きっとわたしの力だけではここまで来られなかったでしょう。
感謝と親愛の気持ちをこめて、あえて彼もしくは彼女の事をヘタレと呼びたいと思います。
ありがとうヘタレ!
俺頑張るよヘタレ!
……他意はありません。
「おぉー……隕石? すげえ! なあ弾、次俺にもその双眼鏡貸してくれよ!」
「おう、ほらよ」
燃え盛る火の玉が降ってくる様子を、弾と呼ばれた赤毛の少年の家で眺めていた。
この数時間前から隕石のニュースがテレビで報道されていたが、それによると少年達の住む場所からは遠く離れたところに墜ちるそうだ。
こちらに被害を出さないのであれば、あとは観客として楽しめば良い。
「ありがとよ。へえーどれどれ、うわぁすっげえ光ってら」
少年が弾から双眼鏡を受け取って覗き込む。
しばらく見ていると、不意にその軌道がズレる。
まあ、それ自体はおかしな事ではない。隕石とはそれ自体が空気との摩擦で燃え尽きながら――その体積と質量を減少させながら落ちてくるのだ。ゴツゴツとした形状が変化することで、その軌道がズレるのはむしろ当然であるとも言える。
「――あれ?」
だから、双眼鏡を覗く少年が妙に思ったのはその事ではない。
「どうした? 一夏」
「いや、何か落ちて……隕石の欠片かな」
「マジで!?」
一夏と呼ばれた少年の目には隕石から別れた、小さな黒い粒が映っていた。
ともすれば双眼鏡にゴミでも付いたかと思ったが、検分してもそういうわけではないようだ。
つまりは本物。そう結論づけて再度双眼鏡を覗き込む一夏だったが、もう先の黒い粒を見つける事は出来なかった。
もとより極小の粒だ。ただでさえ視野の狭まる双眼鏡では見つけられないのも無理はない。
――双眼鏡では。
「――あっ! アレか! おい俺も見つけたぞ一夏! 止まってるからよくわからなかったぜ」
「おお、どこど――え?」
双眼鏡では見つけられなかったものが肉眼で見つけられる。
ほんの偶然だったとは言え、先まではそれが逆だったはずなのに。
まさかと思って双眼鏡を外す。
友人、弾の指差す方向に視線を向けると、双眼鏡で見ていた物と同じ物が見える。
今まで双眼鏡で見ていた物と今肉眼で見ている物の大きさが変わらない。
否、今も大きくなっている。動いているようには見えないのにだ。
と、いうことは。つまりだ。
「――ここに来るのか?」
えっ、と弾が息が漏れるような声を出す。
一夏の脳裏にはクレーターの写真が浮かび上がっていた。
クレーターの原因は、隕石が降ってくる事。
小学校で習う様な情報が脳を焦がし、叫ぶ。
「隠れよう!」
「何所にだよ!?」
こちらに被害を出さないのであれば、あとは観客として楽しめば良い。
でなければ――災害ドラマの主人公だ。
しかし、普通に考えれば分化した隕石の欠片程度でクレーターなど出来るわけが無い。
その程度で出来るのであれば、大本の隕石が落ちる地点には大震災にも匹敵する未曾有の大破壊が起こるだろう。ゆえに全国的に警報が発令され、爆心地から逃れるべく人の津波が発生し、自分達には今こうして呑気に何所に隠れるかなんてバカな騒ぎをしているような暇は一切無い。
なので、少年達の懸念は全て杞憂であり、そんなことは少し冷静になればすぐに分かる事なのだが――。
「えっと、ああ……冷蔵庫と浴槽、どっちがいい!?」
「浴槽って台風の時のだろ! 冷蔵庫って何だよ!?」
「インディージョーンズでやってた!」
「バカ映画じゃねえか!」
「じゃあどうすんだ! ……弾、お前は冷蔵庫に行け。多分風呂場よりマシだろ」
一夏は言い捨てるようにして風呂場へと走った。勝手知ったる友の家だ、既に何度も泊まった事がある。
途中にあったタオルを何枚もひったくり、頭に幾重にも巻き付けてヘルメットの代わりにする。
「まあ、無いよりはマシだろ……。ああ、自信満々に何言ってんだろ俺、インディージョーンズとかあんなのフィクションに決まってんだろ……!」
浴槽に入ってプラスチック製の桶を被り、蛇腹のように折り畳める構造になっている浴槽の蓋を閉じる。
「ああ、くそ。頼むから死ぬなよ、弾。死にたくねえよ、千冬姉え。俺は……」
無力感。
蓋が乗せられ、ほんのわずかにしか光が入って来ない薄暗い浴槽の中で、一夏は幼い頃の記憶、かつて命を奪われかけた時の感情を思い出していた。
悔しさに歯噛みする。神か仏か、それとも何か形の無い、よくわからない、言い表せないものに、どうか助かるようにと祈る。
「…………っ!?」
心臓が止まる様な思いだった。
もう数時間以上も隠れているような感覚だったが、実際には数分も経ってはいまい。
達人の時間が引き延ばされる様な感覚。もしくは走馬灯を見ている様な感覚の中、それは来た。
ズン、と重量感のある振動、音。
死の恐怖の最中、尖り切った意識にとっては絶叫したくなるような刺激だったが、そもそも声がでなかった。
声帯――いや、肺が麻痺しているのだ。
生存本能からか、一夏にとってはとうの昔に、現実では数秒前から横隔膜が不随意筋と化していた。
それから。
一夏にとっては数十分、現実では何秒かして、ドクドクとうるさく鐘打つ心臓に疑問を覚えた。
死んでいない。
そうだ。息をするのも、恐怖するのも生きているからに他ならない。
ならばきっと、さっきの音も隕石が空中で燃え尽きたか、あるいはISに迎撃された音に違いない。
インフィニット•ストラトス。通称IS。
宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム•スーツ。
今は悲しい事に地上で兵器としての地位を確立してしまっているが、それでも元は宇宙を目指して作られたのだ。隕石ごときをなんとかする程度、わけは無い。
少々違和感はあるが、タオルを頭に巻く時耳まで覆ってしまったし、ここは浴槽の中だから反響とかもあって変な聞こえ方になってしまったのだろう。
そうと決まれば早く弾に教えてやらねば。冷蔵庫の中で寒い思いをしているであろう友人は、まだあの音に気付いていないかも知れないのだ。
浴槽を飛び出し、頭のタオルを投げ捨てた一夏はリビングへと駆け出して行った。
「弾、おい! 弾っ!」
リビングに入って、はじめに見えたのは散乱した大量の食材だった。
弾の家は定食屋を営んでいる為、その冷蔵庫は常に満タンだったのだ。
中に隠れる際に邪魔だったのだろう。さっさと戻さないと弾の親父さんに怒鳴られちまうな、と思いながら、冷蔵庫の扉を開く。
――が。
「弾……?」
居ない。
なら、何所へ。
辺りを見回しても、何所にも――。
「一夏、こっちだ」
と、その時声をかけられた。
呆然とした様な、感情の薄い声。
聞いた事の無い弾の声は、食堂の方から響いていた。
カウンターの横を通り抜けて向かうと、弾が出入り口から外を見つめていた。
「おい、弾? お前どうし――」
「なあ、一夏」
言葉を遮られる。
そのまま話し続けられそうなほどの小声だったが、何となく口を噤んでしまう、妙な迫力があった。
「落ちて来たのって、隕石なんだよな」
「……? ああ、そのはずだけど。ってか、お前もニュース見てただろ」
「……だよな。じゃあ、ありゃあなんなんだ?」
なんなんだ。と言われても、見てないのだからわからない。
さて何があるのかとガラス戸の向こう側に目をやると。
「――――」
言葉を失った。
そこにあったのは重装甲。
それは、身の守りの大部分を実体装甲ではなくシールドエネルギーによるバリアに頼るISとして見るにはあまりにも重量過多で、かといって
要するに、箱の様なパーツが組み合わさって出来たロボットだった。
―――
ピンチだった。
明らかに人口(仮)が多いであろう大陸部分への墜落は免れたが、代わりにそこから少し離れた弧状列島へと墜落しているのだ。
ただ自分達が生き残る。それだけを目的にするのであれば別にどうという事は無い。
彼ら、アークスと呼ばれる者達はフォトンという粒子をエネルギーに変換する能力を持っており、身体能力やその強度においては人知を超えたものがある。そればかりか、中には変換したエネルギーを自然現象などに再変換して行使する、簡潔にいえば魔法のような技術を有する者もいる。
単なる自由落下程度、例えどれだけの高高度からでも無傷で着地してみせるだろう。
だが、それだけでは駄目なのだ。
自分達は帰還せねばならないのだ。
そのためにはまず宇宙船を守らなければならない。
既に壊れてしまった宇宙船を直すためにどれだけの時間がかかるか分からないのだからしばらくは――あるいは数年以上――現地で生活しなければならないし、現地には知的生命体が宇宙への進出を可能とするほどの文明を発展させているのだから、間違っても市街地に落ちて、被害を出すわけにはいかない。
可能なかぎり、海へ。
宇宙船の中は静まっていた。
既に推進器はスパークして動きを止めている。
最後の手段は犠牲を出す事だった。
「ふむ、致し方ないか」
そして、犠牲となれる者はたった一人だった。
「爺さん……悪い」
「ジョーさんと呼べと言っているだろう。小僧」
爺さんと呼ばれるキャスト、ジョーが船の内壁に手を置いた。
そこは緊急時のために開閉出来るようになっており、安全のためのカバーに包まれたハンドルがあった。
「なに、儂はキャストだからな。この程度で死にはせん……」
ジョーがハンドルのカバーを外しつつ、設置された窓から外の様子を見る。
赤い。
断熱圧縮の高熱によって付着した大気中のチリが燃焼しているのだ。
たしかにアークスの力を持ってすれば落下程度何の問題も無い。
しかし、熱は別だ。
最高で摂氏二千度を超える灼熱。
もともと人体というものは体温が42℃を超えると死を迎えるのだ。岩石が熔解し形を失う地獄の中で命を保つなど、とても不可能だ。
――肉体が機械に置き換えられでもしていなければ。
「さて、ここで一旦別行動だ。アイレン、以後のパーティーリーダーはお前が務めろ」
「……分かりました」
毅然として答えるアイレン。――しかし、その声は震えていた。
「まさか今生の別れになるわけでもあるまい、しゃっきりせんか、全く。ヤシロ、それにカナギも、せいぜい支えてやれ。……ではな」
そう言うや否や、アイテムパックから取り出した取っ手の付いた身の丈程もある分厚い板を手に、ジョーは灼熱に包まれた船の外へと飛び出して行った。
「……ああ、任せろよ、爺さん」
ヤシロはそう呟くと、これから起こるであろう巨大な揺れに備え、カナギと呼ばれたキャスケットの少女とアイレンの手を掴むのだった。
―――
そして。
船外に飛び出したジョーは今、風圧と火炎に煽られながらも船体にしがみついていた。
(――熱い!)
機械の肉体といえども、人と同じように動けるように作られた身体だ。きっちり五感の全てを感じられるように設計されている。
無論、感じる痛みも人が感じるそれと全く同じようにだ。
全身が灼ける激痛。
頑丈であるが故にその痛覚は鈍らず、麻痺せず、健在し続ける。
だが――。
「ぬう……!」
だからといって、その痛みに屈するかどうかとは別問題だ。
鋼の中に納められたその精神は鋼よりもなお堅く、炎の前でも揺らぐ事は無い。
「方角はこれで良いな……!」
そして、背に負う板を手に持ち直し、エネルギーを注ぎ込む。
力を受けた板は一瞬輝き、光の刃を形成して大剣となる。
「さあ……往くぞ!」
大剣を振りかぶる。
しかし今回の目的はあくまで吹き飛ばす事。斬撃ではなく殴打である。
ゆえに光の刃ではなく刀身の腹を叩き付ける。
インパクトの瞬間フォトンの光が弾け、その一撃に尋常ならざる力を与えた。
斯くして、宇宙船が大地に落ちる事は避けられた。
だが、その反作用によってジョーはその大地に落ちる事となる。
自前の体運びによって体勢を整え、肉体に備え付けられたスラスターによって落下速度を緩めるが、着地地点となる舗装されたコンクリートの路面には大きな跡を残してしまう。
ズン、と重い音が響いた。
どうやら市街地に落ちてしまったようだ。
(ふむ、どうやら儂らと同じ様な生命体がいるようだな)
辺りを見回したジョーは周囲の建築物や、その入り口であろう扉の大きさから大まかな推測を立てていた。
これからどうするか。と思案していると、不意に視線を感じる。
見ればガラス張りの引き戸からヒューマン――ニューマンやデューマンのような特徴を持たない種族――のような、赤毛の少年が自分を見ていた。
さて、見知らぬ星に見知った種族が居る。これはともかく、ふと、自分が大剣を持ったままである事を思い出した。
これでは威圧してしまうかと大剣をアイテムパックへとしまいこむ。
これで問題なかろう、そう思い再び少年を見ると――増えていた。
今度は黒髪の少年である。年齢もおそらくそう離れてはいないだろう。
「さて。――言葉は、通じるか?」
ジョーさんはカチ勢なので大気圏突入とか余裕です。スタンコンサイド!
でもマスターチーフは多分ジョーさんよりもっとカチカチだと思います。
クリスタルスカルの王国は最後の超展開を除けば結構好きです。スプリガン!