The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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サクッと直して投稿してみた。とりあえず、オリジナルの「GIOGAME」もよろしく。


第二話「決闘者の作法」

第二話「決闘者の作法」

 

世界には所謂【奇跡】というものが存在する。

でも、それはあくまで起こりえないからこその名前。

それを故意に起こそうと思うのが魔術師だ。

何も無い場所から炎を起こす。

何も無い場所から水を呼び出す。

普通なら出来ない。

物理法則に反する。

しかし、物理法則に準拠して普通の人間が知覚できない魔力を扱いえる魔術師には簡単な事だ。

それでも魔術師にも不可能やそれに近い事はある。

例えば、それは死人の復活であったり、それは魂に形を与える事であったり、時間を遡る事であったりする。

魔術という域には当て嵌まらない本当の奇跡。

それを魔術師は魔法と呼ぶ。

その意味で今現在目の前で起こっている事象は奇跡というより他無かった。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

『なッッ?!! そんな召喚魔術が準備無しに使えるのかよ!?』

夜、校庭のグラウンド。

仕掛けてきたのは蒼い服に赤い槍の男だった。

どうしてこんな事になったのか。

まるで分からない。

聖杯戦争の開幕。

夜の街に一人でも繰り出そうとした自分に付いてきた自称【決闘者(Duelist)】で自分の名前も分からないサーヴァント。

契約したのはいいものの、カードゲームしか出来ない英霊に何が出来るのかと半ば諦めかけていた自分が一人でも戦おうと決意したのは妥当な話だと思う。

「アンタ・・・一体何のサーヴァントなの・・・?」

サーヴァントが襲ってきても返り討ちにするだけの宝石をありったけ装備して出てきた。

自分が見つけた初めての敵は強敵と言える。

長大な槍には何らかの魔術的力が付与されていて、その身のこなしは確かに英霊級の実力。

それに比べて自分の横にいる男はナヨナヨしている。

それどころか戦闘に突入する寸前にカードの束を取り出して魔力で具現化したらしき変な機械を颯爽と腕に装着し得意げにしている、ぐらいの開きがあるはずだった。

【Duel!!!】

たったそれだけの掛け声。

それだけの言霊。

脳裏に、魂に響く声。

五枚のカードを片手に、装着した機械にセットされたデッキから一枚を引き抜く【ドロー】の雄叫び。

その声で金縛りにあったかのように名高い英霊だろうランサーが凍り付いた。

『馬鹿な!? このオレが動けないだと!? 野郎!? 何の魔術使いやがった!?』

全力で動こうとしているランサーは身動きの取れない体に驚愕し、目を見張った。

私だってそうだ。

自分の横にいるのは彼自身の説明によればカードゲームの英霊でしかない。

しかも、近くの玩具屋にカードを買いに行くからと金をせびって何故か私のデッキを作ってくれるあまりにも英霊とは程遠い存在なのだ。

それなのに、そのはずなのに・・・槍の英霊は怯んでいる。

怯ませているのは間違いなく横にいるカードゲームの英霊。

クラス【決闘者】だった。

【カードを二枚伏せてターンエンド】

ランサーの動きが戻った時には虚空にカードが二枚伏せられている。

『くそ。なんだその力!? しゃらくせぇ!!』

突撃してくるランサーの速度は尋常ではなかった。

自らの動きを封じられるという失態がランサーの自尊心を傷つけたのは想像に難くない。

それ故の安易な突撃だったのかもしれない。

しかし、ランサーの突撃に対し顔色も変えず【決闘者】は発動を宣言する。

【罠(トラップ)発動。『くず鉄のカカシ』】

『!!!』

今正に【決闘者】を刺殺するはずだった一撃。

その一撃が止められていた。

虚空に伏せられたカードが開かれている。

虚空から現れた妙なガラクタの案山子がランサーの槍を受け止めていた。

『知るかよッッ!!』

ランサーの猛攻。

神速の槍捌きで繰り出される刺突。

それをしても案山子は壊れる様子も無く全ての攻撃を受け切り揺れていた。

ランサーにしてみれば攻撃を受け切るのが同じ英霊ではなく案山子では理不尽に違いなかった。

『ちッ!?』

舌打ちしたランサーが背後へと後退する。

『テメェ。どういうクラスだ・・・こんな英霊見た事も聞いた事もねぇ。魔術師の類にしてもカードだと・・・』

虚空で開いていたカードが再び伏せられていた。

【エンドフェイズ。『終焉の焔』を発動。黒焔トークン二体を守備表示で特殊召喚】

虚空に伏せられていた二枚目のカードが開かれる。

『召喚?! やっぱり魔術師ッッ、テメェ・・・キャスターか!!』

発動と同時にカードが消え失せ、私達の前に暗い炎が形を持ち、二体の何かが揺らめき始める。

『人の話を聞きやがッッ!? ぐぅううううッッ!? またかッッ!?』

再びランサーの動きが止まる。

再びドローの声。

【黒焔トークン一体を生贄に『迅雷の魔王-スカル・デーモン』を召喚】

「え? 召喚を召喚ってアンタ何するつも―――」

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

「――――――ッッッッ?!!」

手札のカードが虚空へと放たれると同時。

私の目の前で揺らめいていた炎の一体が消えて虚空から現れたのは・・・その名の通りデーモン・・・十数メートルを越える長身の悪魔だった。

【バトルフェイズ。スカル・デーモンでランサーへダイレクトアタック】

『ちぃいッッッ!?』

身動きが取れないランサーへの一方的な攻撃。

如何なランサーとはいえ、単純な質量差に屈服するかと思われた時、動きが戻った。

咄嗟に悪魔の拳を回避しランサーが後退する。

『クソがッッ、こんなところで使う事になるのかよ!? いいぜ!! やってやらぁ!! 受けろよ!!』

ランサーが槍を構える。

宝具だろう槍。

その真名と同時に英霊達が持つ切り札は発動する。

「まずい!? 宝具が来るわ!!」

私の叫びなんか一つも聞いてない。

【決闘者】は揺るがなかった。

『その心臓貰い受ける!! 【刺し穿つ死棘の槍】(ゲイ・ボルグ)!!!!』

放たれた一撃。

それは名高き欧州英雄の一人が使う槍の名。

【敵装備魔法カードの能力を確定。ダメージステップ時、相手モンスター一体を選択して破壊する事ができる】

絶望的な一撃を前にして、それでも冷静な顔で【決闘者(かれ)】は発動を宣言する。

絶対に間に合わないはずの発動宣言が私の心の奥底に響いてくる。

【スカル・デーモンの効果発動!! このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する! ダイスロール!!!】

虚空に多面体が浮かび上がる。

そして、それがスカル・デーモンとランサーの間へと落下した。

地面に落ちた目は六!!!

「え・・・?」

次の瞬間、赤い槍が爆散していた。

『なッッッ?!!』

必殺の一撃を見舞ったはずのランサーが目を見開いて絶句している。

何故。

どうして。

分からない。

どちらにしてもそれで全てが終わり。

サーヴァントの切り札たる宝具を破るとは同時に相手自身を破ったことに等しい。

【効果の無効化に成功】

閃光。

淡い音がしてランサーの必殺の槍の残骸が光の粒子となって弾けた。

「え?」

『あ?』

【デーモンの攻撃を続行】

地面に落ちたダイスはいつの間にか消え失せ、悪魔が硬直しているランサーに拳を叩き込んだ。

『グッ!? うおおおおおおおおおおおおおお!!!』

ランサーが拳ごと校舎へと激突した。

圧倒的な体格差。

槍が手元へと未だ戻っていないという事実。

それを差し引いてもランサーは強かった。

大質量の一撃で朦々と粉塵が上がる。

悪魔の引かれた拳が焦げ付いていた。

何らかの魔術。

爆発が拳の威力を相殺したのか。

ランサーが煙の中から立ち上がる。

「ぐ・・・クソが・・・初っ端からハズレ引くとはつくづく運がねぇ。お嬢ちゃんにゃ悪りぃが此処は引かせてもらうぜ」

【サレンダーを確認。勝利1。アンティールールに基づき、レアリティー最上位カード一枚を接収する】

『な!?』

彼の手に光の粒子が降り注ぎランサーの槍が現れる。

『ンだとッッ!?』

更に槍が彼の手の中で再度光となって弾け、凝集し、一枚のカードとなった。

『何だそりゃあ!!』

本気で不可解だった。

それ以前の問題として何がどうなっているのか私にはさっぱり分からなかった。

でも、そんな味方に混乱させられている状況下でも時間は待ってくれなかった。

ガシャン。

そんな音がして振り向けば、野球部の部室の脇で見知った顔がこちらを見ていた。

(衛宮・・・くん? 見られた!!)

『クソ!? 次から次へと!! 言いてぇ事は山程あるが今日はこの辺で止めとくぜ。必ずそいつは取り返す!! あばよ!!』

(まずっ!?)

魔術の秘匿は最優先事項。

ランサーが何を考えているのか分からないわけがない。

しかし、素手に戻っているとはいえ、ランサーに宝石魔術一つで立ち向かうのは今の戦闘を見ては明らかに無理があった。

足音が遠ざかっていく。

逃げ出した衛宮君を追ってランサーが駆け出した。

「アンタ大丈夫!!」

何よりもまずサーヴァントの安否の確認が先だった。

もうすでにケロリとしているようにも見える彼に近寄る。

「・・・・・・」

「も、問題無いですって?! ホントにアンタ何なのよ!! ああ、もう!! 後でちゃんと話してもらうからね!! 今からランサーを追うわ!! 今の学校の生徒に見られてたみたいなのッ!!」

彼が頷く。

同時に虚空のカードとデーモンが闇に融け、腕に装着されていた機械も消える。

手札とカードの束を腰のホルダーに戻した彼と共に走り出す。

何もかもが狂っていく感覚。

何処かで致命的な間違いを犯している感覚。

それは歯車の抜けた時計を眺めているような。

背中にまとわりついた感覚はまったく消えないどころか強くなりつつさえある。

「・・・・・・」

それでも彼は戦ってくれた。

サーヴァントとして自分を守った。

カードゲームの英霊だと自称する彼の評価は改めなければならなかった。

「・・・ありがと。守ってくれて」

ポツリとそんな言葉が勝手に唇から漏れた。

「・・・・・・」

「笑った方が可愛いとか!? こんな時にば、馬鹿じゃないのッッ!!」

ボカッと一発。

私は彼の頭を叩いた。

 

そして、その数分後、私は死ぬ定めの衛宮君を見つけてしまった。

 

To be continued


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