白熱していた《ヘルメス・コード縦走レース》から一変。
突然現れた10号機に乗るバーストリンカーの特大心意攻撃によってイベントどころではなくなった状況で、それでも何かできないかと思って、心意に大なり小なり心得のあるメンバーでボロボロのマシンに乗って進んでいたテルヨシ達。
進めど進めど心意によって赤錆色に朽ち果てたタワーの壁の道が続く中で、パドとアッシュのマシンが並走して周辺を警戒しながら話し合いをする。
「遠目でハッキリとはわからなかったけど、あの10号機に乗ってたのは、春先に《アキハバラBG》で《ローカルネット荒らし》をしていた《ラスト・ジグソー》」
「そいつって確か春先の時点ではレベル6だったわよね。そんなやつがこんな心意を使えるのが未だに信じられないんだけど」
「でも現実に起きちゃったんだから認めないとな。問題は先に行ってるネガビュとそのジグソーが競ってるのかってことかね。もし心意攻撃でネガビュが動けなくなってて、ジグソーが独走してたら、オレらじゃもうどうやっても追いつけないし」
「あのマシンには《黒の王》と《ICBM》も乗ってる。そう簡単に独走は許してないはず、と信じたい」
「その気になったら飛べる鴉もいんだし、ヘッドダウンしてるくらいならポジティブシンキングでいこーぜ」
先に進みながら、それぞれが持ってる情報を出してこの後の展開を予想するが、これ自体がもう無駄かもしれないと言うテルヨシにアッシュが珍しく正論を返してきたので、一同もそうであってほしいと願いつつ、このイベントのさらに先のことについても話しておく。
「とりあえずジグソーの攻撃が普通じゃないってことは大勢のバーストリンカーが気付いちゃったってことになるよね。それについてはどう対処する?」
「観客席の1つも侵食の被害に遭って、固定されていたHPゲージも減ってたはずだから、まず間違いなくシステムを逸脱した攻撃だってことは知られた」
「となるとあれね……2年半ぶりに『頭が集まって対策会議』ってところかな。またロータスが何かやらかさなきゃいいけど」
「その辺はギャラリーとして入って会議すれば問題ないんじゃない? つーか2年半前は何でバトロワモードで話し合いしたのとか思ってるんだけど……」
「それはライダーがみんなを信頼してるって言って、それに全員が応えたからよ。そうでもなきゃ腹を割ってサドンデスルールについて話し合いなんてできないでしょ」
「おうおう、初代《赤の王》ってのはメガ・クールじゃねーか。結果はトゥー・バッドだったみてーだがな」
このイベントによって心意システムの存在が表舞台に出かけてしまったことで、それの対策会議として2年半ぶりに《七王会議》が開かれるだろうと予想するガストに、テルヨシもパドも否定はしない。
実質的なバーストリンカーのトップに君臨する一同の決定が加速世界に大きな影響を持つことをテルヨシもちゃんと理解しているから。
「……ライダーの話はいいわよ。それからその会議はたぶん、テイル。あんたも参加させられると思う」
「…………だろうね。それからオレが召集されるなら、もう1人。オレは会ったことがないけど、《奴》が参加することも確定だろ」
「……《
「私、あいつ嫌い。戦い方がとにかく嫌い。テイル、会ったら嫌いって伝えといて」
「うおっ、ガッちゃんがハッキリ嫌い嫌い言うバーストリンカーは初めてかも。てかパドが対戦経験ないのも意外なんですけど」
「彼とは主戦場が遠いから。ガストも2回しか戦ってないはず」
「その2回とも負けてるから嫌いなのよ。言っとくけど相性の問題だからねテイル。私はあいつより強いんだから!」
どうにもまだライダーの話題には苦手意識があるのか、自分から話題を切って多少強引に話を進めたガストの次の話にテルヨシもちょっと遅れて理解が追い付く。
王でもないテルヨシが加速世界最上位の会議に呼ばれる理由。
それはテルヨシが加速世界にアキバBGと同等レベルの対戦の聖地を築き上げ、そこの管理者の立場にあるから。
議題になるはずの心意について今後のバトロワ祭りで何か騒動になる原因になりかねないため、その対応を検討するのに声がかかると読んだのだ。
そうなると必然、バトロワ祭りの主戦場である中野第2戦域と、もう1つの墨田第1戦域。
この両方の管理者が召集されることになるため、その墨田第1戦域の管理者の話をしてみれば、結構な古参と聞いていたテルヨシも少し驚きの反応がパドとガストから返ってきて謎が増える。
それなりに噂は聞くのに、どうやら行動範囲は相当狭いらしい。
「それはガッちゃんが直接言ってほしいなぁ……というか、それならその会議で初めてグラちんと白の王に会えるかもしれないのか!」
「あんた……グランデの前でその呼び方はやめなさいよ。そんな呼び方できるのあいつの子だけなんだから……」
「おいおい尻尾野郎。俺んとこのレギマスをマブダチみてーに呼んだが、うちの幹部連中が聞いたらゲット・アングリーでフルボッコだぜ」
「いいっていいって。グレウォの《六層装甲》は第1席以外とは面識あるし、デクデクも拳ちゃんも『モビールの子だから仕方ない』って諦めるからさ」
「デクデク……」
「拳ちゃん……はまぁ……レイカーとかも呼んでるけど……」
結局、真面目な話なはずなのに真剣味が薄くなるテルヨシの発言で4人に微妙な空気が流れてしまい、グレウォのNo.3と4の変な呼び方にパドもガストも呆れたような雰囲気を漂わせたが、そんなのお構いなしのテルヨシは続けて《パープル・ソーン》にも会えることを喜んだりすると、ガストから何やら無言で嫉妬の念のようなものを飛ばされてちょっとたじろいでしまった。
「……何か見える」
そうこうしていたらずいぶん先へと進んでいたようで、話の中でも進路に気を配っていたパドが遠目に何かを発見して口を開いたので、テルヨシ達も未だ続く赤錆色の進路のずっと先へと視線を向けた。
視線の先に見えたのは完全に停止するネガビュのマシンと、それに追随している2つの観戦席。
観戦席のもう1つはパドが言っていたように、ジグソーの心意攻撃によって破壊されてなくなっていたが、トップを追随するはずの観戦席がネガビュのマシンと同じ位置にあるということは、ジグソーが独走しているということはなさそうで、そのジグソーの姿も見えないことから倒せたようなのはうかがえてひと安心。
しかし近付いてみるとネガビュのマシンも損傷具合がパドとアッシュのマシンと大差なく、ゴールまで走るには無理がありそうなのもわかってちょっと落胆。
これでは誰もゴールに辿り着けない……
「ヘイヘイヘェーーーーイ! ギブ・アップるのは、まだトゥー・アーリィだぜメェェェーーーーン!!」
そう思ったのも一瞬で、先輩リンカー3人にちょっと勢いが落ち気味だったアッシュがいきなり声を張り上げてネガビュの面々に存在アピールをしてみせ、2台がネガビュのマシンの隣までつけたところでほぼ同時にマシンがあれな爆発をして完全停止。
もう走れそうもないことはドライバーでなくてもわかってしまう。
「あ、あぁーあ。ここまでか、メガ・オツカリィだぜ」
「GJ」
ここまで頑張ったマシンにそれぞれのドライバーが健闘を称えてから、ネガビュの5人に目を向けると、レース開始時点とメンバー構成が明らかに違うテルヨシ達に首を傾げる中で、黒雪姫が代表して口を開いた。
「……ま、まずはお疲れと言っておくが……いったいなぜ、メンバーを変えてまで追いかけてきたんだ? もうレースの継続は不可能だろう、確定的に」
「ふむふむ。クロウとレイカーがいるならもしかすると……どうよ、パド、ガッちゃん、アッシュ」
「残りの距離から逆算すると、結構ギリギリ」
「まっ、これで終わったらイベントとして悲しすぎるし、やるだけやってみるべきよね」
「メガ・ヒィイイーーーート! レッツ・トライだぜヒャッハー!」
せっかく追いついてきたテルヨシ達ではあったが、やはり黒雪姫達の見解でもゴールは無理と言われてしまう。
元々ジグソーの対処のための編成だったテルヨシ達だが、それがもう済んでしまったならゴールを目指す道を探るのは当然の流れ。
フルチャージした必殺技ゲージも使えるとあれば、テルヨシ達の意見は交わすまでもなく決定していた。
「何やら策有りといった雰囲気ですが、こちらにも説明をお願いできますか?」
「んーと、オレ達ここに来る前に必殺技ゲージをフルチャージしてきたわけよ。んで、パドとアッシュには壁面走行能力があるから、必殺技ゲージの限りクロウとレイカーを運ぶ。その先はクロウが飛んでレイカーを運んで、最後にレイカーが《ゲイルスラスター》でゴールまでって感じ。オレとガッちゃんがスタートのカタパルト兼ブースターを果たせば幾分節約できるはず。ってことでK?」
こちらの意図を探るレイカーの問いに、テルヨシが大まかな作戦の概要を説明し、間違いがないかの確認をパド達に取れば、3人とも何も言わずに頷きで返した。
そんな作戦に黙り込んでしまったネガビュの面々ではあったが、このまま終わるのを良しとはしない意見は同様だったようで再び黒雪姫が代表して「やってみる価値はあるか」と返してきて、それと同時に協力による報酬の分け前を尋ねてきた。
「もち、1位の報酬ポイントは均等に4分割するわよ。あーあ、こんなことなら私達のマシンで来れば良かったわね」
「過ぎたこと言っても仕方ないってガッちゃん。それで、やるかい?」
「無論、乗るとも」
報酬の分け前については妥当なところでガストが手打ちとして、それに合意した黒雪姫の意見はネガビュの意思とみなして早速作戦を開始。
まずはガストの《リベレイション・ストリーム》で追い風を作り出し、それに上手く乗る形でテルヨシがハルユキとレイカーを掴んだパドとアッシュを《テイル・ウィップ》でまとめて絡め取ったまま《インパクト・ジャンプ》で真上に跳び、カタパルトの要領でパドとアッシュを射出。
ガストの追い風を受けてさらに跳躍距離を伸ばし、そこから先はパドとアッシュが《シェイプ・チェンジ》によるビーストモードと《ナイト・ロッカー》の壁面走行能力でハルユキとレイカーを行けるところまで運び、ハルユキが飛行アビリティでレイカーを運び、レイカーがゲイルスラスターでゴールに辿り着く。これが概要となる。
簡単に言えば4段階ロケットの打ち上げのようなものだが、これでゴールまで行けるかは良いところ五分五分。
それでもやれる最善を尽くしての結果なら、この場にいる全員が納得することはできる。
「そんじゃ行くわよテイル。タイミング合わないと酷いことになるからね」
「心配ないない。オレとガッちゃんの超ベストカップルの息が合わないわけないっしょ」
「あらあらガッちゃんったら、見せつけてくれますね」
「ラブラブ」
「ほほぅ。ついにテイルにも春が来たか」
「ホント! テイルさんおめでとー!」
それでいざ準備が整ってから、スターターであるガストが声かけをすれば、誰1人としてまともな返しをしない緊張感のなさにガスト以外が思わず笑ってしまうが、からかわれたガストは振りかぶっていた《ブレード・ファン》を引っ込めて、もう誰も乗ってないアッシュのマシンをバァン!
横からゴルフショットのようにぶっ叩いて横転させて落とし、ハルユキ達数人を黙らせる。
「もう、ガッちゃん照れ隠しなんて可愛すぎぃ」
「ガッちゃんはツンツンさんだもの。仕方ないわ」
「ガッちゃんGJ」
「ほらガッちゃん。余計な体力を使ってないで作戦開始といこうじゃないか」
「…………みんなしてガッちゃん言うなバカァアアアアーーーー!! 《リベレイション・ストリーム》ゥウ!!」
しかしそんなガストの脅しに全く怯まなかったテルヨシ達ベテラン勢の追い打ちによって完全に泣く1歩手前まで追い詰められたため、合図もなしに必殺技が発動。
その手の扇子が大きく360度振るわれたタイミングから一拍して巻き起こる暴風に乗るため、慌てることなく前を見据えたテルヨシは、その足に最大限の力を溜め込んで必殺技発声。
「《インパクト・ジャンプ》!」
その背に小さな圧迫感を感じたところで前方へ向けてジャンプ。
少しややこしいが、ジャンプのタイミングではマシンの重力によって前方に進路があるが、ジャンプした先では上ということになるため、結果として真上に跳んだことになる。
「おぉぉおおおおおっしゃらぁああああ!!」
ガストの必殺技の追い風を受けながら跳躍の瞬間から体を丸めて、前回りから勢いをつけてテイル・ウィップをしなるように振るってパドとアッシュを射出。
そのあとを追いかけるようにガストの追い風がテルヨシを吹き抜けていき、最高点から勢いで10メートルほどプラスで上昇。
無事に上へと登って、空中でビーストモードになったパドとバイク型強化外装のナイト・ロッカーにまたがって壁面にタイヤをつけたアッシュをチラッと遠目に確認してから、テルヨシはそのまま重力に従って落下。
このまま落ちるところまで落ちるかと思っていたら、元いた位置にガストが展開剣をワイド・スラッシュの状態で頭上に構えていて、テルヨシが射程に入ったところでそれを振り下ろしてテルヨシをタワー壁面へぶっ叩いて落下を阻止。
ダメージこそないものの、何故にという疑問と共にずるりと展開剣と壁に挟まれながらネガビュのマシンの上まで落ちたテルヨシは、再びマシンの重力下に入ってマシンに乗り込むが、何やらチユリとタクムが戦々恐々といった雰囲気で隣のパドのマシンに乗り移っていたので、こっちに乗ってるガストと黒雪姫に目を向けると、何故かご立腹なガストが目に飛び込んできた。
「どしたのガッちゃん」
「ツンデレのツン成分が100%になってしまったようでな。八つ当たりを受けていた」
「ツンじゃないっての! それよりもあんたよあんた! あんたがベストカップルだとか言うからこんなイジメを受けたのよ! だから殴らせなさい!」
「えー……そこ否定したらガッちゃん悲しむと思って……」
「ふんぬぅ!」
その様子に心当たりなしといった感じで尋ねれば、よいしょと隣のマシンに移りながら黒雪姫がまた火に油を注ぐのでガストの怒りは最高潮。
その全てがまだふざけるテルヨシに振り下ろされて、展開剣による暴行がマシン内で巻き起こる。
その様子にテルヨシ達と一緒にその場に留まる観戦席からドッと笑いが沸くが、そんな沸き方は望んでないテルヨシはHPゲージ固定を良いことにバッコバッコ殴ってくるガストの懐に飛び込んでガシッと抱きつき強引に止めると、それでまた観戦席から今度は黄色い声が飛び交う。
「なっ! んっ! でっ! だっ! きっ! つっ! くっ! のっ! よっ!!」
「も、もうふざけないから謝るからお願いですから怒りを静めてくださいごめんなさいっ!」
もう半分くらい自棄で1字ごとに頭をガスガス殴ってくるガストに、さすがにからかいすぎたと思って全力の謝罪をする。
そんな必死のテルヨシにようやく落ち着きを取り戻したガストは、急に恥ずかしくなったのか引き剥がすようにテルヨシから離れると後部座席にしおらしく座って疲れたのか大きな息を吐いて完全停止。
それにはテルヨシも運転席に座りつつひとつ息を吐いてしまった。
「…………んで、あのラスト・ジグソーってやつはどうやって倒したんだ?」
ガストも落ち着いたので、着地も上手くいったことをラッキーに思いつつ、倒されたジグソーについて知っていそうな黒雪姫達に詳細を尋ねたテルヨシだったが、黒雪姫達は微妙に話すのをためらう雰囲気を出すので、これは何か別の問題も起きたかなと勘ぐる。
「……まぁ遅かれ早かれ知ることになるだろうから話すが、クロウがな、《災禍の鎧》を装備してジグソーを撃破した」
「ふーん……災禍の鎧ねぇ……」
「えっ!? ちょっとテイル! 何でそんなリアクション薄いのよ!?」
「いや、ギャラリーいるし大声出せない話でしょ。オレだって十分驚いてるよ」
それで重い口を開いた黒雪姫の言葉に衝撃を受けたテルヨシだったが、ガストのように明らかな驚きを見せずに冷静にその話を分析。
テルヨシに言われてギャラリーがいることを再確認したガストも次からは声を潜めて話に加わってくる。
「でも災禍の鎧はあの時に全員がストレージにないことを確認したろ? クロウが隠し持つなんてことするとは思えないが」
「そこは私も同意だ。というより子を疑うことなど決してしない。だから私は災禍の鎧に《寄生》あるいは《呪い》の属性があったものと推測している。これら属性は対戦終了後もアバターに残留することがあるからな」
「それならアイテム移動率100%も、ストレージに表示されなくても納得がいくってわけね。でも1度装備したなら、クロウは何で鎧を着てなかったの?」
「それは私の《シトロン・コール》でクロウが災禍の鎧を装備する前の状態に戻したからです」
「今後クロウが災禍の鎧を装備しなければ、とりあえず何事もないとは思いますが、災禍の鎧がまだ存在するとなると、最悪の可能性もあるかと」
「んー、まぁそれも近々やるだろう七王会議で対応策を練るだろうし、オレからも穏便に済むよう進言しとく。場合によってはレインも味方するだろ」
「何故お前が呼ばれる前提で……いや、そうなるのか。鎧の件でお前に発言権があるかは定かではないが、元より私も退く気はない。徹底抗戦の構えさ。なに、敵は元より6大レギオン。今までと何も変わらん」
それでテルヨシ達が来た時には鎧を装備してなかったハルユキの現状を理解した後は、七王会議の議題が増えるだろうことを予想して黒雪姫に味方する旨を伝えたが、別にそんなの必要ないと言うように言い放った言葉に、その場の全員がらしいなと思っただろうことがわかり小さな笑いが起こると、この件でネガティブに考える者はいなくなった。
そのあとのハルユキ達がゴールを目指す間の時間は、置き去り状態のギャラリー達と雑談を始めたテルヨシによって親睦会みたいなものに発展。
折角だからと積極的に情報交換をするテルヨシは会話を楽しみつつも、近く開かれる七王会議に向けて『あること』を考えていたが、それに気付く者はこの場にはいなく、決して悟られない心の内を秘めたままレイカーがゴールした旨のシステムメッセージと共にイベントは終了したのだった。