Act.0
Act.0
On ignore ce qui a provoqué la dispute <喧嘩の始まりは分からない>
土曜日の朝。
とある男子学生寮の一室。
冷蔵庫の扉を開けて大きく口を開く少女、名を絹旗最愛という。
「お兄ちゃん、もう冷蔵庫の中空っぽですよ。何にもありません」
なん…だと…!?と言うぐらいに目を大きく見開く少年、名を上条当麻という。
「えっ!これから土日のメシ無い…」
この二人、世間一般で言われる彼氏彼女という関係ではない。
血の繋がっていない兄と妹の関係。
だからといって男子学生寮に一緒に住む理由にはならないのだが、
生憎この部屋の一室隣、土御門の部屋にも実は土御門の義妹が住んでいる。
これは寮側が容認したのでは無く上の処置らしいのだが、
もっぱら巷(学生間)では”あの寮に住むと義妹と暮らせる伝説”を生み、
入居希望者が後を絶たない為に寮の運営側は文句を言えないでいる。
ましてやその義妹が常盤台中学校と繚乱家政女学校の生徒なので、
付いてくるネームバリューは辺鄙な高校の寮では一生手に入らない。
だからと言ってルームサービスが付くわけでもなく、
食事の宅配が行われる訳でもないので、
こういった、いわゆる命の危機という状況に難無く陥る。
しかしそこはレベル4の最愛。奨学金が半端無い。
それはレベル0の当麻のソレとは比べ物にならず、
今、当麻はそれを本当にピンチになった時だけ借りる。
絶対に返す事は当麻に根付く人間性なのだ。
と格好よくまとめてはいるが、今こそそのピンチの状況。
「財布の中身には3000円…。絶対お返し致しますのでどうかお貸しください」
それを聞いた最愛は驚く。
あの兄、当麻がそれほどのお金をまだ財布に持っていたとは驚きだ。
「それは大変です、じゃあ今すぐ超特急で食べに行きましょう」
この言葉の裏に、デートが含まれているという事を当麻は知らない。
そしてその3000円を最愛は服を買って貰う用に狙っている事も。
「よし、行くか」
ファミレス
「一応聞くけど何食べたい?」
「お兄ちゃんが選んだ物ならなんでも食べます」
「それって結構プレッシャーだからな」
いつも、最愛は食事を当麻に作ってもらう。
美味しいからであり、食事の好き嫌いも同じだからである。
ここで暮らし始めた頃からずっとそう。
それが、最愛なりの”最大級の信頼”である。
もっとも、幼くして家族との生活が断たれた最愛にとってそれしか知らない。
………
……
…
「ん~やっぱり、お兄ちゃんの料理の方が美味しいですね」
一口サイズに切られたハンバーグを一つフォークに刺しながら言う。
「それは嬉しいんだけど、お店でそれを言うのはちょっと…」
「どうせ冷凍です、やはりお兄ちゃんの作りたてには敵いません」
「とか言って、残すのは感心しないぞ」
「今はただの箸休めですよ、ちゃんと食べます」
ゆっくりと一つ一つを消化していく最愛。
それを水を飲みながら眺めている当麻。
「見られてると食べづらいんですけど…」
「ああ、ごめん。最愛に見とれてた」
「見っ…///」
「どんな料理も美味しそうに食べるな~と」
そっちかよ!と突っ込みを心の中で入れる最愛。
「まあ、不味いという訳でも無いですし…」
「作る側も、作った甲斐があったなって思えるんだよな」
今の食事で見せている表情、当麻はそれをいい表情だと言ったが、
当麻の料理で且つその場に当麻がいればそれ以上になる。
それは平日の当麻との夕飯、休日の朝昼晩。そして、
学校、"常盤台中学での昼食"である。
そもそもこの学校は昼食は学食なのだが、最愛だけ兄特製の愛情弁当である。
見せつける…否、自慢しているのだ。
私だけが”学園都市で有名なあの上条当麻の義妹であり一緒に生活している”と。
常盤台でももちろん、不良の毒牙から当麻に救われた、
もしくは一目惚れしたという生徒は大勢いる。
おっと訂正、生徒だけでは無かった。
だからなのだろうか、
『私に寄こせ』『幾らで買えるのか?』『なんであの女なんだ』の視線が痛い。
むしろ絹旗にとってはその視線がうれしい。
兄は私だけのもの。そこで私が一人勝ちするのを黙って見ていろと。
絹旗の周りには、御坂派でも食蜂派でもない上条派がある。
注意してもらいたいのだが、最愛は今上条当麻の義妹だ。
そう、最愛に近づけば自然に当麻と関われるのではないかと踏んだ輩が作った派閥。
だから学校が始まってから終わるまで(休日もだが)遊びのメールが絶えない。
一日に100通以上。
『今日一緒に遊びませんか?』
『去年のノートあげるから』
『一生貴女の奴隷でいいから』
どこぞのスパムメールだ、と目を覆いたくなる。
ちなみに最愛は一年だというのに、その下には生徒・先輩・OB・先生など存在する。
綿密にいえば御坂も食蜂も上条派(当麻の毒牙にかかった)なので、実質常盤台を握っているのは最愛となる。
そんな数百通のスパムメールを含め、友達とのメール(もっぱら当麻の自慢)などを含めた乙女の携帯料金は最愛自身の奨学金から払っている。
と、最愛は思っているのだが、実はそれも当麻が自分の娯楽に使う奨学金で出している。
こういう配慮…当麻にとってはごく普通な事こそが、モテる所以なのだろう。
それだけで済まないのが上条当麻。
寮での光熱費や水道ガス代、自分を含めた食費や洋服代、果てに最愛へのお小遣いまで、
それら全てを当麻は自分の奨学金から出している。
何故か。
最愛がいつか好きな人が出来て結婚した時、
自身の奨学金があれば苦労しないだろうと考えているからだ。
しかし当麻の想いの裏で、最愛のベクトルは完全に当麻に向いているのだが。
これこそ、”兄の心、妹知らず”なのだろう。
「食べる側だって誰にでもこんな表情する訳じゃありません。食事は皆で食べるから美味しいんです」
それは、最愛が嫌う独りの記憶。
「複数でなくても良いんです。それが例えば…すっ…好きな人だったり」
好きな人と食事を囲う。それが出来なかった最愛にとって、
「その後で料理の美味しさ云々なんですよ、お兄ちゃん」
こういう平和な時が過ごせる事が堪らなく嬉しい。
だからこそ、好きな兄と食事を取れるからこそ、
今無意識に出した最愛の笑顔に当麻はどきりとしてしまうのだが。
「さて、すっかりお腹もいっぱいになりましたし、次はお買いものですね」
そう言う最愛に右腕を引っ張られる形で店を後にする当麻。
「ちょちょちょ…まさか服とか買いに行こうとかしてないか?」
「はい、そうですが?」
「その『なんか間違った事言いましたか?』みたいな表情は何だ」
「だって…冷蔵庫の中身は無いと」
「おう」
「だったら買わなきゃいけないじゃないですか、服を」
「話になんの脈略が無い…ていうかじゃあ最愛は冷蔵庫に服を入れんの?」
「いや…入れる訳無いじゃないですか。というかつべこべ言わずに超行きますよ」
「ああ待って、上条さんお気に入りのTシャツが伸びてる!」
こうして二人の休日が始まる。
結局服は買わなかったが、
その帰りに寄ったスーパーの帰り道、
そこであった些細な喧嘩が、この物語が始まり。
にじファン掲載時のアクセス数万記念~だったような気がするこの話。
補完であり本編のようなオマケです。
この頃から、一話が3000文字とかが普通になった気がします。