結論から述べるならば、テルヨシのメッセージに応じた王は、赤の王を除いて3人。
青の王《ブルー・ナイト》、黄の王《イエロー・レディオ》、紫の王《パープル・ソーン》。
彼、彼女らはそれぞれにテルヨシへの興味と勧誘も含めた会談を求めて、それぞれ週末の日曜日に場所を指定して話をした。
テルヨシがした質問は、先日ユニコにしたものと全く同じもので、それには王達もすぐに答えて終わり。
そのあと3人とも言ってみるだけの勧誘の言葉をテルヨシに述べたが、テルヨシの回答は全てNO。もちろん《プロミネンス》にも断りを入れていた。
その理由は、4人の王達への質問の回答によるもの。
テルヨシは「今の加速世界を良しとするか」「レベル10になりたいか」「ブレイン・バーストを楽しんでるか」。
この3つの質問に対する4人の回答だけで今の加速世界を「つまらない」と結論付けたのだ。
現在のブレイン・バースト。加速世界は『停滞』している。
これは昨年の夏に、ほぼ同時にレベル9となった黒雪姫達《純色の七王》が、レベルアップ直後のシステム・メッセージによってレベル10へと至るためのルールを知ったことによって起こった事態。
そのレベル10へ至る道は『同じレベル9バーストリンカーを5人倒すこと。ただし、負けた場合ポイントは全て相手に移って全損しブレイン・バーストを強制アンインストールされる』という残酷なもの。
これにより王達が選んだ選択が、王達で戦わずレギオンでの領土不可侵条約と分割支配をするという選択。
しかしそんな取り決めが決まる前に、その意見に抗った王がいた。
言わずもがな、黒の王《ブラック・ロータス》こと黒雪姫である。
彼女は王が一同に介した場で不戦を訴える王の首の1つを落とし、他の王の首も狙うが失敗。
それから黒の王は加速世界一の裏切り者とされ、賞金首にまでされている。この時に首を落とされたのが初代赤の王《レッド・ライダー》である。
そして何故、黒雪姫がそうまでしてレベル10になろうとしたのか。
それは予測にはなるが、システム・メッセージはこうも告げていたらしく、『レベル10へと至ったバーストリンカーは、プログラム製作者と邂逅し、ブレイン・バーストが存在する本当の意味と目指す究極を知らされる』と。
今から6年前に東京都内の当時小学1年生100人に配られた製作者不明の謎のアプリケーション、ブレイン・バースト。正式名《Brain Burst 2039》は、その製作元も何もかもが不明のまま、バーストリンカーにただ1度だけ与えられたコピーインストール権でその数を少しずつ増やしながら、幾度のアップデートを経て今日存在し続けている。
黒雪姫はおそらくそのブレイン・バーストの存在理由を知りたかった。
だから王達が揃う一世一代のチャンスに無謀とも言える行動に出て、その後も梅郷中学校を隠れ蓑に潜伏している。
ブレイン・バーストはレベル10に至るとゲームクリアになる。という予測論もあり、そうなった場合、バーストリンカー達はその瞬間に強制アンインストールされるなんて危惧も相まって今の加速世界は停滞している。
何せ製作者も何にもかも不明で、何が起きても不思議ではないのだから。
そんなことをデビュー戦前に自らの親から聞いていたテルヨシは、1度自分自身で王達と話して、それからこれからの自分の加速世界での在り方を見出だそうと考えていたのだ。
まだ2人の王に会えていないが、それでもテルヨシが決断するには十分な回答が得られたため、テルヨシは明くる月曜日に学校で黒雪姫と話をしていた。
「『無所属のまま自由に加速世界を楽しむ』か。テルらしいな」
「情報を集めた結果、6大レギオンは今『領土戦ごっこ』をしてるわけだろ? んな縛りプレイこっちからお断りだ。領土ってのは取って取られてが楽しいんじゃねーの? せっかくの貴重な集団戦を台無しにして何が楽しいんだっての」
「まったくだ。タッグ戦はいつでもできるが、それ以上の集団戦など《通常対戦フィールド》では領土戦しかないというのに、バカバカしいにもほどがある」
そんな話をする2人は現在、昼休みの屋上の片隅でベンチに座っている。もちろんテルヨシは車椅子に座っているが。
「とは言ってもテル。これから具体的に何をするのだ? もちろんレベル上げは底辺にあるとしてだが」
「簡単簡単。平日はまぁバイトで動けないけど、日曜にテキトーに都内のどこかへ行って対戦三昧しようかなって感じ。あとは領土戦をどうするか悩み中。その他に何か思い付いたらどんどんやってくつもりではある」
「行動自体は割とポピュラーだな。しかし多くの中小レギオンのバーストリンカー達は基本的に領土戦には出張ってこないからな。だから6大レギオンが『ごっこ遊び』で占領し続けられているわけだ」
「そこは上手くやるって」
先程から2人が言っている領土戦は、レギオンが戦域で『自分の領土だ』と旗揚げした戦域で、毎週土曜の夕方の特定時間内で行うことのできる3対3以上の集団戦。
そこで勝率5割以上をキープすることで占領し続けることができるというもの。
当初はレギオン間によるしのぎを削るような領土の取り合いを目的としたシステムだったと予想できるが、今は6大レギオンによる不可侵条約でその機能をほぼ失ってしまっている。
6大レギオン間で今は勝率キープを作業とした温い対戦が行われているのが現状。これをテルヨシと黒雪姫は『ごっこ遊び』と称しているのだ。
もちろん6大レギオン以外にも中小規模のレギオンはたくさん存在し、旗揚げをしようとするレギオンもあるが、やはり6大レギオンの領土を奪うまでの力と持続力がないのだ。
「それでちょっち相談なんだけどいいかな、姫?」
「言ってみろ。聞くのはタダだからな」
「ほら、姫っていま潜伏中じゃん? だから加速世界の最新情報とかって入手しにくいんじゃね?」
「手に入らないこともないが、まぁその通りだな」
「そこで! このテルさんが毎週集めた情報を姫にモッサリ教える。その報酬に姫はオレに対戦で実戦訓練をする。どうよ、悪くない話だろ?」
「確かにそれなら私のポイントが減ることはないし、加速世界の状況をおおむね把握できるな」
「……今さらっとオレには負けない宣言したよね、姫」
「いや、今のテルでは万に一つも勝てんさ。せめてレベル6にでもならないと競り合いもできない。ポテンシャルの差というのはそれなりに大きいのだよ。だがまぁその話、甘んじて受けようではないか」
黒雪姫の言葉に納得しかねるものも感じながら、テルヨシはとりあえず交渉成立に安堵して、残りの昼休みを雑談で過ごした。
テルヨシの黒雪姫との対戦の狙いは、もちろん経験値稼ぎ。
バーストリンカーにはバーストポイントを稼ぐという主目的があるが、そのためには対戦で勝たなくてはならない。そこで生きてくるのが幾多の対戦による経験値である。
具体的に言うなら、対戦知識や戦術のバリエーション。その他多くの『見えない数値』が、勝敗を分けると言っても過言ではない。
だからこそテルヨシはただ7人しかいないレベル9バーストリンカーが近くにいるこの状況を利用したのだ。
もちろんそれは黒雪姫もわかった上で承知したことになる。
そして放課後はテルヨシにとってバイト初日となる。
結局バイト中の乱入については『同じ対戦者には1日1度しか乱入できない』というブレイン・バーストのルールを念頭に置き、あとは気合いで戦って消化することにしたテルヨシは、開き直ったような顔で練馬区へと足を踏み入れて、バイト先であるケーキ屋に到着した。
ブレイン・バーストの対戦は最長で30分。現実時間では1.8秒である。
この現実時間との体感時間の差は、バーストリンカーにとって結構な疲労に繋がる。
重ねて加速中はただ黙って寝てるわけでもなく、対戦相手との激闘を繰り広げるのだ。
そんな対戦が何度も続けば、当然現実の身体と精神にも影響が出てくる。
だからこそテルヨシはこのバイトが始まるまでにその乱入に対しての対策を練ったのだが、これだというものはなかったので腹を括ったのだ。
しかしテルヨシもヤケになったわけではない。過去にテルヨシは自らの親《レイズン・モビール》によって『1日100戦組み手』などという桁外れの対戦を1週間も続けたのだ。
それに比べれば対戦の疲労は問題ないはずで、そこに現実でのバイトによる疲労がプラスされてどうなるかというところが最後の問題。
ちなみに直結による相手との対戦では対戦回数に制限がないので、テルヨシが行なった組み手なども可能で、悪質なバーストリンカーはリアルアタックで直結対戦を繰り返しポイントを全損させるなんてこともする。故にリアル割れは危険なのだ。
そんな背景がある中、テルヨシが店の裏から中へと入ると、待ち構えていたようにメイド服姿のパドが姿を現した。
「テル、ネットに接続して」
「やほー『ミャア』。いきなりどうした?」
「
相変わらずの短縮語とせっかちなパドに押される形で、よくわからないままニューロリンカーをグローバル接続したテルヨシは、それを確認したパドに「タッグ登録して」と言われ、流されるままブレイン・バーストのコンソール画面を開いて、そこからプレイヤーリストを表示。
そこにあった《Blood Leopard》を選択しタッグ登録をした。
ちなみにバイト中にパド呼びは色々あれなので店長がそう呼んでいたのを真似て、どんな由来かは知らないままミャアと呼ぶことにしたテルヨシだった。
「私とタッグを組んでる間はプロミの人はテルに乱入しないように伝えてある。これでバイト中の乱入はプロミ以外のタッグに絞れる」
タッグ登録を終えたパドは、早口でテルヨシにそう説明すると、テルヨシのターンとでも言わん感じで沈黙。
ここで何も言わないと何も聞けないままパドはバイトに戻ってしまうだろう。
「ミャアとバイトが被らない日とか時間は?」
「そこは頑張って。プロミのメンバーにはテルと戦いたいって人もいるから」
「タッグでも乱入はされるけど、ミャアはいいのか?」
「NP。ただ私もテルとは戦いたいから、忘れないで」
そう言ってパドは足早に来客用スペースへと行ってしまう。
おそらく仕事のちょっとした時間でテルヨシにコンタクトしたのだろうことがうかがえた。
対戦ではタッグ登録することでその対戦を限定することができる。
限定とは言うが、要はマッチングリストにタッグでしか出てこない中、1対2で戦おうという猛者以外は同じタッグしか挑んでこないためだ。
さらにパドがプロミネンスのメンバーに乱入をしないようにとまでしたので、バイト中の乱入は数えるくらいにまで激減することになる。
そして何故パドがここまで配慮してくれるのかを少し考えたテルヨシだったが、対戦で疲労してバイトでミスをすれば、負担がかかるのは同じ職場の人間。
だからパドは自分に被害が出ないように対策を施した。それがわかってしまうと苦笑するしかなかった。
しかしこれからプロミネンスの副長でそれなりのハイランカーだと聞いたパドを隣で見られるのはテルヨシにとってはラッキー以外の何物でもない。
黒雪姫とも対戦を約束しているテルヨシは、今の自分の環境によだれが出そうになるが、それをなんとか堪えて、これ以上突っ立っていると店長にもパドにも怒られかねないと考えつつバイトに取りかかっていった。
まともな厨房用の制服を着て、視界に表示されるケーキのレシピの通りに淡々と作業をこなすテルヨシは、こんな真面目にケーキ作りしたの初めてだな。
などと思いつつ、慣れた手つきで焼いたスポンジにクリームを塗る。
厨房にはテルヨシの他に女性店員と男性店員が1人ずついて、1人1人で作るケーキを種類別で分担して、店長が一流パティシエールということで仕上げなどを基本的に担当している。
その中でもテルヨシは他の店員と遜色ない手つきで作業をこなすので、女性店員は感心と何やら可愛いものでも見るような目でテルヨシを見て、男性店員は普通に感心していた。
こういう時に心理学をやっていたテルヨシは、その表情や仕草から内心がなんとなくわかってしまって苦笑。
女性店員からはテルヨシに対して『可愛い後輩か部下ができた』みたいな感情を読み取り、男性店員からは『負担が減る』といった安堵の感情を読み取っていたが、店長は厳しめな評価っぽく、足は引っ張らないかなくらいで気が抜けない。
――バシィィイイ!
そんな時にテルヨシの頭に響いたのは、聞き慣れた思考の加速を示す音。
途端に今まで見ていた店員達や室内が青く染まって止まり、視界には【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】の炎文字。
続けて店員達の姿が消え、青く染まった世界が対戦フィールドへと構築されていき、最後にテルヨシの姿がデュエルアバターへと変わる。
「《風化》ステージ。パドは得意か?」
「得意とは言わないけど、苦手ではない」
対戦が始まって早々に合流してきた暗赤色の豹頭アバター、パドにテルヨシはそんな第一声を放つと、それに短く答えたパドはすぐに作戦をテルヨシに伝える。
テルヨシも視界上の上下で並ぶ2人分の相手の名前を確認しながら、自分の名前の下にパドの名前があることも確認しつつ聞き耳を立てる。
「相手は近接系の2人組。レベルのトータルは同じだけど、あっちは3と4。たぶんレベル1のテイルを速攻で倒して2対1でやるつもり。だからあえてそれを狙わせて、テイルが逃げに徹し私が狩る。K?」
「レベル1の新人には過酷な役割じゃね?」
「テイルの対戦は見たことないけど、話を聞く限り新人と呼べる実力じゃない。だからNP」
「そりゃ高評価をいただきありがとうございます。KだよK。了解した」
返事を聞いたパドは、それでテルヨシから離れて不意打ちを狙うために姿を隠す。
が、離れすぎるとガイドカーソルで方向がバレてしまうから難しい。
それにパドは赤系統。攻撃は遠距離型と見ていいはずだが、そこは経験者。考えあってのことだろうと信じてテルヨシは元気に動くガイドカーソルを見ながら、相手との接触を待った。
パドの予想通り、相手はテルヨシを見つけるや否や速攻を仕掛けてきた。
両者とも青系の近接で、その手にはそれぞれ斧とレイピアのような細剣が持たれていて、基本素手のテルヨシとはリーチで差があるが、今回のテルヨシは2人の攻撃の意識を自分に集中させて倒されずに逃げること。
自慢の外装《テイル・ウィップ》も使っての縦横無尽の動きは、さながら木々を飛び移る猿のようで、見ていたギャラリーも笑い半分感心半分といった感じだった。
しかし今回の《風化》ステージは、オブジェクトがとても脆くて壊れやすいため、テルヨシがテイル・ウィップで掴まった信号機の支柱などは、その重りに耐えられなくて折れてしまったりとかなり危ない。
実際その隙を狙われることが何度かあった。
だが、それでも作戦開始から5分くらいを無傷で逃げるテルヨシは、相手が苛立ってきたのを雰囲気で悟りつつ、視界左上のパドの必殺技ゲージを確認すると、ほぼ満タン。準備は完了したことになる。
「へい! 出し惜しみしてるとオレは倒せないってわかったんじゃねーの?」
そこでテルヨシはここまで必殺技も《アビリティ》も使おうとしない2人に挑発を含めた言葉を放つ。
おそらく相手は残すパドに全力を注ぐつもりでいたのだろうが、それが上手くいかずに、レベル1のテルヨシにまで挑発されては我慢もできず、武器に追加効果を付与するアビリティを使うが、冷静なテルヨシはそれをよく見て回避。
やることを1つに絞った人間の頑強さは、アビリティを使った程度では崩せないということ。
そしてそれなりにモーションの必要なアビリティや必殺技を使えば、その分隙もできる。そんな小さな隙を見逃さないのがハイランカー。
テルヨシに完全に意識を集中した瞬間に飛び出したパドが、相手1人を仕留めるのにかけた時間は、わずか5秒。
それを生で見たテルヨシも、余りの凄さに唖然。
そして一番の驚きは、姿を現したパドの姿。
今のパドはその手足を完全に地面につけての四足歩行で、尻尾まで生えた体もネコ科動物のそれと同じように引き締まって、その名の示す《レパード》。豹を体現していて、相手を屑った決め技も《噛みつき》。それもそれぞれただ1度の首元への圧殺である。
「
「……バリバリ近接の赤って……」
「型にははまらない」
相手2人を倒して、動物形態のままテルヨシにいつもの調子で声をかけたパドに、テルヨシは改めて驚愕。
本来遠距離型の赤系統でありながら、その戦い方はスピードとパワーを兼ね備えた近接型。それも青系統に引けをとらないレベルだ。
もしあの時パドと戦っていたら、その先入観から何もできずに敗北していたのが目に見えるようで、背筋に寒いものを感じたテルヨシは、リザルト画面を確認してから元の人型に戻ったパドに近付き軽く拳をぶつけ合って改めて勝利を祝う。
「対戦前の作業は覚えてる?」
「ん? ああ、ちょうど作業の止まった瞬間だったから問題ない。パドは?」
「NP。レジに立ってただけ」
「それにしても初めてのタッグにしては良かったんじゃね? オレとパド相性良いかもな」
「調子に乗らない。それに連携と呼べる作戦でもなかった」
「辛口評価だねぇ。豹だけに。なんちゃって」
それを聞いた瞬間、パドはバースト・アウト。
あまりに素早い離脱だったため、テルヨシは虚しさのあまりしばらくそのまま固まることになってしまった。
それからしばらくしてテルヨシとパドのタッグはそれなりに有名になり《
バイトも閉店に近付き、今日の制作分のケーキを作り終えて、明日の下ごしらえを始めていたテルヨシは、バイト開始初の対戦も数えて計3回の対戦をして全勝。
それによるところの勝因95%は言うまでもなくパートナーであるパドなのだが、テルヨシもテルヨシでパドに言われたことを確実にこなしていたので、結果としてパドのサポートに貢献はした。
対戦の最中、プロミのギャラリーから《
いずれ彼女や王達と並び立ち追い越すくらいのレベルを目指すなら、臆してはいけない。
というより、こんなことで腰が引けていては鍛えてくれた親に怒られてしまうと思ったテルヨシは、まだ足りない絶対的な対戦経験を積むことを当面の課題とした。
それからテルヨシはパドの使う変形必殺技《シェイプ・チェンジ》や、それで得られるアビリティにも少しばかり興味を持っていた。
アビリティは、デュエルアバターが持つ必殺技とは違った特殊技の総称で、他ゲームでのスキルなどに同じ。
明確な区分として、主に外部を対象に必殺技ゲージを消費して瞬間的に影響を及ぼす能力を《アクティブスキル》の必殺技。
自分を対象にして常時、または必殺技ゲージの続く限り発動し続ける能力を《パッシブスキル》のアビリティと区分する。
パドの四足歩行獣への変身、シェイプ・チェンジは、ゲージを消費して自らの体を別の姿へと変える必殺技に属し、黒雪姫ことブラック・ロータスの四肢である剣には《
テルの強化外装、テイル・ウィップを自在に動かす能力も《
こういったアビリティは、初期からアバターに備わっていたり、レベルアップボーナスで獲得するのが普通なのだが、低い確率で対戦中に習得することがある。
テルのスイッチ・アーマメントともう1つのアビリティもそれによる獲得で、テル自身のアバターには最初、強靭な両足とただの鞭としてのテイル・ウィップしか備わっていなかったのだ。
それらを踏まえてテルヨシは、パドの使うシェイプ・チェンジ習得の可能性を少なからず持ったのだ。
テルも外装とはいえ、尻尾のような武器があり、他のデュエルアバターより少し強靭な足を持つ。それらは十分な習得の条件に入っているだろう。
しかしそこは実際にレベルを上げてみて、必殺技として出てくれるかを期待するしかないわけなのだが。
それと、アビリティの習得はそんなに簡単なことではない。
それが容易なことならば、加速世界ではもっとたくさんのアビリティを持ったデュエルアバターがいる。
だが、実際アビリティを持つデュエルアバターは、平均しても2、3種類持って良い方。それだけアビリティ習得というのは難しいのだ。
テルヨシ自身、《レイズン・モビール》との地獄のような対戦がなければ、いま持つアビリティを習得することができなかったし、パドの必殺技やアビリティが絶対に欲しいわけでもない。
ただ、そういった可能性を考慮しているのといないのとでは、意識レベルで差が出る。つまりは習得の確率が変わってくる、かもしれないのだ。
そうこう考えていると、明日の仕込みも終わってバイト終了。
初日から店員達と仲良くなったテルヨシは、早くも世間話をしながら帰宅準備をして店の外へ。
そしてパド以外の店員が帰ってから、テルヨシはパドとタッグ登録を解除してグローバル接続を切る。
「バイト、どうだった?」
「楽しかったぜ。店の人も明るくて優しいし」
「テルはコミュニケーション能力が高い。見ててそう思った」
「まぁアメリカ育ちだし、英語使わないで生活してたから、こう、身振り手振りとかで感情表現するのが普通だったしな」
「それだけじゃない。たぶんテルが自然体だから、相手も自然と接することができてる」
「パドも?」
そんな問いかけにパドは言葉を使わずに少しだけ表情を和らげて答えると、テルも笑顔を返す。
「明日は早上がりだから今日みたいにできない。ミスしないで」
「うへぇ、早速かよ。でもまぁ、パドに甘えてばっかりもカッコ良くねぇし、頑張るよ」
それを聞いたパドは「じゃあ」と一言残して見送り、テルヨシもそんなパドに軽く手を振ってから帰路についていった。
その翌日以降から、テルヨシはパドとタッグを組まないバイト中にプロミのメンバーにイジメじゃないかというくらいの乱入を受けたりしていたが、それも含めて充実した日々を過ごしていった。