常夏の陽射しが射し込み、ジリジリと焼けるような暑さが外気を満たす場所。にも関わらずにその暑さを感じる人物はこの場に誰もいない。
見渡す限りの一面を大海原へと変貌している《大海》ステージの海底にて、現在毎週日曜日の午後に1度、中野第2戦域で開催されるバトルロイヤル祭りが行われていた。
何もこんな時にこのステージを引き当てなくても。
と思いつつ、スターターであるテルヨシは迫る近接型の足を《テイル・ウィップ》で絡め取って自分を狙って放たれた水陸両用のミサイルを身代わりに受けさせて適当に放り、体の上下左右が自在の水中だからこそできるアビリティ《インスタント・ステップ》による連続踏み切りで他のバーストリンカーより高い機動力を得て戦場を渡っていく。
「おかしい! おかしいよねこれ!!」
そんな海底の戦場の一角で、テルヨシが注目する人物を発見し、海面近くまで上昇してから、どこかから流れてきた流木オブジェクトにテイル・ウィップを巻き付けて観戦の体制を整えた。
その注目の人物、《レイズン・モビール》ことリュウジは、すでに《ドンキー・ライダー》と《スコル・スカル》を装備して、地面をしっかりと踏めない水中で本来のスペックを発揮できていないドンキー・ライダーでバック走しながら、いま現在《ブラッド・レパード》ことパドに必殺技《シェイプ・チェンジ》によるビーストモードでグイグイ追い詰められていて、そのパドの背には《カーマイン・ボンバー》ことバーちゃんが必死にしがみついていたが、彼女は総重量が1キロに満たないためにパドの出すスピードによる水の抵抗に体が耐えられないようで、アビリティ《リトル・ボム》を出す余裕もなさそうだった。
あの2人を同時に相手するのは大変だよなぁ。
そう思いながらもバーちゃんをしっかり押さえるために走り続けてるリュウジには少し感心しつつ、3人がどんどん移動していくのでテルヨシも移動を強いられてしまい、急いで3人のあとを追うが、そのテルヨシの背後から突然なにかが飛来し後頭部に命中。
鈍い衝突音と共に意識が混濁したテルヨシは、一時的に思考が停止するが、すぐに回復し飛来した方向を見て攻撃してきた人物を確認するが、それらしい姿は見えない。
「アンだな……油断するなって警告かね」
姿が見えないことから、目視できる距離からの攻撃ではなく、自分のHPゲージの減り具合を鑑みてその攻撃がマリアによるものだと判断。
おそらくは呑気にプカプカ浮いていたテルヨシがズルしてるとかサボってるとか隙だらけとでも思ったのだろう。
我が子ながらしっかりしてると思いつつ、改めて周りにも十分に注意しながらまたリュウジ達を追い始めた。
通常対戦フィールドの戦域も無限ではないので、戦域境界近くまで移動してきたリュウジは、そこを背水の陣として右手に《ユニコーン・ランス》、左手には《ライオン・バインド》を装備し、今回有用――《フォックス・ファイア》と《ドッグ・マーカー》は使う場面ではないから――なフル装備になると、ようやくその動きが止まったことでバーちゃんはパドにやや前の上方向に放り投げてもらい、その両手を打ち合わせると、作り出したリトル・ボムをリュウジへと投下。
水中では投げてもまともに飛んでいかないための策だが、バーちゃんはとことんこのステージとは相性が悪いのでかなり戦いにくそうだなと思う。
そのバーちゃんが投下したリトル・ボムをリュウジはライオン・バインドの咆哮による振動で誘爆させ、自分が巻き添えにならないようにすると、自らのリトル・ボムの爆発の余波によって水中に水の流れが発生。
その影響でどこかあさっての方向へと流されていったバーちゃんの姿は、涙なしでは見られなかった。
そうなることがなんとなくわかっていたのか、ここまでバーちゃんを連れてきたパドは特に動揺した様子もなく、これでタイマンだと言わんばかりにググッとその後ろ足に力を込めると、体を弾丸のようにしてリュウジへと突撃。
アビリティ《ファースト・ブラッド》によって時速200キロを誇るスピードも、水中ではやはり抵抗が大きいのか、半分ほどにまで減衰するが、それでも全然速い。
そこから繰り出された右前足の鋭い爪撃はスコル・スカルによって阻まれるが、それは折り込み済みとばかりに左前足からの爪撃を畳み掛ける。
それもユニコーン・ランスによって阻まれるも、しかしパドはその状態からさらに後ろ足を下から掬い上げてカンガルーキックをお見舞い。
仕方なしに左腕を丸ごと使って両足を食い止めダメージを軽減したリュウジだが、その左腕はパドの両足でガッチリ捕まれ離れなくなると、パドはためらうことなくリュウジの首元へとその牙を立てて食らいついた。
離れていてHPゲージの減りは見えないが、断続的なライトエフェクトからその力の入り具合は相当なようで、あと10秒も噛まれ続ければ確実にHPゲージは吹き飛ぶ。
さらにおそらくではあるが、あの状態から発動するアビリティ《
だが、その最期が訪れるより早くパド自らがリュウジから離れてその距離を開き、それにはどうしたと思いつつもよく見れば、なんとパドの牙はリュウジの首元ではなく、その右手のユニコーン・ランスを噛み砕いていたようで、半ばほどから砕かれたユニコーン・ランスはそこで消滅。
つまりあの攻防でリュウジは咄嗟にユニコーン・ランスを身代わりにしたということ。
その直後。
ピリッと、テルヨシはわずかだがパドから放たれる雰囲気が変わったことを感じ取り見れば、パドはフワッとその体を浮かせると、その四肢を折り畳んで小さく丸まるという今まで1度も見たことない姿勢を作り出し、それを見たリュウジは今ある必殺技ゲージでブレイク・グラトニーを連続発動。
フォックス・ファイアとドッグ・マーカー、ライオン・バインドを破壊してその全てをスコル・スカルに注ぎ込んだようで、スコル・スカルもそれに応えるように三股の盾となる。
「《ブラッドシェッド・カノン》」
そしてシェイプ・チェンジ以外で初めて聞いたパドの必殺技発声のあと、パドを包み込むような赤い光のチューブが現れ、そこからパド自身が弾丸となって物凄い勢いで発射されリュウジを襲い、それに反応してスコル・スカルも三股の全てを重ねてパドを食い止めるが、衝突から拮抗することなくスコル・スカルは粉々に砕かれてリュウジは衝突で発生した爆発によって儚く散っていった。
「いやぁ、参った参った。まさか話にしか聞いてなかったパー子の切り札があんなに驚異的な威力だったとは思わなかったよ」
バトロワ祭りが終了して、中野から杉並へと場所を移していた最中に、完敗した後とは思えないほど爽やかにそんなことを言うリュウジに、テルヨシとマリアは苦笑。
半引退状態のリュウジにとって、対戦の勝敗はもう大して気にならないらしく、対戦自体を楽しんでいるのはわかるが、もう少し悔しがってもいいとは思う。
「ちなみにオレも初めて見たんだけど、何であんな強力な必殺技を今まで使ってなかったんだ?」
「んー、あの必殺技自体は自爆特功だからね。当たれば必殺。外せば自滅っていうギャンブル性を嫌ってるんじゃないかな。僕に対して使ってくれたのは、もう戦えないかもしれないからだと思うよ」
テルヨシすら初めて見たパドの必殺技、ブラッドシェッド・カノン。
それの存在は知っていたリュウジは、パドが積極的に使わない理由をそう予想してなんとなくそうなんだろうなと思う反面、対戦において常に全力を出すタイプのパドが手加減するようなことをしていたとも思えなかったため、何か他に理由があるような気はしたが、それは本人にでも聞けばいいかとその場では相槌を打っておいた。
「パドさん、何か使ったの?」
「そりゃもう物凄い必殺技を使ってリュウジを木っ端微塵にぶっ飛ばしたんだぞ」
「木っ端微塵じゃないよ。辛うじて五体満足でHPが吹っ飛んだんだ」
そのパドの勇姿を見れなかったマリアは、2人の話を聞いてキラキラと瞳を輝かせて自分も見たいと語り、次に会った時には直談判しそうな勢いだった。
そんな話をしていたらすぐに杉並区に突入し、テルヨシは1度時間を確認してから、リュウジにグローバル接続するように言うと、リュウジも事前に話は聞いていたので素直にグローバル接続をしそのままテルヨシとマリアとは別れて適当な方向へ歩いていってしまう。
「リュウジさん、人気者」
「ただの古参のバーストリンカーじゃないってことだな。なんたってニコたんを除く七王全員を変なあだ名で呼べるくらいには積み上げてきた歴史があるんだろ」
リュウジの後ろ姿を見ながらにマリアがふと口にしたことに対して、テルヨシはそんな言葉で返す。
リュウジはこれからテルヨシが根回しをしたことによって《シルバー・クロウ》ことハルユキと対戦することになっている。
その次には《シアン・パイル》ことタクムとも対戦をするようだが、そうなったのは彼らのレギオンマスターが願ってもないとばかりに申し出たことによる。
昨夜《ブラック・ロータス》こと黒雪姫にハルユキとの対戦が出来ないかと尋ねたテルヨシの言葉に、黒雪姫は快く承諾。
たとえハルユキが嫌がっても対戦させると言って、ついでにレギオンメンバーに経験値を与えるということでタクムまでも駆り出されたようだった。
その対戦はバトロワ祭り終了後の杉並区にてリュウジに乱入することで行われるのだが、テルヨシとマリアはその対戦にはギャラリーとして入らずまっすぐに帰宅。
その理由は現在、父親の白穂梓松の手伝いに行っているサクラがもうすぐ帰ってくるはずなのもあるのだが、リュウジ自身がこの対戦は見ないでほしいと言ってきたことによる。
それでテルヨシとマリアが自宅付近まで差し掛かると、マンションの近くに見慣れた3人の姿を発見し近寄ると、挨拶も一言二言で済ませて本題へと入った。
「もう終わった?」
「ああ、ほんの3分ほど前にな」
「お二人さんは価値ある一戦ができたかな?」
「はい! とても多彩で柔軟な人でもの凄く強かったです! テル先輩の親と聞いた時はちょっと腰が引けちゃいましたけど……」
「さすがマスターが1度でも戦う価値があると言った方でした。今の僕じゃハルと2人がかりでやっても勝てるかどうか。そう思うほどに強かったですよ」
そうしてテルヨシの質問に各々が口々に語りその表情には笑顔が。
黒雪姫は久しぶりに会った旧友の元気な姿に。ハルユキとタクムは今しがた戦ったリュウジの強さに興奮しているようだった。
「テル、奴との対戦を組んでくれたことに感謝するよ。2年経っても相変わらずセンスのないあだ名で呼ばれたのには脱力したがな」
「やっぱセンスないよな。ロッタって」
「正確にはやつとグラフが話し合いの上で決定したらしいが、呼ばれるこっちの身にもなれと2人揃ってるところに声を大にして言ってやりたいよ」
次にテルヨシへと感謝を述べ、結構本気のトーンでそう語った黒雪姫に苦笑しつつ、《グラファイト・エッジ》の名が出てきたことでまた1つ彼の印象がリュウジと重なる。
いつか本人に会えた日にはおそらく、リュウジと接するのと変わらない気がしてならなかった。
「それはそうとマリア。いつかした話は考えてくれたかな。返事は焦らずともいいとは言っていたが、気にはなるのでね」
ハルユキとタクムがいる手前、グチグチと言い続けるのもあれだと思ったのか、黒雪姫はそれでリュウジの話を終了し、テルヨシの隣でぼんやりしていたマリアと目線を合わせてそんな質問をする。
それはつい先週に恵と一緒にマリアを見にテルヨシ宅へと訪れた日の帰りにしていた話で、マリアを《ネガ・ネビュラス》へと引き入れるというもの。
その時は返事を聞かずにすぐ帰ったので、やはり気になっていたようだった。
ちなみにハルユキとタクムに関して、マリアは遅かれ早かれバーストリンカーだと知られてしまうために黒雪姫の方から間接的に紹介されていたが、今回がリアルでは初顔合わせ。
「…………ニコさんにも誘われてて、他にもいくつか声をかけてもらってて、まだ決められてない、です」
「そうか。ではじっくり考えて決めたまえ。マリア自身が決めたことにとやかく言うような奴はどこにもいないのだしな。しかし赤いのにマリアを取られるのは少々悔しいな。よし、ハルユキ君、タクム君。君達からも我らがレギオンのアピールをしてくれ」
それでマリアはまだ進展はないと答えれば、黒雪姫も急くようなことをせずに笑顔でそう言ってから、後ろに控えていた2人にいきなりそんな振りをして慌てさせると、これからリュウジとの対戦の反省会をやるとかで、おそらくわざわざ出てきたのだろうハルユキの家があるマンションに戻っていってしまった。
そんなこんながあった夜。
この日もサクラが1人でお風呂に入っている間に話をしていたテルヨシ達だったが、何故か突然リュウジが対戦すると言い出して3人で直結しテルヨシとリュウジで対戦を開始。
しかしテルヨシもなんだかんだで久しぶりのリュウジとの対戦でワクワクしていた。
構築されたのは神聖系上位の《霊域》ステージ。
特徴としては《月光》ステージのように全体的に白が多くどこか孤独な無機質さがあり、しかしどこか落ち着く雰囲気もある不思議なステージで、周辺には特大サイズのクリスタルがゆっくりと回転しながら不規則な高さと間隔で浮いていて、それを壊すとガラスを砕いたような派手なサウンドとライトエフェクトが発生し必殺技ゲージが大幅にチャージされる。
そんなフィールド属性を確認していたら、まさにいま近くのクリスタルが割り砕かれるサウンドが響き渡って、視界上を見ればリュウジの必殺技ゲージが一気に4割ほど増えたかと思えば、ビックリするほどすぐに消費されると、ガイドカーソルも消えてテルヨシもその姿を目視で確認したが、すでに二股に分かれたスコル・スカルとローラー部分が倍ほどに巨大化したドンキー・ライダー。
さらには右手にユニコーン・ランス。左手にフォックス・ファイアとフル装備状態のリュウジがまっすぐテルヨシを見つめていた。
必殺技ゲージの減りからブレイク・グラトニーの使用回数は2回なため、あとのライオン・バインドとドッグ・マーカーはスコル・スカルとドンキー・ライダーの強化に使われたようだ。
「ちょっとだけ、僕もやり残していたことがあったんだよ」
「この世界でってことか?」
「いや、そんな大層なことじゃない。君に唯一してあげられなかったこと。それは……『僕の本気』を見せてあげることだよ」
ゾワッ、と、それを聞いた瞬間にテルヨシは全身に鳥肌が立ったような感覚に襲われて身震いする。
――恐れたのだ。
――何に?
――決まっている。
いま目の前から迫る自分の親、押留竜司ことレイズン・モビールにだ。
圧倒的とも思える、黒雪姫と対峙するのとも明らかに違うプレッシャーを放つリュウジは、言葉のあとにテルヨシへと突撃。
強化を経たドンキー・ライダーの加速は幾分か速くテルヨシへと迫り、同時にフォックス・ファイアからも炎の弾が発射されテルヨシへと向かってくるが、それをテイル・ウィップで弾き、続けて来たユニコーン・ランスの突きもテイル・ウィップを巻き付けて止めようとした。
しかしリュウジはそれを読んでかユニコーン・ランスを勢いよくテルヨシへと投げ込んできて、ギリギリでテイル・ウィップで受け止めることには成功するが、そこから屈みながら左足でテルヨシの両足を勢いそのままに払い転倒どころか少しだけ宙に浮かされると、後ろに回り込んだところからフォックス・ファイアを背中へと撃ち込まれ命中。全身を炎に包まれて地面に転がる。
過去の何百という対戦経験で初期のフォックス・ファイアの炎は素早い動きで振り払えることがわかってたテルヨシは、倒れた時に両手で地面を捉えて、そこから頭も地面につけて3点で倒立し回転しながら腕を伸ばして倒立に移行。
腕が伸び切る時に体を跳ね上げて立ち上がると、フォックス・ファイアの炎はかき消されてダメージを最小に抑えることに成功するが、その際に邪魔なユニコーン・ランスを捨てたのは失策だった。
投げ捨てたユニコーン・ランスを高い機動力を生かしてテルヨシがリカバリーしている間に回収したリュウジは、そこでまたブレイク・グラトニーを発動。
ユニコーン・ランスを破壊してドンキー・ライダーをさらに強化。
2段階の強化を経たドンキー・ライダーは、前後進の切り替え時にタイムラグを無くすことができるため、急激な切り返しなどが可能となる。
リュウジの必殺技を封じる意味で強化外装は壊してしまうのが一番なのだが、そんなこともできなくなるほど余裕がなかったテルヨシ。
リュウジの動き自体にはついていけてるのだ。
しかし今まで感じたこともないプレッシャーに対応力が鈍ってしまっていた。
その隙を突くかのようにテルヨシに高機動力でのヒット&アウェイで仕掛けてくるリュウジに下手に反撃に出られない。
スコル・スカルが今や2回までの攻撃を防いでしまうためにカウンターを狙っても防がれた上で更なるカウンターの餌食になってしまう。
ならばと正面から右足の蹴りを放ってきたリュウジを避けずにその体で受け止めて動きを止め、両腕で右足をガッチリと掴んだ上でテイル・ウィップを足の代わりにして密着状態からあり得ない右足を振り上げて頭を狙うが、それはキッチリとスコル・スカルが防御。
そこからさらに掴んでいた右足を離してテイル・ウィップのみで地面を捉えて左足を振り子のように後ろから上へと体を縦回転させることでハンマーのように振り下ろしてみせるが、これもスコル・スカルに阻まれる。
だがここまでは想定内。テルヨシはそこから今度は体を左へと捻って転がり落ちるような状態から右足を上から下へと回してリュウジの顎を狙いにいく。
「ブレイク・グラトニー」
だが、それより早くリュウジが今の攻撃で溜まったゲージを消費して必殺技を発動。
今度は持っていたフォックス・ファイアを破壊してそのポテンシャルをスコル・スカルへ。
それによって間一髪のところで三股へと変貌したスコル・スカルがテルヨシの攻撃を受け止めて、さらに何かされる前にドンキー・ライダーをバックさせて距離を開くが、不自然な体勢のテルヨシを逃すまいと1メートル程度でまた切り返して急加速からの蹴りをお見舞い。
高速回転する車輪によってギリギリで防御に挟んだ右腕が両断されて吹き飛び地面にバウンドしたテルヨシだが、倒れ込むことなくリカバリーして立ち上がり、まだ5秒の拘束が解けてないことから仕返しに《インパクト・ジャンプ》からの重い一撃を食らわせようとして足に力を込めるが、その時にはもうリュウジは接近を終えて、スコル・スカルに触れながらまた必殺技を発動。その全てをドンキー・ライダーへと注ぎ込む。
現状最大強化のドンキー・ライダーには前後輪を同時に踏み込んだ際に周囲へと波紋状の衝撃波を放って相手を一瞬硬直させる効果があり、そこから間髪入れずに放たれる鋭い斬撃属性の蹴りは、テルヨシの胴体を容易く両断するのだった。
「テル、君は強いよ。実力で言えば僕ともう差なんてない。君には対戦を楽しんで勝つという意志を感じるし、そのための反応と思考も僕なんか比較にならないと思う。でも、君に根本的に欠けてるものが、闘争心。この先『どうしても勝たないといけない状況』があるかもしれない。その時になって何がなんでも勝つっていう意志を持てないやつは、きっとたくさんの後悔をする。テルにはそんな思いはしてほしくない。だから僕はいま君に本気を見せた。もちろんマリアちゃんにもね」
対戦が終わって現実へと戻ってきて、リュウジはそうやってテルヨシとマリアに言葉をかけるとニッコリと笑ってみせる。
その時テルヨシは、リュウジが自分の親で本当に良かったと思う。
きっともっとリュウジから教わるべきことはたくさんあるのだろうが、リュウジはその辺が抜けてるので、聞かなければ教えてくれないこともなんとなくわかってるテルヨシは、何でも教えてくれる親よりは自分で考える余地を残してくれる親の方が助かるとつい2人の前で笑ってしまったのだった。