アラレ、ハゲマントと戦う   作:GGアライグマ

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大事な場面でグダグダの巻き

 まっすぐ進んでいたアラレ達は、途中でガッちゃんの指示に従うようになった。唯一ガッちゃんの言葉を理解するアラレ曰く、その先に強いヒーローの気配を感じるという。

 

「ほ、本当にヒーローがいるんだろうな!」

 

 スッパマンは脅すように言う。ガッちゃんはにっこり笑ったまま反転し、頷いた。

 

「大王様大丈夫なんですか? これほどの船で最強の戦士となったら相当の」

「うるしゃあああ! いずれは倒さにゃならん敵だぎゃ! だったら手っ取り早う大将討ったらええ!」

「そうですか。そうですね」

 

 その頃、サイタマはこの船の主のもとへたどり着いていた。とても広い部屋だった。縦横高さ、全て500m近くあった。

 

「おめえが悪の親玉か?」

「戦いの前に名前を聞いておこう」

「俺は趣味で、じゃなくてプロでヒーローをやっているサイタマというものだ」

「そうかサイタマ。俺はこの船の主にして宇宙海賊ダークマターの頭目ボロス」

「宇宙海賊がこの星に何のようだ」

 

 ボロスは玉座を離れ、サイタマに向かって歩き始める。

 

「かつて俺は宇宙の覇者として星という星を征服していった。しかし俺は強すぎた。やがて抵抗する者は誰もいなくなり退屈という苦痛を味わわされることになった。そんな折り、とある惑星で出会った占い師が俺に言ったのだ。この星に俺を満足させられる相手が現れると」

「占い?」

「部下達の中には俺を一時的に遠ざけるためのデマだと言うものもいたが、今確信した。その相手こそがきさっぶはっ」

 

 サイタマはボロスが言い終わらぬ間にボロスを軽く殴って吹き飛ばした。ボロスは一瞬で柱に叩きつけられ、そこで止まる。

 

「全宇宙の歯医者だかなんだか知んねえが、よくもA市を無茶苦茶にしてくれたな。退屈な人生に刺激が欲しくて他の星を襲うなんてOLでも思いつかねえぞ」

「俺の強大すぎる力を押さえるための鎧が、今砕かれた」

 

 ボロスはサイタマの一撃で死んでいなかった。どころか無傷で立ち上がり、黙視できるほどのエネルギーに包まれながら肌を変色させていく。

 

「うおおおおお!」

 

 戦闘前の咆哮は気迫に満ち溢れている。しかしサイタマはそんなボロスを白けた顔で眺めていた。

 

「んちゃ!」

「こ、こんにちわ」

 

 と、ここで予期せぬ乱入者が現れた。乱入と言ってもきちんと入り口から入ったし挨拶までしたが。

 

「お、おいここは! 子どもがどうして船に!」

 

 しかしサイタマを焦らせるには十分だった。ピースケとアラレは小学生にしか見えず、ガッちゃんに至っては赤ちゃんに見える。スッパマンはヒーローっぽい格好だが守るべき人間であることに変わりはない。ただ、ニコチャン大王とその家来は宇宙人っぽい見た目なのでボロスの仲間だと思った。そこから導き出される答えは、ニコチャン達がアラレ達を人質に取ったというもの。

 サイタマのスピードなら、ニコチャンに気付かれぬほどの速さでアラレを奪還することはできる。が、そこをボロスに狙われた時に人質全てを守れるかどうかは微妙だった。

 

「おいおいボロス。ずいぶんセコイ手を使ってくれるじゃねえか」

「心外だな。20年も待った楽しみに横やりが入って俺も気分を害していたところだ。おい貴様等、俺の戦いの邪魔をするな。人質などいらんから今すぐ視界から消えろ」

「ほよ?」

「なあに初対面の相手に命令なんぞしやがってんぎゃあ!」

「なんだと!?」

 

 ボロスは船員全てを把握しているわけではなく、ニコチャンの見た目から部下だと思った。しかしどうやら違うらしい。

 

「ならばお前達は何者だ? どうやって船に入った?」

 

 ボロスが問う。

 しかしアラレ達は答えない。ピースケとスッパマンはボロスの身から溢れる禍々しいオーラにビビって緊張してしまっている。ニコチャン大王は「人に名前を尋ねる前に自分が……」と言ったところで家来に口を塞がれた。家来はボロスの迫力に怖じ気づいていたのだ。

 アラレは緊張していないが、サイタマとボロスを興味深そうに見比べている。

 

「ど、どうしようアラレちゃん。あの宇宙人なんだか怖いよ。本当にヒーローなのかな?」

「ねえねえ。あんたらヒーロー?」

「ア、アラレちゃん!」

 

 アラレはボロスとサイタマを指差して言った。その不躾な態度にピースケが慌てて怒鳴るが意味はない。

 

「おう。俺はヒーローだぞ」

 

 サイタマはふつうに応える。

 

「うっほほーい!」

 

 アラレはおおはしゃぎだ。ピースケもほっと一息つく。

 

「俺はヒーローなどというものではない。むしろ対極な存在だ」

「ふーん。じゃああんたは怪獣ね」

「何?」

「ア、アラレちゃん!」

 

 あまりにもぞんざいな扱い。ピースケどころかサイタマでさえアラレの恐いもの知らずっぷりに呆れた。

 

「あんねー。あたし怪獣ごっこするためにここに来たの。あんたヒーローだからヒーロー役ね。あたしとガッちゃんとそこの1つ目は怪獣役」

「怪獣ごっこ? おいおい、ここはガキの遊び場じゃねえぞ! 早く離れろ! つーか船からも降りろ! 危険だ!」

「俺もそろそろ堪忍袋の尾が切れる。これ以上俺の楽しみの邪魔をするなら子どもだろうが殺すぞ」

 

 サイタマはなんとか説得しようとし、ボロスは低い声で脅す。しかしアラレは意に返さない。

 

「ねえねえ。あんたってつおい?」

「おい! 人の話を聞け! ったくどういう教育をすれば」

「にししっ。ハゲ頭」

「んだとぉ!」

「漫才は終わりにしてもらおうか。10数えるうちに消えなければ本当に殺す」

「お、おい! ちょっと待ってくれよ!」

 

 サイタマの願いは届かず、ボロスはカウントダウンを始める。サイタマはこの戦いでボロスの力を十分に引き出し、あわよくばかつてあった魂の喜びをもう一度と思っていた。が、子どもの安全のために本気パンチ一発で終わらせようかなとも考え始める。しかしその前に、力ずくでアラレ達を追い出すことを思いついた。

 サイタマは地を蹴り、一瞬でアラレに肉薄する。もっとも、衝撃波でアラレ達に危害が出ぬよう手加減していたが。そのため、アラレには十分対応できた。

 

「ちょっと待ってちょ」

 

 アラレを掴もうとした手がばちんと弾かれる。

 

「えっ」

 

 サイタマは驚いて固まってしまう。こんな小さな女の子が、ごく自然に自分の手を払ったという事実。おそらくS級ヒーローの端くれであるジェノスが全力を出しても自分の手はぴくりとも動かない。

 

「う、うわああ!」

「ぎゃあああ! 助けてえええ!」

「なっ! 急に現れた! おみゃあペテン師かあ!」

 

 アラレとガッちゃん以外は突然現れたサイタマに大いに驚く。

 

「あの! サインください!」

 

 もっとも、ピースケは切り返しが速かったが。

 

「えっ、いいけど? じゃなくって、早く逃げろ!」

 

 ボロスのカウントは残り3秒となっていた。サイタマならまだ間に合う。

 しかし、サイタマがピースケの手を握った時、アラレが動いた。

 

「デカーーー!」

 

 アラレはそう言って、いつのまにか持っていた懐中電灯らしきものの光を自分とガッちゃんに当てる。すると突然、アラレとガッちゃんが巨大化し始めた。

 

「何?」

「どうしたどうした?」

「う、うわあああ! デカチビ銃だああああ!」

 

 これにはボロスとサイタマも驚いた。ピースケは恐ろしい過去を思い出しながら叫ぶ。

 アラレはあっという間に高層ビルほどの巨体になっていた。縦横高さが100倍である。ガッちゃんも相当デカイ。

 

「ほう」

 

 もしかしたら余興程度にはなるかもしれない。ボロスはそう思った。そもそもアラレはともかくガッちゃんからは初めから凄まじいエネルギーを感じていた。

 しかし、その時だった。

 

「デカーーー!」

「何?」

 

 なんとアラレはボロスにまでデカチビ光線を浴びせたのだ。咄嗟のことで反応できなかったボロスは瞬く間に100倍の身長となってしまう。体積は1000000倍である。エネルギーも1000000倍とは言わないが以前とは比べ物にならないほど膨れ上がった。

 思わぬ行幸。いや、ボロスにとっては余計なことだった。せっかく蹂躙ではなく戦闘になるかも知れなかったのに、これ以上強くなったら喜びからは遠ざかるばかり。

 

「おい小娘、もとに戻せ」

「ほよ? 後でね」

「今すぐだ!」

「ねえねえ。あんたもでっかくなる?」

 

 ボロスが怒鳴るが、アラレはどこふく風だ。真下のサイタマに尋ねる。

 

「あいつは問答無用でかくしたのに、俺には尋ねるってのはどういう理由だ?」

「だってあんたヒーローじゃん」

「あのなあ。これはごっこじゃなくって……。いやごっこかもしれないが、マジなんだよ! 命かかってんの!」

「きゃはっ。眩しい」

「おいこらあ!」

 

 アラレはサイタマの話を真面目に聞いていなかった。頭のハゲが光ったことに笑ってしまう。なお、反射した光の光源は待たされて爆発寸前のボロスのオーラだ。

 

「ほよ? でっかくなりたいの?」

「ん? ……いや、いい」

「わかった」

「おいサイタマ! それでは戦いが!」

「いいんだ。俺は自分で手に入れた力で戦う。それが人間の強さだ」

「ふんっ。まあいいだろう。俺が元のサイズに戻ればいいだけのこと。おい小娘、元に戻せ」

「あんたはダメ。怪獣だもん。ね、ガッちゃん」

「ぐぴぽー!」

 

 ちっ。ボロスの舌打ちが響いた。

 

「お前達なあ! そんなでっかいと守れないだろう! 早く元に戻せって!」

「右腕を切り落とす。それで戻さなければ次は左腕だ」

「お、おい!」

 

 怒りのままにボロスが飛び出す。サイタマは慌てて飛び上がり、ボロスの手刀をパンチで弾く。いや、それどころか巨大な腕の肘から先が一撃で粉々になった。

 

「何?」

「うっほほーい! くあっこいいーーっい」

 

 ボロスは驚き、アラレはおおはしゃぎ。そのまま笑顔でデカチビ銃を飲み込んでしまう。

 

「何?」

「お、おい! 変なもん飲みこんでんじゃねえ!」

 

 ボロスは身体を戻す機会が遠ざかったことに、サイタマは機械を飲み込んでしまったことにそれぞれ驚く。

 

「じっとしてろ! 中に入って取ってやるから!」

 

 アラレを心配し、口めがけてジャンプするサイタマ。

 

「ほい!」

「ぶっ」

 

 しかし、途中でアラレに叩き落とされてしまった。

 なお、ピースケ達はアラレが巨大化した時点で大慌てで部屋の隅まで逃げていた。

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