The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第三十二話「扇動者の救済」

第三十二話「扇動者の救済」

 

黄金の鎧を着たギルガメッシュと言峰が同時に固まった。

【忌々しい。奴の力そのものではないか】

横柄な態度で鼻を鳴らした英霊にマスターがクツクツと笑う。

「だが、二度遅れを取るようなものでもあるまい?」

余裕の態度。

慎二はギルガメッシュが過去に決闘者と戦っているのだと確信する。

「お前らは・・・お前らみたいな奴はいつもそうだ・・・負ける事なんて考えてもいない」

【戯けめ。弱者とは強者の所有物に過ぎん。雑種が偉そうな口を叩く】

「!?」

ギチリと唇が噛み締められた時だった。

排気音(エグゾースト)が教会の虚空を響き抜ける。

【ぬ・・・?】

扉が内側へと吹き飛び猛獣の如く一台の大型バイクが教会へと突入した。

「な!? ライダー!?」

吹き飛んだ扉が直撃しそうになった言峰が裏拳で頑強な板を弾き飛ばす。

「まさか、ライダーまで現われるとは・・・ここで一端戦力を削っておくのもいいか」

【慎二。やはり玄関先の気配は貴方でしたか。その腕は・・・】

横滑りにマシンを停車させたライダーが驚いた様子で目を見開く。

「邪魔するな。これは僕の戦いだ!!!」

【何がどうなっているのか分かりませんが、あの英霊とマスターを前にして戦える気ですか?】

「う、五月蝿い!!!」

【面倒だな。まとめて来い。雑種と雑魚が束になったところで結果は変わらん】

その挑発というよりは本音なのだろうギルガメッシュの言葉にライダーが眼帯の下、眉根を寄せた。

【人類最古の英霊も地に落ちれば、ただの人のようですね】

【何・・・?】

場の空気が一瞬にして緊迫した。

明らかな侮辱に英雄王の顔色が変わる。

【ああ、気にしないで下さい。女として思っただけの事です・・・悪趣味はいつの時代にも変わらないのだなと】

ライダーの完全な罵倒にギルガメッシュは一瞬呆気に取られた。

その隙にバイクをまるで軽業師の如く回したライダーが慎二の首根っこを捕まえて教会から走り出した。

教会から無数の宝具が飛ぶ、事は無かった。

【言峰・・・】

「何だ?」

【久方ぶりに狩りをしたくなった・・・】

己のサーヴァントの顔を見て、言峰はただ一言を告げる。

【ああ、存分にやるがいい】

教会が吹き飛んだのはその直後。

空へと飛び立つ鋭角なフォルム。

その飛翔体が疾走するバイクに追いつくまで10秒掛かる事はなかった。

 

「おい!? 降ろせよ!!? 僕はまだ!?」

【黙ってください・・・如何に元マスターとはいえ、桜にした事を許した覚えはありません。次に何か言えば川に放り込みます】

「クソ!? どうしてこう誰も彼も人の話を聞かない奴ばっかりなんだ!!!?」

【貴方の言えた事ではありません。慎二】

不意にバイクの前方が爆裂した。

【!!!?】

神掛かったハンドル捌きで衝撃の横を抜けたライダーが舌打ちする。

【(追いかけてくる・・・しかも上空からの追跡・・・この子では逃げられませんね)】

「おい!? 降ろせ!! あいつの狙いは僕だ!!」

慎二の言葉に何故だかあまりの違和感を感じて、ライダーは危機的状況にも関わらず今も片手で捕まえている慎二に見入った。

【・・・貴方は本当に慎二ですか?】

「はぁ!?」

傲慢と虚勢を絵に描いたような存在だったはずの少年。

何も変わっていないように見える元マスターの顔を見て、ライダーは・・・思う。

最初は死なせるのは桜の手前忍びないから連れて来ただけだった。

だが、今目の前にいる者ならば、再び桜に会わせてもいいのではないかと。

空からの複数の爆撃がバイクを追走する。

そして、ついに直撃した――かに思われた。

白い羽ばたきが空に舞い上がる。

【ほう・・・】

獰猛な笑みで上空から宝具を投擲していたギルガメッシュが唇の端を歪める。

「これは・・・!?」

慎二はライダーに抱え込まれるようにしてその白い体に跨っていた。

ペガサス。

空へと駆け上がった幻想種が夕景に溶け込む。

【それが貴様の愛馬か。ライダー】

【貴方の乗っているソレより優秀ですよ。この子は】

【何処までも生意気な女だ。褒美として貴様には永劫の死を与えよう】

 

「まだDuelは終わっちゃいない!!!」

 

滞空し、対峙し、対決する事を余儀無くされた英霊の間に響く声。

正に場違いなソレに英雄王が失笑する事は無かった。

慎二の前に一枚のカードが燐光を伴って現われる。

「ライダー!!! 僕と一緒に戦え!!!」

【ッッ・・・・】

嘗てライダーに卑怯な戦いをさせてきた声が、学校を地獄に変えて戦いに勝とうとした声が、一緒に戦えと元サーヴァントに命令する。

絶対に自分が安全でなければ表側にも出てこなかった臆病者にして桜を悲しませ続けた男。

だが、その個人的に許す事など無いと思っていた男の声にライダーは何かが変わった事を悟った。

【一つだけ条件があります】

手綱を引き締めつつ余裕を見せるギルガメッシュを見据えながら彼女は言った。

「何だよ!!」

【・・・桜に謝ってください】

「ふん。ああ・・・この戦いが終わったら幾らでも謝ってやるよ」

【もし、約束を違えれば貴方を永遠に石とします】

「好きにしろ。クソ」

【では、契約成立です】

ライダーが体に魔力を漲らせる。

「行くぞ!!! フィールド魔法『スピード・ワールド2』発動!!!」

カードが二枚に割れ、一枚は慎二のディスクに、もう一枚はギルガメッシュの飛翔体へと張り付いた。

【ぬッ!?】

―――ライディング・デュエルモード・スタンバイ。

空を駆ける白馬に追走して勝手に己の宝具が動き出した事に一瞬戸惑ったものの、ギルガメッシュはすぐに状況を理解した。

【いいだろう!!! 我を楽しませろ雑種!!!】

「ライディング・デュエル・アクセラレーション!!!!!!!!!」

 

冬木の地に雄叫びが木霊した頃。

三咲の地は再び【あの夜】へと回帰しようとしていた。

都市は既に無人。

夕闇に融けて影が蔓延り始めている。

その中には路地裏同盟の面々も含まれていた。

「今なら何と我輩の影が四つも付いてきてイチキュッパ!! イチキュッパのお値段です!!! シュバルツ・ネロ・ノアール・ブラックの四点セット安いにゃ安いにゃ~~」

気楽なネコ的生物ネコ・カオスがダラダラとななこの頭の上に乗っかりつつ喚いていた。

寝ていたらいつの間にか夜が忍び寄っていて、歩いていたら路地裏同盟の備品二人組みに出会っただけの話である。

「あぅ~~重い~~」

「にゃにゃにゃ。世界には肩代わり出来ない重さというのがあるのですよ。おぜうさん」

「ネコヲショウキャクシマスカN/Y」

「Yで!!? 断然Yでお願いします!!?」

隣を歩いているメカヒスイに懇願するななこだったが、キュイッと機械の瞳が道の先に向けられた。

「アンノウン・ヲ・カクニン」

「ふぇ!?」

驚いたななこがメカヒスイの視線の先に何かがいるのに気付いた。

「ほぅ・・・これはまた数奇なめぐり合わせだ」

「ニャニャ!? お、お前は!?」

「まさか、またこの夜がやってくるとは思わなかったが、因果は何処までも付いて回るようだ」

黒い男だった。

黒いコートに黒い体。

その肉体には紅い輝きが無数に眠っている。

「再び見えるとは・・・あの日、蒐集出来なかった事が悔やまれて成らなかったが、チャンスというのは何処に落ちているか分からないものだ。さぁ、我が一部となるがいい!!」

ネロ・カオス。

666の獣。

もはや消えたはずの死徒。

だが、今正に道に佇む存在は間違いなく彼自身だった。

ゴシャリと肉体の内部から飛んだ黒い鳥がななこの頭の上にいたネコ・カオスの肉体を貫通した。

「・・・少し気が早いんじゃないかね? ルールも知らずにゲーム開始とは・・・」

黒い鳥が上空に羽ばたく。

刺し貫かれたはずのネコ・カオスがいつの間にかネロ・カオスの影の中から現われる。

「あの一瞬でこちらの間合いに入るか・・・」

目を細めたネロがネコと対峙した。

「混沌を旨とする汝に一つアドバイスをしようか」

「ほう? ネコが偉そうに喋る」

「新たな夜には新たな規律が生まれる。全てはただ己の四十枚を持って」

ネコ・カオスの腕にデュエルディスクが顕現した。

「為されるんだにゃー」

「これは―――そういう事か。くくく・・・この死者に鞭打つ所業・・・随分と新たな夜の主は人が悪い」

全てを【理解】したネロ・カオスが腕を掲げると同じようにデュエルディスクが顕現した。

二人のそれは酷く似通っている。

夕日が地平に落ち、消えた。

「「Duel!!!」」

 

彼は一人誰もいなくなった店内で最新弾のパックを漁ると札を一枚カウンターに出して歩き出した。

ペリペリと道すがらカードを補充しつつ、構築を始めた彼が不意に空を見上げる。

今日は逆月。

映り込む世界の情景は破壊に呑まれた都市を曝していた。

膨大な力と力のぶつかり合いにビルは裂け、地は別たれ、虚空は巨大な力で焼き付く。

混沌の狭間には正に新たな夜が迫り、四度目の再演を待ち侘びる正邪の影が落ちていく夕日の下で蠢く。

嗤い声と嬌声は誰のものか。

修羅の巷に錆びてしまった記憶の欠片が沸き上がる。

凍て付いた空気は熱砂に等しく全てのモノの肌を焼く。

待ちに待った夜だった。

終わりが始まる夜だった。

世界が変わる夜だった。

言葉にならない夜だった。

真実はただ一つ。

勝者にのみ越えられる夜である事か。

果てに沈む光がプッツリと途絶えて。

昨日からやってきた者共の宴が始まる。

狂気は正気よりも正常で、臭気は香気よりも芳しい。

そんな沙汰を下す大本は遠方。

人類を保存する一つの保険。

それが目を覚ましたと同時に再び夜は空(ウロ)となって、廻った。

 

―――決闘(Duel)。

 

多くの者を巻き込み、落日が夏を運んで、運命の宿りし夜が始まる。

 

To Be Continued


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