「上条さーん、朝ですよー。起きてください」
もう顔見知りの看護婦が病室のカーテンを開けて朝の陽差しを部屋に招き入れる。
看護婦よりお付きのパートナー的に彼は思ってくれていると想像する看護婦だったりする彼女は、満面の笑みで当麻を起こす。
「ふぁーーっ、あ、おはようございます」
「もう知ってると思いますけど、あと少しで朝食ですからねー」
看護婦が病室を後にする。
「…」
横を見ると最愛が無言で俺を睨んでる。
その目は悉く当麻に、母親の詩菜が脳裏に浮かばさせる。
「え~っと…どうした最愛」
「今看護婦さん見て鼻の下超伸ばしてました」
「伸ばしてない…けど…その…ごめん!」
「…」
最愛が当麻を見ないで外の景色を眺め始める。
「さ、最愛さん…?」
「わぁーすっかり雨が晴れましたー」
「ちょっと…無視しないで~! …うう」
「…」
「…」
「超反省しましたか?」
「それはもう超反省してます! だから無視だけは!!」
「じゃあ…いつもの…」
「…わかった」
最愛は当麻の胸をぎゅーっと強く抱きしめる。『胸』を。
当麻は忘れていた。
「いっ―――」
「~~~~♪」
「たっ…」
「~~~~♪ ……ってあれ? いつもなら『そんなに強くはやめて』って言うのに…。今日は超積極的なんですね」
「…」
「反応が超全くない…ってあれ、心無しかお兄ちゃんが私に体を超あずけているような…///」
「…さ」
「?」
「最愛さん…」
「どうしたんですか?」
「き…キ…」
「えっ、ちょ…そんないきなり…///」
次に来るであろう単語を想像して顔を真っ赤にさせる。
「き…キズがっ…」
「はいっ/// ってあれ?」
「やばい…血ぃ出てきた…、あれ…? 景色が霞んで…」
「ああ! 傷だったんですね~、アハハ~、超勘違い~」
「…」
それ以降、当麻が喋らなくなる。
「あれ、お兄ちゃん!? ちょっと…冗談ですよね!?」イヤァァァ!
上条当麻と書かれたプレートの部屋の前で《冥土帰し》と看護婦。
医者は首に聴診器をぶら下げ、看護婦は何層も食事が収められてる台車を押している。
医師は呆れ顔、看護婦は…
「…これはもう帰ってもらう方がいいのかね?」
「いいなぁ…」
「…ゴホン」
「・・・すみません」
「なんだかんだで妹さん、怪我悪化させてるしね?」
「たしかあの妹さんって…」
あの時の、あの記憶。
看護婦と医者の脳裏に浮かぶ、“初めてこの病院を訪れた当麻と最愛”の光景。
看護婦としては若干トラウマな部分があるので、都合のいいところのみ再生されるのだが。
「そう。しかし、兄の事となると一直線になるっていうか…固執っていうのかね?」
「あれじゃあ妹さん、どこにも嫁げないんじゃないですか? 兄離れ出来ない妹は」
「まあ、本人的には一人にしか嫁ぐ気はなさそうだけど?」
「…」
「ま、今はそれより患者さんを手当てしようか?」
「あ、お医者さん! 超早く!! お兄ちゃんが!!!」
「ああ、今見るよ?」
―10時過ぎの病室―
真っ白な天井。上条当麻としては見飽きたくないその天井。
「は~、教室の天井見るより病院の天井見る方が多いんじゃねえか、俺」
今更どうしようもない事実を、溜息混じりに確認する。
「不幸…ねぇ」
不幸の象徴である右手の平を顔の前に出す。
座右の銘が『不幸』、ぐらいの勢いで自分の身の回りにのみ降ってくる不幸。
「でもまあ、その『不幸』があったから『幸せ』があるんだけどな」
横で昼寝をしている最愛を見る。
「せめて最愛にはもう不幸な目にあってもらいたくは無いんだけど」
自分だけ、自分だけ不幸だったらそれに越したことは無い。
「何言っても『お兄ちゃんの傍からは離れません』だもんな」
未だ甘えてくる妹が嫌という訳ではなく、当麻に降りかかるであろう不幸が妹に移らないか、それが心配なのだ。
「あー、しっかし腹減った~。どうやら寝てるうちに飯下げられたようだ…。不幸だ…」
と、ここで、
コンコン
当麻の病室のドアを控え目にノックする音が。