「ダメ。 どこにもいない」
ユーノを取り逃がしてからすでに十分以上。
ティアナはまだ犯人を追っていたが、その姿を見つけられずにいた。
犯人が六課の情報を盗んだあとだったなら先ほど取り逃がした時点ですでに手遅れ、もう一方の盗む前だった場合に賭けて六課隊舎内を駆けまわったが、発見には至らなかった。
「隊長たちにも報告しないと」
今回の件は自分の失態だ、報告すれば当然叱責があるだろう。 しかし、犯人を捕まえることができれば帳消しにできるかもしれない。 でも、捕まえられなかったら? 捕まえることができれば怒られない『かもしれない』、しかし報告が遅れれば遅れるほど悪い状況になっていく。 ティアナはジレンマに陥っていた。
「あと……、5分だけ。 それと、スバルにも――」
手伝ってもらおうと念話を繋ごうとしたところで、ティアナの目に忘れもしない人物の姿が映った――。
――――――――――――――――――――――――――
その人物は、廊下の角からゆっくりと姿を現した。 先ほどの件などなかったように、挨拶さえしてきそうな雰囲気を纏い、うっすらと微笑みを浮かべているようにも見える。
(まさか、向こうからのこのことやってきてくれるなんて)
驚きはあったが、ティアナは即座にクロスミラージュを構えた。 今度は油断しない――、そんな意思が見て取れた。 クロスミラージュ越しに男の顔を見据える。
「動かないでください」
「おっと、見つかっちゃったか」
(自分の方から、姿を現しておいて何をぬけぬけと)
男の言動にティアナが苛立つ。
「今度は逃しませんよ」
「そうなの?」
「はい、もう油断しません。 あなたが魔法を使えることを前提として対応します」
「それだけ?」
「どういうことですか」
男は相変わらず柔らかい雰囲気を保ったままだ。 悪意を持っていないようにもみえるが、その考えは読めず、不気味さをもってティアナの目には映る。
「ランスターさん……だっけ? 君は」
「っ……私の名前を」
「驚いた顔してるね、敵対する組織に潜入するんだよ? 当然調べるでしょ。 構成員とか、戦力とか」
男の言うことはもっともだ。 潜入捜査は作戦行動としてはもっとも危険な部類に入る。 下準備も入念に行うのが当然だ。
「そうですね。 ご指摘ありがとうございます」
「いやいや、お礼はいらないよ。 これから君にはお礼よりもっと僕が欲しいものをもらうから」
「だから、どういうことですか」
この男との会話は要領を得ない。 あくまで遠回しな言い方をする男にティアナの苛立ちが募る。
「どういうことって? 君は僕の目的を知っていたはずだよ? 六課に関する情報が欲しいって」
「させません。 絶対にあなたをここから逃しません」
失敗は繰り返さない、折角降って湧いた名誉挽回のチャンスなのだ。 みすみす逃すわけにはいかない。 ティアナの頭は男を捕らえることで一杯になっていた。
「うーん、さっきから気になってたんだけどさぁ。 逃げる逃げるって、なんで僕が逃げることになってるの?」
「なんでって、あなたが私より――」
弱いから、という言葉はティアナの口からは出なかった。
そう、ティアナは自分の思い込みに気が付いた。 自分がなぜ、この男が自分より弱いと思っていたのか。 その根拠は部隊長が言っていた犯人に戦闘能力がないという言葉だけである。 しかし、その言葉は先ほど自分のシュートバレットが防がれた一件で完全に否定されている。 この男は戦えるのだ。 そしてその能力は未知数、加えて男が先ほど言っていたようにこちらの戦力は把握されている可能性すらある。
冷静さは取り戻したが、冷や汗がティアナを襲う。 犯人を見つけただけで優位に立った気になっていた先ほどの自分を殴りたかった。 何がのこのことやってきただ。 勝算のない戦いに挑むバカがいるはずがない。 相手は確信があってやってきたのだ、ティアナになら勝てると。
(応援を、スバル――)
「おっと、させないよ」
隊舎内にいるはずのスバルに念話を飛ばそうとしたところで、不意に感じたことのない感覚がティアナを襲う。 時間が止まった? 世界に取り残された? そんな感覚である。
「その様子だと、経験したことがないのかな? 封時結界……外界から時間と空間を切り離す魔法だよ。 助けなんて呼ばせるわけがないでしょ?」
「くっ……」
「そんなに睨まないで欲しいなぁ、僕だって好きでやってるわけじゃないんだから」
「こんな結界を張って私を閉じ込めたところで、何をしようっていうんですか?」
不利な状況においても、ティアナはあくまで気を張って強気に応える。 隊長達から受けた訓練は伊達じゃない。 不利な状況ではあるが、なんとか出来るだけの訓練は積んできたつもりだ。 相手がどんな能力を持っているかは分からないが、どんな相手でも必ず隙ができるはずだ。 自分より強い相手に勝つための考え方もなのはに教わったではないか。
「何って、さっきから僕は情報が欲しいって言っているはずだよ?」
「だったら!! なんで私の前に姿を――」
「情報っていうのはね、書類やメモリに記録されているものだけじゃないんだよ。 それらあくまで複写物なんだ」
「複写物?」
「そう、複写物。 何かから書き写したもの。 だから断片的だったり、すべてが記録されていなかったりする。 じゃあ、その複写物を作る元になっているのは?」
複写物を作る元、男が複写物と呼んだ書類やメモリに記録として残しているのは人である。 では人は何を元にそれらを作っているのか。
「人の……記憶?」
「正解。 もうわかったでしょ? どこにあるかわからない書類を探すより、君一人を連れて帰るほうが簡単だと判断したんだ」
ゾッ、とティアナの肌が粟立つ。
「――一緒に来てもらうよ」
言いながら、男が伸ばした手からバインドが飛んでくる。 捕まれば何をされるかわかったもんじゃない、尋問、拷問、自白剤、まともな扱いを受けないのは確かだ。 『情報を守る』イコール『自分の身を守る』になった。 なんともわかりやすい状況だと、男のバインドを避けながらティアナは思う。 追いつめられながらも、そんなことを考える余裕はまだある。
(なんとか、有利な状況を)
一旦距離をとって、ティアナは全力で思考を開始した。
ティアナ vs 司書長開始。
司書長を悪役っぽい雰囲気にしてますけど、これ完全にティアナにとっては「やめて!私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!」っていう感じの流れですよね。
この作品はあくまで健全なものなので18禁展開は起こりませんのであしからず。
ちなみに作中で書いた「自分より強い相手に勝つための考え方」っていうのはマンガ版StrikerS2巻の#14.75の話です。
マンガ版StrikerSは本編の補完になってて面白いので、読んでいない方は是非読んでみてください。