The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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行間を開けるなどの直しはしていないのですが、一定数投稿した後に直す事になるかと思います。


第三十一話「専任者の失踪」

第三十一話「専任者の失踪」

 

とある事情から新築二階建てとなった衛宮邸の居間でワラワラと衛宮家の人々はそれぞれ微妙な表情でその客人を見つめていた。

最年少の元マスターの少女イリヤフィールは僅かに冷たい表情で。

そのお付であるメイド、セラとリズは仕事モードで寡黙なまま。

今は完全に居候である間桐桜は空気の悪さにオロオロした様子で。

部外者を決め込んだアサシン佐々木小次郎はお茶を啜りつつ縁側で日光浴と洒落込んでいる。

「・・・・・・」

真面目に客人と向かい合っているのは家主の衛宮士郎と彼に魔術を教えてやはり居候している遠坂凜。

士郎のサーヴァントであるセイバーと主である桜の代わりのように正座して相手を見据えるライダーだった。

「で、色々と事情を聞かせてもらいたいんだけど」

カードの力でほぼ回復した凜が単刀直入に切り出す。

「分かりました。こちらも聞きたい事が多くある。此処は情報交換と行きましょう」

「貴女ねぇ。この状況分かって言ってるの?」

呆れた様子で溜息を吐く凜に客人バゼット・フラガ・マクミレッツは【両腕】でお茶を啜りつつ、出されたお茶請けの饅頭を一口で平らげた。

「セイバー、ライダー、それにもう一人。更に小聖杯が二つ。戦闘用のホムンクルスが一体。魔術師とその卵が一人・・・十分な戦力だ」

サラリと己の本質を当てられたイリヤと桜が表情を硬くする。

凜も目を細めたものの話を続ける。

「アサシンの襲撃時にも色々と知ってる風だったけど、一体アンタは何なの?」

「協会の執行者と名乗ったはずです」

「そんなのが聞きたいわけじゃないわ。あんたはどうして私達の事を知ってるのかって事を聞きたいのよ」

「・・・貴女達の幾人かとは戦った事がある。セイバー、ライダー、遠坂凜、間桐桜、イリヤスフィール」

その場の全員が思わず固まった。

「戦った・・・?」

凜の不可解そうな顔にバゼットが頷く。

「ええ、私の願いを叶えてくれていた聖杯の力によって」

「ちょ、ちょっと待って!?」

慌てて凜が遮る。

「聖杯? 願いを叶えるって・・・まだ聖杯戦争は終わってないのよ!?」

バゼットが数瞬逡巡して目を細める。

「・・・・・・やはり、【此処】は・・・」

「何よ。【此処は】って意味深だけど・・・」

「貴女は・・・未来から私が来た、と言ったら信じますか?」

「え・・・?」

【心当たり】が直接的な映像となって凜の脳裏を駆け巡った。

「私はこの聖杯戦争が終わった世界からやってきた・・・」

その場の誰もがバゼットに視線を向けた。

「いや、もしも私の予測が正しければやってきたのは私ではなく【私の世界】なのかもしれない」

意味が上手く飲み込めない者達の中。

一人だけその意味に戦慄した凜は己のサーヴァントの事を思い出す。

未来の英霊。

決闘者と名乗る彼は確かにそう名乗っていた。

 

「やれやれだぜ・・・」

一人花屋の店先でモップを掛けていた長身の男が溜息を吐いた。

その二枚目の顔はだらけた様子なのだが、男の立ち方には品格と言えるものが宿っているせいか愛嬌の一端として見えなくも無い。

「槍は見付からねーわ。金ぴかには目付けられるわ。挙句に待機命令と来た・・・飼い殺しかっつーの」

愚痴った男ランサーが人も来ない店先で只管モップを掛ける。

「それにしてもまさか金ぴかはあいつのサーヴァントだったとはなぁ。はっ、オレは最初っから切る気満々じゃねーかよ・・・」

普通の人間ならば瞬殺も可能な英霊をただただ遊ばせておく程に余裕があるのか。

あるいは戦力的には金ぴか一人でも十分なのか。

それとも温存か。

どれにしろランサーにとっては面白くない話ではある。

「ちっ・・・」

思わず舌打ちしたランサーの腕に力が入り、ポキンとモップが中央で折れた。

「あ!? やっべ!?」

イソイソと店の奥にあるロッカーへとモップが持っていかれる。

その扉が開くと中には折れたモップが山となっていた。

「・・・はぁ、また給料から棒引きかよ」

【すいませーん】

「あーはいはい。ちょっと待ってな」

モップをロッカーに入れて店先に戻ったランサーが見たのはまだ若い学生くらいの男の客だった。

妙に着ている制服が擦り切れている以外は何ら魔力もない一般人。

女の客ならば速攻でサービス精神を発揮するラテン気質もさすがに男相手には発揮されない。

「でー何をお求めでしょうかお客様ー」

思いっきり棒読みの台詞に怪訝そうな顔をした男が多少思案した。

「・・・女に送る花を探してる」

「女? お、おお? まさか・・・告白かい?」

ニヤリとしたランサーだったが男が首を横に振る。

「そんなんじゃない。ただ・・・・・・・」

何やら葛藤しながら言葉を選んでいるらしい男が顔を上げる。

「いや、ただの贈答用だ。綺麗で馬鹿でも喜ぶようなのなら何でもいいさ」

妙な客の注文にランサーは首を傾げるものの、すぐに物言いから男の捜していた言葉を理解する。

「はは~~ん。さては喧嘩して仲直り用か?」

「な、何だっていいだろ!?」

ニヤニヤとりあえず適当にランサーが華を見繕った。

「ほらよ」

一輪の花を紙に包んでランサーが渡す。

「はぁ!? 何で一輪なんだよ!!?」

「ふ、オレの人生経験から言って大きな花束なんざ愚の骨頂よ。こういう時はな。悪かった!と一輪差し出して頭下げりゃ一発だって!!」

「ちょ、だから違ッ!?」

「はい。三百四十円毎度あり~~~!!!」

「オイ!? 人の話聞けよ!!!?」

「浮気すんなよ~~」

すでに出されていた千円を奪い取ると釣銭をサッと渡してランサーが男の背中を押す。

男がその力の強さにつんのめった。

「クソ!? どうしてこういつもいつもいつも僕の周りは人の話をろくに聞かない奴ばっかりなんだよ!!!? 呪われてるのか?!!!」

盛大に喚いたものの、それで何が変わるわけでもない。

「理不尽だ・・・」

早足に店から離れていく背中にランサーはこの世の変わらなさを感じた。

遥か未来。

もはや己が伝説に成り果てて殆どの人間がそれすら知らない極東の異国で顕現した。

それでも人は生きていた。

生活様式や常識や価値観が変わっても、変わらず営みは続いている。

無論、幾ら守りたいと願っても、手から零れ落ちていく物が多くあるのだとしても。

(槍も無くしてバイト三昧。はは、これが英霊の末路とは・・・皮肉なもんだ・・・だが・・・)

【すみませ~ん】

今度は女性の声。

「今すぐ行きますんで!! ちょっとお待ちを!!」

本質的に英霊となった者には戦いが付いて回る。

それでも一つだけ確かな事をランサーは感じていた。

(槍を持つより花を持つ方が安らぐなんざ・・・案外こっちの方が向いてたのかもなぁ・・・)

馬鹿な話だった。

槍を握らぬ限り、心の何処かが満たされない。

それが真実だと言うのに・・・そう理解してすら一時の安寧はそう錯覚させる。

「あの~~」

「あ、やっべ」

芳しい世界の中で今日もランサーは花を売る。

向いていないと知りながら、終わりが来るまで微睡みに浸っている事を選んで。

 

「罠(トラップ)カード発動(オープン)【威嚇する咆哮】」」

清水の染み出した岩穴の岩壁にそんな言葉と強大な獣の雄叫びが響き抜けていた。

相手の攻撃宣言を封じる一枚が穴の奥――無数に存在する瞳達を押し留める。

コツコツ。

そんな音をさせて歩いていく者が一人。

本来、決闘者や決闘者に選ばれた者以外に使えない力。

それをサラリと使いこなしたのは果たして何者か。

銀色の髪、黒い衣装。

装いは何処か娼婦のような淫靡を纏う。

だが、その冷めた瞳はそんないでたちとは裏腹にまるで何も読み取れない。

「協会から齎された技術だと聞きましたが相応に使えるようですね・・・」

コツコツ。

コツコツ。

コツコツ。

獣達の間を抜けて進んだ先。

巨大な空洞に声の主は出た。

仄か先で輝くのは聖杯戦争を動かす一つの式。

魔法によって形作られた一人の女の成れの果て。

【大聖杯】

しかし、本来ならば【魂の物質化】によって維持されているはずの其処には異なる力が溢れていた。

燐光を纏い浮かぶモノが十数枚。

【シューティング・クエーサー・ドラゴン】

【究極時戒神セフィロン】

【H・HERO ゴッドネオス】

【カオス・ソルジャー~開闢の使者~】

【混沌帝龍-終焉の使者-】etcetc.

まるで大聖杯を取り囲むよう虚空に配置されたカード達は緩やかに回りながら場を支配している。

「大聖杯の変質を確認・・・これが聖杯戦争が変化した原因・・・」

カードの一枚に近付いて思わず触ろうとした声の主だったが、不意に現われた背後の気配に手を止めた。

「止めておいた方が無難ですわ」

振り返った先にいたのは豪奢な金髪縦ロールの髪型をした女だった。

そのドレスの布地は上等で、暗い洞窟の中で見るのは場違いな感がある。

「貴女は・・・?」

「わたくしは番人。いえ、守護者と言うべきかしら」

「守護者?」

「ええ、【彼】に任されていると言えば分かりますか?」

「・・・・・・貴女の名は?」

「ほほほ、タックル好きな淑女とでも呼んでくださいな」

「・・・・・・」

「何だか今回は乗りが悪いですわねぇ。シェロとまだ出会っていないからとはいえ・・・ま、今度までに【彼】に進言してみましょう」

「一ついいですか?」

「ええ、わたくしが答えたい事なら何でも」

「貴女はこのカードが何なのか知っていますか?」

「無論ですわ。でも、その問いの本質的な部分に答えられるような詳細な知識はありませんの。強いて我々魔術師の言葉にするなら、このカード達は・・・根源に到達する過程を現す一面・・・そういう事になるかもしれません」

「根源に?」

「この時点でもう教会が動き出したという事は宝石爺が動き出したという事。でも、彼以外ではたぶん第五魔法の使い手しか変化に侵蝕されていない存在は皆無。今までの蓄積があったとしても並行世界や過去と未来を渡る者には複雑怪奇でしょう。根源に触れた者ならば尚更に・・・」

タックル好きな淑女の言葉を半分も理解できない声の主はしばらく沈黙した。

「さ、今日はもうお帰りなさい。【今回】もう二度と来る事はないでしょうけれど」

「帰れと言われて帰る馬鹿はいません」

「戦って勝てる賞賛がお有りかしら?」

言われて教会からの使者は己の技量で目の前の存在に勝てるか思案する。

一秒で答えは出た。

「・・・分かりました。このまま戦った所で貴女には勝てそうもありません・・・ですが一つだけ・・・」

「何ですの?」

「私達は会った事はないはずです。ですが、貴女は私の事を知っている風だった。どうしてですか?」

しばし、その言葉に答えは返らなかった。

「・・・いつか出会った事もあった。そう、それだけですわ。例え貴女が覚えていなくとも・・・シェロがわたくしの事を知らなくとも・・・わたくしは覚えている・・・」

意味不明の言葉は何故か物寂しさを湛えている。

「運命が留まった夜を幾つ越えようと・・・この円環より離れて【彼】の理想を手伝うと決めた・・・きっと、それは今も正しかったと・・・わたくしは信じています」

フワリと浮いたように見えたドレスが闇に解けて消えた。

「・・・・・・」

それを見送って今までの話を整理しながら彼女は洞窟を後にする。

外に出て振り返って眉根が寄せられた。

 

――――――何も異常は無かった。教会の情報が間違って・・・?

 

今正に膨大な数の異常を見つけたはずである。

そう、だったはずだ。

しかし、その【記憶】は保持されていなかった。

異変無しという教会への答えを手に入れて、彼女は再び冬木の街へと戻っていく。

聖杯戦争を監視しているはずの前任者が失踪してしまった為、急遽赴任してきたシスターは一人山道を急いだ。

 

ようやくその家に辿り着いた男が紙に包まれた一輪の花を見つめながら玄関先で難しい顔をしていた。

そも男にとって其処は見慣れた場所だ。

そう、決して遠慮するような事などないはずの場所だ。

しかし、恐怖と緊張と見栄と僅かばかりの自尊心がうねりとなって男の足を止めていた。

どうやった所で感動の再会になるはずもない。

敵として別れたのだ。

もはや関係ない他人と言っても過言ではない。

実際、男は今から会いに行く人間を許したわけではない。

それどころかかなり憎い。

だが、それで何が解決するわけもない。

「クソ・・・」

どうして会いに来たのか。

【間桐桜に死ぬかもしれない未来が待ち受けている】

そう事情を知っているらしい者に聞いたからだ。

死ぬ前に一度は文句を言ってやりたいと思ったのだ。

ただ、それだけだ。

それだけのはずだ。

ならば、何を迷う必要があるのか。

(ああ、もう!? どうして僕がこんな事で悩まなきゃならないんだよ!!!?)

いい加減足を止める事にイライラしてきた男が思い切り玄関を開け放とうとした時だった。

【そんなの、あ、在り得ないわ!!!】

「?!」

ビクリと男の手が止まる。

その声は嘗て男が思いを寄せた女の声だった。

【だって、そんな!? そんなの!? それじゃ、此処にいる私達は・・・一体どういう存在だって言うの!?】

【今の私に推測できるのはこの世界が重なっているかもしれないという事だけです】

【!?】

【私が知る事実がこの世界では幾つか重ならない。それを認識しているのが私だけという事は私の誇大妄想という可能性もありますが、実際には腕と共に令呪が残っている】

【ぐ!? そ、それは・・・】

【正規の参加者である事の証明が存在しているにも関わらず・・・私のサーヴァントは奪われ、聖杯戦争が続いている。ランサーを従えているという事は言峰綺礼が明らかに令呪を使っているという事。ならば、此処にある私の腕の令呪は何なのかという事になります】

【それが令呪なのは認めるわ。でも、だからってそんな突飛な話・・・それに綺礼がそんな事してるなんて・・・】

【あの四日間は閉じた円環・・・未知を既知に置き換えていく事で可能性の全てを提供する聖杯だった。だが、聖杯が無いにも関わらず、この今には幾つもの奇跡がある】

【何の事言ってるのよ・・・】

【彼が残してくれたものの中には聖杯に焼べられた者達の記憶が残っている】

【記憶?】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。バーサーカーを撃破され英雄王ギルガメッシュに心臓を抉り出され死亡】

【!?】

【間桐桜。ライダーのマスターとなるも冬木市の全てを黒の聖杯として喰らい尽して完成し崩壊】

【?!】

【遠坂凜。キャスターに囚われた衛宮士郎をアーチャーと共に殺害し、聖杯戦争を制するが聖杯による破壊活動によって消滅】

【な!?】

【他にも様々な死因や原因で貴女達は聖杯戦争終盤までに死ぬのが殆どだ】

【む、矛盾してるじゃない!!? それが私達の未来だとしても全然違う未―――――!!!?】

【気付きましたか? そう・・・私はさっきから言っているはずです。『世界が重なった』と】

【その・・・言ってる事がよく分からないんだが・・・】

知っている男の声が割って入った。

【衛宮君。この女は未来から来たって言ってたわよね?】

【あ、ああ、それで未来が重なってるとか何とか・・・】

【違うわ。正確には『世界が重なった』って言ってるのよ】

【遠坂・・・ごめん・・・良く分からない】

【つまりよ。この女が言ってるのは全て別の未来。でも、重なってるのは過去と未来じゃなくて世界なの。例えば、衛宮君がセイバーと会って無い世界と会ってる世界が重なったりしたらどうなると思う?】

【えっと、どうなるんだ?】

【ああ、もう!! 鈍いわね!!?】

【ええ!? 何か凄い理不尽だぞ!?】

そこに幼い声が言い聞かせるように割って入る。

【シロウ。シロウが例えばセイバーと恋人になった世界があったとして、いきなりセイバーから貴方は私の恋人じゃないって言われたらどうする?】

【な、イリヤ!? その例えはどうかと・・・】

【いいから、答えて】

【え、いや、その・・・もしそんな事になったら・・・悲しいな】

【でも、それがもしも嫌われてるんじゃなくて、実際にシロウの知ってるセイバーじゃない別の世界のセイバーだったならどう?】

【別の世界のセイバー?】

【そう。恋人じゃない世界のセイバーにしてみたら、いきなりキスしたりしてくるシロウに驚いちゃうと思わない?】

【ま、まぁ・・・例えはアレだけど・・・そうだな。知らないのにそんな事されたら驚くよな・・・】

【今、この執行者が言ってるのはそういう事・・・此処にいる全員が別々の世界の存在が重なってるんじゃないかって言ってるのよ】

【別々? でも、オレ達に記憶の齟齬とか無いよな?】

【うん。でも、重なってるのが記憶じゃなくて世界の方だとすれば・・・それは当たり前なのかもしれない】

【当たり前?】

【だって、世界は一つなのに大きな『齟齬』があったら因果が成立しない。滅茶苦茶になっちゃうもの。そういうのが修整されてるのだとすれば・・・私達は不都合な記憶が無い状態にされてるのかもしれない】

【・・・・・・】

【そう考えれば、今私が生きてる不思議も少し説明が付く気がするの】

【え・・・?】

【本来なら私・・・高確率で死んでてもおかしくないわ。でも、生きてる。桜だって闇に囚われたまま聖杯になって沢山の犠牲を出してたかもしれない。ライダーだってアサシンだってセイバー相手に勝てなかったら消滅してる可能性は大きい。シロウもリンも黄金の鎧を着た英霊の力は見たはずよ。もし『彼』がいなかったら、そこで私達は全員死んでたかもしれない・・・】

【イリヤ・・・】

【こう考えてみて。私達一人一人が実は生き残った未来を持っている自分だったらって】

【生き残った未来・・・】

【もう生き残った事が確定してる世界が重なってるから、この世界でも私達は辻褄合わせに中々死ねないって】

 

「・・・・・・・・・・」

 

玄関前で一人声に耳を傾けていた男はその場を離れた。

頭の中で様々な言葉が巡る。

しかし、多くの考えが泡沫のように消えていく。

ただ、一つだけ思考に残ったのは一人の英霊の言葉。

【間桐桜に死ぬかもしれない未来が待ち受けている】

その言葉はまるで呪いのように男には思えた。

イレギュラー。

決闘者。

本来は無いはずのクラス。

そんな存在が預言したのだ。

先程の話が真実かどうかなど分からない。

だが、男には何かと心当たりがある。

近頃よく見る夢。

その中で様々な死に方をする自分を見る事がある。

それと同時にどうしてか。

優しげな妹と仲良くしている事もある。

ただ・・・その笑顔は何故かあまりにも悲壮で・・・どうにかしてやりたいと夢の中の男はお人よしにも思うのだ。

(あの野郎何か知ってるのか。もう一度帰って・・・いや、それで間に合うか?)

ブツブツと呟きながら男は不意に自分が何処にいるのか悟った。

いつの間にか教会の前に来ていた。

「・・・・・・・・ああ、クソ。僕がこんなに愚かだったなんて反吐が出る」

もし何か間桐桜の死の原因があるとすれば、男には二つの理由しか考えられなかった。

一つは間桐桜の祖父。

間桐臓硯。

そして、もう一つは聖杯戦争の裏で暗躍しているらしい男。

言峰綺礼。

教会の扉が開かれる。

「これはこれは・・・出奔したと思っていたが、帰ってきたのかね? 間桐慎二」

荒廃した小さな世界。

その最中に男はいた。

慎二が目を細める。

「・・・あんたも大概だな。こんなクソみたいな戦争を裏から嘲笑って何が楽しいんだ?」

「何が楽しいのか? ははは、まさか君にそんな事を言われるとは・・・」

「何が言いたい?」

「君が帰ってきたという事は大方復讐の為ではないのかね?」

「決め付けるなよ。似非神父」

その言葉に何かを感じ取ったのか。

言峰が薄ら笑いを止めた。

「ふむ? 今の君は何やら前程に私好みではないようだ・・・惜しいが・・・時計の針は戻らないと相場は決まっている。ギルガメッシュ」

【何だ?】

「!?」

教会の奥。

今だ原型を留めている長椅子から優男が一人立ち上がる。

「本命の前に一仕事してもらえるかな」

【・・・我を起こした理由はそれか?】

「教会からの調査が入る前に場の掃除をしておきたい」

【いいだろう】

その手が上げられた瞬間だった。

ドスリと慎二の胸には一本の剣が突き立っていた。

【これで良かろう? 本命が来たら起こせ。我は眠いのだ・・・?】

再び長椅子に寝そべろうとした英霊がピタリと止まった。

同時にもうそちらを見ていなかった言峰も振り返る。

「・・・・・・」

ギラリと人生の負け犬から放たれる眼光が二人を捉えた。

【ほう・・・雑種にしては面白い力を持っているようだな】

「まさか、それは・・・凜以外にその力を手にしている者がいるとは驚きだ」

興味津々の様子で優男の姿が一瞬にして金色の鎧へと変わる。

笑みを濃くした神父が己の英霊の後ろに下がった。

「クソ・・・だから、戻ってきたくなかったんだ」

剣が掴まれ、引き抜かれた。

その手にはデュエルディスクが顕現している。

「この僕に手を出した。それが・・・お前らの敗因だ」

ディスクから溢れ出す輝きが燐光となって慎二を取り巻き、胸の傷が消えていく。

決闘者の原則の一つ。

決闘以外の傷では死なない。

正にそれを体現して、戦いの合図が叫ばれる。

 

「Duel!!!!」

 

セットされたのは慎二が持つ三つ目のデッキだった。

 

あらゆる強者を、英霊を打倒する為、敗者が組んだ勝者殺しの四十枚。

 

再び聖杯戦争へと舞い戻った間桐慎二にとって己の化身とも言える力。

 

今、英雄王と負け犬の決闘が始まる。


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