The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第二十四話「長命者の撤退」

第二十四話「長命者の撤退」

 

私のDuelは生温い風の中、続いていた。

「私は手札の『ヴォルカニック・クイーン』を相手フィールド上のモンスター一体をリリースして特殊召喚!!!」

虚空に投げたカードが炎となってラヴァ・ゴーレムの檻に囚われていた間桐蔵硯を飲み込む。

炎の中から相手を生贄に不死鳥の如く翼を広げるモンスターが一体現れ、大空に舞い上がる。

しかし、今正に焼き尽くされたはずの老人は周辺に展開されていた蟲の大群の中から現れた。

『同じ手を二度食う程、耄碌してはおらんぞ』

顔にはあくまで余裕の笑み。

本体を見つけ出さない限り、戦いは長期戦を避けられないらしい。

『同じかどうかは喰らってみてから判断すればいいんじゃない?』

私は虚空に伏せた三枚の内の一枚を開いた。

「罠(トラップ)カード発動(オープン)『洗脳解除』このカードがフィールド上に存在する限り、自分と相手の

フィールド上に存在する全てのモンスターのコントロールは元々の持ち主に戻る」

私が特殊召喚した二体のモンスター達が動いた。

地表を這い、空を舞い、所有者である私の戦列へと加わる。

『ほほう。これはこれは・・・主も人が悪い』

私の前で刀を油断無く構えていたアサシンが笑う。

「行くわよ!! バトルフェイズ!! アサシン、ラヴァ・ゴーレム、ヴォルカニック・クイーン、続けてあのクソジジイにダイレクトアタック!!!」

「心得た!!」

疾風と化して段上から躍り出たアサシンの長物が一刀両断に老人を切り伏せる。

『物覚えの悪い小娘だ』

幾らでも蟲の中から湧いてくる老人の顔をゴーレムが粉砕し、クイーンが炎で焼き尽くす。

無駄だと。

やはり他の蟲の群れから出てくる物の怪の類を私は心の底から粉砕する事を誓った。

「罠(トラップ)カード発動(オープン)『火霊術‐紅』自分フィールド上の炎属性モンスター一体をリリースして、その攻撃力分のダメージを相手に与える。私は『溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム』をリリース、相手に3000ダメージ!!!」

ラヴァ・ゴーレムが発動したトラップの前で完全に融解し、蟲の大群へと迸った。

渦巻く炎に全てが飲み込まれ、周辺一帯が燃え上がる。

『ッッッ!!!?』

業火に沈む階段の中で蟲達が焦げ付いていく。

『く、くく、言うだけはあるか。だが、手の内を晒した山師に次はない。覚えておくがいい・・・遠坂の末よ』

声が途切れると同時に私はDuelが終わったのを悟った。

サレンダー。

相手の逃亡。

本来ならば宝具及びそれに類するものを相手から奪えるはずだったが、それらしい手応えは無かった。

それは相手の老獪さを物語る。

己の身一つと魔術のみで【決闘者】と戦うなんて、かなりのリスクを背負う行為だ。

逃げる前に倒されてしまえばお終い。

未知のカードを前にして平静に戦える魔術師はほぼいないと言っていい。

それを理解しつつ、相手の情報を収集して逃げ遂せたのだから、間桐を数百年にも渡って仕切ってきた老人の力は伊達ではない。

あのキャスターでさえペースを乱されて敗北したというのに、老人はうろたえる事すら無かった。

「勝った・・・けど、逃がしたみたいね・・・」

ただ、勝ったという事実だけが私を幾分か高揚させていた。

戦いの内容的には負けていたが、それでも勝ちは勝ちだ。

慢心する事さえなければ、次も戦えると私の中にも少し決闘者としての自信が芽生える。

私がデュエルディスクから『決闘者の作法』を抜くと同時に展開されていたモンスター達が消えていく。

後に残ったのは焼け野原になった山林と階段。

そして、新たに私のサーヴァントとなったアサシン。

佐々木小次郎だけだった。

「主よ。見事だった」

刀を納めながら小次郎が階段を上ってくる。

「あ、当たり前よ。私を誰だと思ってるの」

「はは、そう言うな。あの物の怪を相手にして生き残っただけでも重畳であろう」

やけにフレンドリーな様子で肩に手を置かれて、私は思わず身を引いていた。

「な、何か軽くない? まだ、そんなに仲良くなったつもりはないんだけど」

「主となった者に礼を尽くし、和するのは当然の事であろう?」

「う・・まぁ・・・」

微妙に言い包められているような気がしたものの、別に己のサーヴァントとコミュニケーションを取るのはおかしい事でもない。

私はとにかく初めての戦いを終えた安堵に一息付いた。

「・・・この石段とか山林とか・・・直さないとダメよね」

「しばし、休んでからでも良かろう。まずは体力を回復させねばな」

「そうね。それじゃ・・・」

ペタンと私は尻餅を付いて山門に寄り掛かった。

風が夜を渡っていく。

月に光に疲れが解けていくようだった。

「それにしても騒がしい夜になった。まさか、わたしが契約するとは・・・あの魔女も思っていなかったであろうな」

「そりゃだって、キャスターに呼び出された例外的な存在なんでしょ? 貴方って」

「ああ、そうだ。マスターらしいマスターを持たず。憑かされたのは山門そのもの。言わば、番人としてあの魔女には呼び出されたからな」

「でも、だから、貴方はこうやってキャスターがいなくても残っていられた。地脈から魔力の供給が行われるからこそ、消えなかった」

「・・・消えなかった、か。いや、どちらかと言えば、消える機会を逸したというのが正しいのだがな」

「どういう事?」

「本来、この身はあの魔女が消えた時点で滅びるはずだったのだ」

「え?」

「だが、お前達はあの魔女を救った。故に魔力の供給はあの女の保険が働いて何とか保たれていた」

「それって・・・」

「あの魔女がそもそも門番如きを地脈から直接魔力を受けるような立場に置くと思うか?」

「違うって言うの?」

「ああ、実際にはマスターの変わりにあの女から魔力が供給されていた。しかし、あの魔女は用意周到でな。自分が魔力供給出来なくなる事態に備えて、番人であるわたしに緊急時の保険を掛けた。あの魔女が街から魔力を吸い上げていたように、緊急時・・・わたしはこの寺の者から生命力を吸い上げるようになっている」

「それ本当なの?」

小次郎が頷く。

「山門に憑いている事を見抜いたセイバーから地脈の話を聞いていたのであろうが、実際は・・・門番どころか性質の悪い怨霊のようなものに成り下がっていたのだ」

「もしかして、だから最初・・・」

小次郎が頬を掻く。

「別に消されても良かったのだよ。ただ、最後に兵と一戦を交えてから消えられるなら、それで良かった」

「・・・・・・今も・・・そう思ってるの?」

真っ直ぐに私は訊く。

小次郎は月を見上げながら首を横に振った。

「そうもゆくまい。あんな物の怪を放っておいては月を眺めても心は曇るばかりであろう」

視線がこちらに向けられる。

「主よ。これから我が剣はそなたの物となろう。だが、どうか・・・その真っ直ぐな瞳のままで・・・この戦いを駆けて欲しい。それが従者としてわたしが望む・・・最初で最後の事だ」

凜は思う。

目の前の良い男にどうやって己は応えられるのかと。

ただ、己を貫いて戦えと言う・・・そんな良い男に何をしてやれるのかと。

「私がもしも間違えたら、ううん・・・間違えそうになったら、その時はバッサリ斬ってくれて構わないわよ」

「・・・随分と頼もしい主だ。この佐々木小次郎、その心がある限り最後まで主の為、剣を尽くそう」

小次郎が微笑む。

手が自然に差し出され、しっかりと私と小次郎の間で握り締められた。

 

冬木で最後のサーヴァントを凜が味方に付けて戦力を増強している頃、薄暗い廃工場の中で生死を掛けた戦いが繰り広げられていた。

「ふぇ~~。何でこんな事に~~~」

涙目でみかん箱の上のカードを見つめているのは蒼い衣を身に纏った精霊少女ななこだった。

「にゃにゃー!!! これぞ、秘儀『墓地に闇属性が三体以上いたって関係ないやい。ちょっとお父さんダークで相手フィールド上全部掃除してくる』!!!」

「何で手札一枚からモンスターが五枚まで出てくるんですかぁあああ!!?」

「クリエイター、墓地のファンカス、墓地クリエイターコピー、墓地のファンカス、墓地のクリエイターコピー、墓地のスペルビア、効果でゼラート、レベル8×3オーバーレイ、ネコギャラクシー的ドラゴン降臨、ついでにファンカス×2オーバーレイ、下半身が龍でも上が良ければいいんですよ奥さんと言われてしまうクイーンドラグーンさん、効果でレ・ダ・メ・ニャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「はぅああ嗚呼?! 実質八体とかぁああああ!!?」

「ネコギャラクシーアイズによる効果で敵オーバーレイユニットを全て破棄。貴様のその貧弱なる獣を蹂躙してくれるにゃああああああ!!!」

「これだから転生はぁああああ!!!」

「いや、これ蘇生だからOKじゃね? とにかく、イチレンダァアアア、ニレンダァアアアア、サンレンダァアアアア、ヨンレンダァアアア、ゴレンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「も、もうライフはゼロですぅうううううう!!!?」

「はははは、我輩の勝利!!! そして、ゴートゥーダイブ!!!」

「お、重いぃいいい!? うぅうう、別にクイーンもレダメも要らな―――」

「弱者は黙って我輩とネコ(たぶん、とても似た類似品が存在します)の言う事でも聞いとけと。決まったにゃ!! ダンディーな我輩のポーズ!!」

ななこの頭上にネコ型生物二号ネコ・カオスがズッシリと乗っていた。

そんな騒がしくて新しい居候と害猫のじゃれ合いをほのぼのと路地裏同盟の同盟者達が見つめている。

「あ、ななこちゃんお菓子食べる?」

新米吸血鬼である弓塚さつきはニコニコしながら定番のあんまんを差し出した。

「ううぅうう。貰います」

「我輩的には甘いものよりしょっぱいものを希望する。まぁ、さっちんや計算ヲタク程しょっぱい人生はごめんだがにゃー」

ゲラゲラと笑うネコ・カオスにニコヤカなシオン・エルトナム・アトラシアがお菓子を差し出した。

「害猫にも慈悲程度は与えましょうか」

「ふ・・・お嬢さん。我輩に惚れたら焼けどじゃ済まにゃいかもしれませんよ」

「いいから喰え」

シオンがネコ・カオスの口をエーテライトで無理やりに拡張し、既存の菓子箱ごと内容物を押し込み、

「む、甘い・・・?」

縫い付けた。

「―――――ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛?!!!」

瞬間、ボンッッッとかなり激しくネコ・カオスが膨張してビクンビクンと体を仰け反らせる。

「ふぇ!?」

驚いたななこの上で海老ぞりになった後、ボトリと床に落ちて痙攣するネコ・カオス全体から甘ったるく香ばしい匂いが立ち込め始めた。

「シ、シオン!?」

驚くさつきにシオンは「?」という顔をする。

「何か?」

「あ、あの・・・何食べさせたの?」

恐る恐る聞くさつきにシオンは満面の笑みで答えた。

「単なるグリセリンの一種です。私の計算ではこの程度の殺傷能力でこの生物が死ぬ事はありません。まぁ、せいぜいが数日間行動不能になる程度でしょう」

決してお菓子に使われるべきではない形容詞にさつきが汗を滴らせて笑う。

「そ、そうなんだ。で、でも、物騒だからこういうのはネコだけにしてね?」

「ええ、勿論です。さつき」

二人の会話に無反応でグッタリとしてきたネコ・カオスの口の端からモクモクと煙が上がり始める。

「まだ量が足りなかったようですね。計算では内側から謎の臓器くらいは飛び出るはずでしたが・・・また、再計算しなければ・・・」

焦げたネコ・カオスを摘み上げ、しげしげと観察した後、シオンはその黒い物体を開いていたドラム缶の中に投げ入れて手の煤を払う。

「ふぅ。では、食料調達に行ってきます」

近頃、害猫への行動が日増しにエスカレートしているように感じていたさつきは「ストレスでも溜まってるのかな・・・」と外に出て行くシオンを心配そうに見つめた。

「大丈夫かな。シオン」

「それより我輩を心配する気はないかね?」

「だって、もう半分くらい直ってる・・・よね?」

ネコ・カオスがむっくりとドラム缶の中から顔を出してタバコを吸い始めた。

「たかだかニトロに臓器の八割を持っていかれた程度で我輩がどうにかなると思ってる時点でにゃー。あーいう詰めの甘さを計算のせいにするのが玉に瑕と自分で理解してない辺りがツンデレの極意なのかもしれん」

「あはは・・・・・・」

さつきは否定しなかった。

「それにしても新入り遅いにゃー」

「そうだね。デュエリストさん何処に行ったのかな?」

「お父さんちょっとコンビニに行ってくるからにゃー。娘達は大人しく待っていたりするがいい」

ひょいっとドラム缶から出たネコ・カオスが廃工場から出て行こうとした時だった。

「こんばんわー。いや、此処だと「こんにちわ」かしら、ん?」

グニョンと自分の足の下でネコ的生物が拉げているのを見つけて「げ」とラフな格好の女がネコ・カオスを思い切り蹴り飛ばした。

色は違ったが女は同じような生き物を知っていたし、今自分が踏んづけているものもその類だと直感的に察したのだから、魔法使いの名も伊達ではないのかもしれない。

「あ・・・あ、貴女は!?」

さつきが驚愕し、

「ふふ、こんにちわ。新米吸血鬼さん」

「・・・誰でしたっけ?」

首を傾げた。

「知らないなら驚かないで欲しいんだけど!!?」

「え、えっと・・・何処かでお会いしましたか?」

「あー、この流れだと知らないのか・・・ま、いいわ」

「あのー・・・私の事を知っているって事はその・・・魔術関係の?」

「そうよ。貴女も知ってる眼鏡で貧血で基本的に鈍感な類なんだけど、一部分鋭くて尚且つ周辺の女性陣をやきもきさせたりする人と関わりがあったり無かったりってとこかしら」

「・・・物凄く心当たりがあるというか何と言うか。その・・・志貴君のお知り合いですか?」

「そんなとこ」

【GCV。応答願う!!! こちら○ネーク!! 宇宙戦艦系弾幕女の降臨を確認した!! もはや一刻の猶予も無い!! ただちにダミアン・アーミーの出撃許可を出されたし!!! さもなければ、東の弾幕ゲー(ルナティック)並の流れ弾で全滅フラグだ!!! ブラック・ノアール・シュバルツ・ネロの迅速な派遣を求む!!!】

ゴソゴソと廃工場の隅からさつきと青子の耳に必死な声が聞こえた。

「えーと・・・やっぱりネコ?」

「はい。ネコです」

「何か警戒されてる?」

「いえいえ、構わないであげてください。つけあがりますから」

「つけあがるんだ・・・」

「はい。それにどうせ大した事は言ってません」

【く、気付かれた!? これがタイムパラドックスか!! 大いなる宇宙の意思には逆らえんという事なのか!? だが、三十路仲間が平行世界から押し寄せるス○ロボ方式でなければ、我輩達にも勝ち目はあると信じたいにゃー!!】

「ちょっと、焦がしていい。あのネコ?」

「あんまり効果ないですけど」

「ちょーっとビームっぽいものを照射したら蒸発しないかしら?」

「さっき爆薬が体内で暴発してたのにすぐ回復してましたから・・・」

【これが全平行世界を支配せんとするドクターアンバーのリーサルプロジェクト!!? あのおぞましいメカメイドに支配された世界より恐ろしくね?】

「てい」

面倒くさくなってきたさつきが手刀を振り下し、猫型生物を沈黙させようとする。

【いつものエンディングで彷徨って辿り着いた月で微妙な匙加減で人類救っちゃいなよYOUとか、世界総猫化計画とか一体言い出したの誰だったかにゃー? つーか、やっぱ機械とかに頼っちゃ未来とか切り開けにゃいもんだよにゃー・・・あの月細胞野郎に騙されてる吾輩フラグ!?】

しかし、まったく応えた様子もなく猫型生物は盛り上がっていく。

「でぃえい!!!」

【延髄にインパクトなんてお父さん許しまッッッ?! ぐに゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ?!!!】

拳をかなり本気で首筋に叩き込んで昏倒させ、さつきはネコ・カオスをドラム缶の中に放り込んだ。

「あはは・・・あーえっと、まぁ、いいか」

上に錆びた鉄板を置いて戻ってきたさつきに青子が引き攣った笑みを浮かべる。

「それで今日はどういう?」

全て無かった事にして聞くさつきに青子も淡々と答える。

「いや、ちょっとね。此処で赤い帽子被って赤いジャケット着ててカードゲームやってる子がいない?」

「あ、知り合いなんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。ただ、ちょこっと話をしたくて来たの」

「すいません。今、彼出てて・・・」

「そうなの? 帰りはいつ頃になるかしら?」

「あ、はい。たぶん、明日には帰ってくると思いますけど」

「そっか。それじゃ、悪いんだけど、もし彼が帰ってきたら私が来てたって伝えてくれない?」

「分かりました」

笑顔で請け負ったさつきに青子が微笑む。

「じゃあ、また」

「はい。あ、名前を聞いてもいいですか?」

「私? 蒼崎青子。こっちの世界だと魔法使いって呼ばれてるわ」

「魔法使い?」

「ええ、魔術師のぶっ壊れたクラスくらいに思っておけばいいんじゃないかしら」

ニコニコしながら青子がその場を後にした。

数分後、廃工場の外に出たその足で青子が再び廃工場内部へと戻る。

「あ! 青子さんですか? 待っててください。今、呼んで来ます」

さつきは【前日の来訪者】である青子を見つけるとそのまま廃工場の奥へと引っ込んでいく。

「さて、と。どうなる事やら」

青子が微笑む。

 

空には僅かに欠けた蒼い月が冴え冴えと輝いていた。

 

廃工場の奥から彼が姿を現す。

 

「・・・貴方が『決闘者』?」

 

彼が何も言わずに工場の外へと向かう。

 

それに青子も従った。

 

工場から数十メートル離れた路地裏。

 

彼がようやく背後を振り向いた。

 

「へぇ、どんな色物かなーって思ってたんだけど、結構普通なのね」

 

ある意味失礼な物言いに彼は何も言わず目の前の魔法使いを観察する。

 

「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」

 

彼がコクリと頷いた。

 

「この世界を・・・こんな世界にしたのは貴方?」

 

彼がいつものデッキ・・・ではなく。

 

己の懐から一枚のカードを取り出す。

 

「それ・・・なのね? こんなにも交じり合う・・・いいえ、まるで【融合】したみたいな―――」

 

彼は目を閉じる。

 

「―――【私の知らない時間軸】を生み出してるのは・・・」

 

青子の言葉に彼はカードを上空へと投げた。

 

二人の中間地点でカードがピタリと制止する。

 

「あのジジイは言ってたわ。この【時間軸】の原因は魔法じゃないって」

 

月明かりに映し出される青子とは対照的に彼の顔は影になって見えない。

 

「今、此処にいる私が帰るべき時間に貴方みたいなイレギュラーはいなかった」

 

彼がいつでもしているトレードマークを、帽子をそっと取って路地裏に落とす。

 

「これからの五百年分を調査してみたけど、貴方みたいなカードゲームの英雄なんて、どの時代にも存在しない。消されたとか修整されたとかじゃない。最初っから私達が辿る時間軸や平行世界にはいないのよ」

 

路地裏を冷たい風が吹き抜けていく。

 

「私とジジイが管轄してない魔法関係かと最初はジジイも思ってたらしいけど、聖杯戦争ってところで引っかかって調べてたわ。そりゃ普通は分からないはずよね。だって・・・【英霊の座】は時間や世界の外側にあるんだもの」

 

彼が己の腕にデュエルディスクを具現化した。

 

「まさか、聖杯どころか英霊の座そのものを汚染。いえ、掌握してるなんて・・・どんな世界のどんな時間軸で貴方が英霊の座に取り込まれたのかは知らないけど、大したものじゃない」

 

彼は沈黙したまま己の目の前にいる魔法使いを見つめる。

 

「あの聖杯が汚染されてるのは調査結果で知ってるわ。貴方がその聖杯戦争の凄惨な結末を変えたのも知ってる。でも【抑止力】を止めてまで貴方は何をしようとしているのかしら?」

 

デッキがディスクにセットされた。

 

「それに此処は・・・私が帰ってきたかった時間じゃない」

 

彼がそっと目を開く。

 

「・・・・・・」

 

「そうね。自分の事は棚に上げて他人の事をとやかく言うなんて理不尽な話かもしれない。でも、それでも思っちゃったんだからしょうがないじゃない」

 

青子が拳を握った。

 

「この時間軸を解消し、本来あるべき姿に戻して【抑止力】を再び稼働させる為、私は此処に来た。貴方の答えを聞かせて【決闘者】のサーヴァント」

 

彼のただ己のデュエルディスクを突き出す事でのみ意思を示した。

 

「分かった。やりましょう―――貴方が私の魔法を知って尚勝てると思っているなら」

 

「・・・・・・」

 

彼は言った。

 

Duelに不可能など無いと。

 

「行くわよ!!!」

 

戦いが始まる。

 

世界に存在する本当の奇跡。

 

魔法。

 

それを操るはマジックガンナー蒼崎青子。

 

刻を操る魔術師。

 

敵はあらゆる意味で理不尽の塊。

 

それを知って尚やはり彼は動じてなどいなかった。

 

【Duel!!!】

 

満ち欠ける蒼月の下。

 

「――聴け、万物の霊長」

 

強大な詩が流れ始める。

 

「―――告げる」

 

それは人類が到達した故に発生した魔法。

 

「秩序を示す我が銘において告げる」

 

全てを覆す究極の理不尽。

 

「――全ては正しく」(not.SANE)

 

限界があるかすら怪しい第五の法。

 

「――秩序は、ここに崩れ落ちた」(five timeless words)

 

【第五魔法・青】が発動する。

 

「・・・・・・」

 

彼がデュエルディスクを掲げた。

 

その先の虚空に真実が照らし出され、滞空する。

 

【超融合】

 

それが賭けられた運命(カード)の名だった。

 

To be continued

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