなの付き合い長いガッちゃんならわかると思ってたけど、オレの思ってた以上に純情な感情を持ってたのね。もちろんガッちゃんのことも大好きだよ」

 

「う……うああ!! そんなのわかってたわよ! 最初から! 全部!」

 

 そうやってテルヨシはからかうようにしてガストに言うと、破壊されてしまった《ブレード・ファン》がないために自らの拳と足を振るってテルヨシを追いかけ始め、それを黒雪姫達は笑いながらに見学して、テルヨシがつまずいた隙を突いて馬乗りしたところで、周りに変化が起こった。

 

「あら、《変遷》ね」

 

「ん? ああ、フィールド属性の変化か。スノーの必殺技以外では初めて見るな」

 

 馬乗りした状態でピタリと動きを止めたガストが、遥か遠くから段々とこちらに近付いてくる光の壁を見ながらにそう言えば、テルヨシもそれを見ながら、無制限中立フィールドで初めて見る変遷にちょっとした感動を覚えた。

 荒廃とした建物やどんよりとした空は、光の壁が通りすぎた後に緑が生い茂る原始林へとその姿を変え、空も晴れやかな青に染まっていく。

 そうしてテルヨシ達のいた場所にも物凄い速度で光の壁が通りすぎていき、周りの景色は完全に深い森の中といった趣へと変わる。

 

「ガスト。テイルと遊ぶのはその辺にして、そろそろ帰ろう。変遷後はエネミーの再湧出も起きるし、消耗した儂らでは少々のんびりもしておれん」

 

「別に遊んでないんだけど……でもまぁ、その意見には同意」

 

「そうだバーちゃん。あのアイテムさ、ちゃんと処分してよ? あんなの持ってると思うだけでヒヤヒヤするんだよね」

 

「サドンデス・デュエル・カードかの? 安心せい。後日ちゃんとショップで売却しておく」

 

 変遷が完了してすぐ、テルヨシとガストに近寄ったバーちゃんの言葉で2人も遊ぶの――テルヨシはそうだが、ガストは違うらしい――をやめ、同じように離脱を考えていた黒雪姫達と一緒に、サンシャインシティのリーブポイントから現実世界へと戻っていったのだった。

 翌日土曜日。

 いつものように学校の授業の後にバイトへと向かっていたテルヨシ。

 しかし今日と明日はパドとの約束通り、可能な限り働くことになっていたため、今日の領土戦も明日のバトロワ祭りにも参加できない悲しさからどことなく元気がなかったのだった。

 

「ああニコたん。分量はしっかり計らないと美味しく仕上がらないよ」

 

「わーってるよ。パドにそれなりに習ってんだから問題ねー」

 

 のだったが、バイトを始めて数時間ほど経って、厨房が空いた時間に久々に店に顔を出したユニコが、スーパーの袋片手にやって来たかと思えば、そのままパドに断りを入れて厨房で何かを作り始めたので、テルヨシも落ち込み気味のテンションから復活。作業工程から何を作るかわかり横から口を出していた。

 

「それで誰へのプレゼント? もしかしてテルヨシお兄さんにですか?」

 

「ちげーよ。クロウのやつには迷惑かけたからな。その詫びだ」

 

「強引にリアルを割ったりしちゃったもんね。ニコたんの手作りクッキーを食べられるなんて、ハルユキ君が羨ましいよ」

 

 そうして横でうるさいテルヨシにちょっと顔を赤らめながらに作業を続けるユニコ。

 それが自分でも柄じゃないことを自覚してる上で恥ずかしがってるように見えていたテルヨシは、何だか微笑ましく思いながらそれとなく作業の手伝いをしていた。

 

「……聞かねーのかよ。チェリーのこと」

 

「ニコたんがこうやってハルユキ君のためにクッキーを作ってるってことは、そういうことなんでしょ。だったらわざわざ聞く必要もないよ」

 

「ちっ、ホントそーゆーのは勘が良いな、お前」

 

 少しの沈黙が続いてから、手を休めずに唐突に口を開いたユニコ。

 いきなりの話だったが、テルヨシはそれでチェリーがあの後どうなったかを指すものであるとわかり、ここまでのユニコの行動と言動からある程度は予測がついていた。

 その予測通り、チェリーは鎧の支配から脱して、無事に元のチェリーへと戻ったことがわかった。

 いや、元の、というのは少し違うのかもとふと思ったテルヨシ。

 何故なら、ブレイン・バーストをアンインストールした人間が、ブレイン・バーストに関する記憶を失うことを知っていたから。

 テルヨシの知るチェリーは、知り合ったその時点でチェリーなのだが、それはブレイン・バーストをすでにインストールしたチェリーであって、それ以前のチェリーをテルヨシは知らない。

 つまりチェリーが鎧の支配から脱してブレイン・バーストをアンインストールした時、テルヨシの知るチェリーが『元に戻った』という認識は合っているのか。そういった疑問が出てきたのだ。

 しかし、そんなことは大した問題ではないことにすぐに気付いたテルヨシは、その疑問を頭から吹き飛ばして、少し嬉しそうな顔へと変わったユニコを見て自分も自然と笑顔がこぼれていた。

 何はともあれ、チェリーは鎧から解放されてユニコがいま笑っている。それだけあればもういいじゃないか。

 それから数時間後。

 無事にクッキーを作り終えたユニコは、早々と店から出ていってしまい、休憩がてらユニコが作って余らせたクッキーを食べていたテルヨシは、その味に太鼓判を押してから忙しくなってきたらしい店の仕事へと戻っていき、厨房と店頭を慌ただしく行き交ってその仕事に追われていったが、その顔にバイト開始当初の沈んだ色はなかった。

 夕方頃、イートインスペースがほぼ満席になって、ウェイターとして注文されたケーキなどを運びつつ、その客と軽く会話しながら仕事をしていたテルヨシだったが、会話にウェイトを置いて欲しいという女性客がちょっと多くなったため、長居をなるべくさせない処置としてパドから厨房へ引っ込むよう指示されたので、名残惜しそうにする女性客に笑顔でまた来てくださいと言いつつ厨房へと引っ込んで裏方の仕事へと準じた。

 

「この店の男子中学生が作ったというケーキを全部、1つずつ貰えるかの」

 

 その作業に入る直前、ふとレジ付近から聞こえた女性客の声に異常なほど聴覚が冴え渡った。

 キャラ作りしたような独特な口調に、よく聞き慣れた気がする声色。

 それだけで自分が知るある人物とダブったテルヨシは、やろうとしていた作業も投げ出してレジへと顔を出してみるが、そこにはもう客の姿はなく、パドがいつも通りに立っているだけだった。

 それに少し肩を落としたテルヨシだったが、テルヨシに気付いたパドがこちらへと向き直って、その手に持っていた今どき珍しいと思える手書きのメモのようなものをテルヨシへと渡すので、それを受け取りつつ可愛らしい筆記で書いてあった文章を読んだ。

 

『面と向かって礼を言うのは恥ずかしいでの、この手紙と主の作ったというケーキを食べることでその礼とさせてくれ。ありがとう。本当に感謝しておる』

 

 その文面から、やはり今レジにいた人物がバーちゃんであったと確信したテルヨシ。

 それを裏付けるようにパドが会計の後に手渡され「テルに渡すように言われた」と言うので、もう遅いと思いつつも店の外へと出ようとしたら、それをパドに止められてしまったが、残念そうにするテルヨシにパドは言葉をかけた。

「私からもお礼を言う。最近のバーちゃんは笑ってくれることがなかったから。だからテル、ありがとう」

 

「……ミャアとバーちゃんって、同じ学校とかだったりするの?」

 

「同級生。進む高校はたぶん別になるけど、親友だと思ってる」

 

「そっか。じゃあバーちゃんも1個上か。ひと目だけでも見てみたかったなぁ。ミャアと同じで美人でしょ?」

 

「女に見境ないのはテルの悪いところ。でも美人なのは否定しない」

 

 それを聞くとますます会いたくなってしまうテルヨシだったが、珍しくパドがTHXを使わずに心から感謝してきたほど大事に想う親友が、いつか自分の方から会いに来てくれることを願い、また今後の楽しみとしつつ、作業に戻る前に最後の質問をパドにした。

 

「バーちゃんは、笑顔でこの店を出ていってくれた?」

 

「NP。私の好きな笑顔だった」

 

 それを聞いてテルヨシは、自分がしたことが間違っていなかったことを自覚し、また作業へと戻っていったのだった。

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