最初で最後のサドンデス・デュエル。
それを両者が望んだ上で始まった皇照良VS黒雪姫。《蒼き閃光》VS《絶対切断》。《レガッタ・テイル》VS《ブラック・ロータス》。
互いにリアルを知り、大層な異名を与えられ、自分なりの歴史を築いてきた両者の戦いは、ギャラリーの想像を遥かに越える死闘となっていた。
おそらくはテルヨシと黒雪姫が『領土戦以外で戦ったことがない』という認識の下で今回の対戦を見に来たギャラリーが9割9分くらいではなかろうかという中で、最初は慎重な探り合いでもするだろうことは誰でも予想はついたはずだが、そんなものは最初のテルヨシの新アビリティ《アダマンテイン》が披露されてから皆無。
ギャラリーのほとんどはそこからいきなり全力戦闘が始まったと思ってしまったはず。
しかし実際はいきなりではなく、2人の間でありとあらゆる攻防が経験としてあって、たとえ新アビリティによって根本から戦術が変わることになっても、その戦術自体はわからないながら相手の考えていそうなことはなんとなくわかってしまう。
それほどまでの対戦を日々2人はしてきたのだ。
黒雪姫の放つ四肢による攻撃はそのどれもが必殺と呼べるまでの鋭さで放たれていて、隙さえあれば首を飛ばそうとするプレッシャーはテルヨシの踏み込みをほんの少しではあるが躊躇わせる。
激突開始から3分ほどが経過したが、ここまで両者ともにクリーンヒットはなく剣と足をリーチギリギリで全力でぶつけて削り合い。
しかしその応酬だけでもレベル9同士がやると恐ろしいものとなり、一撃ぶつかる度に鋭く高い激突音が響き周囲へと衝撃を飛ばしていき、驚くべきはそのスピード。
接近こそ目で追える速さながら、一撃放つ瞬間の加速は端から見ればその足が、剣がブレて見えるほど。
そんな一撃をぶつけ合えば当然、両者への反動もそれなりで全くの互角で撃ち合った双方のHPゲージはすでに1割は削れ、必殺技ゲージも2割弱は溜まる。
ここからどう変化を加えるかと考えていたテルヨシは、いくらアビリティで攻撃を受けることができるようになったとはいえ、どうしても有効打の放てる手数では上回る黒雪姫と連打を許す接近戦は形勢不利なことには変わりないと思いつつ最大限のヒット&アウェイを繰り返すが、新アビリティの『弱点』に気付かれる前に先制しておきたい思いもあって頭をフル回転させ仕掛けるタイミングを図る。
もう十何度目かの蹴り合いで、ついに変化をつけたテルヨシは振り上げた右足の蹴りを迎撃に来た黒雪姫の右足に当たる寸前で筋力任せで強引に止めてグッと引っ込めて黒雪姫の蹴りを空振りさせると、片足立ちの状態から右足が黒雪姫の体に届く距離に1歩跳ねてから引っ込めていた右足をまっすぐに蹴り出しフォロースルーに入っていた黒雪姫の開いた右脇腹へと撃ち込む。
――ヒュンッ!
だがテルヨシの蹴りは完全にフォロースルーに入っていたと思われた黒雪姫の右足の巻き戻すかのような蹴りによって弾かれてその軌道が逸れて黒雪姫の脇を掠めていき、さらに脇近くで止まった右足を黒雪姫が右腕と脇でガッシリと挟んで固定し左手の剣をテルヨシの首を狙って開くように水平に振るう。
それを後ろで《テイル・ウィップ》を地面に触れさせて支点とし、割とあり得ない角度のスウェーで黒雪姫の左手を下に潜って躱して、固定された右足とテイル・ウィップの2点でバランスを取って左足を浮かせすかさず頭めがけて蹴り上げてみせたが、一瞬早く察した黒雪姫は挟んでいた右足を解放して1歩下がりそれを躱すと、豪快に空振ったテルヨシはテイル・ウィップの支えと首と腹筋で体を強引に固定して攻撃後の隙を狙う黒雪姫の踏み込みを両足で牽制しつつ《インスタント・ステップ》で斜め上を蹴って一気に地面に足を着地させバックステップ。
その動きに対して黒雪姫も手が出ずに少し構えを緩めてひと息。
しかしまだ互いにひと息で射程に入れる距離なため、呼吸を整える程度の間だ。
そのひと息の後にまた示し合わせたように同時に、今度は互いに前方右へとスライド移動し相手の動きが全く同じだったことを確認するや否やその足にブレーキを掛けて切り返し踏み込んだ右足での回し蹴りで激突。
「おらぁああ!!」
こうなるとまた拮抗すると思わせていたテルヨシは、ここぞとばかりにその足に力を込めて鋭く重い蹴りを放つと、今まで拮抗していた力関係を無視するかのように黒雪姫の放った回し蹴りを弾き飛ばして体勢を崩すと、追撃の左足を振りかぶって隙だらけの背面にブチ込もうとする。だが、
「《デス・バイ・ピアーシング》!」
背中を見せながらに弾かれた右足を遠心力で回しつつ反転した黒雪姫は、そのままテルヨシの体の中心めがけて貫通力と射程を有する必殺技を放ってきて、このまま行けばテルヨシの蹴りは黒雪姫にクリーンヒットは確実だが、それで受けるダメージの方が甚大。
「《インパクト・ジャンプ》!」
それを考えるよりも先に体で感じたテルヨシは蹴りをキャンセルするより速く右足の踏み切りで必殺技を発動。
行き先は上後方で黒雪姫の必殺技から一気に射程外への回避で難を逃れるものの、攻めに使うはずだった必殺技ゲージを回避に使わされてしまって悔しい思いをしながら後方にあった2階建ての壁のない建物オブジェクトの屋上の縁に着地。
今ので互いの必殺技ゲージは空っぽになったが、攻防の結果としては五分に持っていかれた形だ。
「……今の回避で確信したよ。お前のアビリティ。アダマンテインは無敵の防御アビリティというわけではないな」
大きく距離が開いたことで仕掛けるタイミングも探り直しとなったことで、突き出していた右腕を戻しつつ見下ろすテルヨシに聞こえるようにそんなことを言った黒雪姫。
さすがに気付かれるかと内心思いつつも、簡単に正解だと言うつもりはない。
「今の攻撃、そのまま続ければアビリティの上からならお前の方がダメージ量で上回れたはず。だが回避に動いたということは、そのアビリティは『部位限定』。おそらくはお前の自慢の足。膝から下といった部分のみに効果があるのではないか? ここまでの撃ち込みで私の攻撃を受けていたのは全て膝から下だったからな」
……鋭すぎる。
黒雪姫の驚異の観察力に無反応を貫こうとしたテルヨシも思わず生唾を飲んでしまう。
あまりに的確なアビリティ考察はまさにその通り。
テルヨシのアダマンテインはその効力を膝から下にしか適応されない。
だからそこ以外で黒雪姫の四肢に触れてしまえば、もう豆腐のように斬り飛ばされてしまうことは確実。
テルヨシ自身も実践投入がぶっつけ本番だったこともあって意識的に攻撃を受けていて、思い返してみると明らかに防御が一辺倒だった。
「…………それがどうしたって話だろ。たとえこの足でしかお前の攻撃を受け止められなくても、この足がお前の四肢を砕けばそれでいい。そんで牙をもがれたお前を倒してオレの勝利で幕引きだ」
アダマンテインの弱点が露呈したとはいえ、元より防御もできなかった黒雪姫の攻撃を受けられるようになったこと自体に意味があり、それによる戦略の幅の広がりこそが重要だったテルヨシは、知られたならそれでいいと言うのと同時に恐れ知らずの挑発によって黒雪姫を煽る。
実際、すでにここまでの撃ち合いによって黒雪姫の四肢にダメージが蓄積し、わずかながらに刃こぼれを発生させるまでに至っていたが、如何に最高性能のアビリティがあるからとはいえ、絶対切断能力と正面から撃ち合ってテルヨシの足も無傷とはいかず、装甲の表面にいくつかの切り傷が刻まれていた。
「……確かに、お前の言うことができれば私は為す術なく敗北することにはなるだろうが、それはお前にも言えること。私のこの剣がお前の足を砕けば、それで私の勝利だ」
そんな不敵なテルヨシに対して、自らの四肢の剣の状態を確認してから、そっくりそのまま言葉を返した黒雪姫に思わず笑いが込み上げてしまう。
現状でテルヨシと黒雪姫の足と四肢の耐久度が五分といったところなのは本人達がなんとなくで察している。
だからこそ互いに1歩でも退いたら負けることを理解していて、気持ちでさえ負けないという意思を示してみせた。
そして両者の激突はここからまた変化を遂げる。
硬い鉄鋼ステージということさえ忘れるように、前へと出た黒雪姫はテルヨシのいる建物オブジェクトの5つの支柱のうちの前方2つと中央の1つを寸断。
バランスを保てなくなった建物は前に倒れ込むように倒壊を始めてしまうが、それより先に黒雪姫が建物オブジェクトの下へと潜った瞬間に足元を思い切り踏み込んで床の鉄板を1枚剥がして、建物が傾き始めた時にすぐそれを厚みの部分を蹴り下へと勢いよく落とすと、ちょうど建物オブジェクトから逃げ出て、落ちてくるテルヨシの迎撃に備えようとした黒雪姫の進路上の地面に衝突。
あわや黒雪姫に直撃するかというコースだったが、直前で止まってバック宙からの右足の蹴り上げで鉄板を両断し回避した黒雪姫は、すぐに着地し倒壊する建物オブジェクトの被害範囲から出て反転。落ちてきたテルヨシをその視界に捉える。
が、その時点でテルヨシはもう次の鉄板を踏み抜いてサーフィンボードのようにそれに乗り空気抵抗を上げて倒壊する建物オブジェクトからわずかに遅れて落下。
着地の瞬間に鉄板を蹴りジャンプし倒壊の余波から逃れると、金属オブジェクトだらけ故に土煙すら立たずに弾け飛ぶ留め金やネジ、ボルト類に分解された鉄骨や鉄板が散乱する中で、それらを黒雪姫めがけて蹴り飛ばす。
大きい物では3メートルほどの鉄骨。小さい物は直径5センチくらいのボルトが乱れ飛ぶが、発射点が明確にテルヨシなこともあって黒雪姫は1つ1つ正確に、丁寧に迎撃、或いは回避に動いてダメージは皆無。
だからこの攻撃は無意味、に見えるが狙いはダメージではない。
こうして金属オブジェクトを蹴り飛ばすことで少しずつではあるが必殺技ゲージが溜まる。
そうして溜めた必殺技ゲージが3割ほどになり、手頃な金属オブジェクトがなくなりかけたところで、意を決したテルヨシは2メートル四方の鉄板を真ん中から蹴り抜いてへこませた上で黒雪姫へと飛ばすと、微妙な螺旋を描いて飛んだ鉄板はまっすぐに黒雪姫に向かっていくものの、こんなものは簡単に両断されておしまい。だが、
「インパクト・ジャンプ!」
鉄板がブラインドとなっておそらくは声だけが聞こえただろうテルヨシのそんな必殺技発声によって、黒雪姫の行動は鉄板の迎撃から変化しこれから起こるであろうことに対しての回避行動で鉄板を飛び越えるように跳躍。
しかしすぐに異変に気づいた黒雪姫は、鉄板を飛び越えた瞬間に前面を庇うように身を縮めて完全防御体制に入り、直後、
「インパクト・ジャンプ!」
足の裏が足場と設置していれば発声だけでもほぼ発動するインパクト・ジャンプを『空中』でフェイント発声し、黒雪姫の行動を見た上で着地後すぐに狙いを定めて本当に発動。
完全防御体制の上から物凄い衝撃を伴って黒雪姫へと突っ込んで蹴り飛ばした。
確かな手応えを感じて着地を決めたテルヨシではあったが、吹き飛んだ黒雪姫はダメージに怯む素振りもほとんどせずにクルッと体を回転させて後ろに迫った建物オブジェクトの鉄柱に両足をついて踏み切り落下気味にテルヨシへと弾丸のように迫ると、
「《デス・バイ・バラージング》!」
連撃の中でも壮絶と言える秒間数百発にもなる必殺技を発動。
ブレて見える右足はもはや蹴りの弾幕となってテルヨシを襲い、着地後にすぐ反撃に遭ったせいで防御に回るしかなかったテルヨシは身を縮めて素直に弾き飛ばされることでダメージを最小で抑え、倒壊した建物オブジェクトの残骸に突っ込む。
これで互いに残りHPは6割を切るまでに減り、着地を決めた黒雪姫はその瞬間にピシリと嫌な音を鳴らして亀裂の走った左腕と右足に体のバランスが崩れるが、それを堪えて直立を保つ。
対してテルヨシも瓦礫を退けて立ち上がるものの、その両腕には打撃でも加われば砕けてしまうだろう亀裂がいくつも走って、手首から先を寸断されていた。
「「……やってくれる」」
完全なる痛み分けとなった攻防に、2人ともが出し抜くつもりだったための言葉が出るが、そこには相手を称賛する意味も含まれていた。
過去に何百回と対戦して手の内など出尽くしているはずの2人だからこそ、その称賛は大きい。
「この調子だと決着も案外早いかもな」
「そうだな。生涯、私の勝ち越しではあるが、最後に華を持たせてやるつもりは毛頭ないぞ」
「オレが勝っても結局は勝ち逃げされるしな。通算は784戦で……」
「私の全勝だな」
「都合の悪いことは忘れるんだな。システム上はそうでも1勝はもぎ取っただろ……」
「はて、そんなこともあったかな」
自分達の状態を鑑みて、HPゲージよりも先に体の方が限界を迎えるかもしれないことを悟った2人は、両者にしか聞こえない声で決着が近づいていることさえ忘れそうな普通の会話をして小さく笑い合う。
――終わらせたくないな――
そうして笑う中でテルヨシは、相当な覚悟を決めてきたにも関わらず、最後になる黒雪姫との対戦が終わるのを惜しんでしまっていた。
だがその思いはこの対戦において致命的な隙を生む要因となりかねないために、笑いが収まった時にはもう、テルヨシの心に微塵の迷いも生じる余地がないほどの決意ができていた。
互いに笑いが収まり再び集中力を研ぎ澄ませて構えると、テルヨシはまず足元に転がる瓦礫の中から長さ3メートルほどの鉄骨をテイル・ウィップで巻いて持ち上げ、そのまま黒雪姫へと突撃。
鉄骨を棍棒のように使うのかと言えばそうではなく、手を失ったテルヨシがテイル・ウィップを使ったアクロバティックな機動を使うことを予測した黒雪姫に対する対策。
ややこしくはあるが、この状況でテルヨシはテイル・ウィップを接近戦でも使わないわけにはいかないため、そうなるとテイル・ウィップが黒雪姫によって破壊されてしまう危険性が高まる。
だからそうさせないために鉄骨をテイル・ウィップの延長として使うのだ。
鉄骨を先端ギリギリで持っての先制は普通の右足の蹴り。
蹴りを放ったのと同時に後ろで鉄骨を立てていつでも体を浮かせるようにもしておくが、テルヨシの狙いに気づいた黒雪姫は放たれた蹴りを体を沈めて躱し、そこから間髪入れずに水平の足払いを仕掛けてテルヨシを転倒させにいく。
片足では踏ん張りも効かないことは判断できるので当然テルヨシはテイル・ウィップによって体を浮かせ、鉄骨の長さも加わって普段よりも高くなるが、下にいた黒雪姫はいらんことに足払いからさらに前進しながらもう1回転して直立する鉄骨を狙い空中でのテルヨシのバランスを崩しにかかる。
が、その水平蹴りが鉄骨に当たる直前にヒュンッ。
いきなり鉄骨が浮き上がって水平蹴りを躱し、黒雪姫が焦るように上を見ればテイル・ウィップで今度は鉄骨を持ち上げてぐるんっ。
上から回り込むようにテルヨシの前面に移動してきた鉄骨はハンマーの如く黒雪姫の真上から落ち始め、そこにかかと落としを加えて超加速させ鉄骨を杭のように撃ち込んだテルヨシの攻撃に回避が及ばなかった黒雪姫は、屈んだ姿勢から両手を上に掲げて外、外、内、内と左右交互に高速で手を動かして迫る鉄骨を10センチ間隔ほどの細切りにして完全防御。
小さなブロック片にされた鉄骨は近くに散乱した後にポリゴン片となって消えてしまい、信じられない現象を目の当たりにしたテルヨシはかかと落としの際にほんの少しだけ滞空させた体を回避へと向かわせようとしたが、ギラリと光った黒雪姫のバイオレットのアイレンズが逃がさないと訴えてその両腕を引き絞って立ち上がってきて、
「うぉぉぉぉおおおおお!!」
直後、壮絶で純粋な両腕の剣の乱れ突きがテルヨシを襲う。
インスタント・ステップによる緊急離脱がテルヨシの頭をよぎるが、絶対切断能力はその離脱が一瞬でも遅れれば手足の1、2本は簡単に持っていかれてしまう。
頭をよぎった段階ですでに遅れを取っているために応戦するしかなかったテルヨシは、剣山のような黒雪姫の乱れ突きに両足の蹴りで外側へと弾きながらテイル・ウィップで先に地面を捉えて器用にそこだけを支えに体を浮かせたまま黒雪姫との乱打戦を続行。
撃ち合う限りはテイル・ウィップを狙われることがないからと、なんとなくここで戦況が動く気がしたから退かなかったのだ。
「おらぁぁああああああ!!」
壮絶な撃ち合いは互いに1歩も退くことなくぶつかり合い、みるみるうちにHPゲージが減少。
今までと全く違う激突音を響かせる両者の攻撃は、まともに当たればそれが致命傷になりかねないほどの威力。
だがそんな攻撃を長時間維持し続けるのはいくらテルヨシと黒雪姫とはいえ限界がある。必ずどこかで息切れするタイミングが来る。
それを互いに耐えながら相手の息切れを待つが、幕切れは2人の予測しない形で訪れる。
――バキィィイイン!
そんな甲高い音を立てたのは、繰り出されていた黒雪姫の左腕の剣。
テルヨシの足との激突によってついに耐久度の限界を迎えたその肘から先がガラスのように砕け散ってしまい、両者が一瞬動きを止めるが、ほぼ同時にそれで呼吸が乱れて1歩下がるしかなくなり、それでも完全な後退はしなかった両者はすぐに前へと出てその右足を振り抜きぶつけると、またも黒雪姫の右足はそのスネの辺りから先が音を立てて砕け散り、それにより蹴りがどちらも振り抜かれ交錯。
ここでテルヨシは絶対に追撃すべきところだったのだが、度重なる乱打戦で絶対切断能力に立ち向かっていった反動か、踏み出すための1歩が出ずに足踏み。
その隙に痛みやら何やらを堪えながらに片足で後退した黒雪姫は、欠損した左腕と右足のせいでフラフラながらもしっかりと立ってみせてなおもテルヨシへと闘志をぶつける。
ズキズキと全く引かない足の痛みを堪えながら、自分よりも劣勢に見える黒雪姫の衰えることない闘志を肌で感じたテルヨシは、ここに来て衰えるどころか増してさえいる黒雪姫の気迫に感化されて、心のどこかにあった『負けたくない』という気持ちが『勝つんだ』という気持ちに完全に呑み込まれ、そうなった時にはもうテルヨシは足の痛みなど凌駕する強い気持ちと闘志を黒雪姫へとぶつけていた。
それを黒雪姫も肌で感じ取ったのだろう。
片足のホバーでバランスを保ちながら残った右腕を引き絞るように構えて首をクイッと動かして「かかってこい」と示すが、ここまで来て自分が仕掛けられないのにかかってこいとか良い度胸してる。
そんな風に思いながらも残り時間も100秒を切り、HPゲージも互いに2割を切るまでになっている。
自分も黒雪姫ももう全力で撃ち合うだけの余力も耐久度もない。ならば。
もうできることは、自分の全身全霊を相手にぶつけることだけ。
それのみに集中したテルヨシはスッと体の力を抜いてから、鋭い光をアイレンズに宿して迎撃に構える黒雪姫に正面から突撃。
おそらくはもう全速を出せば止まることやステップを踏むことにさえ足が耐えられないことを直感的に理解していたテルヨシの迷いない全力の突進からの右足の飛び蹴りに、黒雪姫はこの対戦で間違いなく一番の鋭さを持つ右腕の突きで迎撃。
両者の激突は一瞬で終わり、ギィィイイイン!
甲高い音を鳴らして交錯しすれ違った時にはもう、テルヨシの右足は黒雪姫の周りでポリゴン片となって舞い散り、それでも残った左足で地面を捉えて着地を決めたテルヨシは驚異的な切り返しで黒雪姫に向き直って、
「インパクト・ジャンプ!!」
「デス・バイ・ピアーシング!!」
泥臭くも最後に体当たりででもとインパクト・ジャンプを発動させた。
だが、その決死の体当たりも黒雪姫が放った必殺技を真正面から受ける軌道で突っ込んだために、黒雪姫の突き出された右腕から綺麗なV字を描いてテルヨシの上半身と下半身が通り過ぎて鋼鉄の地面へと落ちた。
その最後の交錯の瞬間、テルヨシは奇跡とも言える刹那の時間の中で、しっかりと黒雪姫にその胸中を口にし、黒雪姫もまた一瞬とも言える交錯の中でテルヨシに言葉を贈っていた。
――ナイスファイト、姫――
――ああ、最高の対戦だったよ、テル――