「おいボロス、どういう風のふきまわしだ?」
サイタマは尋ねるが、内心理由は分かっていた。
「どうということもない。あのような幕切れでは興が冷めるというもの」
ボロスは腕を組んだまま答えた。
「そうか。必要ないかもしれないが、ありがとう。助かったよ」
「お前の言う通り礼などいらん。俺は俺のためにお前を生かすことのしたのだ」
「そうかい」
それっきりで二人は黙った。静寂が辺りを包む。
サイタマ、ボロス共に仁王立ちで相手を睨む。
どちらが先か、ゆっくり構える。サイタマの目が久しく激しい熱を帯びる。
もう手加減はしない。一瞬で終わらせる。
そんな決意がにじみ出ていた。
タツマキはボロスのオーラに呑まれて恐怖している。アラレとガッちゃんは笑顔でワクワクしている。
ダン。爆風と共にサイタマが消えた。
「ぬおおおっ!」
ボロスは突然叫び、回転しながらミサイルのような勢いで上空に飛んでいく。サイタマはいつのまにかボロスの足元にいた。ボロスが飛んだのは彼が投げたためだ。
マジ殴り。
サイタマは拳を突き出そうとする。しかしボロスに一度情けをかけてもらったことを思い出し、警告することにした。
「躱せ! 殴るぞ!」
「何!? ぐっ」
少し時間を置いたことで、ボロスはメテオリック・バーストを発動し、サイタマのパンチの衝撃波を逃れることができた。そして見る。その破壊のすさまじい奔流を。
この破壊のエネルギーはなんだ? あの小さな体の一体どこにこれ程の力が。
忠告されなければ死んでいたかもしれない。何より、手加減された事実が彼のプライドを傷つけた。
「だが、まだ負けると決まったわけではない」
ボロスはオーラを噴出し、地上へ急降下する。地上ではサイタマは今の技を使うことはできない。街に被害が及ぶためだ。
しかしサイタマは、マジ横跳びによってボロスの落下点に先回りした。
マジ殴り。
もう一度生まれる破壊の奔流。今度は完全にボロスを捉える。
「グボハアッ」
しかし近すぎたために、全身を消滅させることはできなかった。散らばった肉片は地上にも降り注ぐ。
ボロスはその状態から地上で復活する。
マジ横っ跳び。
再びボロスに接近するサイタマ。一瞬で足元にたどり着き、初めと同じように上空へぶん投げる。いや、ぶん投げようとしたが、足は粉々に弾けた。
爆風が周囲を襲う。クレーターが出来るほどの大爆発。ボロスはサイタマの次の行動を予測し、足だけを自爆させたのだった。
地面が吹き飛んだために宙へ浮かされたサイタマ。この状態では速く動くことはできない。
ボロスは先ほどサイタマを宇宙に蹴り飛ばしたように、今度は殴り飛ばそうと考える。メテオリックバーストでクレーターに入り込み、アッパーの構えを取る。
マジ連続ふつうのパンチ。
対し、サイタマはふつうのパンチを本気の連続で放つ。何万何億の拳が一瞬で繰り出され、暴風や衝撃波がボロスの肉体を砕く。
「ぐっ。クソッ」
ボロボロになったボロス。この状態では攻撃は不可能。
サイタマは地面につくのを待つ。
「まだだ!」
と、今度はボロスは、サイタマの落下点へ向けて自身のエネルギーを放った。
サイタマが着地する前に地面が爆発し、クレーターはさらに巨大化する。サイタマは爆風によって上方に飛ばされる。
「終わりだ! サイタマ!」
ボロスは足を修復し、空中のサイタマを蹴りあげようとする。
サイタマは再びマジ連続ふつうのパンチでボロスの肉体を破壊しようとする。しかし、そうして破壊しても、再びエネルギー波で上空に飛ばされるかもしれない。かと言って、地球に向かってマジ殴りすることはできない。
「お?」
サイタマはふと、妙案を思いついた。
連続ふつうのパンチ。
マジ連続ではないふつうの連続ふつうのパンチ。これはボロスの足の勢いを押さえるためのものだ。しかし若干の勢いは残す。ボロスの足はサイタマに迫る。これでいい。
マジロッククライミング。
サイタマはボロスの足に両手を突き刺す。その状態でボロスの足と自身の相対速度を合わせ、次の瞬間にはボロスの臀部目掛けて螺旋状に上っていく。落ちないように腕をボロスの足に刺しながら、昆虫のように細やかな動きで。
「ぐっ」
異常に気付いたボロスは再び足を自爆させようとする。しかし間に合わない。
ならば!
ボロスは胸から下を一気に自爆させるつもりで膨らませた。
しかし、サイタマはその前に臀部に到達し、ボロスを蹴飛ばす。
マジ殴り!
自爆!
ボロスは自爆の勢いで急加速し、またもやマジ殴りで完全に消し飛ばされることを回避した。また、身体の中で唯一無事な頭部からエネルギー波を放ち、再びサイタマの落下点を爆破させる。
クレーターがまた広がってしまった。サイタマもまた上空に飛ばされてしまう。
「くっ。今のは決まったと思ったんだがな」
悔しそうに言うサイタマ。しかしその瞳には若者の熱気がこもっている。
「まだだ! まだ終わらんよ!」
身体を元通りにし、赤い彗星のようにサイタマの真下へ移動するボロス。その体からは、今までとはさらに次元の違う高濃度なエネルギーが溢れ出る。光が歪められ、地響きがどこからともなくやってくる。空間が鳴いているようだ。
俺の最高の技で終わらせてやる。
サイタマもそのエネルギーの危険性には気付いた。あれに対抗するにはマジ殴りしかない。しかしそれでは、地球を破壊することになってしまうかもしれない。ボロスのエネルギー波と同程度のマジ殴りで相殺できればいいが、自分でも加減が分からない。
どうする? 殴り返すべきか、受けるべきか。
サイタマは大いに悩んだ。自分以外太刀打ちできないなら賭けに出て殴り返すべきだが、この場にはめがねっ娘と赤子がいる。自分が飛ばされても、彼女達ならボロスに勝てるかもしれない。ならば、自分のパンチで地球滅亡というストーリーこそ最も避けるべきかもしれない。
「うっほほーい! うっほほーい! あたしも交ぜてー!」
噂をすればなんとやら。アラレが笑顔でサイタマに飛び込んできた。
って、それは一番まずい!
「おい! 今は来んな!」
サイタマは焦った。自分がやられた後の希望であるはずのアラレが、こんなところで自分と一緒にやられてしまうかもしれない。
しかし、サイタマが叫んでもアラレに効果はない。彼女は笑顔でサイタマに両手を伸ばし、そのまま突飛ばした。
「えっ」
サイタマは衝撃を受けた。笑顔で何も考えて無さそうな彼女が、敵の攻撃からサイタマを庇った。自分の命を賭して。サイタマにはそう映った。
同時に、皆を守るべきヒーローが、子どもに守られてしまったとも。サイタマは胸を抉られるようなショックを受けた。
「ほよー! ガッちゃんトース!」
「グピポー!」
何てことはない。アラレはバレーボールのつもりだったのだが。
彼女はボロスとサイタマが互いを上空に打ち上げるのを見て、人間バレーボールのようなものをしていると勘違いしたのだった。
「グッ。邪魔を」
「ほよ?」
「ピプー!」
「うおおおっ!」
アラレはボロスの崩星咆哮砲を。サイタマはガッちゃんのアタックをそれぞれ受けてしまう。
「ほよーーーー!」
「くそったれええええ!」
2人とも吹き飛ばされ、あっという間に星になってしまう。
「ピポ? グピポー! ピポー!」
「はあ、はあ、はあ」
アラレを呼ぶガッちゃん。原因であるボロスに対しては少し不満げだ。
ボロスは肩で息をする。ぐったりしていて、サイタマの飛んでいった先を眺めるだけで辛そうだ。
「し、信じられない! これは奇跡よ! 敵のボスは弱っていて、赤子は反抗的! 理想的な展開よ!」
予想外の3人が残ったこの戦い。勝者は今のところタツマキか。