「……………………はぁ」
長い長い沈黙からの短いため息。
そんなことを繰り返し学校の自分の席の机に突っ伏しながら外の景色を見てしていたのは、渋谷区の私立中学校に通う
今年で受験を迎える中学3年生の普段は活発系女子。
歳の離れた兄の影響で若干男勝りに育ってしまい、女の子らしく振る舞うことがちょっと苦手なサアヤだが、6月17日となる今日は朝からずっとこんな調子で心ここにあらずといった感じが続いていた。
クラスメートからは「あんなサアヤは見たことない」とか「雪でも降るんじゃないか」とか結構な深刻度をうかがわせる言葉がヒソヒソと聞こえてきていて、友人達も心配して何度か声をかけたものの当の本人は「大丈夫」の一点張りでどうしようもない。
その原因は彼女のやっているゲーム《ブレイン・バースト》が関係していて、昨日、そのゲーム内で特に仲の良かったプレイヤーの1人が事実上の引退。ゲームをアンインストールしてしまったことだった。
ブレイン・バーストでは《エピナール・ガスト》というアバターを使い、《月下の舞姫》や全く気に入ってはいない《猪突猛進》などと大層な通り名を持つサアヤだが、校内にはそれを知る人物は1人としておらず、今の胸の内にあるモヤモヤしたものを友人達に全てぶちまけることもできない状態が悪循環を生んでいた。
――何であんなこと言っちゃったんだろ。
サアヤの胸中にあったのはそんな自分への自問自答で、それはつい昨日、約3年ぶりに開かれた加速世界での最高レベル7人による《七王会議》で、ゲストとして呼ばれていた《レガッタ・テイル》がそのレベルを9にし、そのまま《ブラック・ロータス》と対戦することが決まった後。
瞬く間に広がったその情報を聞いて、真っ先にまとまらない言葉を一応文章にはしてメールを送ったはいいものの、返ってきたメールに『決着を見ていてほしい』とだけあって、その決意とか色んなものが見えてきて、それでもテイルに対戦に臨んでほしくないという気持ちが爆発。
感情のままに『もう知らない』といった投げた感じの返事でアドレスを破棄してしまったのだ。
結局、サアヤは対戦の行われた戦域には足を運ばず、その後に観戦に行っていた自分の子からその結末を聞き、あのやり取りがテイルと交わした最後の言葉になってしまって、1日経った今、テイルのいなくなったことの喪失感と後悔がサアヤの心を蝕んでポッカリと穴を開けていた。
サアヤがブレイン・バーストをインストールしたのは今から約8年前の2039年の夏。
当時はまだブレイン・バーストも稼働開始から数ヵ月程度で、総プレイヤー数も今の半分にも満たない手探り感満載のいわゆる黎明期に当たる時期にバーストリンカーとなったサアヤは、後に《オリジネーター》と呼ばれる一番最初の100人のプレイヤーのうちの1人からコピーインストールしたが、当時はプレイヤー数増加の目的でコピーインストール権も無限で、それが1度きりとなった今より親子の絆が希薄だったこともあって、インストールを試した有象無象の子の1人として生まれ、ルールもよく知らされないまま対戦をさせられてポイントを奪われるタンクのような扱いを受けた。
そんな扱いに抗って群がる親や兄弟を蹴散らして生き残ってみせたサアヤだったが、そこまでして生き残った加速世界に意味はあるのかという疑問を持ったまま日々を過ごすうちに、ある人物との出会いがその疑問を解消した。
それがテイルの親である《レイズン・モビール》。
世代的には現在でだいぶ減ってしまった第2世代――オリジネーターを親に持つ子――の生き残りであるモビールは、当時からずいぶんな性格で、初対戦時に全く楽しそうじゃないサアヤを見るや煽りながらの逃げに徹して、ムキになって追いかけてきたサアヤを小技でダメージを与えて最終的に圧勝するという屈辱的な敗北をさせるが、それがサアヤの心に火を点けて以降、数々の対戦を繰り返すうちに自然と笑えるようになっていったのだ。
そういった意味でモビールは今のサアヤにとっての恩人の1人となるわけだが、サアヤ自身あんまり認めたくはなかった。
そうしてモビールから対戦の楽しさを学んだ矢先に、サアヤのバーストリンカーとしての人生を変える人物として出会ったのが初代赤の王《レッド・ライダー》。
彼はサアヤの対戦を間近で観戦するや否や「お前の戦い方は豪快で好きだ。俺のレギオンに入らないか」と女に対して言うような台詞ではない勧誘をしてきて、とりあえずの仮加入で《プロミネンス》に所属したものの、次第にライダーのその人となりに惹かれていき、いつの間にか正式加入。
その後すぐに《カーマイン・ボンバー》とのタッグを結成し、当時の幹部集団と並び称される《混沌の舞姫》が誕生した。
順調に思えた日々。
次第に拡大していくレギオンと支配戦域に、それに対抗するライバル達のレギオンとの対戦。
サアヤはこの時が最も燃えていた時期だったが、それはライダー達7人の《
その後に行われた七王会議でのロータスによる不意打ちによってライダーが全損。
ライダーを失ったプロミネンスの解散。
残った王達の取り決めた相互不可侵条約による加速世界の長きに渡る停滞の始まり。
それら全てのことをリアルタイムで体験したサアヤは、この時すでに心が折れかけていて、自らアンインストールしようかということまで考えた時期もあったほど絶望を味わった。
そんな絶望の世界ですっかり対戦の回数も減り呆然と過ごしていた時に現れたのが、テイルだったのだ。
誰よりも楽しそうに、大胆に、挑戦的に停滞した加速世界を引っ掻き回し始めたテイルの噂はすぐにサアヤの耳にも届き、その対戦を観戦するようになって、当時のブレイン・バーストを楽しんでいた自分を呼び起こされるようなものを感じてからは少しずつ対戦回数も増えていき、また対戦を楽しむ自分を思い出せたのだ。
そして絆を再び求めて自らの子を作るまでになった。
そのテイルがモビールの子だと知った時は、ある種の運命のようなものを感じていた。
自分にブレイン・バーストの楽しさを教えてくれたモビール。
その子にそれを思い出させてもらって、サアヤにとって特別な存在となったテイル。
テイルとの出会いからサアヤはずいぶんと明るくなって、かつての元気を取り戻していき、ロータスとの因縁も終止符を打つことができて、バトロワ祭りというレベルアップの新たな可能性の場をも作ったテイルのおかげで、加速世界が少しだけ動いた。
そう思って実感してきたところで、あまりにも早すぎるテイルのレベル9到達とその後のサドンデス・デュエルに一方的な喧嘩別れ。
「…………あああぁぁぁああああもおおお!!」
自分を落ち着かせようと昔のことを思い出しながら後悔ばかりだったことを実感して、いい加減ため息も嫌になったサアヤは、突然そんな奇声を発して机から頭を上げて立ち上がると、ビックリするクラスメート達の視線もなんのその。
この後の行動を決定してドカッと椅子に座り直すと、開き直ったようにいつも通りの学校生活に戻っていった。
放課後。
部活もやっていないサアヤは我先にと教室を出て帰路につき、一直線で中野駅の北にある区役所近くの自宅へと帰って、制服はそのままで鞄だけ置いてすぐに家を出る。
すると丁度すぐ近くの家に住む従兄弟に当たる自らの子《スノー・イーター》こと
昔からそれぞれの両親が大の旅行好きで、ことあるごとに交互に新婚旅行みたいなことをするので、その関係で親にハブられて預け預かることの多かったアキラの家とは付き合いが深く、その関係でアキラを子にし、そのアキラは昨年度末に転校してきた同じ漢字の名前だからってだけで異常に仲良くなったリョウを子にして今に至るが、そんなことは今はどうでもいいのだ。
そうやって何故か急ぐようにしてサアヤがその身ひとつでやって来たのは、練馬区桜台にあるちょっと有名な洋菓子店。
名前は《パティスリー・ラ・プラージュ》といい、そこはサアヤが今まで絶対に行くまいと避けてきた店だった。
この店は今や勇名轟く《ブラッド・レパード》がオーナーをやっていて、今のプロミネンスの拠点の1つでもあるが、それだけならばサアヤはここを敬遠したりはしない。
しかしここには、ずっと会わないでおこうと心に決めていた加速世界で出会った大切な人がリアルでバイトとして働いているのだ。
それを情報でだけ一方的に知っていたサアヤは、加速世界で出会ったが故にいつか忘れられてしまうかもしれないという恐怖から、絶対に会わないと心に決めてこれまでやってきたのだ。
それを今回、破る覚悟でやって来たサアヤは、店の前で大きく深呼吸して高鳴った心臓の鼓動を圧し殺してから、ゆっくりとそのドアを開けて店内に進入。
途端、洋菓子店らしくほんのりと甘い香りが鼻腔を刺激して外とは別の世界と錯覚させてくる。
「いらっしゃいませー」
店に入ってから少し立ち止まってしまったサアヤは、次に聞こえた自分を招く聞き慣れた男の声にさっき静めた心臓がビクンッ、と大きく高鳴ってちょっと慌ててしまう。
そんなサアヤを少しだけ笑いながらに近付いてきた男性店員は、ムカつくほどに爽やかな笑顔で接客を始める。
「初めてのお客様ですね。本日はテイクアウトですか? それともイートインコーナーで食べていかれますか?」
「えっ、あっ、えっと……い、イートインで」
「ではこちらの席にどうぞ」
ムカつくほどの笑顔だが、接客に関しては完璧で言われるがままに移動し引かれた椅子に腰かけたサアヤは、出されたメニューからどれを注文するかを悩む。
「ちなみに本日のオススメはこのガトーショコラになりますが」
「へ、へぇ、そうなんですか……」
注文に悩んでいたら、横からそうやってオススメを言ってきた店員だったが、それを聞いた他のグループの女性客はクスクスと笑いながらその店員に「それってテル君の作ったやつだからでしょ?」とかツッコミを入れていて、それにはテルと呼ばれた店員も笑いながらに「まぁそうですけど、シー、シー」と割とバレてもいい感じで返していた。
「じゃあこのモンブランでお願いします」
なんとなくそれを聞いたら注文する気になれなかったサアヤは、オススメを無視する形で注文をすると、ちょっとガッカリしたテルはそれで注文を承ってから、割り込んできた女性客達と2、3言葉を交わしてから引っ込んでいって、しばらくして注文したモンブランを持ってサアヤの元へと再びやって来て丁寧な持ち運びで目の前に置かれる。
「うちの洋菓子はどれも一級品ですから、きっとご満足いただけるかと」
とかなんとか言ってモンブランを置いてから引っ込む様子もなく隣に立って感想を待つように様子をうかがうテルに、この上なく食べづらさを感じながらも、これがデフォルトであるかのようにさっきの女性客達もクスクス笑っていたので、仕方なく微妙な空気を感じつつモンブランを口にし、普通に美味しかったのでそう漏らせば、ニコッと爽やかな笑顔を向けてきて「それは良かった」と満足気にする。
「その制服って、渋谷の有名進学校のだよね? 前にその制服を着た子が、制服が可愛いからって理由だけで進学を決める女子も少なくないって話してたけど、もしかして君もそういう動機だったりする?」
その後も引っ込む様子もなく話しかけてくるテルに、ちょっとどうすべきなのか迷ったサアヤだったが、他の店員も止める様子もなく放置なところを見るにこれがいつもの光景なのかと勝手に納得し、会話に応じることにした。
「そうだったら何か問題があるの?」
「うんにゃ。たとえそういう動機だったとしても、あそこの受験で合格するのは努力なしには無理でしょ。だったら素直に凄いなぁって思っただけだよ。ああ、ちょっと砕けた話し方になっちゃったけど、オレもいま中3だから、少なくとも同い年か年下になるかなって思ったら気が緩んだだけで、気を悪くしたならごめんね」
しかしこの男性店員が自分が避けてきたテイルのリアルだと思うと、確かにあっちのテイルと全然変わらないか、とか思ってしまって思わず苦笑するが、それをどう受け取ったのか迷惑がってるみたいに思ったのか、その後は割とすぐに離れて別の客の元へと話しかけに移動してしまい、その様子をサアヤはモンブランを食べながらチラチラと見始めた。
あっちでお喋り。そっちでお喋り。
なんとなく店員と客の枠を越えた関係性を築くテルと客の雰囲気に、サアヤはちょっと不思議な感覚を覚えたが、それよりも女性客しかいないイートインコーナーでさも当然のように居座って客との会話に笑顔で応じているテルにこの上なくらしさを感じてしまって、リアルでもこんなんなのかとついつい思ってしまいつつモンブランを食べてジト目で見続ける。
さすがにバイトでこの自由さはどうなのかと思って、オーナーだというレパードが止めに入らないのかと他の店員に目を向けるものの、会話の中でも丁度「ちゃんと仕事しなきゃ」と言われていて、それに対してテルは「今日はオーナー休みだからオッケー」とかアホみたいなことを言っていたが、それが聞こえた他の店員が後でオーナーに報告しておくと裏切り宣言をすれば、それだけは勘弁と嘘泣きまで加えて懇願していた。
その様子を端から見ていたサアヤも、思わずクスリと笑ってしまい、その時にタイミングを見計らったようにテルがその視線を自分に向けてきたため慌てて視線を別の方向に向けて誤魔化すが、ニコニコ笑顔で近付いてきたテルはちょっと店の雰囲気に馴染んできたことを察して話しかけてくる。
「まぁオレが表に出てるといつもこんな感じだから、何かあったら笑ってくれていいよ。ニコニコ笑顔で帰ってくれるのがオレとしては嬉しいしね」
「……ふーん。ってことはあなたって女の子とお喋りするのが楽しいから表に出てきてるんだ?」
「その通り! っていうのは半分冗談だけど、やっぱりこうやって近くでお客さんの声を聞きながらの方が、自分達の作った物がどう思われてるのかってわかるからね。オレはそういうのを自分の目でしっかりと見たいと思ってるんだ。だからさっきの君の美味しいって感想は本当に素直に嬉しいんだよね」
自分が知っているテイルという人物と全然変わらないテルというリアルに、何故かホッとしてテイルと接している時みたいな感じで話してしまったサアヤ。
そんなちょっとした意地悪な質問にさえらしい笑顔のまま答えたテルに、少しだけドキッとしてしまったが、それを悟られまいと視線を逸らして気を紛らわすように口を開く。
「サアヤよ。都田沙絢。同い年だから他人行儀な話し方じゃなくていいわ」
「サアヤ、ね。オレは1度覚えた女性の顔と名前は絶対に忘れないから! あ、オレは皇照良って言うから、気軽にテルって呼んでくれていいよ。もしくはあっちのお姉様方のように可愛くテル君って呼んでも……」
「あーうん、テルね。よろしくよろしくぅ」
それで君とか呼ばれたのがちょっとだけ嫌だったサアヤがそうやって名乗れば、テルヨシもすぐに名乗り返してきて余計なことまで言ってきたのでまた反射的にいつもの調子で返してしまいハッとするも、本人は「君付け失敗かー」と笑いながらに言うので冗談だったのだとわかりホッとする。
「でもサアヤはなんとなく仕草とかが男性寄りなところがあるよね。もしかして男の兄弟とかいるんじゃないかな」
「えっ、マジで? どの辺からそんなの漏れてたんだろ」
「いや、そういう反応の仕方とかだよ……」
そうして自己紹介も済んでからここまでの会話でテルヨシがサアヤについて気付いたことを突っ込むと、ズバリ言い当てられて驚くが、こんな小さな部分でも男勝りな性格が出てるのかとちょっとだけ落ち込んでしまい、意外とその辺を気にしてるサアヤはその指摘に本気で唸る。
「……テルの言う通り、私には兄さんがいて、その兄さんを見て育ったせいか活発な方で、昔から周りに女の子らしくないって言われてた。お母さんに勧められて日本舞踊の稽古……着物着て扇子とかこうやったりするあれね。それを小さい頃からずっとやったりしてるけど、あんまり好きになれなくて。お父さんの好きなヘビメタとかの方が好きなくらいだし。それでもこういう制服を着たら、外見からでも少しは女の子らしくなれるかなって思ったけど、あんまり変わらなくてね」
気づいたらそんな話を知り合ったばかりのテルヨシに話しててバカみたいと思ってしまう。
本当はずっと前から知り合ってるわけだが、それはもうサアヤの中でそうというだけで、テルヨシにとっては今日初めて来店した客に悩み相談されたに等しい。
向こうからしてみればいきなりそんなこと言われてもと思われて当然のことに対して、テルヨシはちょっと驚くような反応をしてから、少しだけ言葉を探すようにして唸ると、そこから導いた言葉をサアヤへと伝えてくる。
「でもサアヤは本当のところは習わされてる日本舞踊のことも嫌いじゃないよね。本当に嫌いならもうとっくにやめてるだろうし。それに女の子らしくって言うけど、オレはボーイッシュな女の子ってのも好みだから、無理して女の子らしくするくらいなら、サアヤはサアヤらしくしてるのが一番良いと思うけど。少なくともオレは着飾ったりしないありのままの人の方がずっと魅力的に見えるよ」
確かに本当に日本舞踊の稽古が嫌いなら、もうとっくにやめていたのは事実。
その人の負の感情を主にしてアバターを作られるブレイン・バーストで《ブレード・ファン》という扇子型の強化外装を持って生まれた時も、やっぱり自分が日本舞踊を好きではないのだと思ったが、時が経つとそうではなかったのではと思うようになった。
そしてありのままの自分が魅力的だと言ったテルヨシに急に恥ずかしくなったサアヤは自覚できるほど顔を赤くするが、何かを話す前にまた横から「またテル君が女の子を誉めちぎってるー」とか言われてしまって、弁明に行ってしまったテルヨシを他所に残ったモンブランを食べ切ると、今日はこれ以上いると恥ずかしさでやられそうなので退散することにして席を立ち会計を済ませる。
すると気付いたテルヨシが客との会話も途中にサアヤの見送りに寄ってきて、さっき恥ずかしいことを言ったにも関わらず普通に話しかけてきて、本当にこいつはとか思いながらその会話に応じた。
「今日は来てくれてありがとう。またこの店の洋菓子を食べたくなったら、いつでも来てね」
「たまになら来てもいいかなって感じかな。次に来た時に名前を覚えてなかったらデコピンでもしてあげようか?」
「サアヤのデコピンは痛そうだなぁ……されないように今しっかりと見て眼球に焼き付けておくから、もっと顔をよく見せて」
「そういうのやめなさいよ! 恥ずかしいでしょ! ああはいさよなら!」
最後までテイルらしいテルヨシで調子を狂わされっぱなしになったサアヤは、店に入る前にあんなに心の準備を要したのに、いざ入って出てみればまた来てもいいかといった心地よい気持ちで帰路につき、この日出会ったテルヨシとのリアルでの思い出を噛み締めて、普段は信じていない神様にある1つのお願いをするのだった。
――どうか今日のこの出会いを、私から忘れさせないでください――
その願いが叶うかどうかは、今のサアヤには全くわからなかったが、そこにはたとえブレイン・バーストがいつかその記憶を自分から奪っても、この出会いだけは忘れないというある種のサアヤの決意が込められていた。
そして、ここから都田沙絢と皇照良の新たな友人関係を築き、もう2度とあんな後悔をしないようにする。
そうした願いと決意と共に家に帰ったサアヤは、全損しても変わらずに自分の知るテルヨシでいてくれたことに喜びが込み上げてちょっとだけ身悶えしつつ、その日は眠りに就いたのだった。