The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第十話「遊興者の連帯」

第十話「遊興者の連帯」

 

衛宮君。

そう叫んだ気がする。

何も知らず日常に戻っていく姿。

魔眼に晒されて石となった姿。

白い少女に人形へ変えられる姿。

黒い闇に飲まれていく姿。

暗く染まった己のサーヴァントに殺される姿。

そして、私と私のサーヴァントが殺す姿。

私の前で世界が広がっていく。

どれもこれもが現実で、どれもこれもが夢でしかない。

ゼルレッチ。

そんな単語が私の頭に浮かぶ。

どの衛宮君も私には可能性(IF)の世界でしかない。

しかし、そのどれもが私には可能であるという事実が私の心を揺さぶる。

けれど、何処かオカシイ。

それが分かった。

そこにはあいつがいなかった。

私のサーヴァントである「――――――」がいなかった。

私は疑問に思う。

私は「――――――」の正体を知っているのに思い出せない。

それはきっと赤い姿でいつも傲慢なくらい自信に満ちている嫌な奴。

私を裏切ったフリをして私を助けてくれたりするお人よし。

自分を信じられなくなった英雄。

なのに、私は「――――――」の事を思い出せない。

どうしてだろう?

もどかしい。

まるで、消しゴムで頭の中を掃除されているような。

あるいは修正液で白く塗り潰されているような。

私があいつに手を伸ばそうとした時、その手が止められる。

私の手を掴んでいるのはあいつではなく「彼」だった。

「・・・・・・」

「寝てれば可愛い顔をしていると大評判に違いない? そう・・・私は・・・朝からアンタの顔をボコボコにしたくて仕方ない、わよッッッ!!!!」

朝から顔を覗き込んでいた彼の顔を思い切り殴り飛ばして私の血圧はいつもより早めに上昇した。

 

「まったくもう!」

朝。

いつもならばまだ頭が寝ているはずだったが、すっかり目が覚めた私は洗面所で顔を洗っていた。

(乙女の寝顔を覗き込んで一体何してたのよ)

少しだけ熱くなっている顔を冷たい水で冷やす。

まだ布団の上で伸びているだろう彼。

朝に弱いという事を知られてから、何故か毎日起こしに来るようになった。

そんな事をして欲しいなんて一度もリクエストした事はないが、サーヴァントとマスターのスキンシップは信頼関係の向上に一役買うはずだという彼の胡散臭い言葉に渋々と黙認していたりする。

(最初はめっちゃ朝に弱かったはずなのに・・・・・・)

私は鏡を見つめる。

そこにはツインテールのいつもの私がいた。

(何でだろう。どうして私・・・)

言葉にならない違和感。

自分の窮地を何度も助けてくれたはずのサーヴァントに何故、こんなにも躊躇いを感じるのか。

何を躊躇っているのか。

分からない。

しかし、心の底では分かっている。

初めて召喚された夜から。

彼は悪い奴ではない。

性質(たち)の悪いカードゲーム馬鹿ではあるけれど、本当に英霊として相応しい力と心を持っている。

清廉潔白なセイバーがどうして敵であった彼と早く打ち解けられたのか。

それは彼とセイバーに似通ったところがあるからではないだろうか。

(少なくともセイバーは気に入ってるのよね。賄賂のせいかどうかは分からないけど・・・)

私は身支度を整えて居間に向かった。

「ふぁ・・・」

思わず出かけた欠伸を飲み込んで居間の戸を開ける。

「何してんの?」

「・・・・・・」

彼の周りには近頃御馴染みになったメンバーが揃っていた。

セイバー、イリヤ、桜、藤村先生。

「朝のデュエル講座って・・・もはや勧誘を隠さない辺り良い度胸してるわ」

「あ、おはようございます」

桜がペコリと頭を下げてくる。

「あら? 今日は早いのね遠坂さん」

藤村先生がオハーといつの時代かも分からない挨拶を返してくる。

「おはようございます」

ライダーとの一戦以降、ライダーのマスターである間桐慎二は教会にマスター辞退を継げて国外に留学(とうぼう)を果たしていた。

それを機に何故か間桐の家は慎二によって勝手に売り出されてしまったのだという。

誰もいなくなった間桐家から管財人に追い出された桜は衛宮君を頼って今は衛宮邸に暮らしている。

数日前の騒動は今も覚えている。

【先輩? どういう事なんですか?】

ニッコリと笑った桜にセイバーとイリヤの事を話すのは衛宮君が責任を持って行ってくれた。

今まで何とか隠し通してきた半居候な藤村先生(タイガー)にも何とかでっち上げた事情を話して事なきを得た。

それからの騒がしい日々は今も続いている。

いつの間に仲良くなったのか。

気付けば朝食前の小さな時間に彼は四人の女性に囲まれてデュエル講座を開くまでになっている。

「ん~~~イリヤちゃん。どうして私のアマゾネスデッキから罠を抜いているのかしら」

「あら、タイガは罠で相手を嵌めるような卑怯な人間だったの?」

「はッ?! 今更に気付く私の真実!? でも、罠が無い女なんていぬ!? 何故なら、女は誰でも甘い罠を張る名人!! それ即ち蜘蛛の如く!!」

「どっちかと言うとそれは桜の方じゃないかしら? 昆虫族主体のデッキが似合いそう」

「え!? わ、私は昆虫なんて好きじゃありません!! わ、私だってイリヤさんみたいに可愛い妖精デッキが組みたいんですから!!」

「でも、何となく気質的にレプティレスとか甲虫装機的な感じが・・・ほら、どっちかと言うと桜って闇だし!」

「うぅ、酷いです!! この裏サイバー流でDuelです!!」

「どっちにしろ闇じゃない! ふふ、でも・・・近頃組んだ私の可愛いライトロードに勝てるかしら?」

「む・・・この装備魔法カードはどう使うのですか?」

相性がいいらしい藤村先生がイリヤを随分と明るくしてくれた。

桜も藤村先生とイリヤを通して更に親しくなったように感じる。

セイバーはそんな空気で一人黙々と彼に話を聞いてはデッキ構築に余念が無い。

「朝からホント飽きないわね」

「・・・・・・」

「Duelは人を繋げていく。それこそが本当の力? いや、そんな観念的で良心的な話が聞きたいわけじゃないんだけど」

「・・・・・・」

「え? もう朝食は出来てるわけ? でも、桜は其処にいるじゃない? まさか、衛宮君一人に作らせてるの?」

私の疑問に桜が答える。

「あ、いえ。もう朝食の下拵えは終わってたので先輩が皆で楽しくやっててくれって・・・私もお手伝いしますって言ったんですけど・・・その・・・桜は少し皆と打ち解けた方がいいって先輩が・・・」

何処か申し訳なさそうに。

でも、少しだけ嬉しそうに桜が笑う。

「・・・そう」

こんな笑顔が出来るようになったのかと私の胸が少しだけ温かくなった。

「・・・・・・」

「一緒にやらないかですって? 何で私にまで勧誘してるのよ? 断ったはずでしょ」

「・・・・・・」

「何よ? これからの戦いは厳しくなるからカードの効果と名前くらいは覚えておいた方がいいですって? そ、それはそうかもしれないけど」

「ん~~? 遠坂さんてDuelの大会に出場するの?」

藤村先生の声に私はハッと我に帰った。

「あ、あはは、実は彼の出る大会に付いて行ってるんですよ~~~」

私は何とか誤魔化して自分が未だ本調子ではない事を悟った。

血圧は上がったものの、普通の人である藤村先生の前で聖杯戦争の話題を不用意に話すなんて本来の私からすれば考えられなかった。

「と、とりあえず衛宮君を手伝ってこようかな~~」

私が台所へと向かおうとすると桜が慌てた。

「わ、私もそろそろ台所に戻ります!!」

「へ~~桜ちゃんも実は自分の台所(テリトリー)って自覚があったのね」

「タイガ。人間て縄張りが大事な生き物よ。特別でも普通でも、ね」

そのままDuel講座は解散になる。

それでも彼は一人黙々とデッキ調整を行っていた。

一番弟子のようなセイバーが「そろそろ朝食にしましょう」とカードをしまい始める。

「そう言えばセイバーは何デッキなのかしら?」

私が聞くとセイバーが誇らしげに胸を張った。

「光属性と戦士族主体のビートダウンです」

「び、びーとだうん?」

私の知らない単語を使い始めるセイバーに私は正直、少しだけ引いた。

「はい。これらのカードは昔の戦士達に何処か似ていて見ているだけで少し懐かしくなります」

「そ、そうなんだ。ほ、程ほどにね?」

「今日は士郎が帰ってきたら剣の手解きを終えた後に一戦行うつもりです。凜も是非」

「か、考えておくわ」

私はテーブルの横。

彼の隣まで行ってしゃがみこむ。

「ね、ねぇ。アンタ・・・セイバーをどんだけ引き込んだのよ?」

「・・・・・・」

無垢な瞳で「?」という顔をされた。

「もう何かデュエリストでしょ!? あのドヤ顔がもうアンタそっくりになってるでしょ!? 最強のサーヴァントをカードゲームで堕落させたりしたらどうするのよ!?」

「・・・・・・」

「その時は剣じゃなくてカードを持たせればいい? 問題解決になってないじゃない!?」

「お~~い。出来たぞ~~手伝ってくれ~~」

「あ、は~~い」

衛宮君の声に私は立ち上がる。

「とにかく! あんまりセイバーをDuelに引きずり込まない事!! いいわね!!」

私はそのまま台所に向かう。

ちょっとだけ、衛宮君は一体どんなデッキを使うんだろうと見てみたくなった。

そんな私はもう彼に十分毒されてしまっているのかもしれない。

 

その日の夜。

 

結局、セイバーと衛宮君の対決を見る事は叶わなかった。

 

大量に何処からか湧いた骨で出来た使い魔に襲われて。

 

それは第四のサーヴァント。

 

キャスターの襲来だった。

 

To be continued


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