「ん…なんか良い香りが…って!!」
目覚めは味噌と焼き魚、炊きたての米という、垂涎必須の匂い達。
実は当麻、昨日の朝以降、食事という食事を取っていない。
ナケナシの金は見知らぬ困っていた女の子に奢ってしまった為に無いし、
その後その女の子をここに運んでからもずっと様子を窺っていた為、
飲み物も食べ物も、何も口にしていない。
そんな当麻に襲う空腹と睡魔、
何より目の前の暖かそうなベッドの誘惑に負け、
当麻は女の子の邪魔にならないような位置に顔を伏せて寝ていた。
「腹減ったぁ~!!」
ガバッと顔を上げるとそこには…
「やっぱりお米にお味噌汁に焼き鮭は超美味しいです」
美味しそうに病院の朝食を頬張っている最愛がいた。
「あ…あのぉ…」
「あ、起きましたか?朝食頂いちゃってますよ」
そういう最愛の手元を見るが、食事が一人分足らない。
「俺…のは…?」
「貴方は病人じゃないでしょう。何平然と貰えると思ってるんですか」
「えーもう財布にはお金入って無いんだけど!…外食しろと!?」
いやいや知らないし!と言いたげな顔で、
「助けてもらっておいてアレですが・・・あなたが超だらしの無い生活送ってるからじゃないんですか?」
と、最愛は的確に当麻の心を抉る。
「…まあ、否定は出来ないけど…」
「じゃあ超自業自得じゃないですか!」
とはいえ空腹から来るサイレンはけたたましく鳴っている。
「いいなぁ…お腹減ったなぁ…」
ぐぅぐぅと空腹のサインを発しながら、食べ物を欲す当麻。
それを見ていて、流石に可哀想だと思ったのか、
最愛は箸をトレーに置き、少し食事を見つめた後、
「じゃ…じゃあ、少しだけ分けてあげます。今小皿をもらって…」
これが失敗(せいこう)だったと、少女は後々語る事になる。
「本当か!ありがとう!!」
そういうと当麻は最後まで話を聞かずに料理を食べ始めた。
"最愛の使っていた箸"で。
「な!ちょっとそれ私の使ったヤツですよ!」
という悲鳴も聞かず、
「うんめぇー、マトモなの食ったの久しぶりだー」
と呑気な事を抜かして食べている当麻。
その光景を見てふと最愛が、
「ま…まぁ…美味しいって言ってるなら…無理に止める必要性は超無いですよね…」
いつものトーンとは違う声色で呟いていたのは誰も分からない。
「で? まあ私は食べていいと言いました」
両腕を組み、物凄い笑みで仁王立ちしている少女、絹旗最愛。
「…はい…」
それを、冷たい病室の床に正座して俯き聞く少年、上条当麻。
見た目などを考慮すれば、当麻が年上なのは明白なのだが、
これではどちらが年上なのか分からない。
「そう言ったのは私が、"私の食事"を分けてあげようという慈愛の精神からです」
「…存じております…」
「そのナイチンゲールばりの超素晴らしい気遣いに対して貴方はどうしましたか?」
それはそれは、今誰が見ても聖母のような笑みを見せる最愛。
だが…
「………完食してしまいました」
という答えを受けて、少しずつ表情が変わってくる。
「おかしいですね、何故”少し分けてあげる”と言ったのに”全部食べさせてあげる”になっているんでしょうか?」
「ここ最近モヤシと卵しか食べてなかったので、つい…」
最愛と出会う一週間前から、
例のデルタフォースのバカ共と遊んだお陰で、
紙の金は尽き、硬貨でのみの生活を送っていた。
そんなこんなで最愛に出会い、話題の無意識の親切心発動で金は潰える。
そんな大変な時に、
目の前の女の子が『食事分けましょうか』なんて言ってきたので、
『もう一生ついていきますぜ、アネゴ!!』と心で感謝しながら食い付いた。
結果こうなった。
「つい、で貴方はナイチンゲールの慈愛を全て食らい尽くすんですかっ!?」
「ナイチンゲールは怒りません…慈愛の精神で是非お助けください」
「超我慢なりません、折角まともなご飯を食べれたと思ったのにっ!!!!」
「…顔が怖いです…」
「そうなるような状況にしたのは誰ですか!!」
「俺…です、ごめんなさい…」
ブチッとまたもや大切な何かがキレる音が…
「一発殴っていいですか、いいですよね、寧ろ超殴ります!!」
「三段活用使えてないですし、ナイチンゲール様…」
またもやイラッと、そして最愛の根幹が全てキレた。
「歯を食いしばってください。食べ物の怨みをお教えします」
「ちょっと今殴られたらさっき食べたのが出て…」
ドゴッと、最愛の窒素の力が乗った拳が当麻の鳩尾にクリーンヒットする。
「ぐはっ…」
「少し強く殴りすぎたみたいで、ごめんなさい…」
最愛はベッドに横になる当麻に話しかける。
自分がした事で立場の入れ替わった事に反省しているようだ。
ちなみに最愛は今のところ順調なので、病室から出ても良い事になっている。
「なんだこの立場逆転…とほほ」
「でも貴方だって悪かったんですからね」
「それは猛省している所存でございます」
などと話している最中に夜食が運ばれる。
「あれ、食べた分くれないんですか?」
「は?」
「貴方、私の食事の半分以上以上食べましたよね?」
「とはいえ君、さっき看護婦さんに頼んでもう一食食べたよね?」
「…私だって…」
「ん?」
「わ…私だって差し上げたんですから、今度は私にくれるのがスジなんじゃないんですか!?」
「スジって…そんな極道さんのような言葉づかいは関心しないぞ…」
「もういいです、くれないなら奪い取ります!」
「その底なしの食欲は一体何なん…っておいこら、待て待て待て待て!」
最愛は当麻に襲いかかる、というよりも弁当のみをターゲットに突っ込んでくる。
「寄こしなさい、意地汚いですよ!」
「それは君の方だろ!」
「いいから……私に寄こしなさい!!」
「あれ、なんかキャラ変わってるからね、君」
食器が乗ったトレイを引っ張り合う二人。
がちゃがちゃと音が鳴り、汁物や副菜が皿からこぼれそうになる。
結末は目に見えているだろう。
最愛の体調はまだ優れていない。
大騒ぎするとまだ脳が痛む。
「痛っ」
最愛は突如として襲う頭痛に力を緩める。
それに対して、割と大人げなく引っ張っていた当麻は勢いよく後ろに倒れた。