ユーノ初めての六課訪問   作:猫山知紀

12 / 15
これ含めて後2、3話ぐらいで終わります……たぶん




その12(ユーノ、なのは、ティアナ)

「――はい、そこまで」

 

その声が聞こえると、先程までの隔絶された感覚がなくなり、周囲が日常を取り戻した。そして、ティアナを動けないようにしていた魔力の輪も消滅した。

 

「お疲れ様、ティアナ。それに、ユーノ君も」

「なのはさん!?」

 

声の主はなのはだった。なのはの姿を目にしてティアナの瞳に光が戻る。どうしようもない絶望的な状況だった。もう助からないと思った。そんな状況だったので、ティアナは異変を察知したなのはが結界を破って助けてきてくれたのだと思った。しかし、そんな雰囲気ではない。

なのはが自分の名前の後に、男のものと思しき名前も呼んだから――。

 

ユーノとティアナに歩み寄り、なのははティアナと向かい合う。

そして、しっかりとティアナの目を見つめながら、こう言った。

 

「それじゃあこれからさっきの訓練の振り返りと、ティアナには……お説教ね」

「はい、って……えっ?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

3人は応接室に移動してきていた。

テーブルを挟み、片方にユーノとなのは、その向かい側にティアナが座っている。

コチ、コチ、コチと応接室の時計の音がやけに大きく響いていた。何なのだろう、この状況は。ティアナには状況が全く理解できていなかった。なぜ自分は応接室にいるのか、この男から事情聴取するなら取調室のはずなのに。

 

「さて、ティアナ。さっきの訓練の振り返りとお説教、どっちからがいい?」

「あの……そもそも状況がわかっていないのですが……。こちらの……えっと」

「あ、ユーノ・スクライアです」

 

ティアナから視線を向けられたユーノが自分の名前をティアナに伝える。

 

「スクライアさんは何らかの事件の容疑者ではないのでしょうか?」

「あぁ、ティアナにはその辺を全然説明してなかったね。実は――」

 

 

――――――――――

 

――――――

 

――

 

 

「模擬戦だったーーっ!?」

 

応接室にティアナの声が大きく響き渡った。

 

「そう、ユーノ君は別に事件の犯人じゃないし、今日たまたま六課にやってきた局員待遇の一般の方です」

「そ、そんな……」

 

自分の思い違いにティアナが愕然とした表情を浮かべる。

 

「あ、あれ? で、でも、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。私は八神部隊長に言われたんですよ?ぴったりスクライアさんと一致する犯人の特徴を教えてもらって、逮捕するようにって。ということは八神部隊長もスクライアさんのことを事件の犯人だと勘違いしているんですか?」

 

自分がユーノのことを犯人だと思い込んだ原因は、そもそもはやてから受けた指示にある。そう考えたティアナは、ひょっとして部隊長までもが勘違いしているのでは?と疑問に思った。

 

「それはまぁ、十中八九はやてのイタズラなんだけどね?」

「イタズラ?」

 

真面目な場にそぐわない「イタズラ」という言葉にティアナが眉をしかめる。

 

「はやてと話した時のことよく思い出してみて、はやては何て言ってた?」

 

ユーノは少し上体を傾けて、まっすぐにティアナを見つめ、記憶を探るように促した。

 

「えっと、八神部隊長が捕まえたい人がいて、その人の持つ情報が欲しいと、そしてその人も六課の情報を知りたがっていると。それでその人の特徴を聞いたらスクライアさんそのままの特徴を教えていただいて。で、その人が六課に現れたら全力を持って確保、もしくは足止めを行うように……と」

 

はやてから言われたことを正確に繰り返しながら、ティアナは自分のミスに気が付いた。

 

「そう、はやてが言ったのは『確保』であって『逮捕』じゃないよね。揚げ足取りかもしれないけど、この2つの言葉の違いは大きいよ。『確保』は一般的な言葉だけど『逮捕』は法的な意味を持つからね。実際その場にいなかったからわからないけど、犯人って言う言葉もはやての口からは出てないんじゃないかな?」

 

ユーノの指摘通りだった。あの時犯人と言い出したのはティアナだけ。はやても犯人と言ってはいるが、ティアナの言葉に鸚鵡返し(おうむがえし)をしただけであり、その言葉に意味は無い。はやては人を意図的にミスリードする時はあるが、絶対に嘘は言わない。嘘を言うと言質を取られてしまうからだ。魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する管理局において、部隊長の地位にまで登りつめたはやてが身につけた悲しいスキルである。

 

「情報を互いに知りたがっているっていうのは?」

「ただの情報交換。世間話だって情報交換でしょ?奪う奪われるの話じゃないよ」

「じゃ、じゃあ今回の件は全部――」

 

自分の早とちり原因だったということか――。

ティアナはその事実に気が付くと全身の力を抜いてソファにドサッと寄りかかった。ドッと疲れが出た。今日のドタバタは何だったのかと、とんでもない勘違いをしていた自分を恨めしく思う。

思えばあのときシャーリーもはやても何やらにやにやしていた気がする。シャーリーでも捕まえることができると言っていたのは、対象の魔力や戦闘能力の有無の話ではない。単にユーノとシャーリーが知り合いだからというだけだ。

 

そして、ティアナは思い出した。少し前、はやてがスバルに本局への届け物のお使いにいかせた時も、はやてが「わざと」届け先の部署を伝えていなかったことを――。

完全に油断していた。まさか、自分もターゲットにされるとは……。

 

そんなティアナの様子を見てユーノの口が開かれる。

 

「そう、全部『はやて』が原因だったっていうこと」

「えっ?」

「そうでしょ、はやてが変な言い回しをしなければ、ランスターさんは変な勘違いをしなかった。はやてがランスターさんの勘違いに気付いていれば、ランスターさんは僕を犯人扱いしなかった。ほら、全部はやてのせいだ」

 

ユーノは笑顔でそう言い切った。しかし、鈍感な人間でもわかる、ユーノはティアナが責任を感じないよう、わざと八神部隊長のせいだと言ってくれているのだ。ユーノがそう言ってくれてもティアナ自身が納得出来ない。どうしても今回の失敗のことを考えてしまう。

 

「――それじゃティアナのためにならないよ。ユーノ君」

「なのは?」

 

ずっと黙って横で見ていたなのはが口を開いた。

 

「話の流れがこうなっちゃったから、模擬戦の振り返りは置いておいて、お説教からね」

「お説教……ですか?」

「そう、いいティアナ。ティアナは執務官志望でしょ。だったらね、はやてちゃんのイタズラなんかに騙されるようじゃダメ。執務官が相手にするのはね、人を騙すことなんてなんとも思っていない、むしろどうやって騙そうかを考えているような本当に悪い人達だったりするの」

「……はい」

「執務官は大きい作戦だとたくさんの局員を率いることもあるでしょ。そんな時にティアナが騙されたらどうなる?ティアナだけじゃない、ティアナの指示で動く人全員が危険な目に遭うんだよ。だから、普段からちゃんと物事を見極める癖をつけてね」

「…………はい」

 

なのはの言葉はティアナの胸に深く刺さった。さっきの戦いは結局模擬戦だった。しかし、凶悪事件においては実際にも起こりうることなのだ。ティアナが完全にユーノが悪人だと信じきってしまっていたのもその証拠の一つだ。実際にありそうなシチュエーションだからこそ自分は今回完全に騙されてしまった。

そして、今回のように自分一人が危険な目に遭うというのは、まだマシかもしれない。自分のミスで仲間が全員殺される状況など想像もしたくない。

 

「えっと、なのはがお説教モードに入っちゃったから、僕からも一つ忠告ね」

 

横で聞いていたユーノから言葉が差し込まれる。

 

「さっきの状況、怖かったでしょ」

「……はい」

「でもね、ああいう状況は現実に起こりえるよ。執務官になるなら特に。フェイトや、クロノ。あ、六課後見人のクロノ・ハラオウン提督のことね。あの二人も結構危険な目には遭ってる。彼らと比べたらランスターさんは、そんなに強くない。今回僕でも勝てたぐらいだからね。ということは危険な目に遭う確率が彼らよりも大きいんだ」

 

つまり、弱い私は執務官を諦めろということか。ティアナにはユーノの言葉がそう聞こえた。確かに今日ティアナはユーノに歯が立たなかった。途中でも教導を受けているような、手のひらで踊らされている感覚もあった。ティアナと手を合わせてみて、この子は弱いから執務官としてやっていけないと判断されたのだと、そう思った。

 

「だから、強くなってね――」

「えっ!?」

「どうしたの?」

「いえ、執務官を諦めろと言われるのかと」

「なんで?」

「えと、今日私はスクライアさんに全然歯が立たなかったですし、弱いから執務官にはなれないのかと」

「確かにね、今の強さだと多分試験に受からない。あのフェイトでも二度落ちてる難しい試験だからね」

「じゃあ、やっぱり」

「でもそんなの、強くなればいいだけじゃない」

 

ユーノはこともなげにそう言った。

 

「六課に所属してからどう?強くなった実感はない?」

「いえ、あります!」

「だったら、今は全然ゴールが見えないかも知れないけど、六課解散の日までこのままみっちり鍛えれば、きっと執務官試験を目指せるぐらい強くなれるんじゃないかな? ね、高町教導官」

「うぅ、それはそれで私にプレッシャーが……」

「ランスターさんは、執務官になるのに強さを気にしているみたいだけど、執務官になれるかどうかを決めるのは、強い弱いじゃない。なりたいという意思を持ち続けられるかだよ。まぁ、でも執務官試験は戦闘スキルだけじゃなくて座学もあるんだけど……」

 

ティアナに関してはそっちは心配ないよ、となのはがティアナに代わって答えた。

 

「それに、執務官全員が凶悪犯罪を扱うっていうわけじゃないから。あの気弱なフェイトがやれているんだから、ランスターさんも経験を積めば大丈夫だと思うよ。執務官の実際を知るために六課にいるうちにフェイトとじっくり話してみるといいんじゃないかな」

 

フェイトはティアナにとって一番身近な執務官であり、キャリアもそこそこ長い。相談相手としては確かに適任だ。普段いつもニコニコと優しい笑顔を浮かべている彼女も、やはり執務官として辛い経験をしているのだろうか――。

 

「と、そんなところで、お説教は以上で終わりかな?なのは」

 

しゅんと肩を落としているティアナを見てか、一通り伝えたい事を伝え終わったのか、ユーノがそう切り出した。

 

「うーん、私としては一度犯人を取り逃がしているのに、すぐに報告がなかったこととか、ユーノ君に事情や状況を説明せずにいきなり逮捕しようとしたこととか、まだいろいろ言いたいことがあるけど。今はユーノ君もいるし、ティアナへのお説教はユーノ君が帰った後で改めて……かな?」

 

なのはがティアナを見ながら、笑顔でそう呟いた。

ティアナは引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 




お説教編終了、次は模擬戦振り返り。
ミッドチルダにもアナログ時計ってあるんですかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。