機動六課の応接室は部隊長室からほど近い所に設定されている。
簡素な内装ではあるが、座るとお尻が沈み込むソファ、木目調のどっしりとしたテーブルなどそれなりの設備が整った部屋である。
応接室の扉が開くと二人の男性が入室してくる、グリフィスとユーノだ。
応接室への案内はグリフィス一人で十分とのことで、ギンガ、アルト、ルキノの3名へはグリフィスが通常業務を再開するよう指示していた。
「ではこちらでお待ち下さい。 高町隊長の訓練終了まで1時間ほどお待ちいただくことになってしまうのですが大丈夫でしょうか。 お急ぎでしたら呼び戻して参りますが」
「いえ、お構い無く。 アポ無しで来たのはこっちですし、訓練を中断させるのも悪いですので」
「そうですか、お心遣いありがとうございます」
「あ、あと僕も局員なのでそこまで丁寧な口調じゃなくても大丈夫ですよ。 あまり畏まられるのも苦手ですから」
今でこそ無限書庫司書長という肩書だが、ユーノは元々自由人だ。
流浪の一族であるスクライアに育てられ遺跡発掘を好む彼は、階級に縛られるのがあまり好きではなかった。
立場上同年代以下はもちろん、自分より年齢が上の人にも敬語を使われてしまう。
公式な場では仕方ないにしても、平時にはなるべくフランクに接してほしいと思っていた。
無限書庫ではそれが功を奏し、基本的に堅苦しい管理局内においてフレンドリーな雰囲気を作り上げている。
「それから、せっかくなので待っている間、隊舎の中を見学しててもいいですか?」
「はぁ、施錠されている部屋以外であれば特に問題ありませんが、特に面白いものはないと思いますよ」
「いえ、知らない場所というだけで僕にとっては面白いので」
「そうですか? 見学は問題ありませんが、高町隊長が戻られる時間にはこちらにお戻りいただけると助かります」
「はい、わかりました」
グリフィスも通常業務に戻り、ルキノが淹れてくれたお茶で一服した後ユーノは六課隊舎を見て回ることにした。
司書長だけでなく、考古学者としての肩書も持つユーノは無自覚ながら好奇心旺盛である。
知らない場所があれば行ってみたくなるし、見たことがないものには触れてみたくなる。
初めて訪れた六課隊舎もその知識欲の対象だ。
「さてと、じゃあ早速うろうろしてみようかな」
応接室を出たユーノはキョロキョロと建屋内を見回しながら廊下を歩く。
グリフィスには施錠されていなければ入室してもよいと言われている、さすがに業務真っ最中である執務室などは遠慮しつつも、いくつかの部屋を覗いてみたりした。
「ふーん、地上本部とも本局とも雰囲気が違うなぁ。 はやてが安くなってた物件を手に入れたとは言ってたけど、本当に元は管理局とは関連のない建物だったみたいだね」
巨大な一つの構造物として成立している本局はもちろんのこと、複数ある地上本部の建屋も各建屋の構造は年代で異なる部分はあるものの似通ったものとなっている。
しかし、払い下げの物件を利用した六課の隊舎は、建物の構造が管理局と異なる点が興味深かった。
綺麗に保たれてはいるが若干古いとも感じられる構造も見受けられた。
はやてが安く手に入れることができた理由も、この辺にあるのかもしれない。
そんなことを考えながら六課隊舎を回っていると前を歩いてくる人影があった。
「あれ? ユーノさん?」
「ん?」
声を掛けられて目を向けると、見知った顔があった。 スバルだった。
「やっぱりユーノさんだ。 どうしたんですかこんなところで」
「あぁ、ナカジマさん、こんにちは。 今日はちょっとはやてに渡すものがあってね。 なのは達にも久しぶり会えるかなと思って来てみたんだ」
「そうなんですか。 あれっ?でも今日隊長達って……」
「うん、皆いないみたいだね。 でも、なのはが16時に訓練が終わるって聞いたから、それまで六課隊舎を見学させてもらってるんだ」
「隊長たちはみんな忙しくて普段から不在がちですけど、今日は特にタイミングが悪かったですね」
「今日は連絡せずにふらっと来ちゃったから。 今度からは事前に連絡するようにするよ」
「あはは、そのほうがいいと思います。 せっかくユーノさんが来てくれたのに、会えないと隊長達も寂しいと思いますから」
ユーノとしてはみんな通常の予定があるのだから、自分の都合でそれを変更させてしまうのを遠慮したのだが、今回はそれが裏目に出た。
アポ無しで行っても誰かしら顔なじみに会えるだろうと思っていたのだが、まさかの全員不在。
管理局に勤めて十年近く、報連相の重要さは知っていたつもりだったが、ここで改めて教訓とするとは思わなかった。
「そういえば、さっきナカジマさんのお姉さんに会ったよ」
「ギン姉にですか?」
「そう、ギンガさん、六課に出向してるんだってね。 お姉さんだって知らなくて、ナカジマさんの名前を出した時に返事をされちゃってビックリしたよ」
「そうですねー、二人ともナカジマですからね。 ……そうだっ!! ユーノさん私のこともスバルって呼んでください」
「え?」
「ほらっ、ナカジマだと私のことかギン姉のことかわからないですし、さっきギン姉のことはギンガって呼んでたじゃないですか。 私のこともスバルでいいですよ」
スバルはちょっと勇気を出してそう言ってみた。
普段の様子からはあまり感じられないが、スバルは基本的に人見知りである。
訓練校でティアナと一緒になった時も、しばらくはティアやティアナではなくランスターさんと呼んでいた。
きっかけがあればぐっと距離が縮まるのだが、ユーノに対してはそのきっかけがなく、ちょっと距離を感じていた。
「うん、わかったよスバル」
あっさりそう言われる。
あれ? クロノ提督ほどじゃなくても、もっと恥ずかしがるとかあってもいいんじゃない?とも思うが、これがユーノ・スクライアという人である。
「と、ところでユーノさん」
「何?」
ユーノを照れさせてやろうという、ちょっとした悪だくみが失敗に終わり、且つ意識していたのが自分だけだったことに顔を赤らめたスバルは話題を変えることにした。
「六課の中見て回ってたんですよね」
「うん、そうだけど」
「怪しい人、見なかったですか?」
「怪しい人?」
「はい、実は―――」
スバルは少し声を落とし、ティアナに聞いた話をユーノに伝えた。
「うーん、この中で見かけた人はみんな制服を着てたし、とくに怪しい人は見なかったけどなぁ」
「そうですか」
それに加えてユーノは六課の隊員の顔を把握していない。
隊舎内に私服の人間がいればユーノの記憶にも残るかもしれないが、犯人が制服を着ていたならばユーノにはもはやどうしようもない。
「僕がわかるかわかんないけど、もう少し見て回ってるから。 もし、それらしい人見かけたら念話でナカジマさんに伝えるよ」
『はいっ!』という元気な返事を期待したがスバルから返事はなかった。
見るとじーっとユーノの顔を見つめたままだ。
「な、何?」
スバルから返事はない。
ユーノははてと考える。
(なんか変なこと言ったかな?)
そして幾秒か考えた末、先ほどの約束をはたと思い出すと、口元をゆるめた。
「もし、それらしい人見かけたら『スバル』に伝えるよ」
「はいっ!」
――元気な返事だった。
私のイメージですが
スバルは犬系ですよね。