アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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Acceleration7

 

 明くるゴールデンウィーク初日。

 朝早くから東中野駅のホームに来ていたテルヨシは、昨夜デートを取り付けた相手、若宮恵をワクワクしながら待ち合わせ時間の15分前から待っていた。

 聞くと恵は中野区本町に家があるらしく、一番近い駅が東中野駅とのことでそこを待ち合わせ場所にしたのだが、その相互間で連絡がつかないのはマズイので、東中野駅に着いた辺りからテルヨシはグローバルネットに接続している。

 東中野駅がある中野第2戦域は青のレギオン《レオニーズ》が占領する戦域。

 テルヨシにとってグローバルネット接続を安心して出来るのは自宅と限定条件下で練馬戦域しかないため、今のこの状況は非常に落ち着かない。

 現にグローバルネット接続してからすでに1度乱入されて対戦をしている。このまま30分も繋いでいれば、最低でもあと2、3回は乱入されかねない。

 恵と合流してしまえばグローバル接続も必要なくなるので、早く来てくれと願いつつホーム出入り口を見つめるテルヨシ。

 そんな感じで待つこと数分。

 テルヨシの視界に新着のテキストメールが届いたアイコンが現れ、時間的にも恵しかいないだろうとそれを開くと、メールには「もう着きますわ」という恵からのメッセージが。

 確認したテルヨシはホッと安堵の息を吐いてから、「ホームにいる」と返してグローバル接続を切った。

 対戦は基本的に歓迎なテルヨシではあるが、これからデートという前に気疲れしたくはないのが本音。

 だからさっき乱入してきた同レベルの相手はボッコボコに叩きのめしていたりする。

 そんなテルヨシの裏事情を知る由もない恵は、そのあとすぐにホームへと姿を現してテルヨシを発見しゆっくり近寄った。

 その恵は、全体的にフワッとした明るい色合いでまとめた服装で、Tシャツに薄手の長袖ジャケット、下は丈の短いスカートにニーソックス。年相応というよりは少し周りの目を意識した女の子といった雰囲気を出していた。

 

「待たせてしまったかしら」

 

「うんにゃ、女を待つのは男の仕事よ」

 

「そこは『オレもいま来たところ』とかではなくて?」

 

「いやいや、メールでホームにいるって言った時点ですでに待ってるでしょ。だったら待つことが苦じゃなかったことをだね……っと、そんなことより、今日は一段と可愛いじゃないか恵。よく似合ってるよ」

 

「テルに私服を見せるのは初めてでしたわね。ありがとう。お世辞でも嬉しいですわ」

 

「世辞とかで言わねーんだけど、そういうイメージ定着してんだろうしいっか。んじゃ行きましょうかね」

 

 デートの時でも相変わらず扱いが変わらないことに少しガックリきたテルヨシだったが、そんなことは小さなこと。

 そう考え開き直ると、丁度タイミングよく来た電車に恵と一緒に乗り込んで、東京グランキャッスル目指して移動を開始した。

 山手線や地下鉄を利用して辿り着いた東京グランキャッスルは、一世を風靡したテーマパークと覇を競うようにそびえていて、開業前にも関わらず入場口にはたくさんの人で溢れていた。

 ゴールデンウィークに考えることは皆一緒だということだろう。

 そんな営業戦略にまんまとハマってる自分に笑うしかないテルヨシだったが、そこは営業の人達とは違う思惑で来てるのだと言い聞かせて納得させた。

 まさか営業の人達も、裏でバーストリンカー達による一大イベントが開催されるなど予測すらできていないだろう。

 

「これでは入場だけでだいぶ時間を取られてしまいそうですわね」

 

「まっ、入っちまえば楽だろうし、それまでは我慢しようや」

 

「今から別の場所へ行く手もありますわね」

 

「恵様、一応わたくしめにもプランというものがありましてですね……」

 

「フフッ、冗談ですわ。テルはアドリブに弱いタイプなのかしら?」

 

「さすがのオレも財布事情のアドリブに弱いって。リアルな話だけどさ……」

 

「意外に計画的な行動なんですわね。確かにテルの言う通り、デートは相手の新しい一面を見つけることができる良い機会なのかもしれませんわ」

 

 入場口の長い列に並びながら楽しそうに話す恵は、今のところテルヨシとのデートを純粋に楽しんでいるようで、それにはテルヨシも笑みがこぼれる。

 そうこう話していると営業開始時間となり、先頭集団から次々と中へと入っていき、長い列もゆっくり前進し始めていった。

 そうして十数分かけて入ったグランキャッスル内は、本当に宣伝通り中世のヨーロッパを思わせる石材で建てられた建築物の街が広がり、その最奥部には小高い丘の上に建てられた立派な城が。

 そしてこの東京グランキャッスル全体を10メートルほどの壁で囲っている辺りは正に城塞都市といったところだろう。

 そんなグランキャッスルをほぅほぅ頷きながら見回していたテルヨシは、ふと隣にいる恵を見ると、恵もそんなグランキャッスルに感心したのか、その目をキラキラさせていた。

 

「次の作品は中世のヨーロッパを舞台にしてみようかしら」

 

「作品? ああ、恵は文芸部だったっけ。それならちゃんと見て回らないとな」

 

「テルには少し感謝ですわね。テルに誘われなければここには来なかったでしょうし」

 

「感謝するのはまだ早いぜ? 恵を満足させるのはこれからなんだからよ」

 

 テルヨシのそんな言葉を聞いた恵は、デートが始まったばかりだったことを思い出してクスッと笑うと、楽しさを表現するように軽い足取りで歩き始めて、テルヨシもそれについていった。

 それからはあっという間で、様々な場所を渡り歩いて、アトラクションに乗ったりと楽しむ2人。気付けば時間も昼の12時になろうとしていた。

 テルヨシの提案でお昼を食べることにした2人は、飲食コーナーへと移動してそれぞれ料理を受け取ると、手頃な2人がけのテーブルに着き食べ始める。

 

「あ、悪い恵。レジから手拭きを忘れてきた。取ってきてくれないかな?」

 

「奢らせてる身ですし、それくらいはしないとですね。ちょっとお待ちを」

 

 それで恵は座りかけていた椅子から立ち上がり、レジへと歩いていった。

 その背中に両手を合わせて謝罪したテルヨシは、視界に表示される現在時刻を見ながら、ニューロリンカーをグローバル接続。

 時間が昼の12時を指す2秒前に、加速コマンドを口にした。

 

「バースト・リンク」

 

 所持している1バーストポイントを消費して加速したテルヨシの見る世界は全てが青く染まって止まる。

 厳密にはテルヨシが1000倍の速度で動き、その周りの時間もゆっくりではあるが動いている。

 しかしテルヨシの今の姿は、デュエルアバターではなく、学内アバターと同じマスコットの狼である。

 《初期加速空間》と呼ばれるこの空間では、まだ対戦も何も始まっていないので、対戦フィールドの構築もされていない。

 しかしこの空間にいられるのは体感時間で1800秒。つまり対戦の制限時間と同じである。

 これは加速していられる上限時間とされているため。ちなみにこの空間内ではソーシャルカメラの映像を再現しているので、カメラの視界内のものは忠実に再現されるため、可能なら女性のスカートの中が覗けたりもするが、カメラの視界外の映像は推測補完という形で再現され、そこはポリゴンっぽくなる。

 バーストリンカーの中には、この空間を利用して現実で得をしようとする者もいて、対戦をそのポイント稼ぎの手段としか考えていない輩も少数ながらいる。

 もちろんテルヨシはそんなことのために自分から加速したことは1度もなく、ブレイン・バーストという対戦格闘ゲームを純粋に楽しんでいる。

 そしてテルヨシがこの初期加速空間に来た理由は、もちろんここグランキャッスルで行われるイベントに参加するため。

 パドの話では、イベント会場は通常対戦のプロセスでは行けないらしく、ここグランキャッスルにある転送用のポータルを潜る必要があるとか。

 参加者と観戦者のほぼ全員が事前に配布された《トランスポーター》で会場入りするため、テルヨシのように配布されたアイテムを使用せずにわざわざ現地に赴いてポータルから行くバーストリンカーはほぼ皆無。

 イベント開始時間が、現実時間の昼の12時ジャストからなので、その2秒前に加速したテルヨシには40分ほどの猶予がある。

 その間にポータルを潜りイベント参加チームに交渉して滑り込まなくてはならない。

 ということで早速パドに教えてもらったポータルがあるグランキャッスル入場口へと走っていったテルヨシは、その方向に青い世界から天に登る光を見つけて、その発生源へとまっすぐに走り寄ると、そこにはパドが言う通り、会場へと行けるポータルがあった。

 時間もないのでためらうことなくそこに飛び込んだテルヨシは、その瞬間に体が粒子となって消え、次に体を構成したのがデュエルアバターであることを自覚しつつ、辿り着いた場所に足を踏み入れた。

 わあっ!

 会場に入った瞬間、地震かと錯覚するほどの歓声で驚くテルヨシは、この会場に集まったバーストリンカーの数にさらに驚く。

 イベント参加のバーストリンカーに加えて観戦席まで設けられた会場には、見ただけでも500人以上はいそうで、つまりは全バーストリンカーの半数以上がこの会場にいることになる。

 

「Hi、テイル」

 

 そんな光景に立ち尽くしていたテルヨシに話しかけてきたのは、おそらく加速世界の住人では黒雪姫の次に付き合いの長いバイト仲間、パドである。

 

「ハロー、パド。ありがとな、パドが教えてくれなきゃここに来れなかった」

 

「レース開始まであと20分。アテはある?」

 

「おおっと、そうだそうだ。これから交渉しに行かなきゃな……って、なんだこれ?」

 

 パドに言われて目的を思い出したテルヨシは、頭を切り替えて参加チームを見始めようとしたが、その視界上部の変化に気付き首を傾げる。

 いつもなら視界上にはHPゲージと残り時間が表示されるのだが、その相手のHPゲージと残り時間がないのはイベントだからと理解できたが、自分のHPゲージに【LOCKED】と表示されていたのだ。

 これはHPゲージが減らないことを指しているようである。

 

「このイベントではデュエルアバターがHP0で脱落することはない。その代わりに持ち運ぶ宝珠にHPゲージが存在する」

 

「なるなる。オレ達は体張って宝珠を守りながらゴール目指して突っ走るわけだ。よかよか。これならレベル差とかあんま関係ないよな」

 

「レベル差というのはそれほど甘くはないぞ」

 

 そこに返してきたのはパドではなく、第三者の女性の声。

 テルヨシがそちらを向くと、そこには濃い赤紫色の軍服を思わせる装甲をした女性士官型アバターがいて、その腰には輪に巻いた鞭が装備されていた。

 

「おっ? 《ヴァイン》ちゃんだー! おひさー」

 

「馴れ馴れしく呼ぶな!」

 

「Hi、ヴァイン」

 

「レパード、貴様も出るようだな」

 

「なになに、ヴァインちゃんもイベント参加するの? 良ければ仲間に入れてくれない?」

 

「断固拒否する! 貴様など観戦席で指をくわえて見ていればいいのだ!」

 

「酷いよヴァインちゃん。君のとこのマスターはオレを歓迎してくれたのにさー」

 

「知らん! 実力は認めてやるが、その馴れ馴れしい性格は私は好かん!」

 

 現れて早々テルヨシを毛嫌いするそのアバターは、中央区と江東区を領土とする紫のレギオン《オーロラ・オーバル》に所属する《アスター・ヴァイン》。

 レギオン内で紫の王の側近レベルのハイランカーでもある。

 テルヨシは以前、紫の王と会談をした際にこのヴァインと会っており、反応を見てわかるように好かれてはいないらしい。

 その理由はおそらく初対面の紫の王に対していきなり砕けた話し方をしたことを快く思わなかったからとテルヨシは考えているが、真意はヴァイン本人しか知らない。

 テルヨシ自身、古参のバーストリンカーとして見はすれど、レベル9の王だろうと、究極的には同じプレイヤーであると考えているから、そこに上下関係を気にすることをしない。

 だから紫の王や青の王達とも普通に接したのだが、忠誠心の強いレギオンメンバーはそれが気に食わないのだろう。

 現に青のレギオンでも2人の侍型のF型アバターに癇癪を起こされていたりする。

 

「くそぅ、早速加入に失敗した……見てろよパド! ヴァインちゃん! オレを加えなかったことを後悔させてやるからな!」

 

「その前にチームに加われないと終わり」

 

「今から入れてくれるチームなどあるわけがないだろう」

 

「ふんぬー! その余裕の言動! 久々にオレの魂に火を点けた! こうなったら日本の秘技! 『土下座』をしてでもチームに加わってやる!」

 

「腰が低い」

 

「プライドはないのか」

 

 ああ言えばこう言うパドとヴァインに、テルヨシはもう何も言わずにガウ!

 唸ってから離れていき、別の参加チームに交渉を持ちかけに行った。

 

「ほわー! 《ドール》ちゃん発見さー!」

 

 残りの8チームに声をかけるべく動き出したテルヨシがまず見つけたのは、ついこの前知り合ったF型アバター《ニッケル・ドール》だった。

 彼女はその名に金属を含む《メタルカラー》で、身長は1メートルそこそこの低身長。長い髪パーツと大きく広がったアーマースカートが特徴の白っぽい銀色の装甲をしている。

 なにより珍しいのは、ドールのフェイスがちゃんとした表情を見せていること。

 大多数のデュエルアバターは、その顔が装甲で隠れて表情など読み取ることができない。

 テルヨシ自身も端から見れば、その表情などわからないフェイスをしているし、かろうじて見えるのは装甲の奥に光る赤色のアイレンズだけ。

 そのドールは、テルヨシに話しかけられてニコッと可愛らしく笑ってみせて言葉を発する。

 

「あ~ら、テイルじゃない。見てたわよぉー。あそこの2人に華麗にフラれてたわねぇ」

 

「2人ともガードが固くて……おっと、《ダクト》も元気かい?」

 

「お前も元気そうだな」

 

「オレが元気じゃない日は嵐が来るぜ?」

 

 やはり知り合ったばかりでも砕けて話すテルヨシは、先程の光景を見ていたドールに笑われてしまいガクリとするが、すぐにドールの隣にいた大型のM型アバター《サンド・ダクト》とも挨拶を交わす。

 ダクトはドールとは対照的に身長が2メートル近くあり、砂色のゴツい装甲と両手首の上側についた大きなエアダクトが特徴で、性格もひょうきんなドールと違って寡黙。

 話ではドールと同じレギオンに所属して、タッグパートナーなんだとか。

 

「そんなわけだから、仲間にいーれてっ!」

 

「アタシ達のレギオンに入るなら考えてあ・げ・る」

 

「じゃあいいや。次々」

 

「え? そんな簡単に退くの?」

 

「時間がないんだよ~! 割に合わない条件は即却下だって」

 

「ドールのは半分冗談だ。それとチームに入る交渉なら、そちらからメリットのある材料を提示するべきだと思うが?」

 

「サンディ賢い! なんかあるなら聞いてあげる」

 

「んー、じゃあ優勝したらポイントはいらない。ドール達で分配してくれていいよ」

 

 交渉失敗と思い次のチームに話しかけようとしたテルヨシを、ダクトが止めそう言うと、確かにと考えたテルヨシはそれで少し思案してそんな提案をした。

 テルヨシは別に優勝賞品のバーストポイントが欲しいわけではなく、純粋にイベントに参加して暴れたいだけなので、特にためらいはなかった。

 

「おーっと、そいつを聞いちまったら俺ちゃんも黙ってねぇぜ!」

 

 そのテルヨシの言葉を聞いて近寄ってきたのは、最初からテルヨシの視界に入っていながらも、テルヨシが交渉に行くことを避けていた青のレギオン所属の《フロスト・ホーン》。

 

「俺ちゃんを倒すだけの力がありゃ、それだけ優勝が近付くってもんよ! どうだテイル! 俺ちゃん達のチームに入らないか?」

 

「ちょおっと待ちなさいよぉ! 先に話しかけてきたのはアタシ達の方よ? 割り込みしないで!」

 

「いま断ってたじゃねーかよ。だったら俺ちゃん達に勧誘の権利はあるだろ」

 

「なに言ってくれちゃってるのかしらねぇ。アタシ達はまだ返答してないわよ。これだから近接脳筋のレギオンは困るわ」

 

「カッチーン! 俺ちゃんだけならまだしも、うちのレギオンをバカにするのはいただけねーぜ!」

 

 そこで当人であるテルヨシを差し置いて言い争いを始めたドールとホーン。

 今この場がHPゲージ固定でなければバトルにまで発展しそうな雰囲気に、テルヨシも嬉しさ半分、呆れ半分で割って入る。

 

「ちょい待ち! オレちゃんを奪い合ってくれるのは嬉しいけど、1つ確認させてくれないか? ドールちゃんのチームもホーンのチームも枠に余りはあるのか? オレとしては身勝手な理由で誰かを押し退けて参加するのは避けたいんだけど」

 

「アタシ達のチームはちょうど都合がつかなかった1人の分の空きがあるわ! 言っとくけど嘘じゃないからね」

 

 テルヨシのそんな問いにドールは即答。何故か誇らしげに胸を張ってホーンを見下す。

 対してホーンはぐぬぬ……と両拳を握って唸りながら、見下ろしてくるドールを見上げる。

 

「お、俺ちゃんとこのチームは……ぬああぁぁあ! 空きがねぇえええ!」

 

「はい決まりぃ! 負け犬はさっさとあっちに行きなさいよ。アタシ暑苦しい男って嫌いなの」

 

「ぐがああ! イベントが始まったら覚悟しろよ!」

 

「ホーン、それは八つ当たりだ。漢なら私情を持ち込むなよ」

 

「ぐっは! 確かに……な、なら絶対に俺ちゃん達が勝ーつ!」

 

 言い残してホーンはテルヨシ達に背中を向けて走り出して、チームメンバーの輪の中に戻っていったが、その背中はあまりにも寂しかった。

 

「まっ、ご傷心のホーンはいいとして、チームに入れてくれてありがとな、ドールちゃん」

 

「気にしないでテイルぅ。アタシ達も4人のままイベントに参加するのはちょっと不安だったしぃ」

 

「ああ。最大人数で臨まねば6大レギオンとは対等な争いができんからな」

 

「見た感じだと、残りのチームは白を除いた6大レギオンにドールちゃん達と、無所属か小規模レギオンか。とりま難敵はハイランカーのいる赤と紫のチームだな。特にパドは相当厄介だ。普通にやったらオレなんか相手にならん」

 

「ちょおっとぉ! 始まる前から勝てないとか言わないでよぉ!」

 

「落ち着けドール。テイルは『普通にやったら』と言ったのだ」

 

「ダクトは察しが良いな。今回はプレイヤーダメージがない。それならまだやりようはある。問題はこのイベントの中身さ」

 

 ドール達のチームに加わることが決まったテルヨシは、そこからすぐに作戦会議に突入。

 ドールのチームの残り2人――赤系統と青系統のデュエルアバター――も集まって会議に加わり、小さな輪を作った。

 

「中身って、この宝珠を……たぶんあのお城のどこかまで運ぶレースでしょ?」

 

「大雑把な中身はそうだろうけど、じゃあその運ぶまでにどんなことが起こるか予測できる?」

 

「まず、チーム同士での宝珠の壊し合いが考えられるな。特にスタート直後は全チーム横並びで危険度は高い。あとはスピード勝負、ではないか?」

 

「そんな単純ならイベントも盛り上がらないさ。それこそチームの最速プレイヤーに持たせて先攻逃げきりで終わっちまうしな」

 

「つまり何が言いたいのよ! テイルは回りくどい!」

 

「いや、だからスタートしたらまず確認したいことがあるわけ。後手にはなるけど、イベントの中身を把握するのは攻略の鍵だと思うし。んなわけでスタートしたらオレは単独行動するから、乱戦は4人で宝珠を死守してくれ」

 

 そこで両手を合わせて頭を下げるテルヨシに、ドール達はひきつった笑いを漏らしたのだった。

 そしてイベント開始まで残り1分となり、各チームが続々とスタート地点に揃ってその開始を待ち、テルヨシは開始直前まで相手のチームの一挙手一動を観察して、その狙いを見定めながらドール達に小声でわかったことを伝えていった。そして、

 ひゅぅぅぅうううう……ドッパァアアン!

 そんな盛大な花火がイベント開始の号砲となり、加速世界でも稀少なイベント《グランキャッスル攻略レース》は幕を開けた。

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