ユーノ初めての六課訪問   作:猫山知紀

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悪役の司書長誕生の裏話。

すみません、話の本筋は進みません。




その9(ユーノ、なのは)

 

 

(隠れたのかな……?)

 

ユーノから距離をとったティアナは、六課の一室に逃げ込んだ。 ユーノは続いて部屋に入ったがティアナの姿は見えない。 事務室と思われるその部屋には業務用のデスクが並んでおり、身を潜めるにはうってつけの場所となっていた。

 

戦力的に不利な側が身を隠しながら戦うのは至極まっとうな戦術である。 正面から戦って勝ち目がないのであれば、細かく攻撃を当てながら相手が隙を見せるのを待つしかいないのだ。 ユーノを強敵と思い込んでいるティアナが、そのような戦術を選択するのは不思議ではないだろう。

 

(なのはの訓練を受けている彼女に勝てるかはわからないけど、引き受けたからには真剣にやらないとね。 それにしても、なのはも無茶言ってくれるなぁ)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ねぇ、ユーノ君」

「何?」

「ティアナはまだユーノ君のことを、六課の情報盗もうとする犯人だと思ってるんだよね」

「うん、あの後会ってないし、誤解したままのはずだよ」

「じゃあ、なのはからのお願いその2ね」

「えっと……、何?」

「ユーノ君にはね、ティアナの模擬戦の相手をしてほしいの」

「模擬戦?」

「うん、模擬戦って言ってもティアナには本当のことを黙ったまま、本番だと思ってやってもらうけど」

「なんでそんなことを?」

「うーん、ティアナ達はね、対人戦の経験が足りないの。 ほら、スカリエッティはレリックの捜索にガジェットを使ってたでしょ」

「例の、ジュエルシードが組み込まれてたやつだね」

 

これまでのレリック関連の事件には必ずガジェットが関わっていた。 そのため新人たちの最初の目標として設定されていたのが、『新人たちのみ』でガジェットに対応できることである。 新人たちには空間シミュレータ内でガジェットのAMFを模擬した訓練を行わせ、ガジェットへの対応力を鍛え上げた。 その成果は実を結びつつあり、よほどの数でもない限り、対ガジェットにおいてはティアナたち4人だけでも対応できる体制を整えることができている。

 

しかし、それに対してなのはが危惧しているのは、対人戦の経験不足である。 最近の事件についてはガジェットだけではなくナンバーズと呼ばれる戦闘機人の少女たちの活動も確認されている。 機械であるガジェットと戦闘機人との大きな違い、それは思考することである。 機械であればどんなに複雑な行動をプログラムされていても、必ずその行動にはパターンが現れる。 それを掴むことさえできれば、対応難易度は下がる。 しかし対人戦ではそうはいかない。 相手は思考し、状況により行動を変え、こちらの意表をついてくる。 特に戦闘機人には各機固有の特殊な能力を持っているという情報もある。

 

それに対応するために必要なことは数多くの経験だ。 いろんな能力の持ち主、いろんな考えの人、なるべく多くの経験をさせることにより対応能力を高める、それが急務となっている。

 

「私やヴィータちゃんたちも、なるべくいろんな戦い方をするようにしてるけど、どうしても限界があるでしょ」

「まぁ、そうだろうね。 でも接近戦が得意なヴィータに、シグナムさん。 近、中距離型のフェイト。 中、遠距離型のなのは。 バランスはわりと整っているんじゃない?」

「そうなんだけど、やっぱり私達だけだと真似できない戦い方をする人もいるじゃない。 例えば、――結界魔導師とか」

 

口元に人差し指を当てながら、なのはは目だけをユーノに向けた。 

 

「それで僕がランスターさんの相手に?」

「うん、結界魔導師って数が少ないからティアナにとってもいい経験になるかなーって」

「でも僕はもう随分前線に出てないし、役者不足じゃない?」

「でもユーノ君、クロノ君とたまに模擬戦やってるんでしょ」

「一応ね、でも僕じゃ全然クロノの相手になれてないよ」

「クロノ君が相手に選ぶっていうだけで、すごいことだと思うけどなぁ。 それに、絶対にティアナに勝ってっていうわけじゃなくて、結界魔導師との戦い方をティアナに経験させてあげて欲しいだけだから」

「それなら、まぁ」

 

勝てなくてもいいのならと、渋々ユーノは了承する。 闇の書事件を期に無限書庫の司書になってからユーノが前線に出る機会はとんと減った。 PT事件や闇の書事件を経てなのはの魔法スキルが十分に上がったことや、フェイトというなのはと対等な力を持ったパートナーを得たことが主な原因であるが、なのはは前線、ユーノは裏方というのは互いの性分にも合っていた。 戦う現場は離れてしまったが互いに長所を伸ばす、やりたいことができる職場で働けているし、今でも関係を持ち続けられているから良い選択だったのだとは思う。 しかし、それによりユーノは実戦の機会が全くなくなった。 最後に戦ったのはいつだったか、それほど実戦から離れてしまったユーノにはなのはの教え子と戦えるほどの自信がなかった。

 

「それからティアナが本気になるように、ちゃーんと悪い人っぽく振る舞ってね。」

「わ、悪い人?」

「ティアナに本物の犯人だと思わせないと、本気の勝負にならないでしょ?」

「そこまでしなくても……」

「二人共本気でやってくれないとティアナの訓練にならないんだから。 勝たなくてもいいけど、ユーノ君もちゃんと本気でやるんだよ。 手を抜くのはダメだからね」

 

今ユーノの目の前にいるのは、友人の高町なのはではなく、戦技教導官高町なのは一等空尉であった。

 

「でも、なのは。 現役のランスターさんと、ずっと前線にでていない僕で本当に対等な勝負になる?」

「なるよ。 ユーノ君は司書長さんとしてだけじゃなくて、魔導師としてももっと自信を持って大丈夫だよ」

「本当かなぁ……」

「じゃあ、一つだけユーノ君にハンデをあげる」

「ハンデ?」

「うん、ティアナの特技を教えてあげる。 ティアナはね幻術魔法が得意なの。 それを踏まえて戦ってみるといいんじゃないかな?」

「幻術魔法か、珍しいね」

「でしょ? それを踏まえてユーノ君ならどうやって戦うかを考えてみてね?」

「……なのは、僕はなのはの生徒じゃないんだけど」

「あはは、つい癖で……ね。 でも、久しぶりにユーノ君が戦う姿を見てみたいから」

「まぁ、できるだけやってみるよ」

「うんっ!!」

 

なのはに説得されてユーノの腹は決まった。 なんとなくなのはが楽しんでいるフシがあるが、執務官志望の子のためだと言われると協力するのもやぶさかではなかった。 それは執務官試験に苦しんでいるフェイトを横で見ていたからかもしれない、あの時ユーノは見ていることしかできなかったから。

 

「そうと決まれば、ティアナの場所はっと。 レイジングハート!」

「Area Search」

「サーチャーはちゃんと隠さないとね」

「Yes」

 

なのはが探索魔法を展開し、隊舎内にいるであろうティアナの場所を確認する。 Area Searchはサーチャーを飛ばして視覚的に対象を探索する魔法である。 昔ジュエルシードを探す際にも使用していた、なのはが早い頃から習得した魔法の一つである。 サーチャーを飛ばしながら、ティアナに探索されているのを悟らせないためサーチャーを不可視にする魔法も同時に展開する。

 

「見つけた。 ちょうど走ってこっちに向かってきてるね」

「えっと、ここで待っていればいいかな?」

「うーんと、待って。 そこの角の先で立ち止まっちゃったからユーノ君の方から行ったほうがいいかも」

「うん、わかった」

「ユーノ君は悪役、悪役だからね」

「わ、わかってるよ」

「も、もう一つ。 ティアナが応援を呼ばないように、結界の展開は早めに。 ……ってひょっとして今も応援呼ぼうとしてる!?」

「えっ!? じゃあ急がないと」

「うん、行って行って早く。 あっ、結界張る時はなのはも中に」

「わかった、入れるよ。 行ってきます」

「あっ」

「今度は何!?」

「悪役をやるのに、そのかわいい姿のままはちょっと……」

「あ……」

 

フェレットの姿になっていることをすっかり忘れていたユーノは、恥ずかしさを押し込めながら人間の姿に戻った。

 

「お、おほん。 行ってきます」

「いってらっしゃ~い」

 

そんなドタバタがありながらユーノは廊下の角へ向かう。 そして、角の手前で一旦立ち止まると深呼吸を一つ。 自分なりの悪役をイメージする。

 

(僕は悪役、六課の情報を盗みに来た犯罪者……)

「よしっ」

 

悪役の仮面を被ったユーノは、角から一歩を踏み出した。

 

 

 

 

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