終わりのセラフ 《ghost of the flame》   作:坂下 千陰

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二話 : encount

 世界が崩壊したその後で、人類の前に現れた新たな脅威。

 

 --吸血鬼。

 

 奴らは生身の状態で人間の7倍の身体能力を有する。人間など敵とすら見て貰えない、正に化物の中の化物。

 加えて、奴らは人間の血を吸う。奴らにとって人間はただの家畜に過ぎない。

 抗うにはその力の差は余りにも大きい。

 

 ならば、どうするか。

 

 化物には化物で対抗すればいい。

 毒をもって毒を制す。

 

 それが日本帝鬼軍が誇る吸血鬼殲滅部隊『月鬼ノ組』。戦闘能力に長けた人材を選出し、編成された精鋭中の精鋭である彼らは人類の最後の希望であり、最後の砦である。

 

「--とか何とか言われてきたけど、どうなんだよあれ」

 

 月鬼ノ組の制服に身を包み、指定された集合場所に着いた真来の視線の先には、一瀬グレン中佐と凄い勢いで彼に食ってかかる金髪少女。しかもその金髪少女にはどうも見覚えがあった。

 

「グレン中佐! 何であたしが新人ばかりのチームに配属されるんですか!? 」

 

 グレンの方はうるさそうに眉をしかめながらただ黙っているが、少女はますますヒートアップしてきたようで更に声を張り上げる。

 

「説明して下さい! あたしは13歳の時から殲滅部隊に所属するエリートですよ!!」

 

「朝っぱらからキーキーやかましいぞ三葉、頭に響くんだよ」

 

 後ろから突然聞こえた声に三葉と呼ばれた少女はハッとした顔で振り返った。

 

「お前、紅下……! 何故お前がここにいる!? 」

 

「……………………………」

 

 真来は無言で三葉の後ろにいるグレンを見やった。肩を震わせながら笑いを堪えているその様子に舌打ちをする。理由を話せば自らが降格処分を喰らったことを言わなければならない。それも、最も言いたくない奴に。

 

「俺が呼んだ」

 

 依然口元に笑いを残しながら、グレンがそう答えた。

 

「中佐が? 」

 

「そうだ。今日から真来にはお前たちと同じチームに入ってもらう。これは決定事項だ」

 

「なッ、!? 」

 

「おい、露骨に嫌そうな顔すんなこら。俺だって不本意なんだよ。何が悲しくてお前と同じチームに入らなきゃならねえんだ」

 

「何だと!! それはあたしの台詞だ!? 」

 

「うるせえ、自信過剰な足下掬われ系女子が」

 

「ぬ、ぬぬぬぬぬ………………!!」

 

 真来は怒りでぷるぷる震える三葉を鼻で笑いながら、そう言い捨てる。

 

「吠えるなら俺に一度でも勝ってからにしろよお嬢様? 」

 

「ぶっ殺す!! 」

 

 怒りの頂点。怒鳴り声をあげると同時に三葉の右手に巨大な斧が現れた。余りにも分かりやすい攻撃的なフォルムは冗談ではなくそれ相応の力を持っている。数ある鬼呪装備の中でも上位に位置する『荼枳尼』の武器。名は、天字竜。その本質は有する特殊能力にあるが、単純な破壊能力もまた充分にある。

 

「上等だ、正面から叩き潰してやる」

 

 真来も腰の刀に手を掛け、居合のような構えを取る。鯉口を切り、引き抜こうとした刹那に鋭い金属音が響いた。

 直後に三葉の手から天字竜が吹き飛び、真来の鬼呪装備が鞘に押し戻され、喉元に刀身が突き付けられるのはほぼ同時だった。

 

「……………ッ!! 」

 

「あんま上官に迷惑かけんな。まとめて独房にぶち込むぞ」

 

 気怠げな口調ながら、見据える目には軽い殺気が光る。格が違う。異常な程に疾すぎるその動きは、最初の一手から否応にも底知れない実力が垣間見えた。

 かつて、新宿をたった一隊で吸血鬼から奪還した英雄、一瀬グレン。その勇名は伊達ではない。

 

「うっ、……すいませんでした」

 

 首元を掴まれた三葉は、途端に勢いを無くしグレンに謝罪する。彼女も圧倒的な力に押されたのだろう、見るからに小さくなっている。

 

「お前も煽るんじゃねえよ、バカ」

 

 グレンは真来の喉元に突きつけた刀を鞘に納めると、今度は真来の頭を叩いた。

 

「痛えな、…………分かったよ」

 

 見えないスピードではなかった。しかし、見えたところで体が反応出来なければ意味がない。今の真来ではまだまだグレンの足元にも及ばないだろう。

 

「おやおやー、これはこれはみっちゃんに真来さんではないですか? お久しぶりですね〜」

 

「ッ!! 」

 

 突如、背後からその声が聞こえた瞬間、真来は思わず頭を抱えた。振り向かなくとも誰か分かる。その間延びしたあからさまに人をおちょくるような口調は彼が知っている中で1人しかいない。

 

 

「出やがったな、柊シノア……」

 

「嫌ですね〜、人を幽霊みたいに言わないで下さいよ」

 

「幽霊の方がまだ数倍はましだ。よりにもよってお前と三葉と同じチームになるのかよ。……そうか、昨日グレンが言ってた性悪ってのはこいつの事か、あの時気付くべきだった」

 

「えー、こんな可憐な私を捕まえて性悪だなんてひどいじゃないですか」

 

「うるせえ、死ね」

 

 灰色の髪に感情がこもっていない目。端麗な容姿だが、どことなく希薄な印象を与える。

 柊シノア。日本帝鬼軍を率いる名門、柊家の血を引くその少女は貼り付けたような笑みを浮かべて立っていた。

 

「何だシノア、あいつと知り合いか? 」

 

 シノアの隣に立つ黒髪の少年が、そう聞いた。

 

「ええ、まあ。昔からの友人です」

 

「寝言は寝て言え。敵だ敵」

 

 加えて、その後方からは新たに2人の少年が現れた。

 

「よし、全員揃ったな」

 

 にやりと笑うと、グレンは真来と三葉を自らの横に立たせる。

 

「三宮三葉、紅下真来。この2人が、お前らの新しい仲間だ。本来であれば月鬼ノ組の最小チーム単位は5名で構成されるが、お前らは6名で行動してもらう。反論は聞かねえぞ」

 

 柊シノア、黒髪の少年、眼鏡をかけた少年、軍帽を被った小柄な少年。真来は一人一人視線を移しながら、大まかな力量を測っていく。曲がりなりにもこれからは“仲間”となるのだ。背中を預けるに値するかどうかをこれから見極めていく。足手まといは必要ない。

 

「最初に言っとくが、俺はお前らと馴れ合うつもりは一切ない。俺の足を引っ張るようなら速攻で切り捨てる。お前らに必要なのは純然たる強さだ。それがなければただのクズ。お前らの価値はそこにしかないと思え、以上! 」

 

「以上じゃねェェェェ!! 」

 

 そこで、グレンが怒鳴り声を上げながら後ろから思い切り真来の背中を蹴り飛ばした。

 

「ぬおッ! 」

 

 勢いに押されて呻き声を上げながら吹き飛ぶ真来。グレンは、腰を押さえながら振り向く彼の襟首を掴んで引き寄せる。

 

「お前は、今まで何を学んできたんだ馬鹿! 協調性の欠片も無いような奴だから、処分されたんだろうが!? 少しは反省しろクソガキ!! 」

 

「ガキガキうるせぇな!! 新入り共に求められるのはそれ位しかねえだろうが馬鹿中佐! 」

 

 ギャーギャー言いながら殴り合う2人を見て、軍帽を被った小柄な少年は苦笑いを浮かべる。

 

「何か紅下君って、優君に似てるね」

 

「はぁ!? あんな奴と一緒にすんなよ!! 」

 

「いやいや〜、案外性根は似てるところありますよ? 直情馬鹿な所とか」

 

「誰が馬鹿だ!! 」

 

「最悪だ、馬鹿が増えるのか」

 

「だから誰が馬鹿だ! 喧嘩売ってんのか君月!? 」

 

 黒髪の少年が声を荒げたところで、真来がその目の前を吹っ飛んでいった。思いっ切り殴り飛ばした様子のグレンがその振りかぶった拳を下ろし、鬱陶しそうに前髪を手で搔き上げる。

 

「あー、うぜえ! 少しは大人しくしてろクソガキ!! 」

 

 地面に突っ伏したままぴくりとも動かない真来を尻目に、グレンはシノア達の方へ向き直る。

 

「いいんですか中佐? 完全に気絶してますよ彼」

 

「いい、あいつは寝てる方が容易に事が進む。話が終わったら叩き起こしてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

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