「うーん・・・見ているこっちが気分の良くなる寝顔の最愛ちゃんと打ち止めちゃんを起こすような事は何とも心苦しいけど、だが男ならば裏切った友へしなければいけない事があるので少し大声張らせてもらうにゃー」
咳払いをしながら、病室の入り口で突っ立っている土御門。
扉を開けたポーズのまま止まっている。
「んだよ、俺を置いて一人でさっさと病室まで走ったと思ったら・・・」
「カミやん! カミやんだけこの
土御門の目の前に広がる光景は、それはそれは健全(土御門が自分で言っている)な男子高校生からみればもう刺激の強いもので。土御門で無くても当麻に殴りかかりたくなるような光景。
「打ち止めちゃんと最愛ちゃんがベットで仲良く横になっていると思えば、フランス人形のように可愛い女の子もいる・・・納得のいく説明しろぉぉおおおおおおーーー!!」
うにゃーと、大の高校生(声変わり済み)の叫び声が響く。
フレメアなら可愛いのだが、コイツのは聞いていて耳が腐りそうだ。
「もー、なんですか騒々しい」
「ミサカの眠りを妨げるこの声は・・・って、ミサカはミサカはいつも美味しいお土産くれる変な格好した人が真っ先に思い浮かんで少しだけ嬉々としてみる」
「にゃーが来た、にゃあ」
眠っていた二人と、ベットの端にちょこんと座って窓の景色を眺めていたフレメアが土御門・・・騒がしい対象に視線を向ける。
「説明・・・説明かぁ・・・」
土御門に説明を求められたので、最愛がいる事は土御門も想定内だったと思うが残りの二人がここに居る理由を筋道立てて思い出してみる当麻。
「これ言ったら多分お前に殴られると思う」
当麻が土御門の立場になったらそうしてしまうだろう過程に、素直にそう思う。
「なんだ、そんなに疚しい事なのかにゃー?」
「私が説明しましょう。私とお兄ちゃんが"二人で寝ていたら"この子達が布団に入って来たんです」
「二人で寝てたら入ってきた・・・だと・・・。それは本当か?」
まだ眠そうにしてる最愛の発言に、度胆を抜かれる土御門。
「そうだよ。どうせだったらあの時のドキドキ感も赤裸々に喋ってもいいんだよって、ミサカはミサカはあの時の事を思い出してみたり」
「うん、お姉ちゃんと寝るよりも暖かかった、にゃあ」
打ち止めもフレメアも、最愛と同じく変な方向に持っていこうとする。
そしてそれらは、どんどんと当麻に分が悪い方へと進んでいく。
と同時に、土御門の目がグラサン越しでも分かるほど鋭く光る。
「ほほー・・・なるほどにゃー・・・」
ニタァと口が曲がる。
「あーあ、いい所だったのにー」
「最愛、誤解を招く言い方するな! 俺らは完全に寝てたろう。気付いたのは朝だ」
「どんな言い方にしてもこれだけ聞いてたら語弊や誤解が生まれても当然だよねって、ミサカはミサカは10032号の言ってる"キセージジツ"がこういう事なのかって理解しちゃったり」
ようやく言い訳(この場合は本当の話)を話そうとしたら何故だか満面の笑みを浮かべる打ち止めに話をよりややこしくさせられる。
ここで頭のいい友人だったら『ああ、子供のおふざけね』となるのだが、生憎当麻の周りにそのような同性の友人は一人たりともいない。
「キセージジツってなんだかよくわからないけど、それは私もした方がいいの?」
純粋に、ただ好奇心と探究心から成る"疑問"をフレメアに投げかけられる当麻。
もちろん答えられる訳もなく、
「それは・・・フレメアにはまだ早い事でだな・・・そのー」
何とも歯切れの悪い、一般家庭でよくありがちな不意な言葉の意味を聞いてくる子供に父親がどうにか誤魔化そうとしているようになってしまっている当麻。
「早いって? オトナな事なの? でも打ち止めも言ってるよ?」
姉のフレンダからは・・・というよりは日頃行動を共にする組織・アイテムに所属する、姉と慕う麦野や滝壺からは"そういう事はもう少し大人になってから"と言われている。
実際のところはそう言っている二人もよくは分かっていないのだけれども。
「まったくお兄ちゃんは・・・。そうやって情報を与えなければ与えないで、間違った事を覚えてしまったらどうするんですか? という事で私がそれについて教えましょう」
「ふふふ、妹達と情報を共有していればあんな事やこんな事も教えられるんだよ!って、ミサカはミサカは博識である事をここぞとばかりに主張しつつフレメアに歩み寄ってみたり」
「カミやんは駄目だ、ここは俺の17年間蓄積された知識を全て・・・」
ある意味で色々な修羅場を潜ってきた三人の濁った瞳が、フレメアに迫る。
「あーダメだ、フレメアのお手本になるような心が澄んだ人間がいない・・・」
そんな当麻の呟きを聞きとった土御門が一言、
「一番澄んでいないのはカミやんだにゃー!!」
振り向き様に裏拳を食らわされそうになり、寸での所で躱わす。
「馬鹿っ、いきなり裏拳かますなよ!」
「ちっ、つくづくこういうのだけは避けやがる・・・」
「今舌打ちしたろ!」
「こうなったらお前を消してこのポジションは俺がもr「「「絶対嫌!!!」」」・・・」
女性陣からの瞬間的かつ完全な否定。
「えぇ~・・・」
「完全に否定されてるな」
「カミやん・・・わーっ!羨ましいにゃー!」
「んなイカツイ格好で飛びかかってくるなよ、アブねぇだろ!」
「くっ、また避ける・・・」
そんないつも見慣れたおふざけを繰りなす二人。
「お兄ちゃんガンバレー!」
「どう考えてもグラサンの人の嫉妬だよねって、正論を言いつつ喧嘩を見守ってみたり」
「わわわ、助けに行かなきゃだけど怪我しちゃう・・・にゃあ・・・」
「わかった、じゃあカミやんには苦痛を与えてやろう!」
土御門は意を決して、両手をワキワキとくねらせて当麻に歩み寄る。
それからは執拗に当麻をくすぐって笑い苦しめてやろうと奮闘する土御門と、当麻を守る女性陣での当麻を賭けた非暴力的なバトルとなる。
まず、女性陣が当麻にへばりついて土御門の攻撃を防ぐ(ただしこれにはただ単に抱きつきたいという邪な私欲アリ)。
そしてもちろん土御門は彼女達に触れるわけにもいかずに『カミやん!女の子を盾にするような男だったのかにゃー!』と言って挑発してみる。
だが、答えようにもフレメアにお腹にしがみ付かれているせいで苦しく、退いてくれとも言えず顔が真っ赤になっていく当麻。
それを見た土御門が『畜生ーっ!』とさらに攻撃を加えようと奮起。
増える相手の移動に合わせて彼女達が動く結果、当麻はさらに苦しくなる。
結果、当麻はある意味で苦痛を受けたが、そんな光景を見ている土御門としては大ダメージ。この傷は多分、一生彼の心に残るだろう。
こんな悪循環と土御門にとっては無利益な感じの遊び(?)が、大分長く続いた。
疲れた土御門が、戦争帰りの兵士の如く肩で息をしながら帰っていってから数分後。
乱れた息を整え終わった当麻は、馴染みの病室に軽く別れを告げ、三人の少女と共に病院のロビーへと向かう。
「それじゃあ、お世話になりました」
向かい合う当麻と医者。
まとめ終わったキャリーケースを傍に置き、もう何度目かも分からない挨拶をする。
「本当だよ? もう一生お世話したくないんだけどね?」
「まあ多分来週あたりには・・・」
「来ないでよね?」
「断言出来ないのがアレですけど・・・」
来るべきではないのだが、しかしまた来る事になるんだろうなぁと当麻も医者も思い、笑う。
「お兄ちゃん、いい加減に入院癖直さないと駄目ですよ」
と、そこに舞夏特製ジュースが入った容器からストローで飲んでいる最愛が横から入ってくる。
「そうだな。最愛と買い物も行けないからな」
「そーですよ、毎回毎回『お金が無い』って!」
とりあえず誘われてもそういう事だと言って、我慢しろと言い聞かせる事も多々あったので、最愛としては入退院を繰り返さないでもらいたいのだけれど、不幸にも義兄の当麻は月一レベルでお世話になるから困ったものだ。
「はっはっは!」
そんな二人の会話を聞いてか、突如として笑う医者に当麻をはじめとする皆が驚く。
「どうしたんですか?」
「お金が無ければ無いで、人は工夫するものなんだよ? お金を持つ人は工夫が出来ない」
「「「?」」」
「要するに、お金に苦労しない人は人生も苦労してないって事だね。まあまだ君達に言っても分からないだろうけどね」
誰を見るでもなく、自分でその内容を咀嚼している医者。
「あー、ってことはお医者さんはお金無いってことですか?」
当麻の自己解釈としては、大変そうな医者=苦労人らしい。
「ああ。君のお陰だね? でもそこらの道端で見る能力の喧嘩なんかより面白い物が見られるんだけどね?」
「それを医者が言いますか…って、止めてくれればいいのに!あなた医者でしょ!!」
「面白いからね?」
「この人は本当に医師免許持ってるのか不安になってきた・・・」
とまあ、お互いにし慣れた挨拶という事もあって結構手身近に終わる。
「さ、そろそろ帰りましょう」
打ち止めとフレメアの手を取る最愛は
「だな」
「色々準備ありますし」
「ああ、今日は彩月花祭・・・だっけね」
医者は顎をさする。
今日は花火大会。
普段の雰囲気とは一風変わる街並みや住人に、学生が主体の学園都市は浮かれる。
出店の料理に舌鼓を打つ者。
景品欲しさに大暴れする者。
学生一人一人にドラマがあり・・・
そういう子達が何かとココに来る=仕事が増える・・・。
医者としては望まないイベントだったりする。
「それじゃあ、ありがとうございました」
去り際にもう一度挨拶をしておいてから、当麻とフレメアと打ち止めは先に病院をあとにする。
「あ、そうだ。お医者さんは花火見ないんですか?」
「仕事だよ。これから立て続けに見なきゃいけない患者が多くてね? 見れるかどうか分からないね?」
「それは残念です」
「なんだい、面白い物でも見せてくれるのかい?」
「どうでしょうかね、多分その逆になると思います」
そう言う最愛の横顔は、何かを決意した顔だった。
それを医者は汲み取ったが、触れてはいけないような感じがした為に話を濁す。
「ふぅん・・・まあ病室から花火も君も見守っているよ」
「お医者さんって趣味悪いんですね」
「えぇっ!?」