スバルと別れたユーノは再び六課の隊舎を散策していた。
スバルから不審者の情報を聞いたため、今度は建物だけではなく隊員の動きも目で追っている。
「それにしても、不審者か……」
スバルの話を改めて思い返してみると、何となく腑に落ちない点がある。 それらの点について聞きそびれたのは些か失敗だった。
情報を盗み出すといっても何の情報を盗もうというのか。
その情報を盗もうとしている人物が六課隊舎に来ることをはやてが確信していることも気になる。
はやてはどうやってその情報を入手したのか。
そこまでわかっているのであれば、犯人はほぼ特定できているはずだ。
さらには今回の件の情報伝達は伝言ゲームになってしまっていることも気がかりだ。
全体を把握しているであろうはやてを起点として、ユーノに伝わるまでにティアナ、スバルの二人を経由している。
ユーノへ伝わった情報はその過程で歪んでいる可能性もある。
「不審者の特徴ぐらいは、聞けば教えてもらえたのかな?」
スバルから今回の件を聞いた時には特に聞き返すことをしなかったため『不審者が情報を盗みに来る』という断片的な内容しか把握できていない。
せっかくなら協力したいし、もう少し詳細に聞くべきだったと反省する。
「今からでも念話で――」
「――動くな!!」
突然の声にびくりと体が反応する。
声の主を見ると、オレンジの髪を両サイドでまとめた女の子が銃口をこちらに向けていた。
(な、何?)
睨むような目つきでこちらを見るその子は、敵意むき出しである。
「動かないでください、魔法の使用許可は出ています。 おとなしく投降してください」
「ちょ、ちょっと待って。 何の話ですか」
「あなたを逮捕するよう、八神部隊長から命令を受けています」
「逮捕って、僕?」
「あなた以外誰がいるんですか。 そのリボンで束ねている長い金髪! フェイトさんより少し高い身長!! 中性的な顔立ちにメガネ!!! 部隊長が言っていた犯人の特徴そのままです!!!!」
(これは……)
はやてが何かやったなと、そう思った。
「あ、あのー。 はやて、いや八神部隊長は僕についてなんて言ってたんですか?」
「部隊長からはあなたが六課の情報を狙っていると聞いています。 そしてあなたから直接情報を聞き出したいとおっしゃっていました」
「なるほど」
(うん、嘘は言ってないね。 こっちも話をしたいと思ってたし)
嘘ではないが、よくも上手いこと捻じ曲げて伝えられるものだと、はやての手腕に感心する。
(さてと、ここで捕まってあげるのと、逃げてスバルやなのはに助けを求めるのと、彼女にとってはどっちがいいのかな?)
ここで、彼女に捕まるのは簡単だ。
しかし、彼女は『確保』ではなく『逮捕』と言っている。
はやてに上手いこと唆されているのだろうが、彼女が本当にユーノを逮捕してしまうと誤認逮捕になってしまう。
ユーノは何もしていないのだが、記録としては現行犯逮捕になるはずだ。
スバルと同じぐらいの年齢に見える彼女は、おそらく六課の新人だろう。
銃型のデバイスを持っていることから戦闘向きの配置、以前なのはに聞いた新人フォワード4人の一人だと思う。
ユーノが知っているフォワード陣は、先ほど会ったスバル、以前から面識のあるエリオ、写真でしか見たことのないキャロの3人。
そうなると――。
(この子がティアナか……)
ティアナの経験がどのようなものかは分からないが、エリオとキャロ以外の二人は災害担当から引き抜いたと言っていたし、犯人逮捕の経験はほとんどないだろう。
もし初めての逮捕が誤認逮捕になってしまったら、ある種のトラウマにもなってしまうかもしれない。
そうなるとやっぱり――。
(逃げるか……)
問題はどうやって逃げるかだ。
曲がりなりにも彼女はなのはに鍛えられた機動六課のフォワード。
簡単には逃がしてはくれないだろう。
ユーノがちらりとティアナの手元を見る。
そこにあるのは銃型のデバイス。
(射撃型だとすれば、距離をとって戦うはず。 それなら……)
一旦ティアナから視線を切り、背後を確認する。
この距離ならいける。
「抵抗は無駄です。 あなたが魔法を使えないことは部隊長から聞いています」
「魔法が使えない? 本当にそう言ったの?」
「え?」
はやてがどう言ったかは知らないが、ユーノが魔法を使えないと誤解しているならば好都合である。
「さよならっ!!」
言い切るよりも早く、ティアナに背を向けるとユーノは背後にかけ出した。
「ちょ!! 待ちなさい!!」
待てと言われて、待つ人間はいない。
ユーノはティアナの言葉を無視して全力で走った。
――ちらりと後ろを見やる。
追ってきてはいない……が、デバイスの銃口に魔力が集まり、放たれるところだった。
(やっぱり撃ってくる……でも)
「シュート!!」
ユーノは声が聞こえたのと同時に、ラウンドシールドを背後に展開した。
ティアナの放ったシュートバレットの魔力弾がシールドにあたり爆発する。
「なっ!!」
ティアナは確かに牽制のつもりで魔法を放った。
しかし、シールドにはひび一つ入らず、ここまで完全に防がれるとは思っていなかった。
そもそも話が違う、魔法は使えないのではなかったのか?
だが、驚いている場合ではない。
一度発見した犯人を取り逃がしたとなっては大失態だ。
しかもここは隊舎の中である。 取り逃がすわけにはいかない。
男が魔法が使えないと思い込んで、静止射撃をしたのが仇になった。
すでに男は廊下の角を曲がろうとしている。
構えていた銃を下におろし、急いで男の背中を追う。
そして、角を曲がると同時に再び構える。
――そこに男の姿はなかった。
なろうでも同じ名前使って、別作品を書き始めました。
良ければ読んでやってください。
あとストックが切れたので更新ペースが落ちます。
ご了承ください。