思い出せるのは体に纏わりつく夥しいまでの熱量。周りの酸素も悉く燃え呼吸などできない。
たとえできたとしても一度息を吸えば肺が焼けただれる。
そんな地獄のような状況だった。
思うとこっちに来てからの死に方は誤差はあれどほぼ即死みたいなもので痛みも一瞬だ。
「あっ………ガァッ………」
しかし、この火炎は下手に威力が無いために僕は窒息して死ぬより苦しい思いをしてしまったわけである。
それは、僕が耐えきれなくなり脳がショートするまで続いた。
・・・
突然だが、僕はカルナさんに外堀を埋められた挙句の長い旅路の果てに目的地である密林につきこれまた目的であるモンスター、イャンクックの前にて悠然と対峙している。
否、膝はがくがくと震え早くも逃げ出したくなっていた。
何を隠そうこのイャンクック、僕が手のひらに人の字のあざができそうになるほど緊張している所を嘲笑うかのように密林到着数分で僕の目の前へわざわざ着地してきたのである。
当然僕はここで探す手間が省けたZE! となるはずもなくこのような情けない結果となっているわけなのだ。
さらに残念なお知らせに今回は偶然出会ったわけではないので逃げはよっぽどのことが無いと許されない。
もうこの時点で涙目ものである。
あの化け物に比べればよわよわしく見え、見ようによっては可愛く映るその顔も今の僕にとっては地獄の使者のようにしか見えない。
……胃が痛くて吐きそうになる。
「……頑張れアラタ、今までの地獄のような特訓を思い出せ……苦しい基礎練、死にかける実践、微笑むカルナさん、無慈悲なワンモアセット………ウッ、頭が!」
走る頭痛。催す吐き気。とても万全な状態とは言えないがこれはクエスト。
時間は限られている。
「フッ……フフフ……もういい……どうせ死なないんだ。やってやる、やってやるぞ!」
そう自分に言い聞かせて初期装備のボーンナイフを握り占める。
大丈夫だ、人間様がただの鳥みたいなやつに負けるわけがない。きっと。多分。
僕は自分を奮い起こすため叫び、そして未だこんな雑魚に負けるはずが無いとでも言わんばかりに無警戒なクックに突っ込んでいった。
「野郎、ぶっ殺っしゃぁーー!」
昔好きだった映画のセリフをそのまま言ったが、今思い返せば負けフラグなような気がしないでもない。
―――
二か月という短い期間ではあるが死にかける、というか一度は死ぬほどの練習で鍛え上げられた瞬発力を持って僕はクックへと接近する。
ドッ!
数米はありそうな距離を僕は一歩で縮める。到底元いた世界では人間離れしている気はするが何故かこの世界では当たり前にできるのだから、不思議な話である。
思ったよりも素早く動けたことに対して若干感動するが、肝心のクックが動き始めたのですぐに気を引き締める。
少しこちらを見たかと思うと頭を捻り込み体を回し始める。
その行動はイャンクックなどのモンスターのほとんどが使ってくる攻撃、
その名も尻尾ぐるぐる攻撃(カルナさん命名)。
……これはしゃがむと避けられる。
僕はカルナさんに嫌と言う程刻み込まれた、回避パターンに則ってクックの攻撃を避ける。
訓練だというのに避けなきゃ死ぬ状況を作り出してくれやがったカルナさんに今は感謝である。
僕は攻撃を避けた後、クックの自慢の嘴を使った啄みモーションを見て次の動作に移る。
……これは横に入れば弱点の翼ががら空きだったはず。
どんなモンスターにも攻撃できる決定的な瞬間がある。そう教えてくれたカルナさんの言葉を思い返す。
現に隙を見せたクックの翼に対し僕は単純にナイフを振りかざす。
やはり力が足りないのか少しの出血しかないが、一人で初めて僕はモンスターに対し傷を負わせることができた。
僕はそれを確認すると深追いはせずにすぐ後ろに下がった。
イャンクックは多少ではあるが傷を負い、僕は無傷。
意外にも僕の戦闘の走り出しは順調な様を迎えた。
……見える……見えるぞ!
僕は若干トラウマに成りかけたあの火球を何の苦労もなく余裕を持って回避する。
その後も何回かクックの攻撃があったものの、致命的な一撃と言うものを貰っておらず地味ではあるが着々と攻撃を加えていって僕はそう思った。
……体が軽い。
思えば、過去イャンクックと相見えた時は既に疲労困憊といった感じだったのだから、当たり前ではあるのだがこの前の時とは違う自分の思い通りに動く体に手応えを感じる。
あれほど僕を苦しめたイャンクックの火球を回転回避で避け僕は思いがけなく勝ちの色が濃厚なその結果に笑みをこぼす。
避けた後はお返しとばかりに頭に斬りかかり当たり所が良かったのかクックの目を潰す。少なくない血が僕の防具に返ってくる。
もちろんクックが片目の光を失って平然とする訳もなく突如辺りを走り回って体当たりを仕掛けてくるが、慎重に慎重を重ねて既に遠くへと離れていた僕には当たらない。
それどころか走り終わった後にできた大きな隙に渾身の一撃も叩き込むことができた。
あの地獄の訓練は苦しいだけの価値があったようであまりに順調に進む狩りに僕はやっと安心感を覚えた。
「こんな気持ちで、戦うのは初めてだ……」
思えば今までのモンスターとの戦闘は戦いとも言えないような一方的な蹂躙だったが、今回の戦いに感じるなんとも言えないすがすがしさにここに来て三回も死んだためすさんだ心が晴れていく。
流石のイャンクックも頭部への一撃に無防備な状態で喰らわされた攻撃によって早くもふらつき始めた。
決着の時は近い。僕はそう感じた。
「もう、何も怖くない――――!」
僕は隙を窺った後、またしても無防備な様を晒したイャンクックに遠慮なく攻撃を叩き込む。
付け焼刃のような未熟な太刀筋ではあるが、その剣閃はしっかりとイャンクックの首元へと吸い込まれていった。
僕は念を入れてバックジャンプをしてクックの様子を伺う。
眼を片方失い、もう片方の目もついにはうつろになり始め、そいつは暫くふらふらしていた。
が、それも長く続かず、ついに僕の待ちわびていた、時間がやってきた。
―――ドスン………。
倒れた。イャンクックが倒れた。首元から大量の血を流しながら。もう起き上がる気配はない
それすなわち………
「勝った? 僕が……?」
返事は無い。
「こんなにも呆気なく、僕がクックに勝った?」
もちろん返事はない。
「僕は勝ったんだ! 初めて一人で!」
この時の僕は自分でも分かるほど歓喜の念に包まれていた。
何しろ、ただの一般ピープルである僕が自分より大きい動物を呆気なくのしたのだから仕方ない。
ようやく一般人の殻を破れたのだと感じた僕はしばらく何もせずにによによしていた。
……まあ、だからこそ、もう一匹いつの間にか後ろにいたことに全く気が付かなかったわけだが。
閑話というか今日の結末。
「これなら、いつかあの生き物もっ―――」
カァオッ!!
段々後ろが眩しくなったと気づいた時には凡そこの世界で聞くことのない、平たくいえばビーム音が鳴り響き、僕の意識は刈り取られた。
「ヴァォオーーーーーーッ!」
いきなり過ぎて訳が分からなかった。
殺し方が適当になる。だって新年だもの。
UNKNOWN第二形態のブレスはビーム。
主人公
焼死→蒸発