魔法少女まどか☆マギカ ~少女は如何にして闇に堕ちたのか~ 作:YUJIKONI
魔女は存在せず、代わりに魔獣のいる世界となった。
暁美ほむらは相棒のキュゥべえとともに、今日も魔法少女として魔獣と戦っていた。
彼女にとってそれは“日常”になっていた。
魔法少女であるがゆえに、普通の人にとって“非日常”なことが“日常”になってしまったのだ。
「
『君にとって、“鹿目まどか”という存在はそれほどまでに重要なものなんだね』
キュゥべえは、いつものように何を考えているのか分からないような顔をほむらに向ける。
ほむらは、キュゥべえのそんな顔が嫌いだった。
「そうよ。 それ以外の何者でもないわ」
ほむらはそう言いながら、矢尻を魔獣に向ける。
放たれた矢は魔獣の体を見事に突き抜けた。
『さすがだね。 腕はピカイチだ』
「ゲームじゃないのよ、インキュベーター」
『そうだったね』
キュゥべえはひょいとほむらの肩に飛び乗ると、魔獣が持っていたグリーフシードを回収する。
『これで今日の任務は終わりだね』
「そうね」
『じゃあ、またね、暁美ほむら』
「もう会うことがないように願ってるわ」
キュゥべえはほむらの肩から飛び降りると、闇へと消えていった。
それを見届けたほむらは、元の姿に戻り自宅へ帰る準備をはじめる。
「!?」
と、ほむらは誰かがこちらを見ているような感覚を覚えたのでそちらを見た。
「誰?」
「あ、怪しい者では、あ、ありません!」
声の主は、ほむらと年が変わらないくらいの少女だった。
急いで物陰から飛び出したその子は、ひどく動揺しているようだった。
「まさか、今のを見たの?」
「あの……見たというか、見えたというか……」
少女はふと手に持っていたものを見せる。
「!? それは!」
少女が見せたものは、まぎれもなくソウルジェムだった。
ソウルジェムは魔法少女に変身するために必要なものだ。
つまり、少女は魔法少女ということだ。
「あなたも魔法少女……なの?」
「はい……、たぶん……」
「……? たぶん?」
「私、記憶がないんです。 ここ最近の記憶が全部……」
「記憶がない? もしかして、記憶喪失?」
少女はコクっと頷いた。
「と、とにかく、そんな状態で出歩いてたら危ないわ。 私の家に来て」
ほむらは少女にそう促した。
少女は驚いた顔を見せたが、分かったと頷いた。
****
「名前はなんとか覚えています。 鈴音かすみ……です」
鈴音かすみと名乗った少女は、頭を深く下げた。
「名前以外に覚えていることはないの?」
「……あとは……魔法で未来を予知できるのは覚えてました……」
「未来……予知……!」
ほむらもあまり聞かない魔法だ。
と同時に、未来を予知できるとは非常に便利な魔法だとも思った。
「まぁ未来予知といっても、1分先の未来しか見れないんですけどね……」
「すごいわ、未来を見れるなんて」
巴マミがその能力を使えていたら、少なくともあの時の彼女があのような結果に
なることはなかっただろう。
ほむらはふとそう思った。
「ほむらさんはどのような魔法を?」
「…………今は使えないけど時間操作の魔法よ」
「え? 今は使えないってどういうことですか?」
「知らないと思うけど、この世界は一度書き換えられてるの。 『円環の理』によってね」
「それなら知ってます! すべての魔法少女を導く存在の!」
「それなら話が早いわ。 世界が書き換えられたときに私の魔法は失われてしまった」
「そうだったんですか……」
意外とかすみの飲み込みは早かった。
自分と同じような経験をしたのだろうか。
記憶を失っているという今、それを知る術はないのではあるが。
「でも、私には大切な人が残してくれた武器がある。 それで魔獣を倒してる」
「ほむらさんって強いんですね!」
「え?」
「だって、そうじゃないですか? そんな状況でも諦めないなんて。 私だったら
すぐに諦めてると思います」
「……ありがとう。 でも、私は強くなんてないわ。
「彼女?」
かすみはほむらの顔を覗き込む。
「……ああ! 鹿目まどか……私のことを救ってくれた、たったひとりの私の友達……」
「鹿目……まどか……」
「か、彼女の話は終わり! もう遅いから寝ないと!」
「ほむらさん……。 もしかして、その鹿目まどかさんのことが……好きなんですか?」
「い、今は関係ないわ!」
「友達として」
「……!! そ、それは、もちろん……」
「なんで赤くなってるんですか?」
かすみの問いにほむらは布団に顔をうずめることしかできなかった。
「も、もう……遅いから寝ないと……」
****
翌朝。
ほむらの一日はキュゥべえからのテレパシーではじまった。
『おはよう、暁美ほむら。 今日も魔獣を倒そう』
再構築前の世界を知っているほむらにとって、キュゥべえのこのセリフは違和感の塊だった。
ほむらの知っている限り、キュゥべえことインキュベーターはエネルギーを搾取するためなら
どんな手段もいとわない狡猾な生物だったはずだ。
今のような感じだと、逆に恐ろしさを感じる。
何かとんでもない展開が待ち受けている気がしてならない。
「なんだか、イヤな予感がするわ……」
『どうしたんだい、暁美ほむら?』
「……なんでもないわ。 行きましょ」
どんなことが待ち受けていようとも、ほむらは歩みを止めるつもりはなかった。
それが、
ほむらとキュゥべえは、寝ているかすみを起こさないように家を出た。
****
『今日もまた、魔獣たちがウジャウジャいるね』
キュゥべえが言うとおり、見滝原で一番高いビルから見ると
町にはびこる魔獣の数が多いことは一目瞭然だった。
しかし、それを気にしていても仕様がない。
「ぼやいたって仕方ないわ。 黙って始末するだけよ」
魔法少女のコスチュームに身をまとったほむらは、ビルの屋上から一気に飛び降りる。
といっても、黒い翼を生やしゆっくり着地するので怪我をする心配などなかった。
ほむらは、鹿目まどかから受け継いだ弓をゆっくり引く。
そのときに発せられるギリギリという少し鈍い音が、ほむらには少しばかり異質なものに感じた。
ほむらは、そのまま指の力を緩めた。
矢尻はまっすぐ魔獣のほうへ向かっていく。
魔法がかけられた矢は、魔獣の体を突き抜けた。