The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第二部開幕月姫編介入開始。


第十五話「解決者の問答」

第十五話「解決者の問答」

 

「セラ。リズ。挨拶なさい」

「ちわー」

「リズ! どこでそんな言葉遣いを覚えてきたんですか!!」

ショートカットの女をロングの女が嗜める。

イリヤがニッコリと笑う。

その笑みに衛宮君が抗う術などあるわけがなかった。

 

時間は一日前まで遡る。

 

衛宮邸の修復が終わってから三日。

要として彼の足取りは掴めていなかった。

それに焦りを感じていた私が風邪で寝込んでしまうという失敗を犯し、衛宮君に多大な借りを返されてしまった事から全ては始まっている。

家に残っているのはイリヤとセイバーのみ。

衛宮君を無駄に休ませるわけにもいかず、看病は己の力で行った。

本当ならば三人ものサーヴァントに襲われた後、衛宮邸の誰かを一人にする事は好ましくなかったのだが、人手が足らない以上はどうしようもなかった。

そんな時、イリヤは私に名案を出した。

『そうだ!! 使用人を呼ぼう』と。

さすが魔術名家。

いや、遠坂の家も名家には違いないが血筋的な部分に由来するところが大きく実際に家計はそこまで裕福な部類ではない。

そして、何やら今までイリヤが冬木に滞在する為に別荘で働いていたメイドを呼び出したらしい。

果たして・・・一日で必要なものを準備したメイド二人はハッキリ言って衛宮君の顔を引き攣らせるくらいの荷物をトラックに満載してやってきた。

ペコリを頭を下げた二人のメイドの格好は白過ぎる。

目立つ事この上ない。

近所からヒソヒソ言われてもまったく言い訳できないレベルのプロフェッショナル臭全開だった。

「イリヤ・・・その、な・・・家にはこんな荷物が入る余裕なんて無い」

「そうなのシロウ? 二階建てになったのに?」

「ああ、だから、できれば必要最低限の荷物だけにしてくれると嬉しい」

「セラ、リズ」

「は・・・しかし、これは必要最低限のものを選んで持ってきたのですが・・・」

「凄い選んだ」

セラと呼ばれた方が不満そうな顔で衛宮君を睨む。

「服を数着とお茶の道具だけにして。後はここのものを使えばいいわ」

「・・・分かりました」

「はーい」

それから数分後、トラックが何処へとも無く消えてトランクを四つを抱えたメイド二人が衛宮邸への上陸を果たした。

 

そろそろ夕飯時。

私達は居間でメイドとテーブル越しに向かい合っていた。

「これからどうぞよろしくお願い致します」

全員の前でセラとリズと呼ばれたメイドが同時に頭を下げる。

一日で風邪を治したものの、未だフラフラしている私の頭はよく回ってはくれない。

「つきましては衛宮様」

「は、はい!!」

厳しい目付きでセラが衛宮君を睨む。

「これからイリヤ様のお世話は基本的にこちら側で致します。食事はイリヤ様のご希望により、衛宮様達と共にという事ですので、私達にお任せ下さい」

「え? いや、それは・・・ちょっと待って欲しい」

「はい?」

ギラリとセラの目付きが鋭くなる。

「オレも作るよ。今まで通り。少なくとも任せっきりは悪いし、何よりオレが作りたいんだ」

「それは我々が信用できないという事ですか?」

ハッキリと聞いてくるセラに衛宮君が首を横に振る。

「家の台所を守るのはオレの使命だと思ってる。そうしないと素直に帰ってこれない奴がいるんだ」

私は衛宮君の優しさに頭が下がる思いだった。

(・・・・・・・・・桜・・・)

衛宮邸が殆ど新築だとしても台所の横には今も復元された桜のエプロンが掛かっている。

「つまりは他人に勝手にして欲しくないと?」

「そこまでは言わないけど、物の配置なんかはそのままにしておきたい場所もあるって事かな」

「セラ」

イリヤの声にセラが内心で溜息を吐いたような気がした。

「・・・分かりました。では、どういう所を弄らないようにすればいいのかお教え下さい。出来る限り善処します」

「助かる・・・これからよろしくお願いします」

衛宮君が頭を下げた。

セイバーがそれに倣う。

『いや~~今日もお姉ちゃんは仕事がマックス忙しかったわ~~~シロウご飯~~~』

ガラガラ。

ドタドタ。

バタン。

そろそろ暮れ掛けた衛宮邸に傍若無人な主が帰還した様子だった。

「!?」

私は慌てる。

一夜にして二階建てになってしまった衛宮邸を見て「不思議な事ってあるんだね~~って言うか・・・お姉ちゃんも住んでいい? シロウ」と目を輝かせてしまうような虎なのだ。

どうなるか想像も出来ない。

しかし、病み上がりの体で何かできるはずもなく、簡単に襖は開けられた。

「――――――シロウ・・・・・・」

「ふ、藤姉ぇ!? こ、コレには山より高く海より深い訳が!?」

二人のメイドを背に慌てる衛宮君に対し、一度俯いてから顔を上げた藤村先生(タイガー)がニッコリ笑った。

「いつからシロウはお姉ちゃんに内緒でメイドさんとくんずほぐれつ夢のドリームパラダイスに住むようなイケナイ子になったのかしら?」

衛宮君が顔を青くした。

それと同時にセイバーがイリヤの耳を塞ぐ。

私もマッハで耳を塞いだ。

【ふうううううううううええええええええてええええるぅぅううううううううううううううううううううううッッッッ!!!!!!!!!!】

衛宮邸に虎の雌叫びが木霊する。

そんな賑やかな家の中。

私は思う。

どうしてこの場に彼はいないのだろうと。

心に棘のように刺さった何かがズキズキと傷んで、私は体を縮めた。

 

三咲町。

特にネット上の都市伝説を好む者達にとって聖地と呼ばれる場所。

ネットでの伝説=ガセである現代において唯一残されたフロンティア。

吸血鬼騒ぎが起きたり、実際に行方不明者が多い事で一部のマニアからは知られている町の夜は暗い。

外灯の合間合間に出来る影を渡りながら、不死者(ゾンビ)を刈る者が一人。

黒鍵による一撃が腐肉で出来た体を剣山と化し、高架下での戦闘が人知れず終了する。

(ふぅ。これで今月に入って三件目。こんなに不死者が出るなんて・・・何かあるんでしょうか・・・)

Ciel(シエル)。

そう呼ばれている外見は十代の女だった。

一人シスターの衣装を纏いながら【不死者(アブナイモノ)】を掃除し終えた彼女は通常業務を終えて、その場から離れる。

冷たい風に僅か身を震わせながら歩く彼女は近頃また増えてきた仕事の事を考えて眉根を寄せた。

(こんな事は今まで無かったのに・・・)

トボトボと彼女は誘蛾灯に誘われたようにコンビニへと向かった。

侘しい夜食を得る為の行為に虚しさを覚えながら、半ば意識しないでも選べる品を籠に放り込みレジで精算する。

カレーパン一つ。

カレーチャーハン一つ。

カレーチャーシュー麺一つ。

カレーうどん一つ。

カレー蕎麦一つ。

「カレーお好きなんですね」

「ッ、あ、は、はい!?」

いつも利用するコンビニ。

彼女に若い女性店員はにこやかだった。

そういえば見覚えがある気がして彼女は照れ臭くなる。

こうして人に自分の嗜好が知れているというのは何となく恥ずかしかった。

精算を終えて「ありがとうございましたー」の声を受けながら彼女はコンビニ横のベンチに座った。

「はぁ・・・」

少し落ち込んだ彼女は溜息を吐いて空を見上げる。

(こんな時・・・横に彼がいたらなぁ・・・)

彼女が思い出したのは一人の男の横顔。

いつも貧血気味だが、いざとなると鋭い目付きをする男の事。

自分を受け入れてくれた人。

その中でも特別な一人。

「遠野君・・・もう寝てますよね・・・」

想い人が普通の生活を送っている以上、真夜中にこっそり尋ねていくなんて・・・そんな事は出来ないと彼女は自重する。

「ああ、私は一体何を考えてるんですか!? あのアーパー吸血鬼じゃないんですから・・・」

次の彼女が思い出したのは白い吸血鬼の女だった。

いつも天真爛漫で、何をしても感情表現豊かで、男を困らせても許されてしまうような・・・そんな朗らかさを持つ吸血鬼にあるまじき存在。

「でも、それが受けてるんですよね・・・」

天性の人に愛される才覚。

そんな自分には無い才覚があの吸血鬼にはあると彼女には思えた。

「我侭放題ですもんね。あの吸血鬼・・・」

ズーンと暗くなった内心を振り払うように彼女は食料を胃袋に納めていく。

十分もすると彼女の手の中は空のトレイだけになった。

「帰りましょう・・・」

再び虚しい気分に駆られて、そろそろねぐらに帰ろうと彼女がベンチを立った時だった。

今まで彼女が座っていたベンチに座る客が一人。

コンビニで何かを買っていたらしい。

ベンチに座った途端に袋を破き始める音。

ビリビリビリビリ。

「?」

ベンチ脇のゴミ箱に全て捨てて立ち去ろうとした彼女の目に留まったのは無数のカードと一冊の雑誌だった。

V○ャンプ。

カードが付録で付いているらしく。

ベンチに座った客は夜空に一枚のカードを翳して何やら悦に浸っている。

(・・・変な格好・・・)

彼女は自分の格好は棚に上げて客をそう評価した。

赤いジャケットに赤い帽子。

Gパンと厚手のトレーナー。

まるで初代○ケモンの主人公みたいな格好に彼女は虚しい気分を晴らす目的で一方的に評価を下す。

(それにカードを箱買いとか。あの歳になってやる事はそれしかないんですか・・・ドン引きですね・・・まったく・・・ご両親が嘆き悲しみますよ? いいですか? そんな事で天国の門が潜れると思わないでください!)

内心だけとはいえ、勝手な評価を付けて彼女が盛り上がる。

若者の未来を憂いていると言えば聞こえはいいが、憂さ晴らしでしかない。

(まったくこれだから近頃の若者は・・・)

もはや楽しくなってきた感すらある内心の罵りに彼女は浸った。

「・・・・・・」

「はッ!?」

気付けば、彼女は完全に男を見つめてしまっていた。

「す、すみません・・・」

恥ずかしくなって、いそいそ逃げ出そうとした彼女が立ち去ろうとした時、不意に違和感を覚える。

それは魔術のスペシャリストであるからこそ気付けた僅かなもの。

目の前でカードを袋から出して品定めしている男。

その体が【あまりにも見事に現界している霊体】である事に気付いて彼女は固まる。

(こんな事が?)

彼女はそう思わざるを得なかった。

死者の蘇生や死者の転生に付いてのスペシャリストである彼女が人間と間違えるくらい高度な現界を果たした霊体。

そんなものは【奇跡】に等しい。

そんな存在がカードを大人買いしているなんてのは意味不明過ぎて怪し過ぎる。

「・・・すみません」

聖堂教会の異端審問特化組織。

埋葬機関。

その第七位として彼女は任務を再開した。

「・・・・・・」

「貴方のお名前を聞かせて下さい」

男の『?』という顔に彼女は冷徹な仕事人(プロフェッショナル)として聞く。

「・・・・・・」

「【決闘者(デュエリスト)】?」

コクリとの首肯。

彼女は言葉の裏を探る。

何かを見落としていないかと魔術的な分析を始める。

「出来れば二つ名以外でお願いしたいのですが」

「・・・・・・」

「それ以外名前が無い?」

彼女の言葉に再びの肯定。

「・・・私は聖堂教会の埋葬機関第七位Cielと言います」

とぼけているならば、この肩書き一つで自分がどういう状況に陥っているのかすぐに理解するはずだと彼女は筋肉を待機常態に持っていく。

一瞬でトップスピードを出せるように、一瞬で目の前の男の首を刎ねられるように。

「・・・・・・」

しかし、そんな彼女の準備にも関わらず男は【決闘者】である【彼】は首を傾げただけだった。

その間にも彼の手はビリビリと袋からカードを取り出し続けている。

「貴方に二三質問があるのですが。いいでしょうか?」

彼が頷くの確認して彼女は核心を問う。

「貴方は一体何者ですか?」

「・・・・・・」

「ただのカードゲームの英霊・・・って英霊!?」

彼女が思わず驚きの声を上げた。

そして、目の前の存在がますます分からなくなった。

「ちょ、ちょっと整理させて下さい。つまり、貴方はカードゲームにおいて英績を残した偉人だと言う事でいいのでしょうか?」

微妙に丁寧な口調で聞くシエルに彼は頷く。

「・・・・・・」

「その通りって・・・そんな!? そんな現代風の格好してカードを箱買いする英霊が何処の世界にいるって言うんですか?!」

シエルの最もな発言に彼がヤレヤレと肩を竦める。

「・・・・・・」

「いるものはいるんだから仕方ない!? いや、そういう問題じゃなくてですね!? 英霊って言うのはですね!? 基本的に人々に語り継がれるような物語を残し、神話や神代の時代にまで遡るような者すら含まれるわけでですね!?」

彼が微妙に面倒そうな顔で己の腕にデュエルディスクを具現化してみせた。

「な!? ま、まさか!? それは音に聞く【宝具】というやつですか!?」

自慢げな彼にシエルがドン引きの様相を呈した。

「あ、在り得ない・・・で、でも、具現化の度合いも魔力量も・・・確かに英霊クラス!?」

何か見てはいけないものを見てしまった気分でシエルが恐る恐るデュエルディスクに触る。

彼は自慢するでもなく片手で袋からカードを取り出し続ける。

(ま、間違いない。確かに凄い魔力・・・これだけの力が込められたものを具現化するなんてどういう・・・)

なまじスペシャリストであるシエルにとって彼の言葉は馬鹿馬鹿しい反面、現実に見せられた宝具がその馬鹿馬鹿しい話を裏付けるような証拠となってしまっていた。

「く!? で、でも、英霊なんてものが簡単にコンビニをうろついているわけがないでしょう!!!」

シエルが最後の拠り所である【普通の常識】に乗っ取った思考方法で導き出した解をぶつける。

「・・・・・・」

「あ、頭固そうって!? き、聞き捨てなりません!? 確かに知識量は豊富ですが、これでも柔軟な対応ができると評判の知得留先生ですよ!!?」

喚くシエルを意に介さず。

彼はそのまま整理し終えたカードをごっそりとポケットの中に仕舞い込んで立ち上がる。

「あ、何処に行くんですか!? まだ、事情聴取は終わってません!?」

彼は付いてくるシエルをいなしながら公園へと向かった。

数分後。

深夜の公園に二人は到着していた。

公園の中には誰もいない。

あるのは常夜灯の明かりのみ。

中程まで来た彼が振り返ってようやくシエルと向き合う。

「・・・・・・」

「探しているモノがある、ですか?」

彼が頷く。

シエルは警戒レベルを引き上げた。

目の前にいる男と相対したプレッシャーでシエルの体は緊張していた。

なよなよした体格や変な外見からは想像も出来ない圧力。

それは未だ外側へと放たれてこそいなかったが、シエルの勘が告げる。

目の前にいるのは少なくともただの冗談の類ではないと。

「それを探してこの町へ?」

彼が頷いてシエルに探し物の内容を教えた。

「・・・・・・」

「――――――――それは、また面白いものを探していますね」

シエルは数秒の沈黙の後、そう言う事が出来た。

彼の探し物の内容に【心当たりがあり過ぎて】どう判断するべきか迷ったシエルは彼に問い掛ける。

「何故、そんなものを探しているんですか?」

「・・・・・・」

彼の言葉にシエルの顔が引き攣る。

言われた言葉の意味を理解できても、それがどういう意味となるのか。

本当に目の前の男が言葉の意味を理解しているのかと疑った。

有り体に言えば「正気」なのかを疑問に思った。

シエルが更に聞く。

「一ついいでしょうか? どうやって手に入れるつもりですか?」

「・・・・・・」

「――――――――――狂ってる」

馬鹿げてるでも不可能だでもなく。

シエルは彼の言葉にそう返した。

何故なら、そんな事が出来る存在をシエルは知らなかった。

そして、それが限りなく不可能に近い、あるいはそれに類する事も実感として知っていた。しかし、目の前の男が限りなく本気で言っているのだと様子から判断して、シエルはそう返すしかなかった。

「出来るつもりですか? 相手はこの星が生み出した最終兵器ですよ?」

「・・・・・・」

「知ってるなら教えて欲しい? 悪いですが、それは出来ません」

「・・・・・・」

「何故か? そんな事決まってるじゃないですか」

彼の前でシエルは己の着ていたシスター服を剥ぎ取る。

下にある衣装はシスターとは似ても似つかない。

彼女の手にいつの間にか現れた分厚い聖典が彼女のこれからの行動を示唆していた。

「貴方のような【危ないもの】をこのままみすみす放っておいたらどうなるか」

聖典が、正確には死者の転生を否定する【第七聖典】が光を帯びて起動する。

「私はこの町を守る為、此処にいるんです。貴方と貴方が求めるモノとの戦いでこの町が残っている保障はどこにも無い。つまり」

僅かな呟き。

セブン。

そう呼ばれた聖典がその真の姿を開放する。

「貴方はここでお終いです」

ガチャリとシエルの手の中に現れたパイルバンカーが彼に向かって構えられた。

「・・・・・・」

彼は何も言わなかった。

ただ、腕にあるデュエルディスクに己の懐から【随分と減っているデッキ】をセットする。

その最中に襲い掛かる事など容易いはずのシエルは動かなかった。

相手の準備を待つなんて義理堅い性格はしていない。

ただ、デッキをセットする動作に何の隙も見出せなかったというだけの話だ。

 

「準備も整ったようですし、始めましょうか?」

 

力の爆発を待っているシエルの筋肉が熱を持ち始める。

 

【Duel】

 

静かな開戦を告げる言葉が紡がれた。

 

求められたモノの名は【真祖】の魂。

 

求める為の手段は【倒す】との一言。

 

【Arcueid(アルクェイド) Brunestud(ブリュンスタッド)】

 

真祖の執行者を賭けて、今・・・新たな戦いの幕が上がる。

 

To be continued


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