Act.19
深夜、昼間の生活をする人間は就寝し、夜の生活をする人間は起床する頃。
そんな時間。
こそこそと、病室を歩く音。
その音で目が覚めた最愛。
「なんでしょうか…」
折角いい感じで当麻と寝て(抱き枕にして)いた最愛は、
目を擦りながら上体だけ上げて室内を見渡す。
とそこには、大き目のシルエットが二つ、こちらに近づいてくる。
「最愛ちゃん、久しぶり」
そんな声が響く病室は暗い。
こんな時間に来客は普通無い筈なのだが…。
しかし何故、その影は私を知っていて、
なおかつ「久しぶり」なのだろうか。
その二つの影は、
最愛の横で寝てる上条には敢えて声をかけず、
最愛とだけ会話を進める。
「う…うぅん…」
「最愛さん、御目覚めですか?」
「お母様に…お父様も。こんな夜中にどうしたんですか?」
寝ぼけ眼で見た影、それは、
上条刀夜こと、上条当麻の父親であり、
上条詩菜こと、上条当麻の母親である。
最愛の本当の両親という訳ではなく、
上条当麻の両親なのだが、
今は"最愛の両親"でもある。
この親にして当麻ありとでもいうように、
見た目からして優しそうで、
もちろん中身も優しさで溢れている。
そんな二人がこんな夜中に何の用だろうか。
「ああすまない、二人とも空く時間がこの時間しか無くてね、お医者さんには許可は貰った」
「何か用ですか?」
「当麻の見舞いと…それと最愛ちゃんにプレゼントがあるんだよ」
プレゼント?と興味半分、少しの期待半分の最愛。
そういうと、最愛からお母様と呼ばれる詩菜は大き目の紙袋を差し出す。
「最愛さんに似合うと良いのですけど…」
そっと、大切なものを預けるように渡される紙袋。
紙袋を開けると白が基調の浴衣が綺麗に折りたたまれて入っていた。
「これは…?」
「私が今の最愛さんと同い年の時の浴衣です。彩月花祭があると聞いたので最愛さんの為に持ってきたんですよ」
「あの頃の母さんは可愛かったなぁ…」
感慨深くなったのか、涙が零れる刀夜。
「 あ の 頃 は ? 」
『あの頃は』と言われた事をしっかりと記憶し、それを反芻する詩菜。
それと同時に、畏れ慄いたのか、涙が止めどなく溢れる刀夜。
「い…いえいえ、滅相も無い、今も…じゃなくてずっと可愛いです」
「あらあら、刀夜さんってば」
「…」
既知感溢れるコント。
しかしそれを聞いてるかと思えば、
実は全く聞いてない最愛。
最愛はその白い浴衣を優しく、しかしギュッと胸に抱く。
そして決意したようになにか呟くと、詩菜の横に行き何かを話している。
「~~~~」
「いいですよ、ではちょっと部屋を移しましょうか」
そうすると最愛と詩菜は二人で病室を後にする。
「当麻、起きろ」
上条刀夜こと当麻の父は、詩菜と最愛が部屋を出たあと声をかける。
「んー、あ…あれ、父さん?」
突然の訪問に驚いている…のだろう寝起きの当麻。
「当麻、調子はどうだ?」
「ん? 全然大丈夫だよ。明日ぐらいには退院できるんじゃないかな」
「そっか」
と話の途中にある事に気づく。
「ん…あれ、隣に最愛が居ない…」
「まーた当麻は最愛ちゃんと寝てたのか」
刀夜は顎をさすりながら、少し探っている。
「誤解招くような言い方しないでくれ」
「まあ分かってるよ。最愛ちゃんは今母さんと一緒だ」
「ああそう。それで何、どうしてこんな時間に来たの?」
「娘の最愛ちゃんに会いに来たんだ。ついでにお前の容体を見に来た」
刀夜…だけではなく詩菜も最愛を"娘"として接している。
それは気遣いとかではなく本心。
それが度を超えてどれだけ当麻に注意されたか。
というよりも上条の血筋全てが最愛を入れる事を容認している。
当麻としては最愛を"義妹"とカテゴライズしているのだが、
上条の血を引く血筋の総意は"上条家の跡取り(当麻の彼女)"。
それはそれは、一緒に住むとなった時は、
『上条親族一同を介してのパーティー(披露宴)』
なんて物を催そうとしていて大層当麻は困っていた。
話を戻そう。
「息子の見舞いをついでにすんのかよ」
「どっちかと言うと母さんもその意見だ」
「酷いな…」
「ま、それは冗談で、最愛ちゃんは大丈夫かなってな」
「結局最愛じゃねぇか」
「これは冗談じゃないからな」
あ、そういえば!と続き、
「そういえば…丁度去年くらいだったろ、最愛ちゃんと暮らすって言い始めたの」
思い起こす、その場面。
「ああ」
「まービックリしたよ。いきなり女の子と同棲か?ってな」
「でも最愛はその時身寄り無かったし、状況が状況だった」
「ここで我が子だなって思うのは駄目なんだろうか…」
話にもあったように、去年最愛と暮らし始めた。
その話の発端には一つの事件があった。