The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第三十三話「諦観者の冀望」

第三十三話「諦観者の冀望」

 

世界最古の英雄ギルガメッシュ。

極東の地に顕現した英雄王自身の能力は比類無き強さを誇るわけではない。

彼の王のアドバンテージと言えるものは二つ。

旧さと原点である。

だから、彼は無類の強さも持ち合わせていなければ、戦闘上の特殊能力(スキル)も殆ど無い。

在るのは彼が王たる証左である莫大な財と全ての原点である故に持ち合わせる莫大な宝具のみ。

【王の財宝】(ゲート・オブ・バビロン)とは宝物庫を開放する事なのであり、彼が負ってきたものの大きさそのものと言えるだろう。

それに比して抗うのは極東の島国で負け犬人生を送っているだけの少年。

例え、どんな能力を持っていたとしても格なんて言葉で表すまでもなく間桐慎二は敗者の二文字を持って戦う前から既に負けていた。

如何に奢ろうとも王。

如何に強がろうと犬。

それが事実だった。

「僕のターン!!! ドロー!!! カードを三枚伏せてターンエンド!!!」

ライディングデュエル。

空を駆けた両者はまるで絡み合うように冬木の地の上を周回していた。

「くくく・・我に楯突くのが貴様のような雑種に落ちぶれた化け物の成れの果てとは久しく感じた事のない侮辱よ。だが、そうさな。あの男と同等の力を持っていると言うなら首程度は我が財で落としてやろう。ゆくぞ!!! 【王の財宝】(ゲート・オブ・バビロン)!!!!!」

ギルガメッシュの背後の空間が輝き出す。

黄昏に向う空に目も眩むような無数の宝具が出現していく。

ある物は龍殺しの槍。

ある物は化け物殺しの剣。

ある物は神を貫きし矛。

どれもこれも英雄を万殺するに足る武器だった。

「ははははは、楽しませろ雑種!!!!」

「うざいんだよ!!! この悪趣味成金野郎!!! お前みたいな奴がライフをやるからドローさせろなんてエグゾ使いになるんだ!!!!」

『慎二!! あの男の能力は―――』

「痴れ事を!!!!」

虚空に浮かぶ切っ先が全て純白のペガサスに向き、如何な防御も宝具も貫くだろう力がライダーの語りを遮って放たれ―――。

「ッッッゴフ!?!!」

英雄王が吐血した。

同時に放たれた『一本の剣』が慎二の前に立ち塞がる伏せカードを破壊しようと迫る。

「罠(トラップ)カード開放(オープン)!!!! 【スターライト・ロード】フィールド上のカードを二枚以上破壊するカードの効果を無効にして破壊する。そして、【スターダスト・ドラゴン】一体を特殊召喚!!! 落ちろ!!! シューティング・ソニック!!!!!」

剣が突き刺さる瞬間、左端のカードが発動し、光の柱となって慎二とライダーをペガサスごと包み込んだ。

切っ先はカードを破壊する事なく光の接触した瞬間に罅割れ打ち砕かれる!!!

更に降臨したスターダストの口からブレスにギルガメッシュの飛翔体が飲み込まれたかに見えた。

「舐めるなぁあああああああああああああ!!!!」

更に血を吐いた英雄王の前に花弁のような盾が出現する。

ブレスが全てを呑み込んで爆発した。

『これは・・・やはり彼の力!!!』

ライダーの声に耳を貸すわけでもなく。

「ちっ、破壊し損ねた。敵能力を確定・・・どんなチートだ・・・しかも、あの盾も・・・厄介だな・・・」

慎二は舌打ちしていた。

ギルガメッシュの能力、そして出てきた盾の能力を看破したからだった。

宝具(魔法カード)を好きなだけサーチし、ソレを装備して射出する事で相手の場のカードを任意に破壊して、宝具の攻撃力上昇値分のダメージを与えるギルガメッシュの能力は殆ど禁止級だ。

サーチにも射出にも制限など無い。

無数に呼び出される宝具を射出するだけで相手にダメージを与えるのだから厄介極まりない。

そして、呼び出された盾もまた特殊な効果を持っていた。

本来ならば一撃で破壊されていたはずのギルガメッシュを守った能力は賞賛に値する。

盾の能力は戦闘効果ダメージの緩和。

その値は2000。

更に装備対象者と自身が相手の魔法・罠の効果を受け付けないという代物。

つまり、相手は魔法でも罠でも効果を受けず、どんなダメージも受ける時に2000軽減されるというトンデモなモンスターになってしまったという事に他ならない。

「我が宝具を使用すればする程に傷を負うわけか・・・だが、浅知恵だったようだな」

フィールド魔法である『スピードワールド』系カードの能力には基本的に一つの制約が存在する。

それはSp(スピード・スペル)以外の魔法カードを使えないという事だ。

実際には使えないのではなく使用した場合に重いペナルティーとして2000のダメージを負う。

それはギルガメッシュにとって最悪の相性を意味する。

何故なら、宝具とは殆どの場合において『装備魔法カード』として扱われるからだ。

サーチするまでならまだいい。

しかし、それを装備して射出するというデュエルに固定化された能力では四枚の魔法カードを使用しただけで敗北するしかなくなる。

スピードワールド2の出現が突然だったとはいえ、相手が英霊なら宝具は装備魔法カードだと見込んで対策を織り込んでいた慎二にしてみれば、安い挑発で再び宝具を使い自滅を期待していたわけだ。

「この痛み、償う用意は出来ているのだろうなぁ?」

ギラリと陰惨な笑みがギルガメッシュの顔に浮いた。

盾の出現で我に返ったのか。

冷静な怒りを燃やす英雄王にやはり一筋縄ではいかない事を慎二が悟る。

「さぁ、今一度開けッッッ!!! 【王の財宝】ッッッ!!!」

宝具の装備にしても2000ダメージを帳消しにする盾がある限り、既に問題ではなくなってしまった。

だが、相手のライフは残り4000。

どうやら速攻魔法にして装備カードになるという恐ろしく汎用性の高い盾だったが、それにしても突破する算段は既に立っていた。

「ははははは、これで貴様をッッッ!!! ぬっ!?」

ビキリと再び英霊が一ターン制限に体を拘束される。

「ジャスト一分だ」

英雄王が再び宝具を放つ手前で止まったのはダメージを受けたからではなかった。

「良い夢は見れたかよ?」

「貴様・・・我が宝具の数を!!!?」

「知らないのか? 自分のフィールドに置ける魔法(マジック)や罠(トラップ)ってのは五枚までなんだぜ?」

ニヒルに嗤う負け犬は英雄王の動揺を見逃さない。

「まぁ、まだ始まったばかりだけどな!!! 僕のターン!!! ドロォオオオオ!!!!」

盾を除いた虚空に引き連れる宝具は四本。

合計五つの奇跡を相手にドローの雄叫びが響く。

そうして両者の一ターンは終わった。

続けて、嵐の第二ターンが始まる。

 

褐色の少女シオン・エルトナム・アトラシアは己が既に死人の枠に半ば入っている事を自覚する。

それは死徒に破れ尚生き延びた代価であり、吸血鬼になってしまった己に対する正しい認識だ。

同時に死人である己がそれでも生きたいと願う原動力そのものでもある。

例え死人だろうと死んだ後の夢くらいは見たい。

そういう意味では毎日が夢のような日々だとシオンは日常を振り返る。

唯一無二と呼べる二人の友を得て、日々糧を得る為に奔走し、他愛ない感情に振り回されて、生きる。

全てが嘗てとは違う。

安全な場所で研究だけを生きがいにしてきた生き物が己だと理解していたから、こんな風に誰かと笑いあってコントのような毎日を送るのが不思議でしょうがない。

楽しくてしょうがない。

怖くて、失ってしまうのが本当に怖くて、しょうがない。

(さつき・・・リーズバイフェ・・・)

シオン。

そんな風に親しみを込めて読んでくれる同盟者達の為なら、例え教会がどんな戦力を注ぎ込んでも立ち回ってみせると決めたのが今の三咲の地で暮らす彼女という存在だ。

だから、己の悪夢程度・・・何度甦ろうと倒してみせる。

そう決めた。

『この現象に伴う全領域での未確認存在(アンノウン)の出現を確認。現環境は全て外部からの干渉を受けているものと認識します。尚、全ての行動は『前回から引き継ぐ事』を内部機構に強制されています。霊長の記録保全は最優先事項―――霊子演算機(ヘルメス)再起動』

賢者の石で埋め尽くされた世界。

人の滅びし終末が続く砂漠。

その最中で、巨大な機械の怪物が動き出す。

「【オシリスの砂】(Dust of Osiris)・・・もう一人の私・・・今一度貴女を眠らせます」

『オリジナルと確認。その行動は無意味です。何故ならば、此処に貴女がいるのは貴方自身がこの世界の特異点であるからに他なりません』

「この世界は私を中心にしている・・・?」

『そうです。シオン・エルトナム・アトラシア。此処に在る私はタタリでもシオン・エルトナムの亡霊でも貴女の未来の一つでもありません。資源(リソース)を度外視して生み出された既存の魔術現象とは掛け離れている【過去事象】そのものです』

「過去事象そのもの・・・これは・・・あの夏の【再演】ではない?」

『はい。タタリという触媒によって生み出された夏とは違います。これは【過去を再現して結末を変えている】のではなく【過去そのものを強引に捻じ曲げている】と認識してください』

そんな馬鹿な。

そうシオンは言えなかった。

「誰がそんな事・・・」

『未来の情報を過去に送る事は第五の法以外にはほぼ不可能。ですが、この現象(わたし)は貴女という特異点を無理やり過去事象に捻じ込んで莫大な情報を過去に送り込んだ結果です』

「私が・・・消えれば・・・貴女もこの世界も・・・」

ポツリとシオンが呟く。

少女が永遠に辿り着けない姿であるオシリスはその結末を語らなかった。

『情報の矛盾によって連鎖的に都市内部に【揺り戻し】が発生、同時にこの世界に送り込まれた情報によって派生した【枝】が欠落し始めています。何者かによる【収穫】と推測』

「・・・枝・・・収穫とは何ですか?」

その問いにオシリスは答えない。

『・・・此処にある私は全ての結末を結果として記録しています』

「え?」

『私は過去全ての者に敗れました。この都市に集う多くの者に・・・どんな理由があるにしろ誰も私の望む結末を望まなかった。そうして、そんな世界の先で貴女は幸せを掴んでいる』

「何が言いたいのですか・・・」

『私が貴女に一つの道を示しましょう』

何が起こっているのかシオンには本当のところ何一つ分からない。

だが、目の前にいるソレが嘗て倒した自分とは同じでない事だけは感じ取れていた。

「どうして・・・」

『私の結末は変わらない。人類の結末もそう・・・それでも霊長を保存する事に私は失敗した。計算は全て狂い・・・明日は未解決を抱えた・・・貴女はそれでも前を向いて未来を得てきた・・・私の得られなかった答えと、私では出せなかった答えが貴女の前途には広がっている』

「オシリス・・・」

『今の貴女がするべき事は貴女の傍にいる人々の回収・・・ではないのですか?』

「わ、私は・・・」

『心配せずとも私が敗れる事は決まっています』

オシリスの手から一つのケースがシオンの手に渡される。

視線を落としたシオンはケースの中に入っているのが数十枚のカードだと分かった。

『私は私の役目を。貴女は貴女の役目を。破滅は避けられずとも貴女が願う世界を・・・シオン』

次の瞬間、シオンが顔を上げると、其処はもうビルの上だった。

虚のような月が空を飾る最中、都市は荒廃し、蠢く気配が辺りで無数にぶつかり合っている。

「シオン・・・か・・・」

そっとケースから取り出したカードの束から一枚捲った彼女は出たカードに僅か驚いた。

―――オシリスの天空竜。

敵だと思っていたモノから背中を押された。

その事実が彼女の中にあるものに火を灯す。

何が起こっているかは分からずとも大切なものを守りたいならば、自分を使う以外ない。

「・・・・・・・」

嘗てアルクェイドすら破った一枚を手に半吸血鬼の少女はビルから跳んだ。

 

また一人新たなDuelistが誕生した事を未だ人々は知らない。

 

そうして。

 

全てが予定調和であり、同時に改変を受けている事を知っていた彼女(オシリス)は―――シオンを送り出して数分後―――無残な残骸と成り果てて―――散らばるカードの中―――たった一つだけを―――願った。

 

あの素直になれない少女が幸せな答えを見つけていく事だけを・・・。

 

「後、五人・・・」

 

白い尻尾がその消え去っていく過去の遺物を意に介さず進み。

 

「待ってなさいよ・・・」

 

【霊子演算機】のカードがケースに落とされる。

 

「絶対・・・文句言ってやるんだから・・・」

 

六人いる本家にして一人いるかも怪しい夢魔は道を急いだ。

 

To Be Continued


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