Act.26
・木曜日
「上条さーん、朝ですよ」
この声で一日が始まるなぁ~なんて思いながら体を起こす当麻。
「ふぁぁぁーーっ。んー駄目だ、そんなに寝れてないな~」
何故寝不足時と寝すぎた時はこう…地味に首が痛いのだろうか。
思ったところで答えは自分でしか返せないのだが。
「ま…またですか上条さん!そろそろいい加減にしてください!!」
覚ましたての目には辛い真っ白のナース服を着た看護婦は怒りながら病室を後にする。
なんだ?と思っていると…
「にゃぁ~~っ…おはようございます、にゃぁぁ…」
小さな手で目をゴシゴシしながら起きる小さな女の子。
「うぉ、朝日が目に染みるぜぃ、ってミサカはミサカは朝日を浴びることで体内時計がリセットされるっていう人体の神秘に驚いてみたり!」
小さい手を天に差し出し、背中を伸ばしながら起きる女の子。
「ふあっ…。もう…なんで静かに起こしてくれないんですか」
小さく欠伸をしながらいつものように起きる最愛。
この三人が"同じベッド"の"上条のすぐ隣"で目を覚ました。
当麻は感じ取った。駄目だ、この光景は駄目だ…っていうかこれか、怒ってた理由は…!と。
起きた矢先から不幸の針が振り切る当麻の不幸メーター。
しかしこれを不幸と言ってしまう当麻の考え方こそが不幸なのではないだろうか。
ただまあ一つ言える事は、
「看護婦さん、誤解です…」
ナケナシの当麻の財布(当麻の奨学金のあまり)から出した食事が三つ少女らの前に並ぶ。
先日のように『歩けるだろ!』と言いたかったが、如何せん色々聞きたい事もあったので仕様が無く自腹だ。
あの騒動以降、お金を払うと病院食を貰える。
というよりも看護婦が気を利かせて作っておいてくれるらしい。
当麻は善意だと思っているが、それにもまた他意があるのだろう。
「上条のお兄ちゃん、ありがとう」
目を輝かせながらお礼を言って来るフレメア。
「やっぱり朝は白いお米と味噌汁、塩分控えめの鮭に納豆だね~!」
質素な朝食ながら日本気質溢れる和食に喜ぶ打ち止め(ラストオーダー)。
「こう…空腹の時の味噌汁の香りは何でこうも超刺激的なのでしょうか…」
何度目かのこの食事にも全く飽きもせずに刺激される最愛。
「お、苦手なグリーンピースが無い、にゃあ♪」
「こういう日本の質素な食事が、いいスタイルを生むのだよ、って乙女なりの知識を披露してみる」
「鮭ですか、これを見てたら麦野を超思い出しますね」
まあでも、笑顔が三つをお金で買えるなら、お金を出してもいいかなとか思ってる当麻だったり。
「デザートはプリンだぁ~」
「お~、乙女心を十分に分かってるねぇ」
「でもこれを食べることでまた少し体重が増えてしまうんではないでしょうか…」
プリン一つで話に花が咲くのが、女の子の特権であり…
「だったら最愛のお姉ちゃんは私にプリンをちょうだい。にゃあ」
「ミサカ達くらいの年齢なら、まだ体型とか気にしなくてもいいし」
「なっ…私は別にプリン要らないなんて言ってません。というかむしろ年長者に超献上すべきです!!」
甘い物一つで場が荒れるのも、女の子の特権である。
15時頃
「うぅぅ~、ベットで遊んでるのもそろそろ飽きたかも~」
両手両足をバタバタとさせて暇さをアピールする打ち止め。
「トランプも終わっちゃったし、本も漫画も雑誌も全部読んじゃった、にゃあ」
読んだ本をきっちりと元の場所に戻しながら話すフレメア。
「今、他の人居なくてよかったですね、私達どれだけぐうたらしてるかって見られずに済んで」
最初から最後まで終始ゴロゴロしてた最愛。
というか見られないで良かったのは最愛だけだろう。
「うん、俺はともかくお若いお嬢さん方がベットでゴロゴロしてるのは教育上宜しく無いと思う」
そんな打ち止めのバタバタ攻撃、フレメアのハキハキ態度、最愛のゴロゴロ無気力に挟まれながら頭の後ろをポリポリ掻きながら言う当麻。
「教育上って…すっかり上条さんはパパな気分?」
打ち止めとしては学習装置と妹達との情報交換で見た目にそぐわぬ知識量の貯蓄があるが、教育とはなんたるやを説かれても、多分理解するのに結構な時間を要するだろう。
「上条のお兄ちゃんから上条のお父さんになっちゃった、にゃあ」
「こ…この中だったら私がお…お…お母さんですかね…」
どさくさに紛れてそんな事を口走ってみる最愛。
「最愛ママに上条パパだ~って、ミサカには居ないパパとママはこんな人達だったら面白いなって想像してみたり」
「私もお父さんとお母さんの記憶がそんなに無いから、ちょっと嬉しいかも、にゃあ」
「もし、妹とか娘とか私の周りに家庭が出来たらこんな気持ちになるんでしょうかね」
その三人の言葉を聞いて俺はそういえばと思った。
打ち止めは御坂のクローンとして生まれ、両親と一緒に暮らしていない。
フレメアは結構昔に姉のフレンダとこの街に来てから、親と殆ど関わっていない。
最愛は"置き去り"の為、両親を良く思っていず、一人っ子だった為に姉妹も居ない。
この三人の小さい女の子達はしっかりとした家族を知らないのだ。
家庭という、俺にとっては普通だった景色を彼女達は知らない。
それでも、闇を照らす程の眩しい笑顔を持つ彼女達はその生活に慣れているんだろう。
でもその裏に見え隠れする"家族と一緒に居たい"という気持ちがあるのを俺は短い関わりで感じた。
「よしっ」
「「「?」」」
「これから少し散歩しよっか」
太陽の光が温かく降り注ぐ公園。
医者からは呆れた感じで外出許可をもらい、四人で出掛ける。
「いいなぁ~いいなぁ~」
「超うらやましいです、フレメア」
「ここは私の特等席。絶対譲らない、にゃあ」
右手で最愛、左手で打ち止めと手をつなぎ、そして肩車をするのがフレメア。
最初に誰が手をつなぐで揉め、じゃあ誰が右手をつなぐと大揉め。
流石に耐えきれなくなり、しょうが無いので一番軽そうなフレメアを肩に乗せる。
ただ、「何故フレメアなのか」という追求を二人から受け大変だったのだが。
「流石に最愛を肩に乗せるのは…ちょっと」
「お兄ちゃん、そういう事言いますか。覚悟は出来てますか…ってあ!」
よかった、こういう事態を予想して右手側にしておいてとつくづく思う当麻。
「お兄ちゃんじゃなくて"パパ"だよママ♪って、ミサカはミサカは間違いを訂正してみたり」
「ちょ…超照れます」
今日は家族で近くの公園まで散歩(ただ他の三人いわくデート)という事になった。
もとより、この上条当麻という人間の根底には、困っている人には優しくという考え方が根付いている。
だからこそ、擬似的にでも一時的にでも"家族の暖かさ"を味わって欲しかった。
それに少しでも貢献できるのであればと上条当麻という人間は喜んで身を差し出す。
「あ、猫ちゃんだにゃあ」
植え込みからひょこっと顔を出した猫を指さす。
「ムムム、あれは10032号が飼っている猫!ってことはこの辺に10032号もとい邪魔者がっ!!」
「御坂の妹ですか…ちっ、何故このタイミングで!」
言われている通り、邪魔者の称号を持った少女こと、御坂妹が茂みから顔を出す。
「邪魔者とはなんですか、とミサカは何自分達だけ面白そうな事してるんだと20001号の頭をペシペシ叩きます」
「痛い痛い~」
「コラコラ御坂妹、暴力はしちゃだめだぞ」
「オイ、どの口がほざくンだコラ」
御坂妹の次に来たのは一方通行。
「おう、一方通行じゃねえか。ていうかあれはお前がいけなかったろうよ」
「まァ…それは否定できねェけど…」
「でもでも、それがなかったら今みたいな出会いは無かった訳で…」
「そうですね、と、あの時私達(ミサカ)の前に現れた貴方の後ろ姿を思い出して懐かしみます」
「私も助けに言ったんですけどね!(私が手を出すまでも無かったですけど)」
各自、フレメアを除いて当時を思い出す。
もちろんフレメアは楽しくないので当麻の髪をぴょこぴょこ動かしていた。
「っていうか何でお前ら一緒なの?」
「はァ?それはコイツが」
「いえいえ、こんな若白髪と好き好んで一緒にいませんと、凄い勢いで拒否します」
「あァ、てめェが上条を探せつって泣ィて俺の所に来やがったから付いてきてやったンだろ」
そんな事があったのね、とこの場にいるメンバーは思った。
病院の近くの公園のベンチに腰掛ける最愛とフレメアと打ち止めと御坂妹に今買ったジュースを渡す。
「「「ありがとう、パパ!」」」
「ありがと・・・えっ?なんですかそれは、とミサカは一人絶対的な疎外感を感じて危機感を覚えます」
こくこくと、喉を鳴らしながら飲む三人を遠巻きに見る。なんか平和で良いな。
「あ、そうだ一方通行、ホレ」
「すまねェ」
投げて渡した缶コーヒーを眺める一方通行。
じっと見ていたかと思うと、開けて飲み始める。
「まァ、お前に愚痴なンか言ィたかねェけどよ、家族ごっこも疲れンだろ」
最愛達には聞こえない程度の声量で話す一方通行。
「うん?そうでもないし、"ごっこ"って言い方もあれだな」
当麻も自分のコーヒーを開ける。
「ふーン。まァ、お前の性格上そう言うと思ったけどな」
「お見通しってワケか。さっすが学園都市第一位様で」
プシュっとプルタブをあける。
「そういうお前はどうなんだ?」
「俺…ねェ…」
缶コーヒーを口から離し、空を見上げる一方通行。
「ほら黄泉川先生とか芳川さん…だっけ? 一緒に住んでんだろ?」
「誤解無ェように言っておくけど、無理矢理だからな」
そういう一方通行はいつもと違って…。
「はいはい、そういう事にしとくよ」
「チッ」
クイッと二人はコーヒーを口に含む。
「そういえば、打ち止めもお前に結構懐いてるけどな」
「あのガキはただ俺で暇潰してるだけだ。それ言ったらお前の方が懐かれてるじゃねェか」
「俺ももしかしたら暇潰されてるだけかもしれない」
「なァンにも分かって無ェのな、お前」
はぁ、と大きくため息をついく一方通行。
「何だよ…」
「好意寄せてるってなんで分からねェかね。俺はただの罪人、お前はその救世主。身分が違う」
「おい、お前まだそんな事…」
「説教は耳が腐る程聞き飽きたよ。だがこれは事実だ」
「…」
「そう言うことだ。それに俺の病室にあのガキが来てもずっとお前の話題だ。それも聞き飽きた」
「ふぅん」
「それと…」
それと…と注意しないと聞き取れないぐらいの声で言った後、
「あれからずっと、俺が妹達に話しかけてた事に感謝してんだよ。それも聞き飽きた」