The Duelist Force of Fate 作:Anacletus
第四十五話「救済と破滅」
「まさか、弓塚さん!! いや、あんな普通に豪奢なドレスが似合うわけがない?! お前は誰だ!!」
「士郎!!」
「な、私の魔術が突破された?! く、い、家に帰るまでは死ねるものですか!!?」
「うわ~これちょっと詰んでるじゃないですかヤダー?!! まだ、私可愛い魔法少女とあんな事やこんな展開を堪能してないのに~ルビーちゃんショッキン!?」
「まさか、あの力?! 聖杯なのですか!!? こんなところであんなのが出てくるなんて私の計算には?!!」
「士郎!! あれ聖杯だよ!! 分かる……アレは別の世界のッッ!!?」
「遠坂!! 下がれッ!! 此処はオレがやる!!」
「後衛は下がってください!! 相手の切札は全てこちらで処理します。アンサラー!!」
「ど、どどどど、どうしよう?! 何で私がいるの?!! って言うか!!? あんな人の顔でそんな恥ずかしい恰好しないで?!」
「さつき!! 来ます!!」
崩壊する冬木の街並み。
円蔵山へたった一つの目的の為にやってきた彼等二組が出会ったのは偶然だった。
深夜。
聖杯戦争の余波で街並みが消し飛んだ冬木市街地の一角から山間の寺に向かった凜達は途中、奇妙な一団に出会った。
妙に計算高そうな女。
妙に不幸そうな女。
妙な盾を持つ女。
魔法少女の衣装を着た微妙に言動が歳を食った長耳。
喋る星型の安っぽい杖。
ポケットにナイフ一本の学生。
何が何やら分からない。
一瞬、敵かと思ったものの。
計算高そうな制服姿の少女と燐が話し合った結果。
彼等は互いに様々な事件に遭遇し、彼等にしか見えていないだろう巨大な城。
そう、円蔵山上空に現れたものを敵として認識している事を理解した。
城そのものを何とか見つけ、追い掛けて来た魔術の心得があるらしき彼等に対し、凜は共闘を要請。
然して時間も掛からず。
彼等は一団となった。
理由は単純。
彼等の前にある城と山の内部にあるだろうモノは彼等が束になっても、どうにか出来るか妖しく。
聖杯の完成と同時に明らかな異変が起こる事を察知していた凜と突如として現れた城がもしかしたら人類規模の災厄になる可能性がある事をさっちんと愉快な仲間達の参謀役は理解していたからだ。
どちらも事件を止めるという事で合致した彼等が共に進んだのは間違いなく正しい選択だった。
山岳部の途中に張られていた超強度の結界を魔法少女が強引に魔力砲で突破し。
崩落し始めた落下してくる城の残骸を彼等総出で迎撃しなければ、ほぼ真下まで来る事は叶わなかっただろう。
ナイフ一本で恐ろしい大質量の瓦礫を崩壊させ。
無数の剣を複製し、小さな瓦礫を弾き散らし。
頭脳役が後衛を守る盾役に的確に指示を飛ばして。
大火力の宝石魔術が岩塊を吹き飛ばす。
即席にしてはまったく息の取れた連携だろう。
だが、それにも終りが来た。
単なる瓦礫なんて話ではない。
降りてくる五人の影。
人の形をしていながら、高度な機械や圧倒的気配を纏う者達。
そうして、その背後に現われた不幸そうな少女と同じ顔を持つ白きドレス姿の何者か。
本能的に彼等は察していた。
自分達よりも余程に相手が強大である事を。
だが、彼ら数人の手にはデュエルディスクがある。
それだけが彼等にとって今は希望と言ってもいい。
少なからず。
同じ土俵ならば、まだ勝機はあると。
降りてきた五人。
男が四人に女が一人。
彼等が其々四方に散らばると同時に誰もが引力でも受けたかの如く。
四方へと散っていく。
「私は貴方達を相手にしましょう」
眼鏡の学生と髪を剣を複製する男。
それと相対するのは機械の揺り篭の如きものに組み込まれた男。
「こちらは任せてもらおうか」
盾の女、計算高い女。
彼女達と相対するのは浮遊する巨大な機械に乗った二枚目の男。
「絶望に抗う準備は出来ているか?」
魔法少女と相棒たるステッキ、小さな白い髪の少女。
二人組みと相対するのは巨人の如き大きさの男。
「それ厄介そうだから、こちらでお相手するわ」
ルーンを刻んだ白い手袋の女。
彼女と相対するのは騎士の如く清廉な瞳をしたライダースーツの女。
「此処からは通せない。僕らにはやらねばならない事がある」
不幸そうな少女。
相対するのは巨大なバイクの如き何かに跨ったサングラスを掛けた男。
「あ、取られちゃった。ま、いっか……コレが終ったらで」
宝石とデュエルディスクを構えた女。
それに相対するのはお気楽な様子の不幸な少女と同じ顔の白い女神。
(いきなり分断された?!)
凜が他の全員に声を掛けようとした次の瞬間。
誰もが通常の空間から転移したのか。
城の周囲から掻き消える。
残ったのは凜と白い女神のみ。
しかし、城の崩落は止まっていない。
敵はデュエルによる各個撃破を選んだのだ。
助けに行こうにも、空間を越える技能なんて彼女には無く。
出来る事はもう決まっている。
「あんた達、一体何者なの? この聖杯戦争にどんな関わりがあるの?!」
「あ~そっか。こういう時、不便だなぁ……」
「何?」
浮遊しながら、彼女の前までやってきた女神はフフッと笑う。
「世界には聖杯が溢れてる。この世界には聖杯って呼ばれるものが一杯ある。でも、その内の幾つが万能の願望器足りえるのかは実際に使ってみないと分からない」
「何が言いたいの……」
片手にデュエルディスクを構え、片手に宝石を構え、完全な戦闘態勢である凜を尻目に女神は肩を竦める。
「えっとね。魔力が無くても動く聖杯は今のところ存在しない。というか、この世界が網羅する全ての可能性において出て来て無い。だから、聖杯は実質的に無限の能力を得られない。此処までは分かる?」
「………」
警戒する凜に女神はまるで今日の晩御飯を告げるような軽さで語り続ける。
「でも、物事には何事も例外ってのがあるの。例えば、あらゆる次元と領域を超えて、平行世界にすら力を及ぼす何かが存在したとしたら、有限の聖杯を無限に集める事が出来るかもしれない」
「平行世界?! 次元を超えて聖杯を集める?! 何の為よッッ!!?」
「それはまぁ、彼の目的の為なんだけど。人類を救済するって言う」
「人類の救済?! はッ!! そんな大それた事を聖杯使ってやる必要在るっての!!?」
凜の反駁に女神が苦笑した。
「無いよ? 全然、まったく、これっぽっちもその必要性は無い。でも、彼にはあった。何故なら、彼は最後に残った遊戯の化身……人類が終ってすら終われないザ・ラストワン……彼の遊びは一人では成り立たない。だから、彼は自分を救う為にこそ誰かを救う。その為なら人類を救済するだろうし、人類を破滅もさせる。その過程こそが重要で結果は然して問題にはならない」
「さっきから聞いてれば、彼って誰よ!!」
食って掛かる凜に女神が微笑む。
「彼は彼だよ。誰よりもデュエルをする彼。愛しているとか。好きだとか。人生だとか。そういうのじゃない。登山家と同じ。其処に山があるから登るの。そこにデュエルが在るから、デュエルするの……そうだったでしょ? 今までの彼は……」
「今までのか―――っ、いたッ、何、コレッ?!」
凜が突如として脳裏を襲う映像に片膝を付く。
その中で彼女はいつも誰かとデュエルしていた。
そう、どんな窮地にも傍にいた誰か。
その赤い帽子が目の裏にチラつく。
「デュエルは愉しかった? 怖かった? それとも嬉しかった? 彼はそういうものを感じないけれど、そういうものの為に戦っている。無限の世界で無限に争い、無限の救済と無限の破滅に身を窶し、如何なる時間の如何なる世界にも遊戯を齎す。彼が来るまでこの世界だってデュエルは無かったのかもしれない。そもそもデュエル脳って常識的に考えたらおかしいでしょ? デュエル飯って単語知ってる? 今、この世界の指導者がデュエルで決まったら、貴方受け入れる? 警察がデュエル仕掛けて来たら普通だと思う?」
「そんなの普通に決まっ―――ッッ?!!」
凜は自分の言おうとしている事の常識がザリザリと音を立ててザラ付くのを感じた。
頭痛の最中。
また、赤い帽子が脳裏にチラつく。
「それが救済。全てがデュエルによって左右され、救われてしまう故に発生する逆説的な破滅なの。勿論、時間や空間を越えているわけだから、やり直しなんて幾らでも利くし、この世界も大体400兆回以上はやり直したかな? ま、無限にやってるから、この聖杯(わたし)の知覚限界範囲までの話だけど」
「一体、何の話を―――ッ?! ッぐ!?」
「さぁ、デュエルしましょう? 貴女が最後にするデュエルよ。此処の聖杯を獲得したら、彼も次の境界域に旅立つわ。安心して? 此処ら辺の時空は全部救済で消し飛ぶけど、破滅したとしても、彼は平行世界の貴女と二回も三回も百億回だってデュエルしてくれるわ」
「うぅ、私は、私はッ!! 此処に一人よ!!?」
「ふふ、彼の影響下に置かれ、彼自身となるべき全ての人類は彼と同義として永劫に存在を担保される。あらゆる人類の存在理由から来る消失は進行するけれど、存在の形が変わっただけとも言える。そもそも無限に分岐する世界ですもの。幾ら破滅しても彼が肥大化するだけで、何処かの平行世界では人類がケロッとした顔で生活してるわ」
ゾッとする程、人間味に乏しい綺麗な笑み。
凜が凍り付くような心地となる。
「これもまた人類救済の一つ。人にとっての破滅としてはまぁまぁ良い方よ? 賢者の石にされたり、無限の悪夢に取り込まれたり、地球意思に殺されたり、人類史丸ごとカットされて、だらだら長い重課金戦記のツマミにされるよりはマシでしょ?」
「ぐ、邪魔ッ!! よッッ?!」
凜の耳元に囁き続けて来た女神が腕を払われると同時に飛び退り、その腕のデュエルディスクを掲げた。
「ちなみに一つ教えておくと。私の能力は」
その完璧な微笑が凜に絶望の未来を告げる。
―――ドローする時、デッキの任意のカードをドロー出来る。
凜が五枚のカードを引き抜き。
「それと自身をモンスター・罠(トラップ)・魔法カード又プレイヤーとして扱わない、よ? 勿論、デュエルのダメージは受けるけどね」
「デュエルッッッ!!!」
そうして戦いは始まる。
敵は聖杯。
守りに入れば、即死。
何もかもを突き破って進むのならば、もはや万能すら超えられる事を凜が証明するしかない。
そう、あらゆる英霊を殺すに足りた黒き聖杯を打倒した男の如く。
「私のタァアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!」
確かに彼女は、遠坂凜は、そんな男に勝るとも劣らないデュエリストだった。
そうして、聖杯の満ちる地で世界の命運はたった数十枚の紙束へ託される事となったのである。