アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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「このままオレはここで朽ち果てるのか……」

 

 4月とは思えないジリジリと肌を焼くような陽射しの中、白い砂浜に敷かれたシートでうつ伏せで死んだように寝ていたテルヨシは、生気の抜けかけた顔をしながらそんなことを口から漏らす。

 テルヨシ達が修学旅行で沖縄へとやって来てはや3日。

 16日の火曜日にあたるこの日は、生徒が事前に選べる2つの旅程プランのうちで黒雪姫と恵と同じ那覇→辺野古→与論島→那覇というコースで、今は沖縄本島の中部南側に位置する辺野古ビーチでこのあと行われるシーカヤック・ツアーまでの時間潰しをしていた。

 だが、暇潰しというよりもすでにテンションそのものが低くなっているテルヨシ。

 始めこそ黒雪姫や恵がウザいと思うほどにハイテンションではしゃぎまくっていたテルヨシだったのだが、2日もすれば溜め込んでいたものを吐き出し尽くしてしまい、現在完全燃焼気味というわけである。

 それが大きな理由ではあるが、やはり東京に置いてきた家族、マリアのことが心配で心配で仕方ないのだ。

 一応、毎日夜にボイスコールで話をしてくれているのだが、それだけではマリア成分が足りなく、直接触れられないことにも絶望してしまっていた。

 

「長い……こんなに長く感じる日々は生まれて初めてかもしれん……」

 

 そのテルヨシのすぐ近く。

 日除けのパラソルが立つデッキチェアで黒のビキニの上から上着を1枚着た黒雪姫が、テルヨシに呼応するようにポツリと呟く。

 彼女もテルヨシと同様、この旅行を楽しんではいたのだが、やはり東京にいるハルユキに会いたいのか心からは楽しんでいないようだった。

 そんな2人を見ながら本当に怒る1歩手前のワンピース水着を着た恵は、腰に手を当てて府抜けた2人に渇を入れる。

 

「2人ともなんなんですの! それは帰りを心待ちにする殿方や妹のいないわたしへの当てつけですの?」

 

「待って恵……いま充電中だから……」

 

「決してそんなつもりはないぞ! ないのだが、そう感じさせてしまったならすまないと思う」

 

「もう……とりあえず姫はさっさとあの子にコールして差し上げなさいな。学校の昼休みは無限ではありませんのよ」

 

 とりあえず死んでるテルヨシは無視されて、当初の予定であったハルユキへの水着披露をするために自前の旧世代カメラを取り出して設置し始めた恵は、モジモジする黒雪姫を強引に海をバックに立たせてカメラの映像をニューロリンカーとリンクさせハルユキへとメールを送っていた。

 その様子を横目に暑くなってきたので海にでも入って涼もうと重い体を起こして歩き出したテルヨシだが、その途中にボイスコールがあり誰かと視界の表示を確認すると、意外や意外。相手は倉嶋千百合。

 相手がチユリとあってはテンションを上げないわけにはいかず、海に浮き輪を浮かべつつそれに乗ってからボイスコールに応答。

 

「はいはーい。チユチユの頼れる先輩だよー。どうかしたのかな?」

 

『あの、修学旅行中にすみません。話すかどうか迷ったんですけど、私だけじゃどうすればいいか考えがまとまらなくて……だから力を貸してください』

 

 始めの応答こそいつもの調子だったテルヨシ。

 しかし聞こえてきたチユリの声にいつもの底無しの元気を全く感じなく、話自体も何やら重い雰囲気を感じた途端、スイッチを切り替えて詳しい事情を話すように言い、それで口を開いて話し始めたチユリの話に、テルヨシは驚愕した。

 まずテルヨシ達が旅立った日曜日に、ハルユキが噂の新入生バーストリンカー、能美征二の罠によって女子更衣室へと入れられ、そこにいたチユリと遭遇。

 幸いその場はチユリの機転で他の女子が気付く前に逃がすことに成功したが、翌日にハルユキが女子更衣室に入る瞬間を撮影した映像を撮られていたことで反抗できなくされた挙げ句、直後に対戦した能美はハルユキから《飛行アビリティ》を強奪したというのだ。しかも永久的に。

 そして翼を無くしたハルユキは抗う力をも失って今日に至っていると言う。

 この件で黒雪姫とタクムにも助けを求めるなと命令されてしまったらしいが、幸いテルヨシは対戦バカとでも思われていたのか対象外で、それで迷いながらもこうして連絡をしてきたということ。

 ――アビリティの強奪。

 そんな能力は初めて聞いたテルヨシだが、加速世界において初めてのことなど結構あるので驚きはあったが不思議ではないと感じる。

 しかしそれほど強力で無慈悲な能力ならば、当然なにかしらの制約はあるはずで、同時にそんな能力を生み出した能美という少年のバックグラウンドがぼんやりと見えてなんとも言えなくなる。

 

『それで……ついでに私を愛玩ペットにするって……言われて……』

 

 ピキッ、と、そこで本来聞こえるはずもない何かが切れるような音がテルヨシの内に発生したのだが、何故かチユリにも聞こえたらしく、えっ? と言うチユリの声の後、静かに口を開いた。

 

「あー……そうね。これはオレにも責任あるな。うん、やっぱ大切なものは自分で守らないとダメだわ。チユチユ、先週に言ったオレの助言。あれの『答え』を教えるよ。さすがに今から東京に帰るなんてできないから、苦しいだろうけどチユチユには今の逆境を覆せるだけの可能性がある」

 

 今、自分の表情を見た人物がいなくて助かった。

 そう思いながらチユリに以前ヒントを与えていた《ライム・ベル》の回復術師としての能力の本来持つであろう力の詳細を教えたテルヨシ。

 もう自分で気付けとか言ってもいられないからの仕方ない対応ではあるが、そんな期待を込めたチユリの成長過程を無視してでも今のテルヨシは能美を許すことはできなかった。

 ――誰が誰の愛玩ペットだと?

 大切な後輩をそんな風に罵った相手にひと泡吹かせるため、テルヨシは少々チユリに辛い思いをしてもらうことを覚悟しつつ、状況を打開する策を授けるが、そのためにはいくつか確認しておかないといけないこともあり、まずはその下準備に動いてもらうことにして、

 

「できるかな、チユチユ」

 

『…………それができれば、私が「ハルの翼を戻してあげられるかもしれない」んですよね…………やります。テル先輩のこと、私は信じてますから、辛くても、耐えてみせます』

 

「ごめんね。オレがそっちにいられればチユチユに辛い思いをさせずに能美を地獄に落としてやれるんだけど」

 

 ひと通り話し終えてから確認の意味を込めてそう尋ねると、強い決意と共に嬉しいことを言ってくれるので、調子に乗ってめちゃくちゃ物騒なことを言いチユリを苦笑させるが、笑うだけの余裕ができたなら良かったと言ってから、また夜に連絡してくるように指示してボイスコールを切った。

 その頃に黒雪姫の方もハルユキとの連絡を終えたようで、その顔に焦りなどが見られないことからやはり話は通っていないとわかり、テルヨシの方から伝えてハルユキのためなら何をやらかすかわからない黒雪姫を動かすわけにもいかないと考えて、とりあえずは向こうだけで動いてもらうことにした。

 自分と黒雪姫不在の梅郷中学校で悲惨な事態になっていることを知ったテルヨシだが、今してあげられることはしてあげたので、チユリを信じて迷惑をかけまいとしてくれた気遣いを無駄にしないように修学旅行に意識を持っていき、シーカヤック・ツアーはサボるとか言い出した黒雪姫と恵を置いて他の生徒と合流し無事に歩けるようになったことでできるようになったことを楽しむのだった。

 そうして復活したテンションで午後の3時にシーカヤック・ツアーから戻ったテルヨシは、一旦ホテルへと戻って着替えてから夕食までの時間をサボっていた黒雪姫と恵と一緒に散歩兼買い物に使う。

 黒のキャミソールに七分丈のレギンスの黒雪姫と、薄い黄色のワンピースを着た恵に、アホみたいに派手なアロハシャツと薄茶のハーフパンツとサンダルを履いたテルヨシは、元は米軍のキャンプ地が縮小してできた跡地に開発された辺野古のマリンリゾートのホテルからビーチに向かう道中の両側にある色々なショップを見て回り、時折見える他の生徒のお土産の話に自分もどうするかを少し考えていると、黒雪姫と恵が何やら面白い話をしていてすかさず参加。

 

「なになに? 互いに何か買って帰ったらプレゼントし合うって? オレも混ーぜてっ!」

 

「テルは一方的にプレゼントする側ですわ。殿方なのですから」

 

「期待せずにいてやるから気楽に選んでくるんだな」

 

「おおぅ……それでもいいけどなんか理不尽だYO……」

 

 露店の品を見ながら黒雪姫が恵にプレゼントし合うような提案をしていたので参加表明をしてみるも、2人はテルヨシへのプレゼントは買う気がないらしく意味不明なラップ調でそれでもいいかと了承。

 これで2人の好感度が上がるなんて少しもないわけだが、入学以来の付き合いを考えれば日頃の感謝を込めてでいいかと自分を納得させて、別行動で30分後の4時にホテルの入り口で落ち合うことにしてプレゼント捜索を開始。

 こうなったら何がなんでも2人が喜ぶプレゼントを用意してやる!

 そんな意気込みで女の子が入るような店にも躊躇なく入ってマジな顔でプレゼント選びをするテルヨシに、店員さんが若干ひきつった顔をしてくるが、そんなことは関係ない。

 うんうん唸りながら品定めをしていたテルヨシだが、そんな時にバシィィイイ! と加速した時の音が頭に響き渡り、まさかこんなところで対戦かよ姫……

 などと思って表示されたメッセージを見れば、驚くことに自分が観戦者として入ったことを知らせてきていた。

 つまり黒雪姫が何者かに乱入を受けたことになる。

 昼頃にチユリからのボイスコールに応答していたように、テルヨシも黒雪姫も沖縄に来てから1度、確認のために加速して他のバーストリンカーがいないかは調べたのだが、当然こんな辺境とも言える地に他のバーストリンカーがいるはずもなく、安心してそれからずっとグローバル接続をし続けていた。

 よくよく考えたらグローバル接続してなかったはずのチユリがボイスコールできたことに今さらながら疑問が沸いたが、そこは学校を出てでも連絡してきたのだろうと勝手に解釈。

 黒雪姫は生徒会のサーバー経由でハルユキとのコンタクトを取っていたから職権濫用。

 それはそうとと、頭を切り替えて構築された対戦フィールドと自分の姿、対戦相手の確認を始めたテルヨシは、白砂の地面に苔やツルに覆われた岩のオブジェクトに古めかしい岩を積み重ねた壁などのフィールドを見て《古城》ステージに似てるとは思うが、どこか違う感じがして沖縄ならではのステージなのかと予測しつつ、視界上を確認。

 

《Lagoon Dolphin[Level5]》

 

 ラグーン・ドルフィンと読める相手のレベルは5。

 それなりに高いレベルなのに東京では聞いたことのない名前のため、梅郷中学校以外の東京都心の小中高校の修学旅行生という可能性は限りなく低い――そもそもそれなら黒の王に挑もうなどと思わない気もする――が、一応警戒はしつつガイドカーソルが示す方向へと駆け出した。

 

バカ(フラー)(ワージ)待ってろよ(マチヨーケヨー)

 

 ガイドカーソルが消えた辺りで城壁の角を曲がった途端、一瞬なんの言語かわからない声が聞こえてきてそちらへと向いたテルヨシ。

 そこでは尻餅をついていた見慣れないサンゴ色のF型アバターと海色のF型アバターが何やら言い合っていて、その手前、テルヨシの近くには背中を向けた黒雪姫がどうしたものかといった雰囲気でその様子を見ていた。

 

「だ、だってぇー。ルカちゃんすぐ無茶するんだもン……」

 

うるさい(カシマシー)! 掛け試し(カキダミシ)やっさー、当たり前だろ(アテーメーテ)!」

 

 サンゴ色のアバターは標準語を話すのに対して、おそらくはドルフィンであろうもう1人は、よくよく聞くとかなり強い訛りの沖縄弁のようで、正直英語を聞くより理解しにくいと思う。

 よくもまぁ日本語だけでこれだけバリエーションがあるなぁ。

 と、日本各地の方言を思い浮かべながらに黒雪姫の視界に入る位置まで移動したテルヨシは、そこでようやく言い合いをやめてこちらを向いた2人にフリフリ手を振っておく。

 

「うわっ! ルカちゃん、1人増えてるよぉ!」

 

「慌てることねー! たぶん《師匠》より低いレベルだった方だ。お前ら、あのホテルに泊まってる修学旅行生だな!」

 

 テルヨシの登場にビックリした1人に、ドルフィンはそう言って沖縄弁を抑えてズビシッ! とテルヨシ達の泊まるホテルの方を指差してそんな質問をぶつけてきて、色々と情報の欲しいこちらも黒雪姫が口を開く。

 

「……そういうお前達は、旅行者ではない……つまりこの地に住まうバーストリンカーか?」

 

 おそらく探りを入れるつもりでした質問返し。

 これに真面目に答えるようならだいぶ警戒心が薄いと思うが、

 

「アッテーメ……じゃない、当ったり前だ! ワンは先祖代々の沖縄人(ウチナーンチュ)だ!!」

 

「あ、い、いちおうあたしもです」

 

 素直に堂々と宣言してみせてズルッと肩の力が抜けるテルヨシ。

 これは警戒とか以前にこちらの常識と違いがありそうな気がしてならなかったが、この2人が生粋の沖縄人だというのならば、先ほど言っていたレベル7であろうバーストリンカーが何らかの事情で東京から越してきて彼女らを子にした可能性が高い。

 2人が対戦者と観戦者の関係にありながら10メートル以内に接近できているのは、2人が親子であるからだろう。

 事情に関しては自分の親であるリュウジのようなものだと予想はつくわけだが、そんな考えに黒雪姫も行き着いたらしく、そういった経緯に興味が沸いたのか一言「面白い」と漏らした。

 

「おっ、やる気だな! よーし、ワンと一本、手合わせ願おう!」

 

 しかし黒雪姫の呟きはドルフィンには別の意味に捉えられたらしく、サンゴ色のアバターを下がらせてから、ちあきが似たような型を使っていた、おそらくは空手の構えで黒雪姫と対峙。

 こうなれば黒雪姫も結構なバトルマニアなので真っ向から立ち向かうが、珍しく相手に合わせて身構えて、黒の王として胸を貸すつもりで相手の出方をうかがう。

 

「き、気をつけてルカちゃん! 相手、レベル9なんだからね!」

 

「へん、どってことないさー! 師匠とたった2つしか違わないだろ!」

 

「そうだ、レベルなどただの数字だ。臆せず、全力で来い!」

 

「言われなくても!」

 

 どうにもレベル9の意味すらよくわかってないっぽい2人に知識の欠如が見られて師匠とやらのレクチャーの甘さが浮き彫りになるが、そのおかげで黒の王に乱入するという勇敢な行為ができてこうして手合わせができているのはドルフィンにとって良い経験になるだろう。

 そんなことを思いつつ猛烈な突進から攻撃に出たドルフィンと迎撃に動いた黒雪姫を横目に、オドオドした雰囲気のサンゴ色アバターの方に近付いて城壁を背に隣り合って座り、2人の対戦を見ながら会話を試みる。

 

「君の名前は?」

 

「えっと、糸洲真魚(イトスマナ)ですぅ」

 

「ブッ!!」

 

 とりあえずアバターの名前をと思って質問したのに、いきなりリアルネームらしき名前を口走ったマナに、今日一番の驚きで噴き出すテルヨシ。

 それにはマナもビクッと肩を跳ね上げるが、これは本格的に師匠とやらをどうにかしないといけない。

 

「じゃなくて、マナちゃんのアバターの名前を聞いたんだけど、もういいや……」

 

「あ、すみません。アバターは《コーラル・メロウ》と言いますぅ」

 

「そ、そう。オレは《レガッタ・テイル》ね。みんなはテイルって呼ぶからそれで」

 

 と、もうリアルネームをバラしちゃったマナの独特なペースに苦笑しつつ、ようやく自己紹介を終えて1度対戦へと目を向け直すと、どうやら打撃戦を仕掛けるドルフィンに持ち前の絶対切断能力で部位欠損させないような戦い方で実力を計っている黒雪姫が、なんだか楽しそうにしていてひと安心。

 ここで容赦なくバッサバッサと腕や足を斬り飛ばしたら楽しむも糞もない。

 

「ああやって対戦を申し込んだのにはどんな目的があったの? オレよりレベルの高いあっちを選んだ辺り、強い人を意図的に選んでそうな感じだけど」

 

「テイルさんは凄いですぅ! そんなことまでわかっちゃうんですかぁ!」

 

 次にこの乱入の目的について予測をしつつマナに尋ねてみると、本当に感心したのか尊敬するような視線でテルヨシを見たマナは素直な称賛を贈り、裏のない誉め言葉に普通に照れてしまった。

 

「実はあたしたち、今とっても困ってまして、それを解決するために投げやりになってしまった師匠に渇を入れられる強い人を探してるんですぅ」

 

 テルヨシを誉めてから正直に事情を話したマナに、詳しい事情はわからないまでも困っていることだけは理解できてふむと一考。

 加速世界に関する問題なのは間違いないが、問題ありそうな師匠も一応はハイランカー。

 そんな人が投げてしまうほどの問題となると結構深刻なのではないか。

 そう考え至ったテルヨシは、とりあえず黒雪姫を交えてどうするかを決めることにして対戦にまた目を向ける。

 ブワッ! と、その瞬間に空気が震えるような気配がテルヨシを襲い、何事かと2人を凝視すると、ドルフィンが深く体を沈めて右回し蹴りを放ち、それを黒雪姫が左の足を地面に突き刺してその腹で受け止めていた場面で、またバカげた防御をすると呆れる。

 通常対戦フィールドの地面は特定の地形――《腐蝕林》ステージの毒沼など――を除いて基本、破壊不可の設定がされているので、黒雪姫のやったことは小規模ではあるがその常識を覆したスゴ技。

 当然蹴りにいったドルフィンも隣のマナも驚愕で動きが止まり、ゆっくりと地面から足を引き抜いた黒雪姫は止まった時を動かすように口を開いた。

 

「さて……次はこちらも攻めるが、まだ続けるつもりはあるかな? あるいは、ここでドローとするのもやぶさかではないが」

 

「も、もう充分だよルカちゃーん! こっちのお兄さんも凄そうだし、この人達にしようよー!!」

 

 圧倒的な実力を見せつけた黒雪姫に対して、隣のマナはそんなことを言ってもうやめようと促すが、ルカというのがおそらくドルフィン。

 イルカの別称ではなくリアルネームなんだろうなと考えつつ、右足を思い切り地面に叩きつけたドルフィンの答えを黙って聞くテルヨシ。

 

「…………まだまだッ! 沖縄(ウチナー)武士(ブサー)が、本土(ヤマト)(サムレー)負けられるか(マキララン)ッ!!」

 

「……その《武士》と《侍》はどう違うんだ?」

 

「決まってる! (ティー)で闘うのが――武士だッ!!」

 

 実力差を見せつけられて尚、勇敢に黒雪姫へと向かって突撃していくドルフィン。

 一応マナがティーが空手のことであると補足してくれるが、チリッと伝わった感覚はこの激突で決着することを直感させる。

 突撃したドルフィンは間合い1メートルほどのところで両腕をぐっと脇に引き絞り、硬く握った拳に鮮やかな青い光を放ち、腰を低く落としてから胸を張り、

 

「――《タイダル・ウェーブ》!!」

 

 必殺技発声から左右の拳が交互に高速で撃ち出されて、弾幕のようになって黒雪姫へと襲いかかる。

 しかし黒雪姫もそれより早く始動していて、右膝を高く上げ、左足を支点に上体を地面と水平まで倒して右足をドルフィンに向けて伸ばしながら、同じく必殺技発声。

 

「《デス・バイ・バラージング》」

 

 繰り出された単発の横蹴り。

 スピードもパワーも感じさせないものだったが、その蹴りがライトエフェクトを発生させた瞬間に凄まじい速度で無数に分裂。円錐上に広がって飛ぶ斬撃は刃の弾幕。

 両者の連撃系の必殺技は、激しい激突で衝撃を周囲に撒き散らしわずかな拮抗を見せるが、黒雪姫の弾幕の方が手数で上回って、相殺しきれなかった分の斬撃がドルフィンの体を撃ち抜き、HPゲージを残り1割ほどにまで削って遥か後方へと吹き飛ばした。

 吹き飛んで宙を舞ったドルフィンはそのまま地面に激突すれば残りのHPゲージが吹き飛んでしまうと瞬時に判断した黒雪姫は、着地点に先回りしてドルフィンを受け止めて地面へと足から着地させてあげると、状況を理解できていなさそうだったドルフィンは、少しして黒雪姫へと片膝をついて拳を地面に当てて潔く「参った!!」と叫ぶのだった。

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