汝、意志を受け継ぐ者よ   作:みなみZ

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ストックがー切れたーーー。


第2話

彼女を一言で表すなら…美しかった。

神々と並んだとしても決して見劣れしない美貌。

男好きする絶妙なプロポーションを誇る豊満な体。

この神々が多く在籍する迷宮都市オラリオにおいても、神々の中でも美しい愛の女神等には太刀打ちできないが、他の女神達にはいい勝負をできる!

そのような確信すらも彼女は持っていた。

 

今日も彼女は街に繰り出す。

彼女が街を出れば、男達からは劣情の視線。女達からは嫉妬と羨望の視線が彼女を包む。

女はこの視線が快感だった。

 

冒険者が多いこの迷宮都市では、男は女と出会いを求める傾向が強い。

冒険者はいつ、死んでもおかしくない状況。だから彼らは自らの生きた証を求めて女を求める。

 

当然、美しい彼女も声を掛けられた数は数え切れないほどある。

だが、彼女は決して安売りしない。

 

私を相手にしたいのなら、冒険者なら最低でもレベル5はなくちゃね。もしくは相当な大金持ちよ。勿論、顔もイケメンじゃなくちゃだめね。

 

ふふふ、とスイーツな彼女は甘ったるいスイーツな事を思いながら歩いていると。

 

「そこゆく、美しい方よ。よければ僕の車に乗り、街を一緒に散歩でもしませんか?」

後ろから声をかけられた。

耳に良い美声だった。顔はまだ見ていないが声のよさは合格レベルだ。

そして車、つまりは馬車だ。馬車を個人で所有できる資産者つまりは金持ち。

これはいい獲物かもしれない。

 

ギラリと彼女は目を輝かせる。

後残っているチェックポイントは容貌のみだ。

声を掛けてきた男の容貌を確認しようと振り返る。

 

「お誘いありがとうござい…ま……す」

 

振り返った彼女は呆気にとられた。

 

「ぶも」

 

猪だった。

でけえ猪だった。

通常の成体の猪の倍の大きさはあろうかという、でっけえ猪だった。

しかも黄金色だった。

きらきら輝きまくって、眩しいくらいだった。

思わずサングラスが欲しいと思ってしまうくらいに輝いていた。

 

目の前の圧倒的な光景に呆気にとられる。

なに?私猪に声をかけられたの?猪人(ボアズ)じゃなくて猪に声をかけさせるなんて…私の美しさは獣にまで通じるのかしら?

 

「僕の声に耳を傾けてくれた貴女に感謝を」

 

声は猪の上から聞こえてきた。

猪の上へと視線を向けると、そこには一人の青年が居た。美しい青年だった。美しさを誇る自分に相応しい美貌をもつ青年。

暫し、青年の美しさに見惚れている自分がいた。

まるで、物語のように青年の背後に美しい大輪の薔薇が見えるかのようだ。

 

「美しい方よ、さぁどうぞ私の後ろへ」

 

その声に導かれるように彼の後ろに行こうと足を踏み出したとき。

 

「ぶも」

 

猪の声で正気に戻った。

 

え?この馬鹿でかいきんきらに輝く猪に乗るの?それはどんな公開処刑なの?

しかもこの猪に跨る男の後ろにみた薔薇。

錯覚だと思ったら、違う!本物の薔薇だ。この男実際に薔薇を背負っている。

 

薔薇背負った男と黄金に輝くでかい猪に跨り、デート。

 

それを認識した時、美しい彼女は己が持てる全力を込めて走り去った。スカートがめくれあがり、美脚をさらすことになってもいい。清々しい逃げっぷりだった。

 

「美しい方!?お待ちをーーーーー!!!」

 

後方から聞こえてくる無駄に美声な悲痛な叫び声がどこまでも聞こえてくるが、それを振り払い彼女は明日へと脱兎の如く駆け抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日から僕達は前人未踏の地に至る59階層へと挑戦する事になる。そしてそれを成し遂げるには此処にいる皆の力が必要だ。遠征に赴く団員達は当然として、留守を預かる為に残る団員達ロキ・ファミリアの顔という事を決して忘れないでくれ。僕達はロキ・ファミリア。このオラリオにおいての最大派閥。ロキ・ファミリアは個にして郡。郡にして個。僕らの力を迷宮にいる怪物達にみせつけてやろう。…明日は皆の力を頼りにしているよ」

 

 

ロキ・ファミリアの本拠地である黄昏の館の食堂。

そこにはロキ・ファミアの団員全てが勢ぞろいし、団長たるフィン・ディムナの演説を聴いている。

彼らの目の前のテーブルには色とりどりな豪華な食事に酒等も置いてある。

しかし彼らは目の前の食事にではなく、皆一様に真面目に自らの派閥の団長の言葉に耳を傾けていた。

まあ『団長…素敵』や『うっえぐえぐ』なんて声が聞こえてくるのもあるが。

 

「では、僕からの言葉はここまでにする。皆、グラスを持ったかな?それでは、明日からの遠征の成功を祈り、乾杯!!」

 

『乾杯!!』

 

その声と共に、団員一同は自らの手に持つグラスを一息で飲み、明日からの遠征を乗り切るための宴会へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル・ノールドは自らの境遇を嘆いていた。

自身は何の特徴もない凡庸な人間だと思う。

しかし、何故かフィンを始めとしたロキ・ファミリアの首脳陣から信頼を寄せられており、第二級冒険者の纏め役を任せられている。中間管理職のような立場だと自分では思っている。

 

そしてラウルの視界の先には宴会の最中だというのに、涙を流しながら自棄酒を飲んでいる第一級冒険者の姿があった。ぐすぐすと涙を流しながら、酒を飲んでいる姿に周囲の団員はかなり引いていた。

周りの視線はラウルにどうにかしろと切実に訴えていた。

 

「あ、あのー。オリシュさん?どうかしたっすか?」

 

嫌々ながらも泣き続ける第一級冒険者へ声をかける。

自分の声に自棄酒を飲んでいた第一級冒険者は酒を飲む手を止めて、こちらに視線を向けてきた。

現実離れした美貌だ。

オラリオの女性冒険者達の中で『顔だけならいいんだけどねぇ…ちょっと…ていうか、かなり中身が…』と言われるに相応しい美貌だった。

その神の造形のような美貌が涙を流しながらこちらを見つめる。ラウルは男ながらドキリと心臓が高鳴ったのを感じた。でも大丈夫。自分はノンケっす。

 

「ラウル…とてもとても、辛く悲しい事があったのだよ…」

「何があったすか?自分でよければ、話を聞くっすよ?」

「ありがとう…でも、話したい気分じゃないのだよ…」

「そうっすか。じゃあ無理には聞かないっす。明日から遠征なんですから、早く元気だしてくださいね。自分は宴会に戻るっすから」

 

そう話して席を立とうとするラウルの服の袖を掴む人物がいた。

その手の持ち主はオリシュだった。

 

「あ、あのオリシュさん?手を離して欲しいんすけど…?」

「とてもとても、辛く悲しい出来事があったんだよ…」

 

先ほどと同じ発言をするオリシュ。

たらりとラウルは汗が流れるのを感じた。

 

「あ、あの、話したい気分じゃないんすよね?だったら自分は此処を離れてるんで」

「確かに今は話したくない…今は…ね」

 

ラウルは戦慄した。

この男は自分が話したくなる時まで傍にいてくれ。ということなのか。そういうことなのか。

 

こいつ、めんどくせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっす!!??

 

ラウルは心の中で絶叫した。このままでは、宴会の間自分は、うじうじとこの男に付き合わされることになる。そんなのはごめんだ。自分も明日からの遠征に参加する身なのだ。皆と宴会を楽しみ、明日の英気を養いたいのだ。

助けを求めようと、周りに視線を走らせる。ロキ・ファミリアが誇る郡にして個である仲間達は、皆一様に視線を逸らした。

 

ナイスコンビネーションっす!?

 

援軍を期待できず、絶望するラウル。

しかし、自分も逆の立場に立ったなら、同じ反応をするかもしれない。

 

この目の前でぐちぐち言っている、めんどくさい相手だが、腐ってもその能力(ステイタス)は迷宮都市オラリオにおいても数える程しかいない、第一級冒険者―――レベル5なのだ。

第一級冒険者はある意味において、自然に等しい存在なのだ。気まぐれに恩恵を。気まぐれに災厄を。それだけの力が誇るのが第一級冒険者なのである。

 

しかし、まだ救いはある。

第一級冒険者は迷宮都市オラリオにおいても数える程しかいない。しかし数える程しかいなくても他にもいるのだ。第一級冒険者達は。

そしてこのロキ・ファミリアは都市最大派閥の一つ。

ならば、望めるはずだ。

 

「何してるのー?」

「ぐちぐちぐちぐち…うざいわね」

 

他の第一級冒険者達の援軍が。

 

援軍として現れたのは双子のアマゾネス。

胸部装甲の厚い姉のティオネと胸部装甲の薄い妹のティオナだ。

 

ラウルには二人から後光が差しているかのように感じた。

 

 

「ティオナ…ティオネ…実は深い悲劇があったのだよ…」

 

この男、自分には話せなかったのに、女にだったら話すのかよ。

ラウルは地味にショックを受けていた。

オリシュの愚痴相手はどうやら、双子のアマゾネス達に移ったらしい。

アマゾネス達に自称、深い悲劇を話し慰めてもらおうと、オリシュは話そうとした。

 

「「どうせ、女にでも振られたんでしょ」」

 

「容赦ないね君達!?」

 

しかし双子のアマゾネスは一刀両断だった。

慰めの切欠すらもあたえる事無く一刀両断だった。

 

「いや、そう決め付けるのは早計じゃないかい!?そのとおりだけどさぁ」

「けっ。どうせ、お前が馬鹿な事して、女に振られたんだろ」

 

新たな援軍は狼人(ウェアウルフ)であるローガだ。チキンをむしりながらこちらに近づいてきた。

 

「僕は馬鹿な事をしていない。ただ時代が僕に追いついていなかっただけさ」

「時代って…どんなことしたの?」

 

「街に魅力的な女性がいてね。僕は直ぐに準備を行い、女性に声をかけただけだよ。馬鹿な事等何もしていないのだよ」

「準備って何をしたの?」

薔薇革命(ベルサイユ)を発動させて、グリンブルスティを召還して跨ったのだよ」

 

「ドン引きっすね」

「ドン引きだよ」

「ドン引きだわ」

「ドン引きだ」

「ドン引きだね」

「ドン引きです!!」

 

うわぁ…とこの話を聞いた全員がドン引きした。

 

「って、いつの間にかアイズとレフィーヤがいるじゃないか!?」

 

いつの間にか増えていたアイズやレフィーヤもドン引きしていた。

 

「オリシュさん!!貴方はハーフエルフですが、誇り高きエルフの王族ハイエルフの御嫡男なのですよ!?もっと節度を保ってください!!」

「しかし、レフィーヤ。僕はそのハイエルフの父上から使命を託されているのだよ。その使命はハーレムの設立。僕はその為に身命を賭してでも成し遂げなければいけない。これはハイエルフの血を受け継ぐ者の定めなのだよ」

 

うぐっとレフィーヤの勢いは止まってしまった。

エルフの王族たるハイエルフから、これはハイエルフの定めだと言われると、エルフとしては強く言い出せなかった。

 

「だ、だったら、何でその…ハ・ハ・ハ・、ハーレムを作る為に、グリンブルスティを召還したんですか?」

「父上からの教えなのだよ。女性に声を掛ける時は、豪華で高級な乗り物を乗りながらすると成功率が著しく上がるとね。そして僕が持つ最高の乗り物とはグリンブルスティ。黄金の毛並みを持つ、優雅で愛おしいやつさ」

 

召還獣をナンパに使うんじゃねえよ。

この話を聞いた全員が心の中で同じ事を思った。

 

ていうか、その父親からの教えが間違っているとか疑えよ。

この話を聞いた全員が心の中で同じ事を思った。

 

ていうかていうか、そんな事教えるハイエルフって何なんだよ。

この話を聞いた全員。特にレフィーヤは強く思った。

 

「だというのに、肝心の僕は何時まで経っても、ハーレムのハの字も作れていない。父上ーーー!!!!偉大なるハイエルフの血を受け継ぐ僕のこの低落振り、真に申し訳ございません!!このような僕で父上から受け継ぎしハイエルフの使命を達成する事などできるのでしょうかー!?ハイエルフの血を受け継ぐ者として!ハイエルフの血を受け継ぐもの―――ぐえ!?」

 

「ハイエルフ、ハイエルフとうるさい。それ以上ハイエルフの恥を晒すな」

 

ハイエルフの血を受け継ぐ者の蛮行を止めたのはこれまたハイエルフだった。

リヴェリアは己の愛杖であるマグナ・アルヴスをフルスイングして、甥のオリシュの側頭部に炸裂させた。

痛みのあまり、オリシュは側頭部を押さえながら床に転がった。

 

「この馬鹿が迷惑をかけたな。皆、また宴会を楽しんでくれ」

「は、はい。あの…リヴェリア様は…?」

「私はこの馬鹿を今すぐに拷問…いや、折檻…もとい、教育しなければならない」

「あの、叔母上。マジすんませんでした。いや、ほんと勘弁してください。自分、明日から真面目に生きますんで」

「うるさい。さっさと行くぞ」

 

リヴェリアは、ガタガタと震えるオリシュの服の襟首を掴むと、そのままずるずると引きずり食堂を後にした。

 

 

「………………えーっと。………宴会続けようか?」

 

 

どこか疲れたティアナの提案に皆はしみじみと頷き、宴会の場に戻り明日の遠征に向けて英気を養った。

何処からともなくオリシュの悲痛な叫び声が聞こえる気がするがきっと気のせいだろうと皆は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盾ェ、構えぇぇ!!」

 

団長たるフィン・ディムナの号令が響き渡る。

同時に響き渡る衝突音。数多の盾と数多の怪物達が衝突した音だ。

 

ダンジョンの49階層。通称大荒野(モイトラ)

ロキ・ファミリアが今現在いる場所であり、彼らは怪物達と激戦を繰り広げていた。

 

大荒野(モイトラ)は荒れ果てた大地である。

一本の草木もない広大な荒れ果てた大地。その場所で戦線を維持する方法は一つしかなかった。

すわなち、己の体を盾にして戦線を維持する。

 

 

戦況は単純だ。

前衛は盾を用いて、戦線を維持。前衛に守られた後衛は後方から弓矢や魔法を用いて間髪無く打ち込み支援。

団長たるフィンは中央で、指揮を執る。フィンの優れた指揮が戦場という水場のように移ろいいく戦況を幾度も無く立て直す。

副団長たるリヴェリアは魔導士や弓使いの中心にて、ロキ・ファミリアの最大火力の力を発揮するために、精神の集中を行っている。

幹部たるガレスは持ち前の耐久力と力を存分に発揮し、戦線の維持に多大な公益をもたらしている。

 

そして機動力と火力を併せ持つ、若き第一級冒険者達は、戦線の維持を行うために、縦横無尽に駆け巡り、怪物たるフォモール達を駆逐していった。

 

いつ、何が起きて戦況がどのように変わるかまるでわからない緊迫の状況。

戦況が有利に傾いたのは怪物達の方だった。

 

フォモール達の中でも一際大きな巨体を誇る一体が戦線に穴をこじ開けたのだ。

モンスターが数匹後衛達へと侵入。そして同時に攻撃。

 

「レフィーヤ!?」

団員の悲鳴が聞こえる。

一人の少女が吹き飛ぶ。それはエルフの少女レフィーヤであった。

直撃こそ免れたが、超筋力によりくりだされた一撃の衝撃波をもろに喰らってしまった。

くらくらする頭を抱え上体を起こすと目の前には、戦線を破壊した超大型のフォモールの姿があった。

レフィーヤは息を呑む。動けない。その醜悪な容貌の中にある赤い瞳に睨まれ、レフィーヤの時が止まる。

フォモールは手に持つ鈍器を振り上げる。レフィーヤは自らに襲い掛かる死を予感した。

 

「剣郡よ」

 

しかし死は彼女に襲い掛からなかった。

死を覚悟した彼女の視界に入ったのは、数多の剣。

その数多の剣が鈍器を振り下ろそうとしていたフォーモールを貫いていた。

直後倒れ伏すフォーモール。レフィーヤは死を免れた。

 

「ナイス!オリシュ!」

 

ティオネの歓呼の声が聞こえる。

 

レフィーヤの視界の前には、黄金の猪に跨った青年。オリシュの姿があった。その両手には双剣。背中には弓矢を背負っている。

オリシュは倒れ伏せるレフィーヤの無事を確認すると、再び前線へと戻る。

フォモールを貫いていた数多の剣。

五本の剣が持ち手も居ないのに、浮かび上がりオリシュに向かい飛んで行った。

オリシュの傍まで行くと、五本の剣はふわふわとオリシュの傍を浮かび上がっている。

 

「行け、剣郡よ」

 

オリシュの言葉に五本の剣は意志があるかの如く、猛然と前線を崩そうと暴れる怪物達の元へと飛んで行き、怪物達を駆逐していく。

剣達が怪物達を掃討している間、オリシュは黄金の猪―――グリンブルスティを駆り自身も怪物を掃討していく。

その双剣を用いて怪物を切り、時には背中の弓矢に装備を切り替え、矢を放ち、時にはグリンブルスティの突撃を怪物達へとお見舞いし、戦線の維持に務めた。

 

団員達はその姿に圧倒された。

 

 

召還魔法(サモン・バースト)という魔法がある。

それは読んで字の如く、何かを召還する魔法だ。魔法はどんなに才能溢れている魔導師でも例外を除き、原則三つ以上の魔法を覚える事ができない。それゆえに、半分以上―――、つまりは二つ召還魔法を覚えたものは特殊な魔導士。召還士(サモナー)と呼ばれる。

 

オリシュは召還士(サモナー)だった。

彼が使える召還魔法(サモン・バースト)は現在二つ。

何よりも速く大地を駆け巡る黄金の猪、グリンブルスティ。

意志を持つかの如く戦い続ける剣、ヴェルンド・スキールニル。

未だ第三の魔法は目覚めてはいないが、この二つの召還魔法(サモン・バースト)を駆使し、尚且つ術者本人も同時に戦闘を行う事ができるオリシュを冒険者達は畏怖を込めてこう呼んだ。

 

 

 

都市最強召還士

 

 

神々から与えられし、その二つ名は系譜者(ユングリング)と。

 

 

 

「【ことごとく一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

リヴェリアの詠唱が終わりを迎えようとしている。

途中アイズがフォーモールの群れの中核に切り込むアクシデントがあったが、オリシュはひたすら、戦線の維持に務める。そこには己のなすべき事を理解していたことと、アイズへの絶対の信頼があったからこそだ。

ティオネがアイズの帰還を促すべく名前を呼ぶ。

アイズは自らを呼ぶ声に応じて、空を飛ぶように、飛び跳ね、自陣の中核へともどってきた。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣―――我が名はアールヴ】!!」

 

そして放たれる終末の業火。

スルトの剣。

 

「【レア・ラーヴァティン】!!」

 

 

放たれた業火は全ての魔物を焼き尽くす。

たった一人の魔導士が放ったたった一つの魔法は、五十を超えるであろう、フォーモール達を一掃することに成功した。

広範囲殲滅魔法。業火に飲み込まれた怪物達は断末魔を上げながら、次々へと消えていく。

たった一人の魔導士の火力にて戦いは終わった。

 

その光景を見ながら、オリシュ・ノムスコ・アールヴは思う。

 

これが都市最強魔導士の力。自分では到底出せないであろう超火力。超魔法。

この光景を見て、つくづく思う。自分は都市最強とは呼ばれているが、所詮魔導士の一部である召還士(サモナー)達の中での話である。

魔導師達の頂点である都市最強魔導士の称号を持つ叔母には、一生勝てる気がしないな。

 

 

 

燃え盛る荒野を見ながらぼんやりと、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死闘を繰り広げた49階層を抜け、50階層へと進攻したロキ・ファミリアは野営の準備を行っていた。

50階層はダンジョンの中でもモンスターが生まれないという貴重な安全階層(セーフティポイント)である。

野営地としては絶好の階層なのだ。

 

テントの設置や、食事の準備に団員達が忙しなく動き回る中、レフィーヤは探していた目当ての人物を見つけ、声を掛けた。

 

「オリシュさん!」

「ん?何だい?レフィーヤ」

 

自分の声に振り向くオリシュ。その容貌は相も変わらず、絶世の神秘的な美貌。でもなんだかいつもと違って見える気がした。

 

「あの、その…先ほどは助けていただきまして、本当にありがとうございました!」

「気にすることはないのだよ。僕達は同じファミリアなんだから、助け合って同然さ」

「でも…私助けてもらってばっかりで、オリシュさん達を助けていません。本当にごめんなさい…」

「そんなことないさ。何時もレフィーヤには助けられている。叔母上に次ぐその火力はロキ・ファミリアには欠かせないものさ。それは団員の誰もが思っていることだよ」

 

にこりと微笑みながら、告げられた言葉に思わず顔が赤くなる。

レフィーヤはその赤い顔を見られたくなく、顔を俯けた。

 

オリシュに助けられた瞬間、自分が英雄譚のヒロインになったかのような錯覚を覚えてしまった。

怪物に襲われて、絶対絶命の自分。そこに颯爽と現れる白馬…じゃないけど、猪に跨った王子様。

その光景を再度思い出し、レフィーヤは益々顔が赤くなるのを感じた。尚更顔を上げられず、俯いてしまう。

 

 

そんな自分を見て、オリシュは微笑みながら言った。

 

 

 

「ふふふ、僕に惚れたかい?レフィーヤ、どうだい?今ならハーレム一号だよ?」

 

一気に熱が冷めるのを自覚できる。

顔を上げたレフィーヤは満面な笑みを浮かべながらこう応えた。

 

 

 

 

「死んでもお断りです。この豚野郎」

 

 

 

 

 

オリシュは未だにハーレムのハの字も作れていない自分の現状を嘆いた。

 




立てたフラグは即座にへし折る!!

それがオリシュクオリティ!!

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