アクセル・ワールド~蒼き閃光~   作:ダブルマジック

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 始まった《グランキャッスル攻略レース》。

 スタートと同時に飛び出したのは《フロスト・ホーン》率いる青のレギオン。

 ホーン達はひと固まりとなって宝珠を完全ガードしながら、スタート直後に参加チーム減らしを始めた《ブラッド・レパード》率いる赤のレギオンと《アスター・ヴァイン》率いる紫のレギオンを躱して先頭に躍り出る。

 続く形で緑のレギオンと黄のレギオンが乱戦から抜け出し追随。

 パドとヴァインのチームはそれぞれ2チームずつ脱落させてからそのあとを追いかけ、《ニッケル・ドール》率いるチームは作戦通り開始直後から乱戦を避けて回り道でスタートしていた。

 そしてテルヨシは開始直後から宣言通り単独行動して、猛烈なダッシュをする先頭、ホーン達のチームを陰から追跡。その周囲を観察する。

 テルヨシの予測が正しければ、最初にイベントの洗礼を受けるのが先頭のチーム。

 それが予測できてるイベント参加者は、あえて先頭に立たないスタートをしている。パドやヴァインが良い例だろう。

 彼女達はまず、終始レースで競うチーム数を減らして、脱落のリスクを減らしつつ先頭集団の様子をうかがう作戦で、勝負どころでスパートをかけるはず。

 緑と黄のレギオンもそれがわかってて後続についているようにテルヨシには見えていた。

 

「ぬっはっは! このまま独走でゴールするぜ……ん? なんだありゃ?」

 

 高らかに笑いながら先頭を走るホーンは、その前方に何かを発見。

 テルヨシも目を凝らしてそれを見ると、そこには城下の街の道をとおせんぼするように横並びになった西洋の騎士甲冑を纏った人型のモンスターが。

 しかもその手にはゴツい槍と盾が装備されていて、明らかにこちらに攻撃の意志を見せていた。

 その光景に、先頭チームを自動追随するようにできてる観戦席に座るギャラリー達から歓声が上がる。

 

「なんのぉ! 漢、見せてやるぜー!」

 

 そんな臨戦態勢のモンスターに怯むことなく突っ込んだホーンは、いとも簡単に弾き飛ばされて尻餅をつき、それにはギャラリーも爆笑。

 しかしモンスターはそれに留まらずに、足を止めたホーン達のチームに襲いかかっていき袋叩きにし始める。

 

「いだっ! いだだだだ! HPが減らなくてもこれは痛い! お、宝珠を守れー!」

 

 槍や盾でゴスゴス滅多打ちにされながら、ホーンは必死に宝珠を守るように叫ぶ。

 その間にテルヨシはホーン達を抜いて先頭に立ってみた。

 しかしモンスターはターゲットを変えることなくホーン達を袋叩きにし続ける。

 先頭のアバターを狙うように設定されているのではない?

 と思考したテルヨシは、続いてホーン達を抜き去った緑のレギオンを見る。

 するとホーン達を袋叩きにしていたモンスター達は、そのターゲットを緑のレギオンへと変えて猛然と走り出したのだ。

 その光景を見たテルヨシやパド達は少し考えてからチームにそれぞれ指示を出していった。

 テルヨシも集めるべき情報を集めたと判断して、後続にいたドール達と合流。

 

「ダクト、ちょい宝珠貸して。最終確認してくっからよ」

 

「構わんが、絶対に割るなよ」

 

「それフリ?」

 

「なわけないでしょお! 割ったら一生クチ聞いてあげないからね!」

 

「冗談だよドールちゃん。んじゃオレのちょっと後ろをついてきてくれ。確認終わったらダクトに投げ返すから、キャッチしてくれよ」

 

 そう話し終えたテルヨシは、左肩にドールを乗せながら走るダクトから宝珠を借りると、先頭の緑のレギオンを追い抜いて先頭に立ち周囲を見回す。

 するとテルヨシの元に都市全体からモンスター達が近付いてくる気配を感じ、なるほどと思うとすぐに後ろのダクトに宝珠を投げ返しスピードを落として先頭から後続へ戻り、ドール達と再び合流。

 

「どうやらグランキャッスル全域にモンスターが配置されてて、たぶんあの城に一番近い宝珠を破壊するように設定されてるみたいだ。あと最後尾も怪しいな。安全圏に思わせて、バックアタックでの奇襲も十分あり得る」

 

「城に一番近いプレイヤーではなく、宝珠なのが肝だな」

 

「それなら物体の瞬間移動とかのアビリティがあれば、宝珠を持たずにゴールへ行って運ぶ、なーんてことも?」

 

「まぁ、そんなアビリティ見たことも聞いたこともねぇし、そこは気にしなくていいだろうな。要はいかにモンスターにターゲットされず一番にゴールするかだ。とりあえず先頭には長くいない方がいい」

 

「相手チームにモンスターを押し付けながら、着実にゴールへ近付く、か。駆け引きが重要になるな」

 

 状況判断の早いダクトはテルヨシの言うことをすぐに理解して今後の行動を決定すると、テルヨシもそれには賛成。

 しかしドールは何やら奇策を考えたようで、両手をポンと合わせてテルヨシ達に話をする。

 

「じゃあ、相手チームの宝珠をブン取ってぇ、それをテイル辺りが持って逃げ回りながらモンスターをターゲットしてぇ、その隙にゴールするっていうのは?」

 

「あのパドやヴァインちゃん達から宝珠を奪える算段があるなら実行してもいいけど?」

 

「あの近接脳筋チームからなら簡単そうじゃない?」

 

「奪ったら奪ったで暑苦しいのがこっちに襲ってくるぞ?」

 

「うわ……それは勘弁ね。それなら紫オバサンのレギオンよ! あそこだけには意地でも負けたくないわ。奪って利用したらどっかにポイしてあげましょ。ホホホッ!」

 

 そんな悪い笑いをするドールにテルヨシも相棒のダクトも返す言葉が見つからなかった。

 ちなみにドールの言う紫オバサンは《紫電后(エンプレス・ボルテージ)》の異名を持つ紫の王《パープル・ソーン》のこと。

 彼女はその通り名の通り、最強クラスの放電能力を持っていて、ドールも形式は違えど同じ放電能力を持ち合わせているため、皮肉を込めてオバサンなどと呼んでいるのだ。

 

「ドールちゃんはわかってないなぁ。ソーンくらい気丈な女性は貴重なのよ? ドールちゃんみたいな小悪魔系も貴重だけど、歳の差なんてないに等しいんだからオバサンはダメだって」

 

「アタシはいいの! サンディ! 今のうちに必殺技ゲージを溜めていくわよ! レース終盤で接戦になったら、それだけ有利なんだから!」

 

「つってもHPゲージ固定ってことは、プレイヤーダメージで必殺技ゲージは溜められないわけだろ? そうなるとモンスターを倒すかオブジェクト破壊ボーナスくらいしかないよな」

 

 と言いつつテルヨシは近くに備えてあったベンチを蹴り砕こうとしたが、鋼鉄で出来ているかのように弾かれてしまい、蹴った足を両手でさする。

 

「ぬぁぁあ! 無理無理無理! オブジェクト破壊無理!」

 

「破壊不可の設定なのねぇ。実験台ありがと、テイル」

 

「ど、どういたしましてドールちゃん。ドールちゃんが怪我する前に実証できて嬉しいよ……」

 

「となるとゲージを溜めるにはあのモンスターを攻撃するしかないわけだな。すでに気付いているチームもいくつかありそうだが」

 

「よくできたイベントだなこれ。堅実に行けば終盤で逆転手の必殺技が使えなくて、かといって突っ込めば宝珠を破壊されるリスクを負う」

 

 とりあえず痛みの引いたテルヨシは立ち上がってそんな感想を述べると、ドール達もそれには賛同。

 こうしている今も進行を続ける他チームを改めて追いかけ始めた。

 それから全チームほぼ横並びのまま、互いに迫り来るモンスターを押し付けつつ城の前まで到達。

 ここからはルートも狭まるため、必然的にチーム同士のぶつかり合いが予想され、より混戦となることを先読みしたテルヨシは、あえて最後尾を行く選択をドール達と決定。漁夫の利作戦を実行した。

 城の内部は城下以上にモンスターの配置が多いようで、さらに先頭後ろも関係なく『城に侵入した宝珠とアバター』をターゲットするように変更されていた。

 それにはテルヨシもパド達ハイランカーも驚愕。ここからは小細工が通用しそうにない。

 

「城っていったらやっぱ玉座の間とかだよな? そこにたぶん宝珠を納める場所があるはず。機動力のあるドールちゃんとオレで宝珠を運ぼう。ダクトとあとの2人はフォローと妨害!」

 

「ちょっとテイル! リーダーはアタシよ! 仕切んないで!」

 

「これは失礼お姫様。ではなんなりとご命令を」

 

「ちょっ!? そーゆーのも恥ずかしいからやめてよ! もういいわよそれで! サンディ! 頼んだわよ!」

 

「任された」

 

 普段は人を引っ掻き回すタイプのドールも、同じタイプのテルヨシに少々苦手な部分があるらしく、これ以上からかわれることを嫌って話を進めると、宝珠をダクトからもらってその肩からひょいっと華麗に降りてテルヨシと並走を始めて、混戦極まる前線へと走り出した。

 

「ぐおお! 虫のように湧いてくるモンスターがぁ! このままじゃまた袋叩きにぃ!」

 

「NP。さっさと脱落して」

 

「レパードてめぇ! 俺ちゃんもう怒ったからな!」

 

 前方でモンスターの大群と派手などつき合いをしていたホーン達のチームは、その横をヒラリと通り過ぎようとしたパド達のチームを見て憤慨。

 わざとパド達の方向へ突撃してモンスター達をなすりつけにかかって、それにはパド達も動揺。

 回避不可能と判断するやモンスター達とホーン達へ攻撃を開始した。

 

「お疲れさんホーン! パドもさいならー!」

 

「勝手に潰し合ってくださいなー!」

 

 その乱戦をホーンの頭を踏み台に飛び越えたテルヨシとドールは、通過のついでにそんな言葉を残して先頭集団に加わっていき、踏み台にされたホーンは「ふげっ!」と奇声をあげて倒れていた。

 

「行かせない。《シェイプ・チェンジ》!!」

 

 それを言われて黙ってるほどパドも優しくなく、テルヨシとドールの背中を見つつ、自らの必殺技を発動し四足歩行獣へとその姿を変えて、テルヨシ達のあとを追いかけていった。

 

「ぎゃあす! パドさんはえっすよ! ちょっぱや!」

 

「いやぁ! いやぁ! 捕まるー!」

 

 物凄いスピードで迫るパドにテルヨシとドールも叫びながら全速で走る。

 しかしそのスピード差は圧倒的で、あと数秒もあれば追い付かれてしまう。

 そんな時に先頭争いをする集団を捕捉。

 その中にいたヴァインの足をテルヨシはテイル・ウィップで絡み取ってそのまますぐ後ろのパドに放り投げる。

 

「き、貴様! 私になんてことを!」

 

「ごめんねヴァインちゃん。悪いんだけどパドを止めて」

 

 交錯の瞬間にヴァインにそう話したテルヨシは、それでヴァインを手放してそのまま逃走。

 パドも突然のヴァインのアタック――投げ飛ばされただけ――にブレーキを掛けて対応。

 その隙に差を広げたテルヨシとドールは一気に先頭集団に合流。

 すぐさまテイル・ウィップで足下を払って転倒を促してみるみるその人数を減らしていく。

 

「うはは! 我が覇道に敵なし!」

 

「やっほー! やれやれテイルー! 素敵よー!」

 

 ドールの声援も後押しとなって、あっという間に先頭に躍り出たテルヨシは、緑、黄、紫のレギオンの宝珠を持つ1人を残してモンスターのターゲットが集中しないようにして完全に逃げ切り体制を整えてなお全速力で疾走。

 そしてその先に見えてきたのは大きな扉で閉じられた部屋。

 考えられる限りではここがゴールであることを悟ったテルヨシは、その扉をドロップキックで蹴り開けて中に転がり込むと、そこは最奥部に鎮座する玉座がひと際目立つ玉座の間に違いなく、その玉座の横には、頂点に宝珠がピタリとはまりそうな空洞のある台座が。

 

「ドールちゃん! あそこがゴールっぽ……」

 

 見えたゴールに歓喜の声をあげようとしたテルヨシだったが、それより早く残った3チームが我先にと玉座の間を駆ける。

 しかしここにもモンスターの集団が出現しその道を阻む。

 

「テイル! 部屋の端に寄りなさい! 巻き込まれるわよ!」

 

 その様子を見ていたテルヨシに、すぐ後ろにいたドールが叫びながら玉座の間の横へと移動をしていて、テルヨシも言われるがままドールについていくと、ちょうど玉座の間の扉の前から追いかけてきていたダクトが姿を現し、その両手のエアダクトの吸引口と排気口を向け合って立ち止まる。

 

「《ターボ・モレキュラー》!!」

 

 そして技名コールと共に両手のダクト内のタービンが回り始めて、排気した先から吸引をする。

 そんなことをしたあと、ダクトがぐいっと両手を広げると、途端、その前方にいた3チームとモンスター達が動きを止めてダクトにずるずると吸い寄せられていった。

 

「あれがサンディの気体分子を弾き飛ばして真空領域を作る《ターボ分子ポンプ》よ! 今のうちにゴールに!」

 

 ドールの簡単な説明になるほどと相づちを打つテルヨシだったが、ダクトがそこまで必殺技ゲージを溜めていなかったことも思い出して長くは拘束できないと悟り、ドールと一緒にダクトの真空領域を避けてゴールを目指す。

 ――ひゅんひゅん!

 しかしそこにダクトの横を通って姿を現したパドとヴァインが猛烈な勢いでテルヨシ達に迫り妨害をする。

 2人とも宝珠を持っていないが、やはり負けたくないらしい。

 ヴァインは腰に提げていた鞭をテルヨシに放ちその左足を捕らえて動きを止める。

 

「貴様には、絶対に勝たせん!」

 

「いいのか? 足掴んで」

 

「なに?」

 

「《インパクト・ジャンプ》!!」

 

 鞭で捕らえてきたヴァインに対して、そんな忠告をしたテルヨシは、最初で最後の必殺技を発動。

 鞭で繋がったヴァインもろとも前方へダイブするようにジャンプ。その勢いにヴァインも前方へ吹き飛ぶ。

 

「う……きゃあぁぁあ!」

 

 そのあまりの勢いにヴァインはらしからぬ可愛い悲鳴をあげて前方に投げ飛ばされ、テルヨシは玉座の10メートル手前で静止。

 しかしヴァインもただでは終わらなかったらしく、直前で鞭を天井のシャンデリアに結びつけてテルヨシを逆さ吊り状態で吊るすことに成功していた。

 

「ぬおお! ヴァインちゃんなんてことを! しかーし! 行ってらっしゃいドールちゃん!」

 

 まさかの逆さ吊りに叫ぶテルヨシだったが、宝珠を持ってるのはドールであり、そのドールはテルヨシのインパクト・ジャンプの直前にテイル・ウィップで腰をホールドされて一緒にジャンプしていたので、逆さ吊りの状態からドールを半ば投げる形で玉座へと送り出したテルヨシ。

 これでドールが宝珠をはめれば勝ちである。

 

「おほほほほ! このレース、アタシ達の勝ちよー!」

 

「させない」

 

 声高らかに玉座へ飛んでいくドールに対してそんな声がしたのは、ドールの頭上。

 そこには真上から急降下するパドがいて、ドールはそのパドの突撃を受けて玉座の2歩手前でうつ伏せに叩き落とされてパドにそのまま上に乗られてしまう。

 

「ちょ!? ちょっとアンタ! 退きなさいよ!」

 

「無理。宝珠は破壊させてもらう」

 

「やらせるわけないでしょ!」

 

 じたばたするドールに対してパドは冷静に手に持つ宝珠を破壊しようとしたが、ドールも負けじとその両手を押さえてくるパドの前足から電流を流して抵抗を始めた。

 今回はダメージ判定はないが、その追加効果であるスタンは有効らしく、電流を受けるパドは途端に動けなくなってしまった。

 その様子を吊るされながら見ていたテルヨシは、嫌な予感がしてドールに声をかけようとする。

 

「あ、あのぅドールちゃーん。宝珠持ったままその攻撃はアウトっぽいというか……」

 

 テルヨシの忠告は必死に抗うドールには聞こえなかったらしく、十数秒に及ぶ電撃を受けた宝珠はパリィィィン!

 設定されていた耐久値を下回って砕け散ってしまった。

 それには電撃を出していたドール自身が呆然。電撃を出すのも忘れて放心状態に突入。

 パドはそんなドールを哀れみながらその上から退いて必殺技ゲージが尽きたのか、変身を解いて床に立つ。

 そしてその横をダクトが拘束していた緑のレギオンのメンバーが通り過ぎて宝珠をはめてしまい、それには今度はテルヨシとパドが呆然。

 あまりにあっさり決着してしまったため、2人とも「あっ……」などと声を漏らしてしまっていた。

 しかしそんな決着でもギャラリー達は大喝采。最後まで戦い抜いたテルヨシ達に惜しみない拍手が贈られた。

 テルヨシ自身、勝てなかったのは相当に悔しかったが、それよりも純粋にこのイベントを最後まで楽しめたことがこの上なく嬉しく満足のいくものとなって、接戦を繰り広げたパドやヴァインに視線で感謝を述べたあと、ヴァインに鞭を取ってもらって床に降りる。

 

「GG。手強かった」

 

「レベル1にしては、だがな」

 

「おやおや? 負け惜しみですかヴァインちゃん。それにさっきの『きゃあぁぁあ!』は超可愛かったし」

 

「な!? き、貴様ぁ! 忘れろ! 今すぐ忘れろ!」

 

「ぬはは! オレが忘れてもギャラリーが忘れないって! しばらくは乙女なヴァインちゃんの噂がささやかれることになるな」

 

「NP。ヴァインは可愛かった」

 

「やめろぉぉおお!」

 

 いじられることに慣れていないのか、ヴァインは頭を抱えて膝をついてしまい、それにはテルヨシも思わず笑いそうになるも、そうすると後日ヴァインに何をされるかわからないので心で笑っていた。

 

「ちょおっとテイルぅ! 何で宝珠が壊れることを注意してくれないのよぉ!」

 

「えー、そこは自分で気付こうよ。パドだって気付いててずっと電撃を受けてたんだぜ?」

 

「落ち度はドールにある」

 

「むっきー! なーんで他所のメンバーにダメ出しされないといけないのよー!」

 

「ドール、負けは負けだ。それにレパードのチームも負けている」

 

「サンディ~、やっぱりアタシの相棒はサンディだけよ~。テイルとは合わないの。性格とか」

 

「オレはドールちゃん好きだぜ? また機会があったら組んだりしような」

 

「だったら今度一緒にタッグ戦でもやる?」

 

「おーやるやる! どこで暴れちゃう?」

 

「もちろん紫オバサンの領土よ!」

 

「貴様! 我が王をオバサン呼ばわりとは覚悟はできているんだろうな」

 

 そこでドールとヴァインがにらみ合いを始めてしまったので、巻き込まれる前に退散したテルヨシは、それからパドとダクトに軽く言葉をかけてから会場から姿を消し加速を解いたのだった。

 

「…………ふぅ」

 

 イベントを終えて現実に戻ったテルヨシは、そこでひとつ息を吐いてから手拭きを取りに行ってくれてる恵の後ろ姿を確認してから、もう1度申し訳なさそうに手を合わせて、戻ってきた恵と一緒に昼食を食べ始めた。

 時間はイベントが開始された12時から1分と経過していない。

 

「どうしましたのテル? 少し表情が浮かないようですけど」

 

「ん……いやさ、勝負ってやっぱり負けると悔しいなって思ってさ」

 

「そうですわね。ですけどそれが普通ですし、改めて思うようなことでもない気がしますけど。テルはよくわからないですわね」

 

「それにしてもオレの表情の変化に気付くなんて恵もやるねぇ。ひょっとしてオレが気になってたり?」

 

「ふふっ、寝言は寝てから言ってください。それにわたしでなくても姫でも気付きますわよ?」

 

 そんなに表情に出てたか?

 と思いつつも、またヒラリと躱されたテルヨシは止まっていた手を動かして食事を再開。

 それを見て恵も料理に手をつけていった。

 それから午後も少しだけグランキャッスル内で時間を過ごしてから、4時からバイトのあるテルヨシに合わせてグランキャッスルを出て杉並方面に向かい始めた。

 それで池袋駅での乗り換えをしてしまえば、テルヨシと恵の初デートはそこで終了。

 そうなる前にとテルヨシはグランキャッスルでさらっと購入していたものを、駅のホームでの待ち時間で恵にプレゼント。

 何かと気になった恵はその場で開けていいかを問うと、テルヨシも了承。

 少しワクワクしながらそれを開けると、中には少し高そうな入れ物に入った香水が入っていた。

 

「これ、高かったのではなくて?」

 

「値段を気にするのはなしだって。初デートは必ず何かプレゼントするって決めてるんだよ。だから笑顔で受け取ってもらえると嬉しいかな」

 

「でも……はぁ。何でこういう時は素敵な殿方になるんでしょうか……」

 

「オレはいつでも素敵な殿方のつもりなんですけど……」

 

「あらそうでしたの? 気付きませんでしたわ。ですがありがとうテル。大切に使わせていただきますわね」

 

 そんな感じで返してきた恵に苦笑するしかなかったテルヨシだが、最後に見せた恵の笑顔がどうしようもなく罪悪感に浸らせてくる。

 テルヨシ自身、プレゼントの理由については嘘は言ってないが、今日のデートで恵を利用したことへの謝罪の意味も含まれている。

 そういった後ろめたさがあるため、恵のそんな含むところのない純粋な笑顔が少しチクリときたテルヨシではあったが、そんな内心を知る由もない恵に悟られるわけにはいかないので、それから恵と別れるまで終始いつもの調子でらしくしていたのだった。

 今度は自身も満足のいくデートにしたい。

 そう思いつつ池袋駅で降りたテルヨシは、新宿駅で乗り換える恵をホームで見送りながら人知れず誓ってから、桜台にあるケーキ屋へと向かったのだった。

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