駆逐艦「響」は大東亜戦争中、第六駆逐隊に所属。
姉妹たちが次々と沈められていく最中、終戦まで生き残り、
賠償艦としてソ連に受け渡されました。

若干の史実ネタを含みます。
上記を踏まえていれば大丈夫です!!
それから響提督、鈴谷提督の方は注意。

一人称が
響→金剛→電と変化しています。
わかりにくかったらスミマセン・・・

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約束

「響が提督?すごいじゃない!」

「なのです!」

「きっといい提督になれるわよ!だって」

 

 

 

 

 

 響には、司令官の血が流れているんだから–––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 数日前、司令官が死んだ。

 原因は私の不注意だった。

 私は演習中、全身血まみれで輸血が必要なほどの大怪我を負った。

 そんなとき、司令官はなりふりかまわず、私に全ての血液をくれた・・・

 そして司令官は死んだ。私が殺したようなものだった。

 にもかかわらず、いや、だからこそか。

 私は彼の後を継ぐことになった。

 第六駆逐隊のみんなはもちろん、鎮守府の全員が歓迎してくれた。

 しかし・・・

 

 

 

 

 

「また攻略できなかった・・・?」

 戦果が思うように上がらないのだ。

「イエース・・・今、旗艦鈴谷が大破してドック入りしてるネー」

 

 

 

 司令官がいなくなってからというもの、鎮守府の士気は大いに下がっていた。

 そんな状態で出撃すればどうなるか、容易に想像はついていた。

 敗北による士気の低下。そしてまた、といった悪循環である。

 だが、出撃しなければ援助はおろか、鎮守府の存在意義を疑われかねない。

 そうなれば解散なんてこともありうる。そうするほかないのだ。

 私はどうしてもこの鎮守府を守りたかった。

 それが、司令官との約束だから–––––––––––––––––

 

 

 

「司令官が死んだ直後、沖に展開していた敵艦隊は激減したはずじゃ・・・」

 私は反論した。したところで何も変わりはしないが・・・

「それは間違いないネー。ただ、そんなエネミーでさえ、今の私たちじゃ太刀打ちできないんデス・・・」

 秘書艦の金剛がかぶりをふる。

 

 

 

 私は歯噛みをした。

 どうすれば、みんなの士気があがるんだ・・・?

 私は必死に考えた。

 考えに考え、そしてとうとう一つの案を思いついた。

「金剛、提案があるんだ。聴いてくれるか?」

 

 

 

 

 

「ちーっす。旗艦鈴谷、ただいま参上だよ」

 私は、入渠が完了した鈴谷を執務室に呼び出した。

 彼女は、おちゃらけた少女だが練度はかなりのものだった。

 そんな彼女が大破したのだ。艦隊の士気が下がっていることは明らかだった。

「早速だが鈴谷、駆逐艦隊相手に惨敗したようだな」

 私は手元にあった書類を彼女に渡した。

「うーんまぁ、やられちゃったねぇ・・・ん?何これ」

「先の戦闘データだ。鈴谷、索敵していなかったな?」

 彼女の体がこわばる。

「大方、艦載機を積んでなかったんだろう。それから弾薬が補給された記録がないんだが」

「え、えーと・・・」

 私が提督になってから、出撃前の補給を徹底させていた。

「航巡であるにもかかわらず艦載機を積み忘れ、補給もせず無様に負けてきたと」

 

 

 

 

 

「お笑いぐさだな」

 

 

 

 

 

 私の放った一言に、部屋はシン・・・と静まり返った。

 罵倒された鈴谷もポカンとしていた。

「・・・ハァ!?なんでアンタにそこまで言われなきゃなんないわけ!?」

 我に返った鈴谷は、手渡された書類をぐしゃぐしゃに丸め、床に叩きつける。

「あったまきた!出撃命令、出しなさいよ!」

「鈴谷、落ち着くネ!」

「私が本気を出せばあんな奴ら、なんてことないってこと!証明してあげる!!」

 彼女は乱暴に扉を開き、出て行ってしまった。

「・・・うまくいったな」

 そんな彼女を見送った私はそう呟いた。

「イエース・・・でもこんなやりかたは正直どうかと思うネ・・・」

 金剛が難色を示した。

 

 

 

 

 

「嫌味を言う・・・デスカ?」

「ああ、そうだ」

 話は数分前に遡る。

 私が思いついた案とは、仲間たちに嫌味を言うことだった。

 聞こえを良くするのなら、プライドを刺激すること。

「それによって、自尊心を傷つけられた彼女たちは、今以上のポテンシャルを発揮できるはずだ」

「そんなやり方、うまくいくとは思えないデス・・・それに、響が・・・」

 金剛が異議を唱える。

「この状況を性急に改善するためには、仕方ないんだ・・・」

「でも・・・」

「そうすれば、みんなで一緒にいられる」

 金剛はかぶりをふり続けた。

 

 

 

 

 

 響は・・・本当にそれでいいんデスカ・・・?

 

 

 

 

 それからも私は、仲間に嫌味を言い続けた。

「食べるだけ食べて、索敵も満足にできないのか?」

––––– 私は、なんでこんなこと言っているんだろう。

 

「駆逐艦のくせに対潜戦で負けたのか」

 

––––– こんなこと、本当は言いたくないのに・・・

 

『響ちゃん最近どうしちゃったの?』

 

––––– 私はただ、みんなと一緒にいたいだけなのに。

 

『なにあれ?ヒドくない?』

 

––––– でも、私には、こうすることしかできないから・・・

 

『少し言い過ぎじゃねーのか?』

 

––––– 仕方、ないんだ・・・

 

 

 

 

 

 私の思惑どおり、皮肉なことに華々しい戦果が次々と打ち立てられていった。

 勝率も、司令官がいた頃よりも格段に上がっていた。

 約束、やっと果たせそうだよ司令官–––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 そしてついに、その待ち望んだときがやってきた。

「今日の出撃は第六駆逐隊に金剛、川内だ」

 執務室に5人が整列する。

 繰り返し行ってきた出撃で、敵の数は2桁台にまで下がっていた。

 もはや、残党狩りも同然だった。

「ハーイ!気合い入れますよー!」

「私にもっと頼っていいのよ!」

「夜戦は!夜戦はあるよね!?」

「これを見たら司令官、驚くわね!」 

「やってやるのです!」

 みんな、各々意気込みを語る。

「いいか、これで私たちの目的は達成される」

 

––––– やっと、やっとこんな嫌な奴を演じなくてすむんだ。

 

「今まで以上の奮迅をするように」

 

––––– でも、今さら元通りになれるのかな・・・?

 

 

 

 

「あれ?何、今から出撃するの?」

 廊下を歩いていたところ、鈴谷が声をかけてきた。

「そうなのよ!鈴谷さんは?」

「そうなんだー。私はこれから甘味処に行くとこだよ。あ、そうだ一緒に行こうよ!」

 彼女が電の方に手を置く。

「ちょ、ちょっと待ってよ!これから出撃だって言ってるじゃん!」

 川内が非難の声をあげる。

「えー別にいいじゃん」

「川内の言うとおりだ。いくら敵が減ったからといって出撃しないわけにはいかない」

 鈴谷は私のことを一瞬だけ見て、口を開いた。

「あっそ。じゃあアンタ1人で行けば?」

 私はその一言に唖然とした。

「鈴谷!なんでそんなこと言うんデスカ!」

「だって、敵さんも減ったんでしょ?だったら1人で十分じゃん」

 金剛と鈴谷が言い合いを始めてしまう。

「それに、人にあれだけ大きい口叩いといて、できないっていうの?」

「鈴谷!それは違うデス!」

「何が違うって言うのさ?」

 私は見ていられなかった。

 折角、まとまったみんなが、いがみ合うのを私は見ていられなかった。

「・・・わかった。行ってくるよ」

「響!」

 背後で金剛が何か言っていたが聞き取れなかった。

 

 

「・・・鈴谷、提督とした約束、忘れたんデスカ?」

「え・・・何さ、急に・・・」

「みんな一緒にいようって!みんなで力を合わせようって提督と約束したじゃないデスカ!!」

 

 

 

「あなたは本当に、そんなんで提督に顔向けできると思ってるんデスカ?」

 

 

 

 

 

––––– 私には1人がお似合いだったみたいだ。

 

「ナンダ・・・?オマエ、1人ナノカ・・・?」

 

––––– 結局、もと来た道には戻れないんだ。

 

「ナメラレタモノダナ・・・駆逐艦風情ニ何ガデキル?」

 

––––– でも、いいんだ。みんなが笑ってくれてさえいれば。

 

「たしかに、倒すことはできないかもしれない」

 

––––– たとえ、そこに私がいなくても。

 

「けど、道づれにすることくらいならできる––––––––!」

 

 

 

 

 

「何!?今の音!」

 私と暁たちは、急いで響の後を追いマシタ。

 出撃して間もなく、ものすごい轟音が聞こえてきた。

「12時の方向!会敵予想海域です!」

 何をやってるデスカ、響・・・!

 私は祈る気持ちでいっぱいデシタ。

 神様、どうか私たちの大切な仲間を奪わないでくだサイ・・・

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––神様は残酷ネ。

 響の元に駆けつけた私は、その光景に崩れ落ちた。

 敵艦の残骸がそこかしこに転がっていて、響のものと思われる血がべったりとついていた。

「響!響、お願いしっかりして!」

 雷が響を見つけ、抱え起こす。

「いか・・・づち・・・?」

 もう彼女は、息をするのもやっとの状態だった。

 腰から下、あるはずの脚はすでになく、血だまりができていた。

 

「今度は、私が最初になっちゃったね・・・」

 

 息も絶え絶えに響がつぶやく。

 

「何言ってんのよ!私たち姉妹でしょ!?今度こそ死ぬ時も一緒よ!」

 

「司令官が命を分かち合ったように、私たちは苦しいことも楽しいことも全部!全部分かち合ってあげるわ!だから・・・だから!一緒に帰るわよ!!」

 

「死んじゃイヤなのです!!」

 

 雷も暁も電も、顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫んだ。

 

「そんな悲しい顔をしないでくれよ・・・私まで悲しくなっちゃうじゃないか・・・」

 

 

 

「死んでもずっとそばにいるから・・・ずっと、一緒だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて君たちがそうしてくれたように–––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響の体から力が抜けた。

「やく・・・そくよ・・・守らなかったら承知しないんだから・・・!」

 

 

 

 

 

 鎮守府に戻った私は全てを話しまシタ。

 

 響が考えていたこと。

 響が嫌われ役を買って出てくれたこと。

 響が、死んだこと–––––––––––––––––

 

「どうして言ってくれなかったの・・・?」

 鈴谷がつぶやく。

「どうして!言ってくれなかったのよ!」

「謝りたかったのに・・・一言ごめんねって・・・伝えたかったのにどうして・・・」

 みんな顔を伏せ、口々に謝っていた。

 

 

 

「お墓・・・つくりまショウ・・・」

 

 

 

「え・・・?」

 みんなの視線が集まる。

「お墓をつくって毎日行ってあげるんデス!」

 

––––– 死んでもずっとそばにいるから・・・ずっと、一緒だから・・・

 

「そしたら響もずっと、ずーっと一緒デス!きっと寂しくないネ!!」

 そう言いつつも私の顔は、鼻水と涙でぐちゃぐちゃデシタ。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––

––––––––––––––––––––

––––––––––––––––

 

 それからしばらくして、金剛さんの提案で響ちゃんのお墓がつくられました。

 これでみんな一緒なのです!

「電!出撃するわよ!」

「あ、待ってください!」

 

 あれから提督は、鎮守府のみんなでローテーションを組んでやっています。

 夜戦しかしない日があったり、冷蔵庫の中身が空っぽになった日があったけど、

 みんなで力を合わせて、なんとかやっています。

 

 

 

 

 

「暁の出番ね、見てなさい!」

「雷、出撃しちゃうねっ」

「電の本気を見るのです!」

 

 

 

 

 そして–––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「せーのっ!行くわよ!響!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––ハラショー。

 

 

 

 

 

 みんな一緒なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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