アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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修学旅行編
Acceleration41


 

「よーし! 完璧すぎるー!」

 

「テルもピカピカ制服似合ってる」

 

 春休みなどなかったかのように過ぎ去り、新たな年度を迎えた今日。4月8日の月曜日。

 テルヨシの通う梅郷中学校とマリアの通う松乃木学園は揃って入学式・始業式を迎えて、春休みの間にクリーニングに出していたピカピカの制服を着てお互いを褒め合うというコントみたいなことをしていた2人。

 春休みに突然来訪した2人の従兄弟、サクラとリュウジも散々テルヨシとマリアを振り回した後、満足気な顔でそれぞれの国へと帰っていき、その際にはサクラの父親とリュウジが対面――元々テルヨシの住居手続きの関係で知ってはいた――したようだが、その時にバカなリュウジはサクラのことを好きだとバラしたらしく、てんやわんやがあったのだとか。

 そんな騒がしい2人の帰国後は非常に穏やかな日々を過ごしたテルヨシとマリアも、今日で中学3年と初等部4年。

 卒業したらパドがオーナーの店で働くことが決まってるテルヨシは今年が最後の学生生活とあって、これからの日々を大事にしようと思っていた。

 

「さーて、それじゃ行きますか」

 

 マリアとの仲良しトークもほどほどにして視界の現在時刻を見たテルヨシは、初日くらい余裕を持って登校しようとランドセルを背負ったマリアと一緒に玄関へと向かい靴を履いて、その横に置いていた補助用の杖に一瞬手を持っていきそうになるがすぐに引っ込めて1人で立ち上がる。

 

「本当に大丈夫?」

 

 それを玄関のドアを開けて待っていたマリアが見ながら心配そうに問いかけてくるが、テルヨシはそんなマリアの頭を優しく撫でてやる。

 

「大丈夫だよ。ちゃんとお医者さんにも太鼓判押されたし、今なら走れそうだ」

 

「無茶しちゃダメだよ!」

 

「おうふ……マジコメ……走れはしないけど本当に大丈夫だから。それに転びそうになったらマリアに抱きつけば問題ない」

 

「それやったらニコさんが制裁だって言ってたよ?」

 

 この春休みの間に補助用の杖なしでも出歩いて大丈夫だと言われていたテルヨシだが、今日がその初めての日とあって心配だったマリア。

 しかし大丈夫そうなのに安心しつつ悪ふざけに走ったテルヨシに対して恐ろしい予防線を張ってそれを抑止。

 それには嫌な顔をしたテルヨシだが、ここでまた時間を無駄に使っていることに気付いて会話もそのくらいにし改めて玄関を出て登校のために歩き始めた。

 途中、何度か足がもつれそうになることもありながら、1度も転ぶことなく学校まで辿り着いたテルヨシは、もう少し先の松乃木学園に向かうマリアを校門の前で見送ってから校門を潜って校舎へと足を踏み入れていった。

 

「……諸君の大多数は、いま期待と不安を等しく感じているだろう。ことに新入学生の皆は、見知らぬ校舎、見知らぬ上級生に大いに戸惑っているかもしれない。しかし――」

 

 嵌められた。

 そう思いながら入学式兼始業式の壇上に立ち、堂々と代表挨拶をする生徒会副会長である黒雪姫を『後ろ』から同じ生徒会書記である恵の隣に立って見るテルヨシは、恨めしそうな視線を黒雪姫の背中へと浴びせていた。

 当初ではテルヨシも他の一般生徒と同じように黒雪姫を正面から見る立ち位置で参加するはずだったのだが、登校して早々に有無を言わさぬまま黒雪姫と恵に腕を引かれてこの場に居合わせそのまま式が始まってしまったのだ。

 何故オレが?

 という問いかけに対して黒雪姫と恵はさも当然といった具合で「お前は特別枠だろ」「最上級生なんですから、ありがたい言葉でもいただきませんと」とテルヨシ自身が忘れかけていたこの学校での扱いを持ち出されて、何の準備もないままこのあと全校生徒の前で挨拶することになっていた。

 

「――以上で私の挨拶を終わる」

 

 そんな恨めしい視線を送り続けていたら黒雪姫の挨拶が終了しテルヨシ達の元へと下がってきたのだが、テルヨシの表情を見て珍しくビクッ、と肩を少し跳ね上げた黒雪姫は、その顔をやめろとでも言う表情でテルヨシを見てから生徒会メンバーの列に加わっていき、進行の先生から自分の挨拶だと言われて大きなため息をひとつ吐いてからいつもの表情になって前の壇上へと歩みを進めた。

 テルヨシが壇上に出てきて、3年と2年の女子からソワソワと話し声が漏れ聞こえたり小さく手を振ってきたりとあるが、それらに笑顔と手振りで軽く応えてから咳払いをして口を開いた。

 

「えー……特別枠とかなんとか紹介されましたけど、ぶっちゃけオレはズルしてこの学校に入ってます」

 

 シーン。

 いきなりのテルヨシの言葉に、ソワソワしていた生徒も、先生達も、後ろにいた黒雪姫と恵ですら驚きの表情でテルヨシを見る。

 何を言ってるんだこいつは。

 そんな視線を浴びつつもテルヨシはいつもと変わらない調子で言葉を続けていく。

 

「正式に受験して合格したわけでもない。ちょっと普通とは違うことやってたってだけで入れてもらったオレは、3年のみんなは知ってると思うけど、頭もそんなに良くない。受験してたら落ちる確率の方が高かったかもしれない。今も後ろにいる副会長とか書記がいなきゃ赤点だらけかもしれないからどうしようもない。それで今こうしてこの場にいるってのがズルって捉えられて仕方ないだろ。んで、いま話しながら3年連中の顔ざっと見たが、そうだそうだみたいな顔したやつらがいるいる。逆にそんなことないって顔してくれたやつらもいる。そういうのを読み取る能力を評価されてオレは特別枠で入学できた。まぁ、2年と新入生にはオレが何で特別枠なのかってのを理解してもらうために今の話をしたわけだけど……ん? オレは何を話そうとしてたんだ?」

 

 ガクッ、と、良い調子で話していたテルヨシだったが、話してるうちに本来話そうとしてたことが何だったかわからなくなり首を傾げてしまい、それには力が抜ける全校生徒。

 

「んーと……あれだよあれ! その特別枠ってのは要するにオレがそういったことをやってなかったら設けられることもなかったってこと。人間、あれもこれもできないなんてあるけど、これだけは誰にも負けないって何かを信じて行動すれば、意外な道が開けるかもしれないよってこと。そりゃ進む先に壁はあるかもしれないけど、その壁にぶつかる前から怯えて何もしなけりゃ、何も起きないんだよな。だからみんなはとりあえず何かを信じて突き進んでほしい。壁にぶつかった時は……その時に考えればいいんじゃないか? オレも偉そうなこと言える年じゃねーけど、そうやって歩んだ方が人生きっと楽しいと思うしさ。そんなわけでオレの話は終わりっ! あと個人的に何か話したいとかあったらいつでも会いに来てオッケー。女子優遇! 彼女募集ちゅ……ぶっ!!」

 

 バシッ!

 そんな締めで壇上から下がろうとしたら、後ろにいた黒雪姫と恵が同時にテルヨシの頭を叩いて教壇に額をぶつけさせると、そこで全校生徒から笑いが起こり、同時に拍手も贈られる。

 その拍手を受けて2人に引き摺られて壇上から下がったテルヨシは、式の終わりまで涙目で赤くなった額を擦るのだった。

 テルヨシにとって散々だった式が終わり、ローカルネット経由で知らされた新しいクラスに移動してから、今年も同じクラスだった黒雪姫と恵が大きな大きなため息をひとつ吐いたことに泣きながらツッコミつつ、他のクラスの人ともひとしきり挨拶を交わし、担任の登場によってそのままホームルームへと突入。

 仲の良い人が多いことに気分も高揚していたテルヨシだが、今日はもう1つやらねばならないことがあった。

 それはバーストリンカーとして年度の始めの儀式に近い、新入生の中にバーストリンカーがいないかどうかの確認。

 確認のための加速を無駄にしないためには、新入生にローカルネットのアカウントが配布されるこのホームルームが終わった時間がいいだろうと考えたテルヨシは、何やら熱心に話してる担任の話も大して耳に入れずに今日の黒雪姫との久々の日課対戦を楽しみにするのだった。

 そして訪れたホームルーム終了を知らせるチャイム。

 よし来たとばかりに目を見開いたテルヨシは、1度近くの席の黒雪姫へと視線を向けて目を合わせ、アイコンタクトで「対戦しようぜ」と訴えると、黒雪姫も半分呆れつつの表情をしながらもかかってこいと目で返答。

 よっしゃあ! と気合いの入ったテルヨシは早速対戦するため――本当はこっちがついで――に加速しようとしたが、それより早くテルヨシの意思とは関係なく脳内にバシィィイイ!

 加速した際の音が響き渡り、辺りの景色は青一色に。

 次には対戦フィールドの構築と自らの姿が《レガッタ・テイル》へと変化し、視界には乱入された旨のメッセージではなく観戦者として入ったことを知らせるメッセージ。

 一応テルヨシはこの学校にいるバーストリンカー。黒雪姫、ハルユキ、タクムを観戦者登録してるので、そのうちの誰かが対戦をすると言うことになるのだが、視界上に表示された名前は《Silver Crow[Level4]》と《Lime Bell[Level1]》。

 《シルバー・クロウ》ことハルユキは当然として、対戦相手の《ライム・ベル》というアバターには一瞬驚いたテルヨシ。

 しかし昨夜に当人からメールで知らされたこともあってすぐにそれが誰かはわかって落ち着く。

 どうやらハルユキに先を越されたらしいと少し残念に思いながらも、挨拶くらいはしておくかとすぐに対戦から抜けずに移動を開始。

 構築された《工場》ステージのオブジェクトが出すスチームを掻き分けてガイドカーソルが示す場所まで来てみると、元は教室であったであろう空間に3人のデュエルアバターの姿があった。

 うち2人は見慣れたクロウと《シアン・パイル》で、もう1人はライムとあるだけあってかなり高い彩度の黄緑色の装甲色に身を包んだF型アバター。

 身長はクロウよりほんのちょっと低いくらいで頭は鍔広なとんがり帽子みたいな形をしていて、顔はフェイスマスク型。腰には木の葉型のアーマースカート。背中にはヒラヒラした薄いマントみたいな物もあるが、何よりも目を引くのはその左腕に装着された強化外装であろう巨大なハンドベル。

 釣り鐘状のそのハンドベルはどうやって使うのか気になりながら教室へ入ろうとしたテルヨシだったが、突然その姿がブレたかと思えば1歩手前に戻されたテルヨシ。

 そのワープの異変に気付いた教室内の3人も何事かと一斉にテルヨシを見るが、これは対戦者に10メートル以上近付けない観戦者ゆえの制約。

 そんなことも忘れていたテルヨシは非常に恥ずかしく思いながらもそれを誤魔化すように平静でおいっすと3人に挨拶。

 

「テル先輩! おはようございます!」

 

「今、ベテランらしからぬミスをしたような気がしますが、おはようございます、テル先輩」

 

 ハルユキ、タクムとそれぞれテルヨシに挨拶を返してくる中、残りの1人はテルヨシをまじまじと見ながら確認するように声を出した。

 

「テル先輩……なんですか?」

 

「そうだよーん。チユチユ大好きテル先輩だよん」

 

「そのテンションはまさしくですね……」

 

 若干失礼な感じではあるが、それでテルヨシだとわかったライム・ベルことチユリ。

 昨夜メールでインストールに成功したことを知らせてきた彼女に、協力していたテルヨシとしても今ここにいるベルの姿を見てちょっとした感動を覚えて涙腺が緩む。

 最初こそインストールできないんじゃないかと本気で思ってただけに、そこからの彼女の努力が実を結んだことが自分のことのように嬉しく思えた。

 親はタクムということなので、タクムは教室内のハルユキとチユリの近くに普通にいられる――同レギオンメンバーと親子は接近距離の制約を受けない――ようだが、自分だけ蚊帳の外みたいで微妙な気持ちになりながらも、初心者講座の最中だったらしいのを察して再開するよう言って、自分はその場で足を投げ出し座り込んでしまうが、そこで1つ思い出してハルユキに質問をしておく。

 

「ハルユキ君や。君がチユチユのアバター確認をしてるってことは、新入生にはバーストリンカーはいなかったってことでオッケー?」

 

「あ、はい。僕達以外にはチユしか新しい名前はありませんでした」

 

 質問に対して予想通りの返答でテルヨシもひと安心。

 そんな予想ができているのは、新入生バーストリンカーがいたら、チユリより先にそちらに対戦を申し込んで交渉に持ち込むべき状況になるから。

 だがそうならなかったということはつまりそういうことなのだ。

 ハルユキの返答に確認が取れたテルヨシは今度こそどうぞと手でジェスチャーしてみせ、ハルユキとタクムもその意思を汲んでチユリへのレクチャーを再開。

 ちょうど技の確認をしていたところだったらしい。

 

「えーと……通常技3つと、必殺技が1つあるみたい。《シトロン・コール》……?」

 

 それでステータスの技リストを開いていたらしいチユリが必殺技のモーションなのか、肘から先がハンドベルになっている左腕をぐるんぐるんと2回ほど回して、最後に上からスナップを利かせて振ってみせるが、視界上のチユリの必殺技ゲージは全くないので当然不発。

 それには思わず吹き出してしまった。

 

「あー! テル先輩なんで笑うんですか! 酷いです!」

 

「くはっ、悪い悪い。『博士』、解説よろしく」

 

「テル先輩までそのあだ名で……僕は定着させる気はないですからね」

 

 笑われてテルヨシにプンプンといった雰囲気で怒るチユリに悪いと思いつつ、テルヨシはタクムに解説を任せるが、その際にユニコ案のあだ名で呼んでみたら、本人はそれがお気に召していないらしく結構マジなトーンで文句を言われてしまった。

 まさに初心者といった感じのチユリにマリアの時とはちょっと違うなぁと思いつつ、必殺技ゲージの説明を聞いてまず最初にハルユキを殴ろうとしたチユリにまた笑う。

 それを笑い事ではないとツッコミつつオブジェクト破壊を促したハルユキに従って渋々っぽい感じで近くのオブジェクトを左腕のベルで叩き壊し始めたチユリは、それが楽しいらしく実に生き生きとした破壊を繰り返していたが、あれを躊躇なくハルユキに叩き込もうとしていたかもと思うと笑ったのをちょっと申し訳なく思ってしまった。

 それでチユリの必殺技ゲージが半分ほど溜まった辺りでタクムがもう1度使ってみるように指示すると、先ほどのモーションを元気良くやってハルユキめがけてその腕を振り下ろす。

 

「シトロン・コール!!」

 

 今度はちゃんと必殺技ゲージが半分消費されてりごりごりーん、という鐘のようなサウンドエフェクトと光の粒がパアッと溢れ出し、ハルユキの全身に降り注いだ。

 何が起こるかわからないためにハルユキは身を守るように構えて変化を待っていたが、テルヨシの目にもそれといった変化は捉えられなく、何かデバフ効果でもあるのかとハルユキの感想を待ってみる。

 

「…………えっ?」

 

 それがハルユキの必殺技後の第一声。

 どうやら何の変化もないらしく、この結果にチユリは憤慨。

 ハルユキもタクムもゲージは消費されてるから発動はしたと分析をしていたが、よくわからないためにただの眩惑系の必殺技かと結論しようとした。

 しかしテルヨシは必殺技ゲージの減り具合から、そんなちゃっちい効果なはずないと思い待ったをかけようとしたが、同時にタクムもそう思ったらしくもう少し考える仕草を見せてから、物は試しとチユリにハルユキを叩くよう指示。

 間髪入れずに指示通りハルユキをぶっ叩いたチユリは、4回の殴打で再びゲージを半分チャージ。

 叩かれたハルユキは理不尽な攻撃によってHPも削られて地面に倒れ泣いていたが、そんなことお構いなしにタクムがまた必殺技をハルユキに使うように指示し2度目のシトロン・コールが倒れるハルユキへと命中した。

 ガタッ!

 そんな慌てるような音を立ててテルヨシはだらけきっていた体を起こして目の前の光景に目を奪われる。

 シトロン・コールの光の粒を浴びたハルユキの3割は削れていたHPがみるみるうちに全回復したのだ。

 加速世界で初めて見る現象にテルヨシもハルユキもタクムも驚きを隠せない雰囲気を出すが、当の本人はこの能力が不満らしくブーブー言っていた。

 

「な……なんてことだ……今のは間違いなく《回復アビリティ》だよ。チーちゃんのそのアバターは《回復術師(ヒーラー)》だったんだ……」

 

「えー? つまりいわゆる僧侶ぉ? なんか地味ー」

 

 驚愕といった口調で話すタクムに対して、チユリはやはり不満があるらしく左腕をブンブン振り回すが、テルヨシはタクムの言う回復術師の凄さを十二分に理解していた。

 少なくともハルユキが持つ《飛行アビリティ》と勝るとも劣らないレアな能力であることは確かで、対戦格闘ゲームにおける回復能力というのは考えただけで反則に近いほど強力なもの。

 現にそれに近い能力を使うパドの《バイタル・バイト》は攻撃と回復を両立できる優秀さでズルさ満点。

 しかし、テルヨシは驚きと同時に頭のどこかで冷静な部分が今の現象を分析。

 そこから生まれたわずかな『疑問』が本当に回復能力であるのかを疑う。

 

「チユチユー、もっかい使ってくんないかな。んで次はハルユキ君にやってもらいたいことがある」

 

 その疑問を解決するために、テルヨシは外野から2人にそれぞれ指示を出して、意図を理解できていないながらもハルユキとチユリは先輩の指示とあって素直に実行に移し、また4回ほどぶっ叩かれたハルユキは、今度はそれで溜まった必殺技ゲージを消費するために飛行アビリティで翼を無駄に駆動させて空っぽにし、そこへすかさずチユリが必殺技を発動。

 さっきと何が違うのかとハルユキとタクムは思いつつも、同じ現象でハルユキのHPが回復しきったのをやはり凄いと思ってるようだが、テルヨシはその『過程』で疑問を解決。

 その結果チユリの必殺技が『完全な回復能力ではない』ことを看破した。

 

「オッケー、ありがとね。一応ヤバイ能力だからデビュー戦とかは慎重にやった方がいいかもね。姫の判断もあった方がタクム君なんかは安心なんじゃない?」

 

「そうですね。チーちゃんはとりあえずデビュー戦は待って。ハルはできればこの事をマスターに直接伝えてほしい。あと無闇に人に話したりは絶対にしないで」

 

 疑問が解決してスッキリしたテルヨシは、とりあえずこの事は自分で気付いた方がいいだろうと判断してあえて教えず、先輩らしく3人にそんな助言だけしておき、タクムも慎重な判断で2人にそんな指示を出してからこの対戦は終了したのだった。

 実に面白いものを見せてもらったと思いながら現実世界へと戻ったテルヨシは、放課後にでもヒントくらいは本人に伝えようと思い今後の予定に組み込んでから、加速する前に自分が何をしようとしてたかを思い出して黒雪姫の方を再度見る。

 すると黒雪姫はテルヨシが加速したであろうことを不思議な間で理解したらしく、どうする? と目で訴えてきたので、当然やると再び加速しようとしたが、それより前に恵が生徒会の仕事を黒雪姫へと持ち込んでいってしまったため、結局その時間は遠慮して対戦は諦めた。

 その後もさすが副会長。

 ひっきりなしで仕事が続く黒雪姫を見て、今日はもうダメだなと完全に諦めたテルヨシは、春休みでお預けとなっていた黒雪姫との1日2回の対戦を明日へ持ち越しとして放課後を迎え、決めていた通りにチユリに会うためメールを送って玄関で待ってもらった。

 待っていたチユリは、これから部活であろう道具を持ったままテルヨシの姿を発見して何ですかと直球の質問をぶつけてくるが、その後ろの玄関の出入り口に隠れるように陸上部の女友達2人が顔を覗かせてるのを見つけつつ、テルヨシはまぁいいかと無視して伝えるべきことだけ伝えた。

 

「チユチユの『アレ』ね、ちょっと違うと思うんだよね。だから思い込みは禁物」

 

「えっ? それってどういう……」

 

「ああ、あと困った時はいつでも頼ってくれよ。チユチユのためだったら頑張っちゃうからさ」

 

 テルヨシの突然の言葉に何か詳しく聞きたそうにしたチユリだったが、生憎とテルヨシもバイトがあるのでゆっくりしていられないと、最後にそう言ってからチユリの頭をポンポンと触ってから校舎を出て、その際に覗き見ていた2人に軽く手を振ってそのままバイトへと向かっていったのだった。

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