The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第十九話「吸血者の姫君」

第十九話「吸血者の姫君」

 

「汝。微妙に他世界住人と見るが如何に?」

「・・・・・・」

「む。つまり、貴様はネコの滅ぼした世界から過去の地球を救いにやってきたネッガー的なアレかね?」

「・・・・・・」

「当たらずとも遠からず。ふむふむ。我輩もネコ生長いがお前さんみたいなのは知らんにゃー。つーか、やっぱ2で止めとくべきだったような」

「・・・・・・」

「にゃに!? 最後に時々空から落ちてきたネコっぽい物体が世界を滅ぼした時もあった? あー、それ我輩そこはかとなく知ってる気がするにゃあ。やっぱ、大気圏脱出ENDは辛いっつーか。そろそろ新しい専用絵を用意するべきかと神に抗議してくるべき、みたいな」

「・・・・・・」

「縄を解けば、にぼしとかつおぶしとまたたび・・・三種の仁義を供えると? ふ、甘く見ているようだが、決して我輩背後の友は見捨てて逃げるような卑怯者では無い!!」

ジョキリと彼の縄が爪で切られる。

「あの日、にぼしで殴り合った我々がもはやこうして緊縛プレイ越しでしか接触できにゃいとは・・・悲しいことだ」

「・・・・・・」

「とりあえず、それはおいといてにぼしおく――」

ズダン。

「ぎぃいいいいいいいいいいいにゃあああああああああああ?!!!」

「様子を見に来てみれば・・・何をあっさりと裏切ってるんですか害猫?」

グリグリと靴の爪先で黒いネコのようなダンディーのような微妙な生物が踏み躙られる。

「おぅふ!? このままでは我輩新たな趣味に目覚める眠り姫も真っ青な展開に!?」

すっと靴が退かされた。

靴跡を付けたダンディーな黒いネコ型生物ネコ・カオスがダメージなど無いかのようにニョッキリと立ち上がる。

「ははは、ついに紫色な計算ヲタクも我輩の素晴らしき様式美に惚れ込み始めたと見た!」

自信満々に笑い始めるネコ・カオスを全体的に紫色な衣装を着た褐色の少女シオン・エルトネム・アトラシアが抱き上げる。

「やはりネコの魅力に負けぬ動物などありはしないのか!!? 我輩+全世界が泣いたと評判の全米ナンバーワンムービーでも撮ってみないかね?」

「とりあえず、好きにしてください」

「うん♪ さぁ、おいで♪」

「―――――!!?」

銀髪で痩躯の女がネコ・カオスを受け取った。

騒ごうとしたネコ・カオスの口はいつの間にか何かで縫い付けられたように塞がれている。

「ん゛ー!! ん゛ん゛ぅううううう!?」

主張は声になる事もなく。

そのまま謎生物は女に抱かれて廃工場の部屋の一角へと連れて行かれた。

「ふぅ。これでしばらくは大人しくなるでしょう。で」

ギロリとシオンの視線が彼に向く。

「貴方は何を逃げようとしているのですか? 名も無き英霊よ」

「・・・・・・」

「何げに酷い扱いをされたからネコ的な生物の力を借りてみた? 英霊の癖にあんな得体の知れないものに縋ろうとは貴方一体何の英霊なのですか?」

胡散臭そうな表情でシオンが彼を問い詰める。

監禁されて二時間。

血を吸われそうになった彼は三人の女と一匹の監視下に置かれていた。

主にシオンからの質問に平然と答えた彼の処遇を決めるべく、三人がゴニョゴニョと話し出したのは一時間前。

呪文らしき何かを書き込まれた縄で縛られた彼はやる事もないのでネコ型生物と戯れていたが、何やらシオンはお気に召さなかったらしく不機嫌だった。

「・・・・・・」

「血が足らないのか? どうしてそんな事を知っているのですか・・・」

警戒心を引き上げたシオンが瞳を細める。

「真祖や死徒の事に付いても知っている様子ですが、その知識を何処で手に入れたのか教えなさい」

「・・・・・・」

「教える気は無いと? ならば、その頭の中を直接覗かせて貰います」

シオンが腕輪からゆっくりとエーテライトを引き出す。

「どんな力によって霊体を現界させているのか知りませんが、実体があるなら覗くのも可能でしょう」

「・・・・・・」

「趣味が悪い? こちらだって意味も無く他人の頭を覗くのは趣味ではありません。でも、理由もなく英霊なんてものがうろついているわけがない。何かの前触れとすれば、事前に情報は仕入れておいた方がいい」

彼がどうしようかと少し悩んだ時だった。

「シオン!」

「さつき?」

弓塚さつき。

彼を廃工場まで連れてきた張本人が慌ててやってくる。

「何してるの!?」

「これからこの英霊の頭をエーテライトで覗こうとしています」

「ダ、ダメだよ!? 酷い事はしないってさっき!」

「はい。少なくとも命を取ろうという話ではありません」

「で、でも・・・他人の頭の中を覗くなんて・・・」

シオンがさつきの善良さに困ったような溜息を吐く。

「さつき。吸血鬼である私達が教会からどう思われてるのかは十分に理解していますか?」

「う、うん。先輩がかなり怖いのはいつもの事だし、時々追いかけられるし、それは・・・」

「では、英霊というものがどういうものか貴方は知っていますか?」

「え? え、えいれいって・・・その・・・偉い人の幽霊、みたいな?」

「かなりツッコミたいですが、今はそれでいいです。大まかには間違っていませんから。でも、肝心な事が分かっていないようですね」

「肝心な事?」

「英霊と呼ばれるものは殆どの場合、善良さを属性に持つという事です。そして、武勲を挙げた者である事も多い。それは教会にとっても同様の扱いです。聖人の遺物や霊魂を使う儀式が教会にもありますし、英霊と呼ばれる存在を確かに教会も把握している」

「どういう事?」

「つまり、この名前も名乗らない英霊が教会からの回し者である事は十分に考慮されるべきです」

「・・・・・・」

「違うって言ってるけど?」

シオンが頭痛を抑えるような仕草をした。

「―――さつき。貴方のその善良さは褒められるべき美徳ですが、時に驚くほど愚かだと自覚した方がいい」

「う・・・」

「とにかく、これからエーテライトを使用します。ワタシは貴女達を危険に晒すような真似はできません」

「シオン・・・」

「分かってくれますね? さつき」

「・・・・・・・分かった」

しょげた様子でさつきが頷くとシオンが罰の悪そうな顔をして彼に向き直った。

「名も無き英霊よ。貴方が本当に教会からの回し者でないにしろ。特異な存在である事は確かです。このまま大人しく処置を受け入れるなら悪いようにはしません。如何ですか?」

「・・・・・・」

「不条理には慣れている? 良い覚悟です。では行き―――」

彼がシオンの言葉を遮る。

「・・・・・・」

「その前に此処から逃げた方がいい? 何を言って―――」

ザワリとシオンが全身からの危険信号を感知して、その場から飛び退く。

一瞬、目の前の英霊から放たれたと思った圧力の出所を探って、シオンは己の背後・・・廃工場の入り口付近にある白い衣装を見つける。

「まさか、真祖の姫・・・?」

「あ、アルクェイドさん」

さつきが気付いて、一歩近づこうとした瞬間、シオンがさつきの体を掴んで十メートル以上跳び下がる。

「シオン?!」

「さつき!! 逃げますよ!!」

「ど、どうして!?」

「分からないのですか!? 今の圧力を感じなかったとでも!?」

「え? え? 何かあったの?」

「ああ、もう!? こういう時だけ鈍感なんですから!! とにかく巻き込まれるのはごめんです!! リーズバイフェ!! 害猫なんて放っておいてください!! 此処を放棄します!!」

「ぎにゃ!? 何やら不吉な匂いがすると思えば・・・あー切れてるにゃーアレ。我輩も敵前逃亡は死とは思ってるが粉微塵はにゃぁ・・・」

廃工場の奥から声が遠ざかっていく。

そのまま数秒と経たずに路地裏の吸血鬼と愉快な仲間達の気配はその場から消え失せていた。

一人残された彼が立ち上がってポンポンと服の埃を払った。

『貴方がシエルをやったの?』

コツコツと靴音を響かせて廃工場の中へと白い女がやってくる。

美貌に輝くのは赤い瞳。

笑みさえ浮かべた女は優しげな声で彼に聞いた。

「・・・・・・」

『間違いない? へぇ・・・』

「・・・・・・」

『どうしてそんなに怒ってるのかって?』

ニッコリと笑った女アルクェイド・ブリュンスタッドが、真祖の姫が、無造作に手を彼に翳した。

『誰だって自分のものを勝手に壊されたら怒るじゃない? ほら、こういう風に』

赤い烈風が暴発した。

ボンと彼の頭部が消滅する。

『貴方が何なのかなんて知らない』

コツコツと靴音が響く。

『でも、一つだけ分かってることがあるわ』

頭部があった場所が揺らめき、再び頭部が現れる。

『貴方が何だろうと誰だろうと、どんな力を持っていようと』

靴音が罅割れた。

靴が砕け散り、下のコンクリートが足跡をくっきりと付ける。

『私・・・貴方を壊したくてたまらないの・・・』

片手で顔を覆ったアルクェイドの形相に彼がデュエルディスクを具現化し、デッキをセットした。

「・・・・・・」

『ええ、そうよ。私がアルクェイド・ブリュンスタッド。真祖を刈る為の真祖』

「・・・・・・」

『探していた? そう・・・でも、残念・・・お喋りはもうお終い』

気付いた時には再び彼の頭部は消え失せていた。

背後に抜けたアルクェイドの頭上で戦いのゴングが告げられる。

 

【Duel】

 

落ちていく頭部から発せられた声が世界を変えていく。

 

吸血鬼の真祖を前にして彼は不動。

 

次の瞬間、虚空で爪に八つ裂きにされた頭部は刹那で肉体上に復元されていた。

 

月光が彼の上に降り注ぐ。

 

その様子に真祖の姫が吼えた。

 

『何度でも、何度でも何度でも、何度でも何度でも何度でも!!! 死ぬまで殺してあげるわッッ!!!』

 

廃工場は宣告の三秒後、周辺区画三つを巻き込んで完全に崩壊した。

 

To be continued


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