The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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番外編。舞台裏。とりあえずネコの出てこない理由。


番外編「表裏の賽を振る者達」

番外編「表裏の賽を振る者達」

 

白いTシャツにGパン姿のセイバーは最後の一撃を加える為に呼気を整えていた。

その顔にある鋭さに相手は怯え、それを好機と捉えたセイバーが一気呵成に己の切り札の真名を解放する。

「【約束された――】(エクス)」

相手があまりのセイバーの苛烈さに慄いた。

「【勝利の剣―――!!!!!】(カリバアアアアアアアアア)」

セイバーは己の勝利を確信し、気付かなかった。

相手の態度が実は虚構であった事に・・・。

「罠発動【聖なるバリア‐ミラーフォース】!!!」

「な、何という事を!?」

フィールド上の『HC‐エクスカリバー』が一瞬にして破壊され墓地へと落ちていく。

「姉ちゃんて相手の罠気にしなさ過ぎ。もう少しデッキ構築とか戦術学ぼうよ。こんなにやってるんだからさ」

周囲の子供達が同様に頷く有様にガックリとセイバーは自身の敗北を悟った。

 

「また負けたようだぞ。セイバーが」

「別に構わないわよ。命掛かってるわけじゃないもの」

私は一人公園近くのベンチで作業に勤しんでいた。

「それで首尾の方は?」

「もう少しで完成するわ。やっぱり日が高い内に何でもやっておかないとね」

「ふむ。あまり根を詰めないようにな」

「分かってる。それより、そろそろセイバーを呼んできて。移動するわ」

「あい分かった」

私の隣から気配が消える。

すると、すぐに公園に備え付けられているテーブルの上でDuel三昧だったセイバーが慌て出した。

「まったく。最強の戦士も百戦錬磨の子供(Duelist)の前じゃ形無しね」

私は空を見上げる。

晴れ上がった日差しがこの季節には珍しくジリジリと照り付けていた。

「はぁ・・・」

間桐の老怪を逃がしてから数日。

アサシンを味方に付け、ようやく戦力的には整いつつある時期。

それは油断と慢心が忍び寄ってくる頃合でもある。

故に私は次の戦いに備えて冬木の地に様々な仕掛けを施す事とした。

生活圏内と思われる場所。

戦いの主戦場とするべき場所に近頃の努力の結晶であるカードを配置し、魔力を注ぐ。

簡単だったが、それ故に街中のいたる場所に貼り付けられる為、その作業量は半端ではない。

最も戦いにおいて大事なのは下準備。

魔術師ともなれば、切り札を幾つ持っておくか、効率的に運用するかを悩むのは普通だ。

【決闘者】の力の一端を借り受けているという自覚の下、私は彼が残したカードから彼のようにDuel以外でもカードを使えるよう研究した。

その成果は着々と実りつつある。

「・・・よし」

気合を入れて、立ち上がるとセイバーがこちらにやってきた。

「凜。設置は終わったのですか?」

「ええ、後は橋の近くと港付近だけよ」

「そうですか。では、出発しましょう。アサシン、貴殿はどうする?」

「とりあえず家の護衛に回るとしようか。この分では戦闘の可能性も低いだろう」

「そうね。そうしてくれる。小次郎」

「了解した」

声しか聞こえないアサシン・・・小次郎の気配が「では、先に戻っているぞ。主」と言い置いてからフッと消える。

もうその場に気配は微塵も残っていない。

「それじゃ、行きましょうか。セイバー」

「はい。凜」

「あ、姉ーちゃん帰るのか? またなー!!」

ブンブンと手を振ってくる子供達にセイバーは笑顔で手を振り返す。

私は微笑ましい気持ちになりながら公園を出た。

「・・・・・・」

しばしの沈黙。

穏やかな顔のセイバーを見ていると「あの日」の事が嘘のようにも思えた。

「私の顔に何か付いていますか? 凜」

「あ、いや・・・何かセイバーも変わったわよね。だって、最初はあんな風に子供と遊んでるところなんて想像付かないくらい・・・何ていうか、張り詰めてたから・・・」

セイバーが何か驚くような顔をして、オロオロし始める。

「い、いえ!? わ、私はそんな!? こ、子供は無邪気なものですから、凜の張ったカードを勝手に剥がさないようにとですね!!」

思わず私は頬が緩むのを感じる。

「いいわよ。別に言い訳しなくても」

「い、言い訳では!?」

「はいはい。あ、でも、あんまり子供に対して大声上げたりしちゃダメよ。さっきの掛け声とか通りすがりの人がギョッととしてたし」

「す、すみません・・・」

すっかり借りてきた猫のように萎縮するセイバーに・・・やはり、私は変わったなという印象を持つ。

こんなセイバーをきっと聖杯戦争が始まった頃の私は想像できなかったに違いない。

「ねぇ、セイバーは・・・衛宮君の事どう思ってるの?」

私は思わずそう聞いていた。

「と、唐突にどうしたのですか。凜?」

「ん、ちょっと一息付いた感があるから。そういうの聞く機会も無かったのを思い出して・・・」

「その・・・それはマスターとしてという事ですか?」

「そうね。それもあるかな」

セイバーがちょっと考え込んだ。

「・・・ハッキリ言えば、シロウはマスターとして未熟だと思います」

「うん。でも、まだ言いたい事があるんじゃない?」

セイバーは頷いた。

「ええ、確かにマスターとして未熟で、人としても発展途上ではあると思います。ですが・・・シロウは私に無いものを持っている。そして・・・私とは違って後悔など無い人生を送っている」

「そう? この間ももっと魔術磨いてればなぁとか嘆いてたけど」

「それは・・・問題の本質ではありません。誰でも人生において失敗はするでしょう。ですが、それにも限度がある」

セイバーが何処か遠い目をしていた。

何がセイバーにそんな目をさせるのか。

私には分からない。

たぶん、聞いても容易に教えてはくれないだろう。

「衛宮君て確かに何事もそつなくこなす印象よね」

「確かにそうかもしれません」

「それに比べてセイバーは・・・まぁ、人それぞれって事で」

「む!? 凜!! 今、物凄い勢いで何かを諦めませんでしたか!?」

「掃除出来る?」

「そ、掃除くらい出来ないわけがない!! 私にだって箒くらい使えます!!」

「料理出来る?」

「りょ、料理とは料理人が作るべきものであって、お、王たる身がするべき事では!!?」

「洗濯出来る?」

今まで狼狽していたセイバーが何やら余裕を取り戻した。

「水に関しては加護ある身です。畏れる物など何もありません」

「ちなみに桜は全部出来るわよ」

「ど、どうして此処で桜の話が出てくるのですか!?」

「ちなみに私は一人で住んでたから全部出来るけど」

「う・・・凜、一体何が言いたいのか私には分かりません」

立ち止まる。

「凜?」

「セイバーはさ・・・考えた事ある?」

こちらの真剣さを感じ取ってくれたのか。

セイバーは今までの佇まいを正して真剣な顔で聞き返してくれる。

「何を?」

「この聖杯戦争が終わった後の事」

「―――聖杯戦争が、終わった後?」

考え付きもしない言葉だったのだろうか。

セイバーは少しだけ沈黙した後・・・あの、レインコートを着て教会へと行った日のような表情で私を見た。

「私は・・・この聖杯戦争が終わって、聖杯を手にしていたら・・・もう此処にはいないでしょう」

「そうなんだ?」

「はい」

その真剣な瞳に、嘘が一つもない瞳に、何故か・・・聞かずにいようと思っていた事を私は思わず聞いていた。

「セイバーは聖杯に何を願うの?」

その沈黙がどれだけの時間だったのか。

長かったのか短かったのか、分からない。

ただ、セイバーはハッキリとこちらの目を見て言った。

「嘗て、私は王となった。そして、私の国は滅びた。故に私は・・・私が王とならない世界を聖杯に望みます」

「それがセイバーの望み?」

「はい。それが私がサーヴァントとなった理由です」

肯定。

「・・・セイバー」

「何ですか? 凜」

私は再び歩き出す。

川沿いの道に入ったら涼しい風が吹いていた。

「聖杯が、もし手に入らなかったらどうする?」

「・・・その時は新たな聖杯を求めて、新たな争いに身を投じる事となるでしょう」

振り向くと、その顔はあの日のものとはほんの少しだけ違っていた。

あの日のセイバーならば、きっと何の躊躇もなく言い切ったはずで、だから・・・私は少しだけ嬉しくなる。

「ねぇ、一つお願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら」

「私に出来る事であれば」

「・・・いつか、衛宮君にも貴女が聖杯戦争に参加する理由を教えてあげてくれない?」

「何故ですか?」

私は横にあったベンチに座り込んで空を見上げる。

「ただのお節介よ。やっぱり勝負は平等じゃないとね」

「勝負とは?」

「分からない人には教えません」

私は溜息を吐いて、セイバーを見る。

本当にどうしてこうも自分の周りには鈍感だったり、疎かったり、応援したくなるような奴ばかりいるんだろうと思いながら・・・・・・。

「もしも、あいつがいなかったら・・・私だってどうなってたか分からないんだから・・・」

「???」

しばらくの休憩を挟んで、私とセイバーは再び歩き出した。

 

それは此処ではない何処か。

今ではない何時か。

夢の如く儚く在る世界。

Duel。

そう声が響いては多くの【彼】があらゆる敵を前にしている映像が虚空に映し出されていく。

無限に連なっていく場面(シーン)を見ている者は老若男女を問わない。

Duel。

Duel。

Duel。

Duel。

何処までも何時までも続く【彼】の姿を等しく全ての者は畏敬を持って見つめている。

頑張って。

負けないで。

絶対勝つよ。

彼らの中から時折、祈るように願うように愛するように言葉が生まれる。

負けたら承知しないわよ。

もう、何やってるんだか。

君はその程度ではないはずだ。

彼らの言葉にあるのは親愛であり敬愛であり友情でもある。

良かった。

まだまだ。

負けるわけがありませんわ。

世界に連なる【彼】の姿は無限に続く。

時に巨大な蜘蛛を相手に死闘を繰り広げ、時に六人の姉妹を相手に極限を越え、時に天地を割る剣を前にして怯みすらしない。

人が滅ぼうとする世界を巡り、時間すら超越し、記憶すら失って、それでも彼は旅をした。

永劫。

永久。

そんな存在を擦り切れさせる夥しい時間を押して彼は往く。

その度に彼は多くの仲間を、愛する者を、友を得た。

失われていくモノを惜しみ見送って、彼はやはり歩き続ける。

「にゃにゃー。これはまた劇場版も真っ青な展開というか何というか。つーかぁ・・・此処何処?」

白い猫型生物がひょっこりと無限に連なる映像の一角からニョッキリ生えてボトリと落下する。

「うお!? ワックス全開っぽい滑り心地にあたしもウットリ・・・さ、帰るか」

さっそく飽きたらしく。

そそくさ服の埃を払ったネコ・アルクが歩き出そうとして気付く。

「ん~~~こいつどっかで見た事あるようにゃ無いようにゃ・・・何処だったかにゃー?」

映像の一コマを見て首を傾げ、傾げ、百八十度程傾げ。

「あー、そういや、あたしの類似品(とても良く似た品があります)辺りから電波受信してたようにゃしてないようにゃ・・・まぁ、マジカルアンバー並みにどうでもいい話だったような気がするのでやっぱ帰るかにゃー」

己が出てきた映像にギュムッと体を押し付けたネコ・アルクが気付く。

戻れない。

「あり・・・?・・・これはあれかにゃー。RPGで言うところの【どうかこの世界を救ってください。さもなければ帰れません】的な・・・ふ、ふふふ、まさかニャー・・・こんな非力な白猫捕まえてRPGやらした日にゃ世界なんぞ一つも二つも滅ぶってモンじゃねーの? つーか、あたし基本的に世界の半分は貰う主義だし」

ひょいっと映像から離れて辺りを見回したものの、映像に見入る人間しかいない事を確認し、猫型生物がガクブルし始める。

「えーつまりあれですか。お前なんぞ本編に出してやらねーよ。というか、類似品はあっちの方が面白いし?」

何処からともなく大正解とでも言いたげな擬音が響いた。

「にゃにゃにゃ、ご冗談を・・・」

左右前後上下を見回したネコ・アルクがダラダラと冷や汗を流し始める。

「さ、帰るかにゃー。早くしないとGCVのエリート猫に実権乗っ取られるしにゃー」

ギュムっと映像に入れなかったネコ・アルクの何処かの回路がプチリと切れた。

「・・・入れるのを探せと・・・にゃにゃにゃ、ご冗談を・・・にゃニャアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

数分後、無数の映像に体当たりをかましてボロボロになった猫型生物の姿はもう見当たらなくなっていた。

「ふぅー。これで一安心。あんなのが乱入すると色々と問題ありまくりですからねー」

如何にも怪しいですと言わんばかりのフードを被った若い少女が箒を持って映像の一つを見つめる。

その中では今さっき映像に戻っていったネコ・アルク(類似品が多数存在します)が瓜二つというか左右が逆なだけの己に驚きつつ不毛な争いを始めている。

『大気圏突破エンド以外を望んだら、己が己のキャラを食い始めてdieピンチ!? 二匹も同じのいたらもはやキャラ崩壊どころの話じゃにゃいんじゃね? 実際』

『これは猫を忍ぶ猫の姿!? しかして、その実態は色違いですらないあたしという現実!? これが所謂ドッペルゲ――』

『そんにゃのはあの黒いので沢山だと言っておこう。あたし』

『にゃにゃにゃ、動きが逆なだけの贋物(フェイク)にあたしが倒せるかにゃ』

「勝手に盛り上がってるみたいですし、当分は放っておきましょうか。気にしてるのは小さい子だけみたいですし」

反対側にある映像の一つでは何故か中華っぽい服を着た拳法使いの少女が「あのネコこの頃見ないけど・・・まさか病気とか?・・・無いか」と呟いている。

「あはは・・・誰も気にしてないみたいですね。それじゃ、あっちが全部終わるまではそこで大人しくしててください」

映像の中で互いにクロスカウンターの拳をもろに喰らってダブルノックダウンする白い猫型生物二匹を横目に箒に跨って怪しい少女は飛んでいく。

「後は任せましたよ・・・【決闘者】」

映像の一つには今正に戦おうとしている彼が一人。

刻を操る蒼い魔法使いを相手にカードを引いていた。

 

そんな彼の映像を見る者がまた一人。

 

負けんじゃねーぞ。

 

そのエールが届いたかのように彼は微かに拳を握った。

 

To be continued for struggle day.

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