Act.4
目的の病室のドアを横にスライドさせる。
そこには一定の間隔で鳴る機械と、呼吸をする音が響いていた。
点滴が血を補うように繋がれている痛々しい兄の姿。
すぐさま駆け寄り、兄の手を握る。
すると当麻が、最愛の手の温もりを感じて瞼を開ける。
「また病院に世話になっちまったな。今月厳しいってのに・・・」
そういって窓の外を見る。兄は自分にかかっていた薄いタオルを一枚、最愛の肩に優しくかける。
「こんな雨だ、気温下がって風邪引くかもしれないから」
病室から降る雨を見る。雨脚は強い。
「あー…あとこのままじゃ飯作ってやれないな……ホントごめんな…」
兄はこうやって自分が悪くなくても、何でも代わりに背負う癖がある。
いつもだったらそれが堪らなく魅力的に感じるはずなのに、今回は全く感じられない。
「とは言っても、上条さんってば頑丈だからすぐ退院できるだろうさ」
「うん」
「ん~、今までの経験上、明日か明後日ぐらいには…」
「…」
「だから…さ、出来れば泣いて欲しくないんだ。最愛には笑っててほしいんだけど…」
「……に……が…」
「ん?」
「お兄ちゃんが無事じゃなきゃ笑えない!! 私にとってはたった一人のお兄ちゃんなんです!!」
無理して心配させないように振る舞う当麻に出る最愛の本音。
「・・・そっか…ごめん」
「だから…、自分は超犠牲になっていいとか思わないでください!」
「ごめん」
「お兄ちゃんはいつもそうやって超謝ってばかり…ずるいです…。私が謝る筈だったのに…」
「ごめん…」
「謝らないでよ…お兄ちゃん…、そんなに謝られたらお兄ちゃんを責められないよ…」
最愛は頭にかかるタオルで涙を拭く。
「だからさ、泣くなって。最愛の可愛い顔が台無しだぞ」
当麻は体は寝たまま、最愛の頭の上に乗せてクシャクシャ撫でる。
「うん・・・♪」
「よかった。やっと笑ってくれた」
最愛は当麻に頭を撫でられると機嫌が良くなる。
こうなると当麻は文句一つ言えなくなる。
「(この状態の最愛にはどうにも敵いませんな…)」
と、そこにもう一人の声が。
「…様子を見に来たけど…いつもみたく無事なんだね?」
呆れた顔で見てくるのは、《冥土帰し》と称される医者。
前の患者は普通に風邪だったので、さっさと診察を終えて薬を処方してきた。
それよりもこっちを見てる方が面白いと、医者らしからぬ意思で来てたりする。
「どうやらそこまで一大事という訳ではなかったようだね」
「ええ。また数日で退院できるんですよね?」
「んー、ちょっとかかるかもしれないね」
「そうですか。月に何度病院にお世話になるんでしょうね、俺は…」
「ホントだね…。その不幸という生傷(と仕事)を呼ぶ右手、どうにかならないもんかね?」
「とはいえ、その右手があるからこそ、今の俺と最愛がいるんです」
「ああそうだった。全然不幸ではなかったね」
「ええ。あれ、最愛もう寝てる…」
泣き疲れたのか安心しきったのか、最愛から静かな寝息が聞こえる。
「安心したんだろうさ」
さきほど当麻が最愛の頭に手を置いた状態のままの最愛は満面の笑みで寝ている。
「それで、その子どうするの?」
「このままにするのも悪いし…俺の横に寝させようかと」
「その為にその横長の患者ベッドなんだけどね」
月に5回以上病院を訪れる当麻は、病院では御馴染で、
もちろんその度に今までに似た内容を最愛と繰り返すわけで、
毎回毎回疲れて兄のベッドに寄りかかり寝るのも知っていて、
そのまま寝させるのも良くないと思った病院側がつい先月、
上条当麻専用で数人が横になれる特注のベッドを買っていたりする。
だから疲れて寝ている最愛を横に寝させるというのが普通になっていたりする。
「まあ君は信用できるから深くは言わない事にするよ。傷が治るまで大人しくしてることだね?」
「わかりました。あの、看護婦さん呼んでもらえますか」
「とうとうナースに目覚めた?」
「いやいや、最愛をベッドに寝かせて欲しいんですけど…。流石にこの怪我じゃ無理です…はい」
「やれやれ…、それ以外の怪我だったら力出せるみたいな言い方だね?」
「打撃は慣れてるんですけど…、切られるのはちょっと…」
「普通の男子高校生は言わないよ。わかった、今呼んでくる」
医者が歩いて行くと、当麻は力無く倒れる。
「あー、しんどい。喋りすぎた…」
最愛の髪を優しく撫でながら当麻は眠りについた。